腸疾患診療
プロセスとノウハウ

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本書は、日頃、臨床の現場でよく見られる腸疾患を中心に、患者の診察から診断・治療までのプロセスを有機的に記述し、現場で直面する疑問やトラブルに直結する内容を解説した。必要かつ基本的なところから詳述しており、「困ったときに読めば診療の過程が把握できる」という具体的かつ実践的で、読むだけでなくすぐに使える実際的な、2冊目の教科書として用いてほしい1冊。
編集 清水 誠治 / 斉藤 裕輔 / 田中 信治 / 津田 純郎
発行 2007年10月判型:B5頁:448
ISBN 978-4-260-00146-5
定価 16,500円 (本体15,000円+税)
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推薦の序(八尾恒良)/(編者一同)

推薦の序
 40年くらい前,日本には器質的腸疾患は著しく少なく,たまに臨床で遭遇する腸疾患は進行大腸癌で,ごくまれに炎症性腸疾患がみられるのみであった.この頃の下部消化管疾患の診断方法は指診を含む身体的検査,腹単,直腸鏡,造影剤を注入するだけの注腸X線検査のみで,難治例は診断がつかないまま外科に回され腸切除が行われることが少なくなかった.不思議なことにその後,腸疾患は経年的に増加し,検査機器と検査法も年を追うごとに進歩し,多くの先達の創意と工夫もあって今や本邦の下部消化管疾患の診断と治療は世界に冠たる普遍性と精密さを備えた領域へと変身している.

 下部消化管は,上部消化管とは比較にならないほど多彩な機能と器質的疾患を有する臓器で,その病態も複雑極まりない.したがって,臨床の現場で的確に迅速に対応するには,身近にすぐに開ける成書を備えていることが望ましい.しかし,消化器科の指導的立場にある医師は過酷なまでの日常診療と会議に時間をとられ,学会や雑文書きに追いまくられているためか,あるいは出版社が紙代の値上がりと若い世代の購買力に不安を抱いているためか,理由は定かではないが,本邦には下部消化管疾患の臨床に資する成書が極めて少ない.本書はまさに待望久しい,時を得た1冊であろう.

 本書は(1)全体の1/4が症候,病歴,身体所見,血液生化学,など診療の基本となる項目で占められ,(2)1/4がX線,内視鏡,CTなどの諸検査法,(3)残りの1/2が各論で構成されている.(1)はこれから消化器病の臨床に従事して間もない医師には日常診療の基本を教えてくれるであろうし,学生や研修医の教育に携わっているベテランにとっても効率的に利用できる図表,内容が数多く含まれている.(2)は編者が最も得意とする分野で,著者以外の編者も少し書き加えたい事項が山積しているようにも感じられる.それでも限られたスペースの中に現時点における最新の検査法のありかたが網羅されている.そして(3)は,日常診療で迷った,困った症例に遭遇したときの貴重な指針となろう.

 消化管疾患の臨床診療能力は,論文を読むだけでは進歩しない.英文も含めて,最近の論文には臨床の役には立たない点数稼ぎやコマーシャリズムに基いたものが少なくない.診療能力は失敗例の反省を含めた多数例の経験,考察に裏打ちされた症例の集積,系統的な整理の繰り返しで進歩する.しかし,種々の病期からなる炎症や腫瘍,あるいは機能異常を含む腸疾患のすべてを1人で経験することは,ぼけずに100歳まで生きても不可能である.経験豊かな医師の臨床経験を自分の経験に組み入れることが必要である.本書の編者,著者は20~30年も臨床一筋に腸疾患に取り組み,大勢の消化器グループのリーダーとして多数の症例の経験を積んできた医師である.本書の記載を自分の経験に組み入れた素晴らしい臨床医が数多く生まれることが期待される.そして,本書の意図が次世代に引き継がれ,さらに飛躍した臨床消化器病学の発展が望まれる.

 2007年 9月
 福岡大学名誉教授
 佐田病院名誉院長
 八尾恒良



 思い起こせば,本書の企画は2002年の春にさかのぼる.学会が開催された甲府の地で,下部消化管疾患についての書籍出版の可能性について議論していた際,批判ではないが教科書が面白くないという話題に及んだ.従来の教科書では症候,疾患,検査法,治療法に関する記載がそれぞれ独立している.記載されている量も内容も,良かれ悪しかれ無難にまとめ上げたという印象は否めない.基本的なことをすでに理解していても,それぞれの内容が関連性を持って結びつかない.つまり,診療の進め方が読み取れない.さらに,治療法についても具体的な方法の記載が十分でなく実践性に乏しい.この点が診療を行う際の不満足感に結びついているのではなかろうか.ならば,これらを合理的に解説する2冊目の新たな教科書が必要である.

 診断にはプロセスがあり,治療にはノウハウがある.これらに重点を置いた教科書があればよい.そのためには,まず自らが本当に知りたい事柄を抽出する必要がある.次に,それぞれの領域を分担するエキスパートを選び出す必要がある.本書ではこれらの作業を経て,自分たちが本当に欲しい,読んでみたい教科書を目指した.当然.限られた紙面では腸疾患のすべてを網羅することは不可能である.しかし,御一読いただければ,診断・治療を進めていく際のプロセスとノウハウがふんだんに盛り込まれていることが御理解いただけるはずである.

 世の中は新しいものを好む.新しい方法論がもてはやされる一方で,今どき流行らないという理由で打ち棄てられつつある方法論もある.本書では,そのような新旧の方法論を公平な立場から評価し取り上げている.基本的なものの考え方にそう度々パラダイム・シフトが起こるはずがない.本書の基幹をなすものは普遍的な思考過程である.熟読することで自ずから実際的で効率的な診療の進め方を身に付けていただけるものと信じている.

 本書が編者の自己満足に終わらず,実際の診療の現場で活用されることを切に願う.新しいスタイルの本である限り,不完全ないしやや独善的な記載もあろうかと思う.諸先生方からの御教示を糧として,今後さらに充実した教科書に育てていただければ,これに勝る喜びはない.

 兎に角,出版に漕ぎ着けるまで予想以上に難航した.特に速やかに御執筆いただいた執筆者の方々に大変な御迷惑をお掛けしたことは,痛恨極まりない.この場を借りて深くお詫び申し上げる.また,企画立案から携わっていただいた医学書院の荻原足穂氏はすでに退職されているが,氏の情熱なくして本書は結実しえなかったであろう.また後任の阿野慎吾氏には実務の大半を担っていただいた.末筆ながら両氏の尽力に対し深甚なる謝意を表したい.

 2007年夏
 編者一同

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推薦の序


I 疾患へのアプローチ-検査プランの立て方
 1 症候から疾患を絞り込む
 2 病歴から疾患を絞り込む
 3 身体所見から疾患を絞り込む
 4 臨床検査値から疾患を絞り込む
 5 腹部単純X線から疾患を絞り込む
 6 便を検体とした診断的アプローチ
 7 肛門部診察の要点

II 検査法の位置づけ-得られる情報と役立つケース
 1 注腸X線検査と大腸内視鏡検査の選択と併用
 2 注腸X線検査
 3 大腸内視鏡検査
 4 ダブルバルーン小腸内視鏡検査の必要性
 5 超音波内視鏡の必要性
 6 拡大内視鏡の必要性
 7 腹部超音波検査の必要性
 8 CT・MR検査の必要性
 9 カプセル内視鏡の必要性
 10 virtual endoscopyの必要性
 11 PETの必要性

III 腸疾患診療のディテール
 1 上皮性大腸腫瘍
 2 非上皮性大腸腫瘍(カルチノイド・リンパ腫を含む)
 3 注腸X線検査,大腸内視鏡検査などでわかる小腸疾患
 4 潰瘍性大腸炎
 5 Crohn病
 6 腸結核
 7 虚血性大腸炎
 8 単純性潰瘍・腸型Behcet病
 9 直腸潰瘍
 10 感染性腸炎
 11 大腸憩室症
 12 薬剤性腸炎
 13 腸間膜脂肪織炎(mesenteric panniculitis)
 14 血管性病変(angiodysplasia,Osler-Weber-Rendu病,AVM,血管腫,Dieulafoy潰瘍,静脈瘤)
 15 全身性疾患と腸病変

索引

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腸疾患の基本と王道を学ぶ入門書
書評者: 多田 正大 (多田消化器クリニック)
◆難解な腸疾患の診断と治療

 腸疾患の種類は多いが,腫瘍の診断と治療については比較的単純である。良悪性を鑑別し,次いで内視鏡で処置できるか否かを判断すればよい。内視鏡治療が不適切と判断すれば外科手術に委ねるので手順としては単純明快である。問題は炎症性疾患で,種類が多く症状も多彩であり,内視鏡所見も病期によって変化するので臨床医を悩ます。腸管の炎症が疑われるケースに遭遇すると,まるで推理小説の謎解きである。画像診断だけで直感的に診断が下せないこともあり,系統的に,論理的に思考を組み立てなければ解決できない。

 さらに,腸炎の治療も難解なことが多い。補液しておくだけで自然治癒が期待できる疾患もあれば,難治性で医者泣かせのIBDも少なくない。腸疾患を取り扱う場合,日頃から診療過程を論理的にまとめるトレーニングを積み重ねておく必要がある。

◆小腸・大腸学の基本を教えてくれる名著

 医学書院から刊行された『腸疾患診療――プロセスとノウハウ』を手にした最初の印象……,膨大な大腸疾患診療のポイントを実に要領よく記述しており感嘆させられた。症状の解析から始まる診療過程,謎解きのポイントは第Ⅰ章に明快かつ詳細に記述されている。研修医にとっても理解しやすい診断手順であるし,ベテラン臨床医も落とし穴に入らないための指針を学ぶことができる。この章を読むだけでも有益であると称讃したい。

 この書籍を編集する清水誠治,斉藤裕輔,田中信治,津田純郎先生は,わが国の大腸疾患診療の第一線で活躍する秀逸の指導者であり,特に第Ⅱ章では得意な最新の画像診断学を展開している。さらに第Ⅲ章には,各論として代表的な疾患のポイントが網羅されている。各パートを分担する執筆者達も惜しむところなく貴重な経験と症例を提供し記述しており共感を覚える。 画像も超一流で,『胃と腸』誌に掲載されても通用するようなベストショットが惜しみなく提示されている。

◆腸疾患の百科辞典をめざせ

 本書は,腸疾患を取り扱うポイントを要領よく勉強するための待望久しい名著であるから,本書を読まずして腸疾患診療を語ることはできない。これだけの内容の書籍をまとめるために,編集者や執筆者達の苦労が偲ばれ,その努力に敬意を顕わしたい。「腸学」の王道を学ぶための基本を教えてくれる大切な書籍であるので,研修医からベテランまで,多くの臨床医に本書が読まれることを期待したい。臨床医の必読の書籍であると本書を強く推奨したい。

 普段から敬愛している編者達に対して,褒めるばかりの書評では親切ではない。辛口の私からの要望をぜひとも付記しておきたい。腸疾患の診療には形態診断が不可欠であることは認めるが,偏りなく機能性疾患についての項も設けてほしかった。複雑な現代社会にあって,実際の臨床現場では過敏性腸症候群として屑篭的に取り扱われている心身症的背景のある患者は少なくない。この点は画像診断に重きを置く『胃と腸』誌が陥っている隘路と同じである。これさえ克服できれば,本書は真の「腸疾患の百科辞典」としての評価が得られる……期待を込めて本書の書評としたい。
腸疾患診療に携わる医師に欠かせない1冊
書評者: 飯田 三雄 (九州大学大学院病態機能内科学教授)
 このたび医学書院から『腸疾患診療――プロセスとノウハウ』が発刊された。編集者の清水誠治,斉藤裕輔,田中信治,津田純郎の4氏をはじめ,本書の執筆に当たられた方々は,いずれも20有余年にわたって腸疾患診療の第一線で活躍されてきたエキスパート達である。本書は,日常臨床の現場で診断に困ったときや治療法の選択に迷ったときなどに気軽に活用できる実践書として好評を博することは間違いないであろうと考える。

 私が消化器内科を専攻すると決めたのは1970年代の初めごろであるが,当時の消化器病に関する教科書としては,“Bockus Gastroenterology”が唯一であり,日本語で書かれたものは皆無に近かったと記憶している。近年になり,本邦でもやっと消化器疾患の臨床に関する成書が出版されるようになってきたが,その数は限られたものであり,特に腸疾患の診療に役立つ実用書となるときわめて少ないというのが現状であろう。このような背景から生まれたのが本書であり,腸疾患の診断のプロセスと治療のノウハウがわかりやすく解説された,日常診療に欠かせない1冊としてできあがっている。

 本書は3章から構成されており,最初の2章は総論的な内容となっている。すなわち,第1章では症候,病歴,身体所見,臨床検査値,腹部単純X線所見,検便など患者さんに負担をかけることなく得られる基本的な情報から診断を絞り込んでいく過程が示されている。続く第2章では,注腸X線検査,大腸内視鏡検査,小腸内視鏡検査,超音波検査,CT・MR検査,PET検査などの諸検査法の位置づけ,適応,方法,読影の要点が解説されている。これら最初の2章は,主として基本的事項の記載から成り立っており,学生や研修医のみならず,比較的経験の浅い消化器科医師にも理解しやすい内容となっている。

 第3章は各論で,本書全体の1/2の頁数を占めており,“日常診療にすぐに役立つ情報を網羅する”という視点から,わかりやすく解説されている。しかも,この章では,個々の疾患ごとに記載されている項目とともに,「上皮性大腸腫瘍」「非上皮性大腸腫瘍」「注腸X線検査,大腸内視鏡検査でわかる小腸疾患」「感染性腸炎」「全身性疾患と腸病変」など疾患群を包括して記載する項目も設けられており,鑑別診断や治療法の選択など理解しやすい構成となっている。取り上げられた疾患も頻度の高いものから比較的まれなものまで多岐にわたっており,かなり経験を積んだ消化器病専門医にも役立つ内容である。

 さらに,本書では,その記述がすべて1―4行の箇条書きで統一されており,大変読みやすい構成となっている点も特徴の1つとして挙げられる。また,提示された画像はすべて美麗かつシャープな写真が厳選されており,適切に挿入された図表とともに,本文の記述内容を理解するのにきわめて効果的である。したがって,これから消化器関連の学会の専門医試験を受験予定の医師にとっても,知識の整理に役立つ教科書となりうることが期待される。

 以上のごとく,本書は初心者からベテランに至るまで,腸疾患診療に携わるすべての医師にとって,大変参考になる必携の書である。

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