社会生活行為学

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日常生活活動(ADL)にとどまらない、社会に開かれた作業療法の理念を概説し、実践的項目として福祉用具の活用や職業関連活動の実際についてまとめた巻。個人のADLから心身の統合や社会生活の満足度向上にいたる、作業療法が対象とする全領域を含めながら学習する教科書。
シリーズ 標準作業療法学 専門分野
シリーズ監修 矢谷 令子
編集 田川 義勝 / 濱口 豊太
発行 2007年06月判型:B5頁:400
ISBN 978-4-260-00477-0
定価 5,170円 (本体4,700円+税)
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田川義勝・濱口豊太

 生活行為は,生命維持のために日常生活で繰り返す活動を人間が意図して行うものであり,日常の出来事や習慣的動作を骨格に,行為者の知識や思想,文化などから修飾され,さらに,行為に用いられる道具や物品から構成される複合的な概念である.
 身体と精神の構造と機能を生物学的な基盤として生活行為は営まれる.作業療法はリハビリテーションにおいて,人間の生活行為を医学的に支援する仕組みを推進し,体系立ててきた.作業療法は社会生活行為に関するあらゆる手段を用いて人間の生活を支援する.
 本書は,社会生活行為学の構造的成り立ちとそれらに対応する作業療法を理解するために,人間の運動や行為を,個人・家庭・社会に広く関連する作業療法の視点でまとめた.作業療法を“布でできた地図”のように見立てると,身体機能作業療法・精神機能作業療法などを結ぶ心身機能の緯線と,発達過程作業療法・高齢期作業療法など発達過程や人生時間で結ぶ経線に編まれたものを,生活行為という帯にしたものが本書である.
 身体と精神に支えられた人間の構造と機能によって,人間はその生活活動を広く世界に展開している.生命としての個体,人間としての日常生活行為,家族としての集団と個人,家族以外にも社会につながりをもつ集団と個人,それらのどこかに具合の悪いところがある場合,それを克服し,対象者の幸福な生活へ向けた支援を作業療法士は行っている.生活の構造と機能を知り,人間が幸せに生活を継続するための支援技法はまさに,作業療法士が対象者に寄与する知と技である.
 本書では,心身機能と構造,ADL,家事,学業,職業,遊びなど,人間の行為に関与する作業療法が展開されている.読者の方々には,作業療法の考え方と手法の1つひとつを実践の参考にしていただきたい.また,本書の生活の分類や考え方についてもご賢察いただき,ご指導を賜りたい.本書の内容が読者の生活を再発見する1つのきっかけになれば幸甚である.
 リハビリテーションの発展のために,人間の営みに関与する作業療法のいくつかを限られた紙面に示すという困難な仕事にご尽力いただいた,対象者の人生と向き合う作業療法士の諸氏に謝意を表したい.
 2007年 5月

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序章 社会生活行為学を学ぶ皆さんへ
第1章 社会生活行為学の基礎
 I 社会生活行為学とは
 II 社会生活行為を構成する生活行為群と作業療法
 III 社会生活行為における作業療法評価から作業療法計画,記録
 IV 社会生活行為学における根拠に基づいた作業療法
第2章 社会生活行為学の構成・分類
 I 個人生活行為
 II 家庭生活行為
 III 学校・教育生活行為
 IV 職業生活行為
 V 個人生活から社会生活における遊び,趣味,余暇活動
第3章 社会生活行為に対する作業療法
 I 個人生活行為における作業療法実践
 II 家庭生活行為における作業療法
 III 社会生活行為における作業療法
第4章 作業療法の社会生活行為補助手段
 I 作業療法と社会生活行為の補助手段
 II 住環境調整,福祉用具,福祉機器
 III 社会生活行為への補助手段と作業療法実践
第5章 社会生活行為の実践事例
 I 身体障害--脳卒中回復期リハビリテーションと社会生活行為
 II 高齢障害--脳卒中高齢期の上肢機能と個人生活行為
 III 高齢障害--下肢機能障害に対する福祉用具と住宅改修
 IV 高齢障害--家庭生活行為を支援する在宅リハビリテーション
 V 精神障害--ひきこもり,思春期の作業療法
 VI 精神障害--統合失調症に対する社会生活支援
 VII 発達障害--アスペルガー症候群の子供の学校生活への支援
 VIII 発達障害--精神遅滞の子供の生活適応技能に対する支援
社会生活行為学の発展に向けて

さらに深く学ぶために
索引

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社会適応の援助を考えるすべての医療従事者に
書評者: 富家 直明 (北海道医療大准教授・心理療法学)
 障害を持ちながら,あるいは長期療養を続けながらも充実した社会生活を営み,やがて自己実現を達成できるようになることは,今日の医療におけるもっとも重要な課題のひとつである。本書はこうした視点によって書かれた,まったく新しい作業療法の体系的著述であり,すぐれた実践書である。

 「社会生活行為」とは何か。本書の分類によれば,日常の食事や排泄,更衣や入浴などの「個人生活行為」,洗濯や家事,家計の管理などの「家庭生活行為」,登校や学習,集団行動などの「学校生活行為」,事務やIT活用,労務作業,就労活動などの「職業生活行為」,その他,遊びや楽しみのための「趣味や余暇活動に関する行為」からなる。

 本書においては,これらの各行為に対する作業療法の適用方法が具体的に述べられている。例えば,「洗濯」という「家庭生活行為」の作業工程は準備から収納まで7段階あり,それぞれに必要とされる動作に関する「身体機能」が網羅されている。さらに,対象物の認識から種類別の分類,水温や水量の判断,干すための空間の認知,天気の変化の予測,収納場所の記憶,注意力全般などといった「心理的機能」が付帯する。そのうえで,これらに詳細に対応した練習方法,援助の方法などが記述されている。

 何かひとつでもできない行為があれば,援助者はその原因がどこにあるのかをただちに確認することができる。そのための行為チェックリストが本書には多数収録されているからだ。収録されたチェックリストは,ADL評価用,各種の行為評価用など多岐にわたっており,臨床家や研究者はただちにこれらを活用することができる。

 また,最近の機能補助具についても詳しい。バリアフリーやユニバーサルデザインの歴史は行為機能を補償しようとした工夫の連続である。最近はロボットを活用したり,エレクトロニクス装置を組み込んだ遠隔操作機器が開発されている。上肢運動障害者向けの大判の入力機器や,運動障害でパソコンのキーボード入力ができない人のために簡単な視覚的刺激にタッチするだけのインテリキーUSBというタッチパネル。巧緻障害の子どもが隣のキーを誤って押さないためのキーガード。音声で応答してくれるタッチ&スピーク。シンボルを活用した自閉症者向けのコミュニケーション補助装置トークアシストなど,近年の多彩な電子デバイスの開発を通覧できる。

 このほか本書の後半では,脳卒中,高齢障害,精神障害,発達障害の各障害別に陥りやすい特徴をまとめ,必要な援助方法を余さず網羅している。本書の特筆すべきところは,適応的な社会生活を営むためにはどのような一連の行為の達成が必要であるかについて客観的に整理し,わかりやすく記述した点にあるだろう。こうした資料は作業療法のみならず,社会適応の援助を考えるすべての医療従事者に役に立つはずである。

 ところで編者の1人である濱口豊太博士は「行為脳」研究者としても注目を浴びており,2004年には排泄行為に関する中枢と末梢器官の神経科学的力動を解明した研究によって日本脳科学会学会賞を受賞した。このように「社会生活行為」のメカニズムが先端的研究によって解明されはじめていることは大変心強いことである。将来,本書によって輪郭を示された「生活行為を補償する総合科学」は,脳研究から行動科学,さらにはエレクトロニクス技術を融合させて力強く進化を遂げるであろう。
実務の中で生じた疑問を解決するための糸口に
書評者: 米本 恭三 (慈恵医大名誉教授/都立保健科学大前学長)
 待望の書とも言うべき標準作業療法学シリーズ(12巻)はこのたびの『社会生活行為学』が刊行されて,ほぼ完成である。

 リハビリテーション医学に身を置く私は,従来「作業療法」という名称が現在の広い領域を含有する学問の体系を表現しているのだろうかと少なからず疑問を抱いていた。しかし,本シリーズにより,その杞憂が音を立てて氷解するのを覚えた。わが国の作業療法学教育は1963年に始まったが,その頃の唯一の教科書は,ウィラード・スパックマン著“Occupational Therapy”(1947年初版,現在第10版)であった。当時の厚生省の医療関係者審議会PT,OT部会ではその名称に関しいろいろな意見が交錯したため,投票となってOccupational Therapyが「職能療法」でなく「作業療法」に決まったとされる。

 本書は個人の持つ身体と精神機能が基盤となって生活行為が行われていることから,その構成と分類は個人生活,家庭生活,学校・教育生活,職業生活,そして遊び・趣味の様に広く,人の一生の活動そのものであることを示している。それらを分析し,個人の機能と置かれている生活の構造を知り,より質の高い生活をめざし支援する全治療手段が作業療法であると言えよう。

 作業療法に関する書籍の出版はウィラード・スパックマンの著書以降40年余りになるが,新しい知識や技術をも含み,全領域を網羅するものは,この標準作業療法シリーズがわが国では初めてといえるだろう。この『社会生活行為学』の執筆者は多彩で,何れも作業療法領域では指導的立場に居られる方々である。ようやく作業療法学の全容を系統的に学ぶ事が可能になったと言ってよい。他の巻と同様に,章毎にGIO(一般教育目標),SBO(行動目標),そして学びやすい様に修得チェックリストまで示されているのは嬉しい。それにより多岐にわたる作業療法の学問体系が要領よく整理され,学ぶものに必須な知識や技術の学習目標が明確になる。また,教育側の双方にとってもメリットが大きいと考える。学ぶ人の立場に立ってきめの細かい配慮のもとに上梓された良書と言える。

 12巻に及ぶ標準作業療法学シリーズは,作業療法を専門職とする方々にとっては,バイブルであり,必読の書として座右に置くべきである。通読して判るが,医師を含むリハビリテーション医療の現場で活躍する方々はまず,この『社会生活行為学』,そして『作業療法学概論』,『基礎作業学』の巻を読み,作業療法学の全容を知って頂きたいと考える。さらにわが国の最重要課題の1つである保健・医療・福祉の広い領域に携わる各専門職の皆さんは,実務の中で生ずる疑問をこの標準作業療法学シリーズの頁を開くことにより解決の糸口を見出すであろう。

 病む人,障害を持つ人はすべて同じ社会の一員である。ともに明るく安心して生活できる社会をめざすためには,われわれ医療人がどのように考え,行動すべきかの指針を与えてくれる本書を,より多くの方々にお勧めしたい。

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本書の記述の正確性につきましては最善の努力を払っておりますが、この度弊社の責任におきまして、下記のような誤りがございました。お詫び申し上げますとともに訂正させていただきます。

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