研修施設としての評価も名高い亀田総合病院のスタッフの総力を結集してまとめ上げた1冊。研修医にとって必要最低限のスキルや情報を箇条書きでまとめ、ポケットに収まるサイズに凝縮。診療の合間に、気になったことをぱっと見てすぐ使える簡便さも兼ね備えている。総合診療科を中心に各科で伝承されてきた診断に至るまでの考え方・捉え方と、積み重ねられてきた経験が融合し、まさに“知恵”と“技”をこの1冊に収載した。研修医に必携のサバイバルガイドとして、手元に置けば大きな武器になるだろう。
序
全人的に診ることができる総合医や総合内科医や家庭医といったプライマリケア医が多いと,予後改善・コスト削減・医療システムが公正になるなどの効果があるため,英国では全医師の約40%,米国では全医師の約32%がプライマリケア医である.一方で,日本ではプライマリケア医の数はまだまだ...
序
全人的に診ることができる総合医や総合内科医や家庭医といったプライマリケア医が多いと,予後改善・コスト削減・医療システムが公正になるなどの効果があるため,英国では全医師の約40%,米国では全医師の約32%がプライマリケア医である.一方で,日本ではプライマリケア医の数はまだまだ少ない.今後高齢化がさらに進み,マルチプロブレムの患者さんが多くなることが予想される.プライマリケア医が主治医となり,必要に応じて臓器専門医と協力する医療体制を構築する必要がある.
ただ,インターネットの普及により,患者さん自身によって様々な情報が入手できる情報化社会における現代医療において,診療の質を落としたのでは患者さんからの支持は得られない.そこで,エビデンスに基づいた「米国標準」の医療を病棟と外来の両方で屋根瓦式に行い,日々の診療・教育回診・ディスカッションを通じて質の高い優れたジェネラリストを輩出しているのが当科―総合診療科―である.将来ジェネラリストになる医師も,内科系の専門医になる医師も,予防医学も含めた患者さんの全体像をみてコモンな問題に対応できる主治医能力を持った医師となれるように研修している.一方で,エビデンスに基づいた米国標準の医療だけでは日本の現状にそぐわない面もある.日本の文化・日本人の気質・日本の医療体制・日本で使用できる医療資源や薬剤などを考慮して米国標準を踏まえた上で,目の前の患者さんに最大限有益な診療を行うことが重要である.私はこれを「米国標準+α」と呼んでいる.緊急疾患を除外することができ,コモンな疾患に対して「米国標準+α」の診断・治療を行うことができれば,患者さんによい意味での「違い」をもたらし,国民の期待に応えることができる「質」の高いジェネラリストになると私は確信している.
「米国標準+α」を実践するための参考書としてPocket MedicineやWashington Manualとその訳本を用いてきたが,物足りなさをやや感じるところがあった.例えば,日本では肺炎球菌の約80%がマクロライド耐性であることをもし知らなければ,米国のガイドラインどおりに外来で市中肺炎をアジスロマイシン単剤で加療しようとすると失敗する可能性が高いなど,「米国標準+α」を日本で実践するために知らなければならない知識は数多く存在し,前述の参考書では不十分である.そこに本書の存在意義があると考える.理想論やおとぎ話でなく,日本で現実に到達可能な例として,米国標準の医療を理解した上で,日本で最良のものを求めて実際に診療する上でのエッセンスを本書に詰め込んでいる.もちろん,そのような本書の作成はわれわれのみではできなかった.院内の関係各科に協力を仰ぎながら,様々な方々の御尽力でようやくここに完成した.
本書の作成にあたっては,本書の制作はもちろん,科の発展に関しても,常に皆が働きやすいよう環境を用意してくれた総合診療科創立者・前任部長の西野洋先生,そして,病院から支持が得られるように常に支えとなってくれた夏目隆史先生に,まずは心より御礼申し上げたい.また,プレッシャーがかかるなか指導医として活躍してくれた佐藤暁幸先生・山藤栄一郎先生・田口智博先生・井本一也先生,回診や診療のレベルアップに貢献してくれる細川直登先生・北薗英隆先生をはじめ感染症部門の先生方やGremillion先生,キャリアの大切な時期の中で当科後期研修を選んで来てくれた歴代の後期研修医達,活気と驚きをプラスしてくれる歴代の初期研修医達,はるばる全国から見学に来てくれた医学生達,チームとして協力してくれる看護師・コメディカルの皆様,素晴らしい原稿を書いてくれた上に初稿から月日が経過し労力を割いて大幅な原稿の改訂をしていただいた各執筆者の先生方にも感謝したい.そして,どんなときでも私を常に支え続けてくれた家族にも深く感謝する.
“皆様ひとりひとりの貢献なしでは当科は今のような素晴らしい科になりえなかったし,このマニュアルが世に出ることはありえませんでした.ありがとうございます!”
最後に,当科は西野洋先生が立ち上げ,岩田健太郎先生が来て診療面・教育面でレベルアップし,数多くの医学生・初期研修医・後期研修医をこれまで教育してきた.岩田先生が教えてくれたことのエッセンスを含む本書が,日本全国の「患者さんの全体像を助けたい」と思うジェネラリスト・マインドを持った医師の役に立てば幸いである.
2011年8月
監修を代表して
八重樫 牧人
患者ケアの目標設定
病歴聴取
身体所見
アセスメント,プロブレムリスト
屋根瓦式・チーム医療
入院オーダー・経過記録・サマリー
インフォームドコンセント,advanced directive,DNAR
検査判断の原則
一般外来診療の原則
救急外来の原則
在宅診療の原則
集中治療の原則
高齢者医療の原則
疼痛緩和の原則
感染症
急性咽頭炎/市中肺炎/誤嚥性肺炎/
院内肺炎,人工呼吸器関連肺炎,医療機関関連肺炎/女性の尿路感染症/
(成人)男性の尿路感染症/下痢(外来における急性下痢症)/
偽膜性腸炎(入院患者における感染性下痢症)/蜂窩織炎/
ライン感染(血管内留置カテーテル関連血流感染)/感染性心内膜炎/
市中細菌性髄膜炎(大人)/ツツガムシ病/疥癬/
抗インフルエンザウイルス薬の使用方法(ポジション・ステートメント)/
グラム染色/感染防御の方法/抗菌薬使用時の腎機能モニター/不明熱/
性感染症/鼠径部リンパ節腫脹/尿道炎,頸管炎/腟炎/骨盤内炎症性疾患/
精巣上体炎/結核/HIV感染症
呼吸器
血液ガス・酸塩基平衡障害/代謝性アシドーシス/代謝性アルカローシス/
呼吸性アシドーシス/呼吸性アルカローシス/胸部X線写真/呼吸機能検査/
喘息/慢性閉塞性肺疾患/胸水/肺塞栓症,深部静脈血栓症/
閉塞性睡眠時無呼吸症/間質性肺疾患
循環器
高血圧/心不全/急性冠症候群/
不整脈総論
不整脈各論
心房細動(慢性および発作性)/心房粗動/発作性上室性頻拍
神経
脳血管障害
一過性脳虚血発作/脳卒中/急性期脳梗塞/脳出血/くも膜下出血/
痙攣,痙攣重積/めまい
消化器
上部消化管出血/下部消化管出血/胃十二指腸潰瘍/腹痛/嘔吐と吐き気/
下痢/急性胆嚢炎/急性胆管炎/急性膵炎/腹水/イレウス/
ビリルビンやALP,GGTP上昇を主とする“胆汁うっ滞型”の症例では/
AST,ALTの上昇した患者では/慢性肝疾患全般の生活指導と管理/
アルコール性肝炎/C型肝炎/B型肝炎
腎・水・電解質
腎臓
血尿/蛋白尿/浮腫/ネフローゼ症候群/急性腎障害/
慢性腎臓病/腎疾患の食事療法
水・電解質
輸液の基本/水・電解質の診断と加療
内分泌疾患(糖尿病を含む)
糖尿病
甲状腺疾患
甲状腺中毒症/グレーブス病(バセドウ病)/亜急性甲状腺炎/
甲状腺クリーゼ/甲状腺機能低下症
副腎疾患
クッシング症候群/原発性アルドステロン症/副腎不全/
褐色細胞腫/副腎偶発腫
脂質異常症
血液
汎血球減少/貧血/鉄欠乏性貧血/巨赤芽球性貧血/溶血性貧血/
再生不良性貧血/多血症/出血傾向/血小板減少症/血小板増加症/
凝固異常/好中球減少時の発熱
リウマチ・膠原病
“関節痛?”へのアプローチ
関節の診察の仕方
肩の関節の診かた/肘の診かた/手の診かた/腰背部の診かた/
股関節の診かた/膝関節の診かた
一般外来での関節痛
結晶性関節炎/細菌性関節炎/付記:リウマチ性疾患の血液検査/
リウマチ性多発筋痛症/関節リウマチ
皮膚
接触皮膚炎/蕁麻疹/ウイルス性発疹症/その他の中毒疹/薬疹/
結節性紅斑/水疱性疾患/膠原病/スウィート病,ベーチェット病/
細菌感染症/血管炎/サルコイドーシス/
自然界の危険な生物(マムシ,ヤマカガシ,ハチ,ムカデ,クラゲなど)/
アナフィラキシー
皮膚科で手元におきたい資料
精神
せん妄/認知症および周辺症状/うつ病/アルコール離脱症状/不眠
ヘルスメンテナンス(健康増進と予防)
EBM
女性の健康
女性の腹痛/妊婦,授乳婦に投与安全とされている薬剤/月経異常/月経困難症/
月経前症候群/性器出血/帯下/更年期障害/
過活動性膀胱,骨盤臓器脱(性器脱)/避妊法/スクリーニング・ヘルスメンテナンス
男性の健康
前立腺肥大症/勃起障害
欧文索引
和文索引