「病院」の教科書
知っておきたい組織と機能

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診療報酬体系、DPC、診療情報管理、介護保険、医療関連法規など、病院の経営・管理に携わる方が知っておくべき事項を漏らすことなく解説。また、医療安全の取り組みについても具体的に教示。病院内の専門職種や各部門の概説により、病院の組織と機能を把握することができる。病院職員の研修、病院経営者対象のセミナーの教科書にも最適。これからの病院経営者・管理者必読の書。
編集 今中 雄一
発行 2010年07月判型:B5頁:248
ISBN 978-4-260-00595-1
定価 4,180円 (本体3,800円+税)
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はじめに

 今,医療界は大変厳しい時代の最中にある.なかでも病院医療には多くの人々の支えと努力がいっそう必要となり,病院にかかわる人には,病院医療の全体を把握することがますます求められている.本書は,多機能で複雑で,しかも専門性に隠れて全貌を把握しにくい病院医療の全体を,そしてその裏表を隅々まで体系的に理解したい人のために作られた.
 すなわち,“病院の運営・経営の向上を目指し(自らの貢献度アップを目指し),病院の組織と機能を体系的に理解するための本”である.

 本書は,次のような読者を想定している.
 ・病院に新たに勤めるようになった人〔病院の新任者〕
 ・他産業で経験を積み,新たに病院医療に就職した即戦力を期待される人〔元企業人〕
 ・医療関連産業の方で,仕事上,病院医療を詳しく知る必要を感じている人〔現企業人〕
 ・将来の医療人や学生,およびそのような人を対象に,医療の現場を教えるのに教科書を探している人〔先生と学生〕
 ・様々な動機により,病院医療について調べている人
 また,次のような医療界のベテランの人にも利用価値がある.
 ・臨床現場の経営・運営にかかわるようになり,より広い視野で病院全体の組織と機能を知りたくなった人
 ・病院全体の機能の評価や再構築が必要になった人
 などなど.

 われわれの教室には医療の質と経済性の評価・改善にかかわる研究室を軸に人材が集まり,各診療科の医師など医療の多様な専門性を有する者も多い.そのようなメンバーが執筆し,また専門家間で意見を出し合い改善を重ねて本書の完成に至った.
 本書の特色は以下にある.
 ・病院における組織と機能の全体を解説し,ポイントを盛り込んだ.
 ・医療現場の変革の底に流れる,制度・政策の現状と動向を解説した.
 ・今後,ますます医療との関係が深まる介護システムを,連携の観点から説明した.
 さらに,組織と機能の記載に,
 ・収益の元手である診療報酬制度との関係性を示した.
 ・人材データの視点,そして,プロセス全体をみる視点を盛り込んだ.
 ・具体的なイメージを掴めるように写真や図表を多用した.

 本書を医療への貢献,医療の経営・運営への貢献の足がかりとしていただけると幸いである.

 2010年7月
 京都大学大学院医学研究科教授
 今中雄一

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序論
 医療経営の礎:将来を見据えて
  緒言
  A 質・安全と効率を向上させるシステムの確立と継続改善/B 組織文化/
  C 地域と経営戦略/D データの活用/E 人材の養成/結語

I 病院経営の基本と制度
 1 医療の制度と経営
  A 現在の医療機関に問われるもの/B わが国の医療の特徴/
  C 医療を実践するために/D 医療の質/E 経営の質
 2 診療報酬
  A 診療報酬の機能と特徴/B 診療報酬請求の流れ/C 診療報酬の改定について
 3 診療情報管理
  A 診療情報/B 診療情報管理と運用/C 診療報酬との結びつき/
  D 医療の可視化と情報公開/E 情報化の社会要請と健康関連データ統合の重要性
 4 DPC(診断群分類)
  A 医療制度改正の厚生労働省試案/B DPCの構造/
  C DPCを用いた診療パフォーマンスの把握/D さらなるDPCの発展
 5 医療の原価計算
  A 原価の計算基盤/B 診療報酬と原価/C 医療の質・安全確保の原価
 6 関連法規
  A 医療に関連するルール(法規)の概要/
  B 医療安全のための仕組みづくり・医療の質向上に関連する法規/
  C 医療計画制度(医療法第30条の4~第30条の11)/
  D 病院管理者として知っておくべき法規(インフォームド・コンセント等)/
  E 医療保険制度の概要/F 健康保険法等の一部改正法の概要/参考資料
 7 医師の確保
  A 医師の採用経路/B 非常勤医師(「アルバイト」医師,「パート」医師)
 8 質改善のシステム
  A PDCAサイクル/B 現状を把握する/C 問題点を発見する/
  D 計画を立てる(Plan)/E 実行する(Do)/F 評価する(Check)/
  G 改善する(Act)/H さらなる問題点を発見する/I より高次な改善へ
 9 医療安全管理
  A 医療安全対策の必要性・重要性/B わが国における医療安全に向けた政策/
  C 医療安全に向けた取り組みの実際/D まとめ/参考資料
 10 危機管理
  A 危機管理の必要性/B 情報対策/C 災害対策/D ビジネスリスク対策
 11 感染制御
  A 感染制御の必要性・重要性/
  B わが国における感染制御に向けた政策・取り組み/
  C 感染制御に向けた取り組みの実際/D まとめ/参考資料

II 病院の組織と機能
 1 診療とケア提供のプロセス
  A 入院/B 看護ケア/C 検査/D 投薬/E 手術/F リハビリテーション/
  G 退院/H 終末期・看取り/I 写真で見る外来ケアプロセス
 2 医療現場の専門職種
  A 医学・歯学の専門職/B 看護・保健の専門職/C 医療技術の専門職/
  D 社会支援の専門職/E 事務の専門職/F 介護の専門職
 3 外来部門
  A 外来の業務内容/B 外来診療/C 外来診療の流れ/D 救急外来
 4 病棟
  A 病棟の業務内容/B 病棟のスタッフ/C 病棟の関連法規/
  D 病棟の診療報酬/E 病棟の種別
 5 手術・集中治療部門
  A 手術・集中治療部門の業務内容/B 手術・集中治療部門のスタッフ/
  C 手術・集中治療部門の設計と設備/D 手術・集中治療部門の診療報酬
 6 薬剤部門
  A 薬剤部門の業務内容/B 薬剤部門のスタッフ/
  C 薬剤部門の設備と設計/D 関連する診療報酬・施設基準
 7 画像・放射線部門
  A 画像・放射線部門の業務内容/B 画像・放射線部門のスタッフ/
  C 画像・放射線部門の設備と設計/D 管理と防護
 8 検査部門
  A 検査部門の業務内容/B 検査部門のスタッフ/C 検査部門の設計と設備/
  D 検査・病理・輸血部門の安全管理/E 臨床検査業務/F 病理診断業務/
  G 輸血部門業務
 9 リハビリテーション部門
  A 概念と対象疾患/B 提供される治療/C 構成要員/
  D リハビリテーションの流れ/参考 施設基準および診療報酬
 10 地域医療連携部門
  A 前方連携・後方連携/B 地域医療連携部門の業務内容/
  C 地域医療連携部門のスタッフ/D 医療機関の機能分化/
  E 地域医療支援病院/F 在宅療養支援診療所/G 地域連携クリニカルパス
 11 事務部門
  A 事務部門の業務内容/B 事務部門のスタッフ/C 医事会計システム

III 介護システムとの連携
 1 病院関連施設
  A 訪問看護ステーション/B 訪問リハビリテーション/
  C 通所リハビリテーション/D 在宅介護支援センター/E 介護老人保健施設/
  F 療養病床/G 特別養護老人ホーム
 2 介護保険制度
  A 制度創設の背景/B 保険者と被保険者/C 給付されるまで/
  D 受けられるサービス/E 介護保険の給付/F 介護予防/
  G 地域包括支援センター

索引

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まずは病院について理解するところから
書評者: 堺 常雄 (聖隷浜松病院院長/日本病院会会長)
 わが国は国民皆保険のもとで国民の健康状態を良好に保ち,世界の中でも高い評価を得てきました。しかしながら医療を取り巻く環境の変化,特に少子・超高齢社会の到来,永年の医療費抑制政策等の影響で,「医療崩壊」といわれる状況になっています。そのような中で持続性のある社会保障制度を維持するためには,財源の確保と病院医療の再生が喫緊の課題です。

 病院は他の業界と異なり専門職集団を多く抱え,縦の連携が強い組織といえます。しかも十分に情報が共有されておらず,情報の非対称がいわれ,医療全体がブラックボックスとなっています。また病院を取り巻く環境の変化として,疾病構造の変化,診断・治療の高度化・専門分化があります。

 このような状況に対応し改善する方法として組織横断的な活動,チーム医療の推進,情報の“見える化”等が考えられ実践されていますが,そのためには病院の組織と機能を広く知ってもらい,多くの方々に病院運営に興味を持ち理解をしていただくことが重要です。残念ながらこのような視点で病院を紹介する本は今までにほとんど存在していなかったといえます。その意味でこのたび,今中雄一教授(京都大学大学院医学研究科医療経済学分野)のグループから本書が刊行されたのはまさにタイムリーなことであり,病院の経営に携わるものとして歓迎するところです。

 本書は「序論」「病院経営の基本と制度」「病院の組織と機能」「介護システムとの連携」の4部構成になっており,読者目線で説明がなされ読みやすく,多くの図表や充実した参考文献・参考資料によって大変理解しやすいものとなっています。今中教授が担当された「序論」は本書のエッセンスといえるもので,病院にとって不可欠な診療の質と経営の質を担保し向上させるための事柄が述べられています。さらに,挿入されている「ちょっと話したくなるコラム」は読者の理解を深めるものとなっています。

 これに続く「病院経営の基本と制度」および「病院の組織と機能」でも,実際の病院経営・管理で必要であるにもかかわらず十分に理解されていない事柄についてコンパクトに述べられており,まさに「病院の新任者」「元企業人」「現企業人」「先生と学生」にわかりやすい構成になっています。もちろん,医療界のベテランにも,病院の組織と機能についての考えを整理する書として利用価値があるものと思われます。

 最後の「介護システムとの連携」は,一般病院で働く者にとってわかりにくい点について述べられており,医療提供体制を予防医療,急性期医療,慢性期医療,介護・在宅ケアというトータルでシームレスなものととらえる上で大変参考になるものと確信します。

 病院で働く人には病院全体や他職種のことを広く理解してチーム医療を推し進めていただきたいし,一般の方には病院を身近なものとしてとらえ,病院に積極的にかかわっていただきたいものと願っています。もちろん,常にかかわっていただければそれに越したことはないですが,例えばボランティアのような形でかかわっていただくことも大歓迎です。病院の医療を支え向上させるのは皆さん一人一人であると考えるからです。そのためにも,この本で病院のことを理解していただくのは有用なことと思います。

 病院の図書室に本書を配備し,また新人研修等で利用されることをお勧めします。
病院の全体像が把握できる医療人必読の教科書
書評者: 岩崎 榮 (NPO法人卒後臨床研修評価機構専務理事/元日医大主任教授・医療管理学)
 医療人(病院人)すべてを対象とする『「病院」の教科書―知っておきたい組織と機能』という画期的な本が出版された。本書の「はじめに」にあるように,病院の構造と機能を上手に組み合わせて書かれた本としては知る限り初めてであろう。病院の構造はわかりにくく,そこで働いている病院人にも理解しがたいところである。“機能”となればなおさらである。病院の一日がどのように動いているかは,病院長や幹部職員でも見えないことがある。本書はそうした病院の複雑さを踏まえ,読者がその全体像を把握できるように構成されている。

 これまでにも医学書院からは,この領域の書籍が発刊されてきた。時代は古いが,今日においてさえも教科書の域を超えたバイブル的存在といえる『病院管理学体系』(橋本寛敏・吉田幸雄監修,全6巻)や,最近では,ごく平易に書かれた『病院早わかり読本』(飯田修平編著)が出されている。

 しかし善きにつけ悪しきにつけ,病院が今日ほど一般国民から期待され注目されている時代はないであろう。だからこそ医療職をはじめ病院にかかわるすべての人は,病院のなんたるかを知る必要がある。本書はその求めに応え得る内容を備えた書といえる。

 先にも触れたが,本書の編者である今中雄一氏は「はじめに」において,「病院の運営・経営の向上を目指し(自らの貢献度アップを目指し),病院の組織と機能を体系的に理解するための本」であると述べている。全編を通じて,医療の質と経営の質との関係性を念頭に置きながら執筆されている点に本書の特徴があるといってもよい。

 また,序論「医療経営の礎:将来を見据えて」の結びで,今後の病院の経営に望まれる要素を提言のかたちで挙げている。すなわち,「質と安全を守り継続的に改善する組織文化(とチーム)とシステムを,リーダーが意識して築こう」「地域全体を見据え,患者のケアの全プロセスを見据え,医療(と介護)を設計・計画しよう」「臨床家も事務管理職も主体的に病院データを活用し,先んじて透明性を確保し説明責任を強化しよう」「人材を育てる環境をつくろう。そして個々人皆が主体的に学習し成長し,変革する力を養おう」の4つである。これら4つの提言は病院の経営のノウハウをすべて言い尽くしている。そしてこれらの提言については,本書の中で具体的に順序立てて周到に記述されている。

 先の「序論」からはじまり,第I章「病院経営の基本と制度」では主として病院経営に必要な診療報酬やDPC,医療の原価計算などについて事例を示しながら解説されている。この章では,医療安全管理,危機管理,感染制御が取り上げられ,さらに質改善のシステムとしてPDCAサイクルを図で示しながらわかりやすく説明している。

 第II章は本書の副題ともなっている「病院の組織と機能」で,病院の全体的構造を写真とともに提示し,しかも機能と組み合わせて書かれ,診療のプロセスが手に取るように理解できるようになっている。

 第III章では「介護システムとの連携」を取り上げ,今や医療と分離しがたくなった介護との連携を,ここでは「病院関連施設」と題して訪問看護ステーションから特別養護老人ホームまで触れている。在宅医療の高齢者を支援するサービスと要介護状態にある高齢者を対象とする施設とに分けて医療とのかかわりがわかるようになっている。

 本書は医療人(病院人)個々人だけでなく,各職場において誰もが手に取り読めるような場所に置いておく必要がある。医療系・看護系・福祉系の大学をはじめ学校関係者には,まさに本書の題名通り“教科書になり得る本”として推薦する次第である。
本書を読めば病院の組織と機能は一目瞭然
書評者: 邉見 公雄 (社団法人全国自治体病院協議会会長)
 『「病院」の教科書―知っておきたい組織と機能』が,今中雄一教授(京都大学医療経済学)の編集で出版された。「先を越された」という気持ちと,「やっとこの手の本が世に出たか」という感慨が入り混じった感がある。

 実は,私も田舎の自治体病院長を22年務めている間,新しい事務局長や事務職員が本庁から異動してくるたびに種々の関連書籍や医療雑誌の特集号を渡し,新規採用者研修では医師とコメディカルに分けてオリエンテーションを行っていた。例年この時期は年度末の学会や退職者の送別会,関連教室の定年教授への挨拶などに走り回っているが,大切な仕事と思い合間を縫って実施してきた。新任の方々が組織にスムーズに溶け込み即戦力になっていただけるように,オリエンテーションでは私の知る限りの知識と経験談などをできるだけ噛み砕いて話をしたが,力が入り過ぎて持ち時間を超過することも度々であった。

 こうしたオリエンテーションを各分野の長やチーム医療担当者などが丸一日かけて行い,2日目には電子カルテのシステムを説明したり,市内の分院的診療所や連携施設をマイクロバスで回るなど,医療の現場に早期になじめるように努めてきたつもりである。それでも五月病的な症状が現れる方もあり,本庁から初めて病院に転任してきた方が早々に異動願いを出したこともあった。病院は役所とは全く異なった文化の組織であり,専門職が使う用語は外国語と同じ,さらには自分より若いドクターやナースに命令されるのは耐えられない,と感じられることもあるようである。詳しい説明を省き結論だけを述べる若い医療職もいるが,患者さんのことを思い一刻も早く用件を伝えようとした結果であり,決して命令しているつもりも悪気もないのだが……。

 このように病院は医療になじみのない者には異質の世界のように思われるが,本書を読めば病院の組織と機能は一目瞭然である。医療制度や関連法規,DPCなど新しい診療報酬制度や医療安全,最近よく話題になる院内感染などの感染制御,守秘義務やインフォームドコンセントなどの情報対策を含む危機管理についてもわかりやすくまとめられている。さまざまな専門職のために部門ごとに要求される知識も記載されている。また,医療経営のビジョンの策定やPDCAサイクルを使った戦略の見直しや改善,人材の確保と育成など,病院の経営に携わる方に必須の知識がほぼ全般にわたって盛り込まれている。

 さらには,今後ますます重要となる医療の質の向上にも触れ,少ないマンパワーを有効に活用するための地域医療連携についても前方連携・後方連携の有用性,今後さらに拡大する介護保険施設との連携も漏らすことなく盛り込まれている。

 編者の持論である「医療の見える化(可視化)」を地で行くように,図や表が多く使われているのも読者には親切である。新しく病院で働く新人や転入者はもちろん,すべての医療関係者に読んでいただきたい本であり,私が関係している診療報酬を決める中央社会保険医療協議会の1号支払い側や3号公益委員にも無料で私から差し上げようかとも思うほどである。

 ここで宣伝を一つ。本書のコラム5「医療経営にかかわる人材育成の試み」(p 11)で紹介されている日本医療経営機構(理事長:吉田修京都大学名誉教授)では医療経営人材育成プログラムを作成し,活動を始めている。今中先生が実務の中心であり,私も少しだけお手伝いをさせていただいている。興味のある方は,ぜひホームページ[http://www.iryo-keiei.org/index.html]を開いていただきたい。

 最後に,本書の執筆者は新進気鋭の若手研究者ばかりであり,今後,この方々が日本の医療政策を動かす中心勢力になってほしいと願っている。また,この本が一人でも多くの人々の目に触れ,日本の医療が少しでもよい方向に向かうことを切に願うものである。「よい医療を効率的に地域住民とともに」を実現するには必読の書である。

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