はじめに 誰のための、何のための福祉か?
どんなサービスもニーズを満たすためにつくられる。制度や政策の効果は当事者ニーズによって最終的に判定されなければならない。そうでない制度や政策は無益なだけでなく、ムダで有害でさえある。
「当事者」の「ニーズ」を満たすことのできる福祉社会は可能か?
「ニーズ中心の福祉社会」と、今さらのように言わなければならないのは、制度と政策とが「当事者ニーズ」をおきざりにして進んでいるように見えるからである。
共編者の上野千鶴子と中西正司は二〇〇三年に共著で『当事者主権』(岩波新書)を著した。それから五年。わたしたちはその後、「当事者主権」の理念にもとづく、次世代型の福祉戦略を構想しようとしてきたが、二〇〇五年には障害者自立支援法が成立し、さらに二〇〇三年と二〇〇六年には介護保険法の改定が行われ、社会保障費の総量抑制の政策方針のもとに、状況はその当時よりもむしろ悪化している。この流れを押し戻し、ほんとうに当事者にとってほしいサービスが手に入る社会をつくるために一歩をすすめることは、重要でかつ喫緊の課題である。この福祉社会への転換期をどう乗り切るかは、今後三〇年間の日本社会のシナリオを決めるであろう。すなわち現在壮年期にあるひとびとが、高齢期に入ったときの、運命を決めることになるだろう。
ニーズ中心の福祉社会を、できないと悲観する前に、わたしたちは、それが必要だし可能だと宣言したい。そしてたんに希望的な観測を述べるのではなく、どのような理念にもとづいて、何を、どうして、どこに配慮しながら、どうすれば、実現できるか、の道筋を示そうとした。そのための理念と制度のデザイン、経験的エビデンスにもとづく問題点と実行可能性、実現のためのビジョンとアクションのシナリオを示した。
共著者には、そのために今日得られる最適の人材を結集した。本書の共著者は、「ニーズ中心の福祉社会」が必要であり、かつ可能であることに共感した研究者とアクティビストの集まりである。
本書は数次にわたるインテンシブな研究会の過程で、お互いのアイディアを示しながら、相互に批判的に検討しあう生産的な過程から生まれた協働の産物であり、たんなる依頼原稿の集積ではない。本書の共著者は、みずからの経験的研究と理論的探究の成果をおしみなく提示し、デザインとビジョンとを世に問おうとした。そのうえで、それを実現するためのアクションのシナリオも提示した。
選択肢はある。それを選ぶかどうかは、あなた次第である。
共編者識す