看護師のためのビジネススキル
組織人としての仕事のきほん
いまさら聞けない組織人としての常識
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病院も基本的には一般の会社と同じ組織。では、そこで働くのに必要なスキルとは何か? 自己認識力、思考力、対人力という重要な3つのマネジメントスキルを中心に、1つのテーマを見開きで解説。ビジネス社会では常識となっている組織人としての基本的な知識・能力を得るために、学生から管理者まで、誰もがまず読んでおくべき1冊。
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- 序文
- 目次
- 書評
序文
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はじめに-この本の使い方
北浦暁子・大串正樹
看護という職業を選択し、看護にかかわろうとする人にとって最大の関心は、学生時代も、そして看護の仕事をスタートさせてからも、患者に対して質の高い看護を提供することにあるでしょう。質の高い看護のために、どういうところに注意して患者を理解するのか? どのような行動をするべきか? 私たち看護師はそれを常に自分自身に問いかけながら活動しています。
しかし、実際の現場で質の高い看護を仕事として実践し、しかもしっかりと成果につなげるには、「一人の看護師として患者に質の高い看護ケアを提供する」という視点だけでは足りません。現場の看護管理者の皆さんが一様に漏らす感想には、驚くほど共通していることがあります。「自分は管理職になる前には、患者に質の高い看護を提供していればほかのことは必要ないと思っていた」「管理職になってはじめて、組織の中での自分を意識して行動することの重要性がわかった」「管理職になる前のもっと早い時期に、組織人として果たすべき役割について知る機会があればよかった」というものです。
もっと早くから考える機会が必要だった…そんな大切なことを看護職は知る機会を得られないのでしょうか? それはいったいどんな知識なのでしょうか? たとえ管理職でなくとも、いえ、管理職でないからこそ、現場で活躍する看護職が身につけておくべき、基本的な専門職業人としての知識や態度、心構えをわかりやすく示したものが必要なのではないか? それがこの本のスタートでした。
本書は、すべての看護職の皆さんに必要な、極めて基本的なマネジメントスキルを、忙しい中でも使いやすい形に構成しています。これを自律した専門職業人として身につけておくべき【自己認識力】【思考力】【対人力】の3つの基礎力として整理しました。実践レベルで「仕事で結果を出せる看護師」としての力を発揮するために、何をどのようにすればいいのかという視点から、考え方や行動をまとめています。
ここに示したことは、ごく基本的な職業人としてのスキルですが、特に管理職ではない看護師の皆さんにとっては、自分のこととして考えたり、自分に必要な知識として接したりする機会がほとんどなかったことではないでしょうか。しかし、これからの看護においては、領域や役職を問わずチームとして成果を出すことが要求されます。それは同時に、職種の壁を越えて課題にとりくみ結果を出す上で、絶対に必要な能力なのです。現場のコミュニケーションの促進、組織としての団結力の向上、モチベーションの向上といった看護管理上の重要な課題の改善、ひいては一人ひとりの看護の実践力のパワーアップにもつながるでしょう。
同時に本書は、看護管理者の方々に、生きた行動レベルの知識としてマネジメントスキルを核としたビジネススキルを理解していただき、それと同時に無理なく可能なところからその実践に活用していただく実用書として有用です。それぞれの章は、「仕事を論理的にとらえなおす」「仕事のなかで自分を伸ばす」といったように、実現したいと思う行動の形で表現しました。また、シンプルな表現と多くの図を使うことで、印象に残り活用しやすい形にまとめる工夫をしています。まずはパラパラと開いて、関心のもてるページからスタートするという気楽な使い方をしていただきたいと思います。
また、施設内教育においては、さらなるステップアップへの岐路に立つ中堅看護師へのリーダーシップ教育の導入として、日常の看護業務を見直す材料として活用していただくこともできます。認定看護管理者教育などの本格的な管理職研修においては、オリエンテーション資料やサブテキストとして活用できます。それによって、研修時の課題作成やディスカッションなどにおいて一層の学習効果が期待できるでしょう。ビジネススキルを、気負いなく具体的な行動として再確認することが可能です。
いかなる領域の人と一緒に仕事をした時にも、常に成果が出せる自立した専門職業人として活躍するためには、ビジネススキルのシンプルな原則を、しっかりと意識して実践することから始まります。これまで見えなかった新しい仕事のやり方を見出して、一皮むけた看護師が看護現場に新たな活力を吹き込んでくれることに少しでも役立てばと心から願っています。
北浦暁子・大串正樹
看護という職業を選択し、看護にかかわろうとする人にとって最大の関心は、学生時代も、そして看護の仕事をスタートさせてからも、患者に対して質の高い看護を提供することにあるでしょう。質の高い看護のために、どういうところに注意して患者を理解するのか? どのような行動をするべきか? 私たち看護師はそれを常に自分自身に問いかけながら活動しています。
しかし、実際の現場で質の高い看護を仕事として実践し、しかもしっかりと成果につなげるには、「一人の看護師として患者に質の高い看護ケアを提供する」という視点だけでは足りません。現場の看護管理者の皆さんが一様に漏らす感想には、驚くほど共通していることがあります。「自分は管理職になる前には、患者に質の高い看護を提供していればほかのことは必要ないと思っていた」「管理職になってはじめて、組織の中での自分を意識して行動することの重要性がわかった」「管理職になる前のもっと早い時期に、組織人として果たすべき役割について知る機会があればよかった」というものです。
もっと早くから考える機会が必要だった…そんな大切なことを看護職は知る機会を得られないのでしょうか? それはいったいどんな知識なのでしょうか? たとえ管理職でなくとも、いえ、管理職でないからこそ、現場で活躍する看護職が身につけておくべき、基本的な専門職業人としての知識や態度、心構えをわかりやすく示したものが必要なのではないか? それがこの本のスタートでした。
本書は、すべての看護職の皆さんに必要な、極めて基本的なマネジメントスキルを、忙しい中でも使いやすい形に構成しています。これを自律した専門職業人として身につけておくべき【自己認識力】【思考力】【対人力】の3つの基礎力として整理しました。実践レベルで「仕事で結果を出せる看護師」としての力を発揮するために、何をどのようにすればいいのかという視点から、考え方や行動をまとめています。
ここに示したことは、ごく基本的な職業人としてのスキルですが、特に管理職ではない看護師の皆さんにとっては、自分のこととして考えたり、自分に必要な知識として接したりする機会がほとんどなかったことではないでしょうか。しかし、これからの看護においては、領域や役職を問わずチームとして成果を出すことが要求されます。それは同時に、職種の壁を越えて課題にとりくみ結果を出す上で、絶対に必要な能力なのです。現場のコミュニケーションの促進、組織としての団結力の向上、モチベーションの向上といった看護管理上の重要な課題の改善、ひいては一人ひとりの看護の実践力のパワーアップにもつながるでしょう。
同時に本書は、看護管理者の方々に、生きた行動レベルの知識としてマネジメントスキルを核としたビジネススキルを理解していただき、それと同時に無理なく可能なところからその実践に活用していただく実用書として有用です。それぞれの章は、「仕事を論理的にとらえなおす」「仕事のなかで自分を伸ばす」といったように、実現したいと思う行動の形で表現しました。また、シンプルな表現と多くの図を使うことで、印象に残り活用しやすい形にまとめる工夫をしています。まずはパラパラと開いて、関心のもてるページからスタートするという気楽な使い方をしていただきたいと思います。
また、施設内教育においては、さらなるステップアップへの岐路に立つ中堅看護師へのリーダーシップ教育の導入として、日常の看護業務を見直す材料として活用していただくこともできます。認定看護管理者教育などの本格的な管理職研修においては、オリエンテーション資料やサブテキストとして活用できます。それによって、研修時の課題作成やディスカッションなどにおいて一層の学習効果が期待できるでしょう。ビジネススキルを、気負いなく具体的な行動として再確認することが可能です。
いかなる領域の人と一緒に仕事をした時にも、常に成果が出せる自立した専門職業人として活躍するためには、ビジネススキルのシンプルな原則を、しっかりと意識して実践することから始まります。これまで見えなかった新しい仕事のやり方を見出して、一皮むけた看護師が看護現場に新たな活力を吹き込んでくれることに少しでも役立てばと心から願っています。
目次
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part 1 専門職としてのコアスキル
1. マネジメントスキルの重要性
2. 3つの基礎力
part 2 【自己認識力】で差をつける
1. 自分を知ってステップアップ
2. 仕事のなかで自分を伸ばす
part 3 【思考力】を鍛える
1. 自分の考えを整理する
2. 仕事を論理的にとらえなおす
3. 新しいことを考える
part 4 【対人力】を身につける
1. 相手に影響を与える
2. 対面コミュニケーションの力…その鍛え方
3. 文書にしてみる
part 5 看護実践現場の事例からイメージしてみる
事例1 組織のなかで仕事をすること
事例2 管理者にしかできない役割を果たす
おわりに
索引
1. マネジメントスキルの重要性
2. 3つの基礎力
part 2 【自己認識力】で差をつける
1. 自分を知ってステップアップ
2. 仕事のなかで自分を伸ばす
part 3 【思考力】を鍛える
1. 自分の考えを整理する
2. 仕事を論理的にとらえなおす
3. 新しいことを考える
part 4 【対人力】を身につける
1. 相手に影響を与える
2. 対面コミュニケーションの力…その鍛え方
3. 文書にしてみる
part 5 看護実践現場の事例からイメージしてみる
事例1 組織のなかで仕事をすること
事例2 管理者にしかできない役割を果たす
おわりに
索引
書評
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基本的な管理的技術を身に付けられる指南書
書評者: 浦田 喜久子 (日本赤十字社事業局看護部)
この本は,まさしく題名の通り組織の中で仕事をするのに必要な基本的な管理的技術を身に付けることのできる指南書である。そして,スタッフ看護師,看護単位の管理者,また看護部長などトップマネジャーにも十分活用できるもので,それぞれが持っている知識に対応できる不思議な書物である。それは,この本には,自律した専門職業人として身に付けておくべき基礎能力として,「自己認識能力」,「思考力」,「対人力」に整理し説明されており,この3つの能力は,どこまでも奥が深いからである。人間にとって,自己を見つめること,思考力を深めること,コミュニケーション能力を高めることに限界はなく,読み手が現在持っている立場と経験によってそれぞれに内容の深さが読み取れる。
この本の魅力は,なんと言っても簡潔明瞭な説明であり,ポイントを示し,理解を促す一言メッセージと図解である。使いやすく,技術が身に付くまで,何度でも手に取って繰り返し読みたくなる。理解し,実践(トライ)を重ねることによって基本スキルが修得できるものと期待できる。また,ブックガイドとして,随所に参考図書が紹介されているが,本の難易度が示されており,読み手が自分のレベルに応じて学びを発展させていくことができるような工夫がされていることもうれしいところである。
ところで,組織は多くの人と協働して,その組織の目標に向かって働くものである。特に看護師は,多くの他職種と活動する。今や,医療を取り巻く環境は厳しく,経営的にも,医療・看護の質を維持・向上するにも大変困難な時期であり,病院のあり方や運用の仕方が問われている。そこで働く職員は,自分の役割だけを遂行するにとどまらず,チームとして医療を提供するべく多職種との連携をはかりながら職務を進めることが求められる。
また,職員一人ひとりに,所属する組織がどの方向に進んでいるのかを知り,目標に向かって何をなすべきか,あるいは,委員会やプロジェクト活動など組織が効率的・効果的な運営をするためのメンバー/リーダーの役割が期待される。
そして,大事なことは,このような期待される役割を果たすことが,組織人としての有効感を持て,やりがいを感じることができるのである。
したがって,組織にとっても,看護師個人にとっても,基本のビジネススキルを身に付けることは必須である。看護師の方々,管理者の方々にもぜひこの本を活用していただきたい。特に,看護管理の学習中の方々には,本書を身近なテキスト/サブテキストとして活用することで,知識とともに看護管理実践力を身に付ける手助けになることと思う。
大変シンプルにまとめてあるので,忙しい中にも,目の届く机の横に置きこの本のどこからでも開いて読めば,示唆を受ける内容が飛び込んでくる。しかしながら,シンプルな中に,深い内容が込められているので,一度はじっくり熟読されることをお薦めする。
組織人としての仕事のやり方を解説(雑誌:『看護教育』より)
書評者: 高橋 照子 (西武文理大学看護学部設置準備室)
■結果の出せる人材になる
本書は,看護職の北浦暁子氏と知識科学を専攻する大串正樹氏の共同執筆による組織人としての基本的な仕事のやり方を解説した実用書である。そこには,「これからの時代に求められる専門職業人としての看護職とは,職種の壁を越えて課題に取り組むことができ,同時に,結果を出せる人材です」(下線評者,以下同)とする著者らの思いがある。それを実現するための基本的な仕事のやり方は,領域を問わず共通して求められる能力であるとして,「自己認識力」「思考力」「対人力」という専門職としてのコアスキルをわかりやすく解説している。
■質の高い看護の提供に欠かせないスキル
私たち看護職にあるものは,質の高い看護の提供には強い関心をもっているが,自分が組織人であるとの認識は決して高いとはいえないのではないだろうか。師長や看護部長等の管理職になって,あるいは委員会などの委員長になってはじめて「組織」を意識することが多い。そうした現実に対して著者らは,質の高い看護の提供と組織人としての役割遂行は切り離せないと考えており,「専門職には,専門知識の深い知識とともに,バランスのとれた総合的なマネジメントスキルが求められる」と明言している。まったく同感である。
3つの「専門職としてのコアスキル」において,評者の心に残るそれぞれの記述は,次のとおりである。「自己認識力で差をつける」の節では「完璧をめざすことをやめる」,「思考力を鍛える」の節では「一番怖いのは,外からの知識を取り入れることがないことを当然のこととして,何の疑問を感じずに思考を停止させてしまうこと」「異職種の人々と交流できる力をつける」,「対人力を身につける」の節では「メッセージの意味は受け取る側が決める」「コミュニケーションとは,意味や感情を含む情報のやり取り」「立場や意見が違うからこそ(中略)めざすものを共有する」および「相手を変えるには,まず自分の態度を変えることからスタートする」等々,示唆に富む表現が続いている。
■難易度表示で初心者にもわかりやすい
評者にとってうれしいのは,絵入りの難易度表示がついたブックガイドが随所にあることである。
本書には報告書の基本的な書き方も含まれており,単に管理職にある人たちばかりではなく,専門職であろうとする全看護職者へのわかりやすい有益な手引書である。
現代の悩める看護師たちの座右の書として(雑誌『看護管理』より)
書評者: 陣田 泰子 (聖マリアンナ医科大学病院副院長・看護部長)
本書の扉を開けて中を見た時「しまった!」と思った。こういう本をナースのために作りたかったと(なんと大それたことを……)。
手前味噌で恐縮ではあるが,以前『図解でわかるナースのためのエキスパート仕事術!』(照林社)という本を当院のナースとともに書いた。現場のマネジャー層が困っている問題を出し合って,その問題に対応する内容で構成したものである。そのなかで,現場の問題としては抽出されなかったが,私がどうしても加えたかった内容があった。それが「思考力」だった。次はこれをテーマに,つまり本書のように構成したいな,と思っていた。やられた……である。
■明快なコンセプト・構成・内容
本書のコンセプトはすっきり明快である。専門職としてのマネジメントスキルで重要なのは,本書が「基礎力」としてあげている3点。第1に自己認識力,第2に思考力,そして第3に対人力,なのだ。
今,激流の中に放り込まれた医療・看護界にとって,まさにこの3点セット,コアスキルが必要なのである。人一倍,一所懸命に仕事をしているにもかかわらず「現象の海におぼれそうになっている」看護師たち。この3つのスキルを自己のなかに,また組織に取り入れ,現場を改善していかなければ,やがて力尽きて荒海におぼれていく。
本書の構成にも唸ってしまった。パート1では,前述した3つの基礎力のサマライズがある。
1)自己認識力では,メタ認知について言及している(6頁)。自分自身を自分で認識する客観力,さらに俯瞰する力,部分ばかりに突入し全体像が捉えられない,まさに看護に重要な自己認識力である。
2)思考力では,「論理的思考力」と「創造的思考力」の違いについて(8頁),これまた明快だった(私としては,できれば演繹的思考と帰納的思考法はこの部分に入れてほしかったと思うのだが……)。
3)対人力では,コミュニケーション能力をインプットコミュニケーションとアウトプットコミュニケーションに分け,後者が不足していることに嫌でも気づくようになっている(11頁)。
その後にパート2「自己認識力」,パート3「思考力」,パート4「対人力」と,それぞれの基礎力の詳細をたどっていくことができるようになっている。コラムでワンポイントアドバイスがあり,章の最後にブックガイドがあるのも,読者の気持ちを読んでいる。
■「看護」を中心に据えたビジネス書
看護実践能力という,看護を基盤にした能力を踏まえたうえで,専門職業人,つまりビジネスパーソンである看護師のビジネススキルについて使いやすいパッケージで提示する,という本書の狙いは見事に当たった。現代の悩める看護師たちの座右の書としての資格あり,である。
そして「シンプル」かつ「印象的に」という著者らのコンセプトは,周囲の霧が晴れて「これだ!」と徐々にナビゲートされるうちに,読者のなかに自然に入り込んでくる。単なるビジネス書とするのではなく,中心に看護を据えたパッケージに仕上がっているからであろう。危機的状況の看護界に必須の,時宜を得た実践と理論の統合の書である。
書評者: 浦田 喜久子 (日本赤十字社事業局看護部)
この本は,まさしく題名の通り組織の中で仕事をするのに必要な基本的な管理的技術を身に付けることのできる指南書である。そして,スタッフ看護師,看護単位の管理者,また看護部長などトップマネジャーにも十分活用できるもので,それぞれが持っている知識に対応できる不思議な書物である。それは,この本には,自律した専門職業人として身に付けておくべき基礎能力として,「自己認識能力」,「思考力」,「対人力」に整理し説明されており,この3つの能力は,どこまでも奥が深いからである。人間にとって,自己を見つめること,思考力を深めること,コミュニケーション能力を高めることに限界はなく,読み手が現在持っている立場と経験によってそれぞれに内容の深さが読み取れる。
この本の魅力は,なんと言っても簡潔明瞭な説明であり,ポイントを示し,理解を促す一言メッセージと図解である。使いやすく,技術が身に付くまで,何度でも手に取って繰り返し読みたくなる。理解し,実践(トライ)を重ねることによって基本スキルが修得できるものと期待できる。また,ブックガイドとして,随所に参考図書が紹介されているが,本の難易度が示されており,読み手が自分のレベルに応じて学びを発展させていくことができるような工夫がされていることもうれしいところである。
ところで,組織は多くの人と協働して,その組織の目標に向かって働くものである。特に看護師は,多くの他職種と活動する。今や,医療を取り巻く環境は厳しく,経営的にも,医療・看護の質を維持・向上するにも大変困難な時期であり,病院のあり方や運用の仕方が問われている。そこで働く職員は,自分の役割だけを遂行するにとどまらず,チームとして医療を提供するべく多職種との連携をはかりながら職務を進めることが求められる。
また,職員一人ひとりに,所属する組織がどの方向に進んでいるのかを知り,目標に向かって何をなすべきか,あるいは,委員会やプロジェクト活動など組織が効率的・効果的な運営をするためのメンバー/リーダーの役割が期待される。
そして,大事なことは,このような期待される役割を果たすことが,組織人としての有効感を持て,やりがいを感じることができるのである。
したがって,組織にとっても,看護師個人にとっても,基本のビジネススキルを身に付けることは必須である。看護師の方々,管理者の方々にもぜひこの本を活用していただきたい。特に,看護管理の学習中の方々には,本書を身近なテキスト/サブテキストとして活用することで,知識とともに看護管理実践力を身に付ける手助けになることと思う。
大変シンプルにまとめてあるので,忙しい中にも,目の届く机の横に置きこの本のどこからでも開いて読めば,示唆を受ける内容が飛び込んでくる。しかしながら,シンプルな中に,深い内容が込められているので,一度はじっくり熟読されることをお薦めする。
組織人としての仕事のやり方を解説(雑誌:『看護教育』より)
書評者: 高橋 照子 (西武文理大学看護学部設置準備室)
■結果の出せる人材になる
本書は,看護職の北浦暁子氏と知識科学を専攻する大串正樹氏の共同執筆による組織人としての基本的な仕事のやり方を解説した実用書である。そこには,「これからの時代に求められる専門職業人としての看護職とは,職種の壁を越えて課題に取り組むことができ,同時に,結果を出せる人材です」(下線評者,以下同)とする著者らの思いがある。それを実現するための基本的な仕事のやり方は,領域を問わず共通して求められる能力であるとして,「自己認識力」「思考力」「対人力」という専門職としてのコアスキルをわかりやすく解説している。
■質の高い看護の提供に欠かせないスキル
私たち看護職にあるものは,質の高い看護の提供には強い関心をもっているが,自分が組織人であるとの認識は決して高いとはいえないのではないだろうか。師長や看護部長等の管理職になって,あるいは委員会などの委員長になってはじめて「組織」を意識することが多い。そうした現実に対して著者らは,質の高い看護の提供と組織人としての役割遂行は切り離せないと考えており,「専門職には,専門知識の深い知識とともに,バランスのとれた総合的なマネジメントスキルが求められる」と明言している。まったく同感である。
3つの「専門職としてのコアスキル」において,評者の心に残るそれぞれの記述は,次のとおりである。「自己認識力で差をつける」の節では「完璧をめざすことをやめる」,「思考力を鍛える」の節では「一番怖いのは,外からの知識を取り入れることがないことを当然のこととして,何の疑問を感じずに思考を停止させてしまうこと」「異職種の人々と交流できる力をつける」,「対人力を身につける」の節では「メッセージの意味は受け取る側が決める」「コミュニケーションとは,意味や感情を含む情報のやり取り」「立場や意見が違うからこそ(中略)めざすものを共有する」および「相手を変えるには,まず自分の態度を変えることからスタートする」等々,示唆に富む表現が続いている。
■難易度表示で初心者にもわかりやすい
評者にとってうれしいのは,絵入りの難易度表示がついたブックガイドが随所にあることである。
本書には報告書の基本的な書き方も含まれており,単に管理職にある人たちばかりではなく,専門職であろうとする全看護職者へのわかりやすい有益な手引書である。
現代の悩める看護師たちの座右の書として(雑誌『看護管理』より)
書評者: 陣田 泰子 (聖マリアンナ医科大学病院副院長・看護部長)
本書の扉を開けて中を見た時「しまった!」と思った。こういう本をナースのために作りたかったと(なんと大それたことを……)。
手前味噌で恐縮ではあるが,以前『図解でわかるナースのためのエキスパート仕事術!』(照林社)という本を当院のナースとともに書いた。現場のマネジャー層が困っている問題を出し合って,その問題に対応する内容で構成したものである。そのなかで,現場の問題としては抽出されなかったが,私がどうしても加えたかった内容があった。それが「思考力」だった。次はこれをテーマに,つまり本書のように構成したいな,と思っていた。やられた……である。
■明快なコンセプト・構成・内容
本書のコンセプトはすっきり明快である。専門職としてのマネジメントスキルで重要なのは,本書が「基礎力」としてあげている3点。第1に自己認識力,第2に思考力,そして第3に対人力,なのだ。
今,激流の中に放り込まれた医療・看護界にとって,まさにこの3点セット,コアスキルが必要なのである。人一倍,一所懸命に仕事をしているにもかかわらず「現象の海におぼれそうになっている」看護師たち。この3つのスキルを自己のなかに,また組織に取り入れ,現場を改善していかなければ,やがて力尽きて荒海におぼれていく。
本書の構成にも唸ってしまった。パート1では,前述した3つの基礎力のサマライズがある。
1)自己認識力では,メタ認知について言及している(6頁)。自分自身を自分で認識する客観力,さらに俯瞰する力,部分ばかりに突入し全体像が捉えられない,まさに看護に重要な自己認識力である。
2)思考力では,「論理的思考力」と「創造的思考力」の違いについて(8頁),これまた明快だった(私としては,できれば演繹的思考と帰納的思考法はこの部分に入れてほしかったと思うのだが……)。
3)対人力では,コミュニケーション能力をインプットコミュニケーションとアウトプットコミュニケーションに分け,後者が不足していることに嫌でも気づくようになっている(11頁)。
その後にパート2「自己認識力」,パート3「思考力」,パート4「対人力」と,それぞれの基礎力の詳細をたどっていくことができるようになっている。コラムでワンポイントアドバイスがあり,章の最後にブックガイドがあるのも,読者の気持ちを読んでいる。
■「看護」を中心に据えたビジネス書
看護実践能力という,看護を基盤にした能力を踏まえたうえで,専門職業人,つまりビジネスパーソンである看護師のビジネススキルについて使いやすいパッケージで提示する,という本書の狙いは見事に当たった。現代の悩める看護師たちの座右の書としての資格あり,である。
そして「シンプル」かつ「印象的に」という著者らのコンセプトは,周囲の霧が晴れて「これだ!」と徐々にナビゲートされるうちに,読者のなかに自然に入り込んでくる。単なるビジネス書とするのではなく,中心に看護を据えたパッケージに仕上がっているからであろう。危機的状況の看護界に必須の,時宜を得た実践と理論の統合の書である。
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