「グループ」という方法

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グループは特別なものではなく,毎日の生活のなかにあるものである。グループをどうとらえるかは,人間とは何か,生きるとはどういうことかといった哲学と密接につながっている。今では,作業療法士も臨床心理士も医師も看護師もみんなグループワークを行い,専門職ですらない当事者たちもセルフヘルプグループを組織し,成果をあげている。
武井 麻子
発行 2002年03月判型:A5頁:192
ISBN 978-4-260-33193-7
定価 2,090円 (本体1,900円+税)

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  • 目次
  • 書評

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1 グループワーク,その前に
2 グループワークとは何か
3 グループのちから
4 グループの雰囲気
5 グループの大きさ
6 グループのバウンダリー
7 グループへの参加
8 グループを観察する
9 グループのリーダー
10 グループの沈黙
11 分裂病者とグループ
12 グループで語る
13 グループとしての病棟
14 グループ・マインド
15 グループの記録
16 グループと家族
17 グループと教育

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豊かな思想性と実践に役立つグループ入門
書評者: 村山 正治 (九州大学名誉教授)
 本書は看護師のために書かれたグループ入門書である。しかし,概説調の教科書ではない。現代の看護はもとより教育,グループを考え,生きる,人間とは何か,なぜグループは今必要なのかなど著者の豊かな思想性,学識,体験に裏打ちされた素晴らしい本である。気がつくと,全体を読んでしまっていて,本を持ち歩いている自分がいる。評者にそうさせるものは何か。それは本書全体に基調として流れている著者のグループ観によるものである。あとがきに集約されている。

◆グループと哲学

 「グループは特別なものでなくご飯と同じように毎日の生活の中にあるものであること,グループをどうとらえるかは,人間とは何か,生きるとはどういうことかといった哲学『考え方』につながっていること」という。これはたいへん新鮮な響きを持って評者の心をとらえた。こんなことを今まで誰か言っただろうか。本書にはグループから見た著者の日本文化論,最近の若者論,看護論,看護教育論,病院論など高い次元からの視点が魅力である。日本の類書に目をやると,グループのやり方とか,「構成エンカウンターと非構成」の比較といった技術論ばかりが花盛りの今日,実にすがすがしい本である。

 かといって具体的な提案などもたくさん盛り込まれていて,グループ実践に役立つ本である。深い内容を盛り込んだ本だが決して難しい,外国の難解な用語をちりばめた本ではなく,著者の体験から出てきた言葉で書いているので具体的で実践的である。提案を1つだけ取り上げてみよう。著者は「3点観察法のすすめ」で,グループ全体の雰囲気,1人1人のメンバー,自分自身を観察することの重要性を説いている。これはファシリテイターでも,メンバーにも自分を体験し,感じ取る重要な視点である。

 今度は内容に触れておこう。本書は17章,180頁の中に,グループワークに関する必要で十分な内容がコンパクトに,かつシステマチックにグループに関する必要で十分な情報が整然と収められている。この点も著者の力量を感じさせる。読者のために目次を挙げてみよう。グループワークその前に,グループワークとは何か,グループのちから,グループの雰囲気,グループの大きさ,グループのバウンダリー,グループへの参加,グループを観察する,グループのリーダー,グループの沈黙,分裂病者のグループ,グループで語る,グループとしての病棟,グループマインド,グループの記録,グループと家族,グループと教育である。

 巻末には詳細な文献注釈,さらに学習したい読者のために,日本語の参考文献が挙げられている。しかもその分野で重要なかつ最新の文献が挙げられている。著者の深い学識と読者への並々ならぬ配慮が感じられる好著である。看護学生や看護師のみならず,臨床心理士,ソーシャルワーカー,福祉関係者,NPO関係者,学校教員など関連領域の専門家にもぜひ読んでもらいたいし,地域で子育て支援,高齢者支援,不登校支援などのボランティア活動に取り組んでいる市民活動家にもぜひお薦めしたい本である。

グループワークを理解するのに最適な1冊
書評者: 藤井 博之 (健和会臨床疫学研・医師)
◆集団としての患者に注目する

 医療に限らず人がひとを援助するには,「個別」と「グループ」という2つの方法があります。例えば,社会福祉,教育,保育,行政の市民サービスあるいは国際協力の場面などの分野で,経験と訓練を積んだ働き手は,この2つを必要に応じて使い分けています。どちらに重きを置くかはさまざまです。わたしのような第一線臨床医は,もっぱら個別の患者を対象とし,グループワークには縁が薄いと言えます。
 それでも,糖尿病患者のグループワークは,よく行なわれています。「糖尿病教室」に参加した患者同士は,実際的な闘病のノウハウを語り合い,合併症の怖さを共有し,病気と長期につき合っていく覚悟を培います。だがここで「治療効果」がもたらされるメカニズムや,グループワークを進める方法について,一般臨床医の認識は深くありません。
 考えてみれば,半日に数十人を診察室に迎える内科の外来や,専門分化され医学的に共通点のある患者が集まる病棟で,集団としての患者に対する技術が注目されないことは,不自然とも言えます。臨床家,すなわち対人援助の働き手としては,大きな偏りです。ところが,いざグループワークのことを学ぼうとすると,精神科や社会福祉援助論などの専門書を読む必要があります。一般臨床医にとってこれらは,読みこなすのが簡単とは言えません。
 本書もまた,「精神看護」誌に創刊号から15回にわたって連載され,まとめられたものです。著者,武井麻子さんは,精神科の看護師,ソーシャルワーカーとしてのキャリアを持つ方です。
 簡潔にまとめられた17章で構成された本書は,精神衛生を専門としない読者にも読みやすく書かれています。
 例えば,看護師の多くは,学生時代にさんざんやらされてきた「グループワーク」にうんざりしていること,日本人が特に馴らされている集団行動が持つ全体主義の危険性など,身近なあるいは一般的な問題が冒頭で紹介されます。グループワークを敬遠し,否定的にみる傾向とこれらは,関係があるのです。
 集団か個別かの二者択一と考えるべきではなく,個人あっての集団であると同時に,集団がなくては個人もなりたたないことを,著者は指摘しています。

◆対人援助に関わる人々をグループワークへいざなう

 また,グループ・サイコセラピーは内科で始まり,1905年ボストンの内科医ジョゼフ・プラットが重症の結核患者を対象に行なったのが最初という記述があります。抗結核剤が開発される以前,自暴自棄になりがちだった患者たちが,定期的に集まって語り合うことで,「結核患者特有の孤立無援感やうつ状態」が改善していったと言うのです。
 これらの興味深い事実に導かれて,「グループの雰囲気」,「グループの大きさ」,「グループを観察する方法」など,実際的で深い内容に読者は案内されていきます。
 登場する患者の多くが分裂病者であることも,精神科を専門としない読者にとって縁遠い感じは与えません。むしろこの病気の人々について理解を深め,グループワークの本質を考える助けとなるように思われます。
 評者の経験で恐縮ですが,対人援助の共通言葉を探るための学際的な研究集会を,先頃持ちました。作業療法学,看護学の教官,小学校教師,国際保健分野のNGO運動家の4人でパネル・ディスカッションを行ない,そこでも個別と集団という2つの方法が話題になりました。これらの違いと特質,共通性を理解することは,援助のどの分野にとっても重要なテーマなのです。
 医療・保健にとどまらず対人援助に関わるより広い範囲の人々にとって,本書は共有財産の1つとなるでしょう。

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