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高齢不妊診療ハンドブック


編集:森本 義晴/太田 邦明

  • 判型 B5
  • 頁 392
  • 発行 2019年10月
  • 定価 9,350円 (本体8,500円+税10%)
  • ISBN978-4-260-03957-4
妊娠率が急激に下がる高齢不妊患者へのさまざまな対処法がこの一冊に!
妊娠率・生産率が急激に下がる高齢不妊患者を妊娠に導くために行われているさまざまなアプローチを取り上げ、その基礎理論と治療の実際を症例とともに紹介する。検査法やARTのみならず、患者から尋ねられることの多いサプリメントや漢方薬、運動療法など統合医療的アプローチについても詳述し、臨床現場のニーズに応える一冊。
序 文
推薦の辞(吉村 泰典)/(森本義晴、太田邦明)

推薦の辞

 社会に進出して仕事に生き甲斐を見いだす女性が増えている.このキャリア形成願望が未婚化につながり,晩婚化・晩産化傾向がみられるようになっている.
 この傾向はわが国の少子化の最大の問題...
推薦の辞(吉村 泰典)/(森本義晴、太田邦明)

推薦の辞

 社会に進出して仕事に生き甲斐を見いだす女性が増えている.このキャリア形成願望が未婚化につながり,晩婚化・晩産化傾向がみられるようになっている.
 この傾向はわが国の少子化の最大の問題であるとともに,生殖医療においても加齢は妊娠・出産を阻む最大の壁になっている.妊娠・出産を希望する年齢が先進国のなかで最も遅く,思春期からの生殖に関する教育不足が指摘されている.女性の理想的な妊娠時期は25~35歳であり,この時期に妊娠・分娩できるような社会や職場の環境づくりのためにも,高齢妊娠の困難性や危険性を思春期の頃より教育することが重要となる.このような情報が,女性の社会進出や真の意味での男女平等を考えるうえで重要な視座を提供することになる.
 これまでの生殖医療は,その臨床研究の有効性の評価が十分に検討されているとは言えないところがある.臨床経験を通して獲得した技術やその判断は,必ずしも科学的根拠があるとは言えない.実地臨床の妥当性と有用性を検証するには,ランダム化比較試験のメタ分析に基づくエビデンスが必要となる.生殖医療においてはさまざまな先端技術や治療手段が開発されているが,そのほとんどが後方視的研究であり,経験的な治療と言わざるをえないところがあり,そのエビデンスは必ずしも十分ではない.しかし,生殖医療はヒトを利用した実験的医療の側面を有しており,前方視的な臨床研究が計画しにくい状況にある.
 このたび,IVF JAPANの森本義晴先生,福島県立医科大学ふくしま子ども・女性医療支援センターの太田邦明先生の編集により,「高齢不妊診療ハンドブック」が医学書院より上梓された.本書においては,現時点で有用性があると考えられる治療法が隈なく収集され,網羅的に掲載されている.いずれも臨床現場の最前線でご活躍の先生方が,長年の臨床経験に基づいた創意工夫や注意点をきわめて明快に論述されている.生殖医療の実地臨床に抗加齢医学の視点を取り入れた実践の書であり,高齢不妊のもつさまざまな問題の解決能力の陶冶に資するよう意を尽くされている.どのように科学が進歩しようとも,われわれは不妊という病態に対峙する一人の臨床医に過ぎない.本書が高齢女性の生殖医療に苦悩する専門医の道標となり,clinical expertiseを高める意味での活用を願ってやまない.本書は,生殖医療を実践するうえで,その現在をとらえ,新しい動向に対応するための必読の書である.

 2019年9月
 慶應義塾大学名誉教授 吉村 泰典




 近年の晩婚化,晩産化の結果として,私たちは臨床現場で多くの高齢不妊患者に遭遇することになり,現在わが国の生殖医療現場において,加齢への対処は最重要課題と言っても過言ではない.現在のところ,「高齢不妊」の確たる定義はないが,本書では女性年齢40歳以上を高齢不妊患者とした.その場合,日本産科婦人科学会のデータによると,ARTを実施する患者の半数近くが40歳以上,つまり高齢不妊患者となるが,40歳を超えると妊娠率・生産率は急激に下がり,逆に流産率が急激に上がるという周知の事実からも,異存のない考えかたではないだろうか.
 一方,抗加齢医学(アンチエイジング)領域の研究が進むなか,生殖医療におけるその応用は十分とは言えない.そこで,私たちは最先端の抗加齢医学を生殖医療に応用することを目的とし,日々,臨床現場で高齢不妊患者の治療にあたっている医師,コメディカルスタッフおよび関連領域の全ての職種の方々に向けて,その苦悩に答えるべく本書を企画した.
 Evidence-based medicine(EBM)という考えかたが,私たちの治療現場に登場して臨床医学はより科学的になった反面,無作為化比較試験(RCT)で全てを判断するという手法で導かれた治療法に何かが欠けていると感ずる人は多いのではないだろうか.私たちは,EBMが唯一最高の手段で,今後も医学の中心に在り続けるとは考えていない.少なくとも,抗加齢医学領域ではこの手法のみでは十分ではない.
 なぜなら,人間はそもそも,心と身体を有し,内分泌系,神経系,免疫系をはじめとするシステムによって制御される統合体である.17世紀のデカルトの「二元論」に基盤をもつ現代医学に対する疑義が提唱されて久しいのに,近年,私たちの医学はここへ回帰しようとしている感が否めない.EBMで割り切れる部分はきわめて少ないのに,これのみを金科玉条のごとく考えて治療を行うことは,特に生殖医療においては限界がある.
 生殖医療における抗加齢医学では,臨床現場の医師と関連領域の医療者は,自分の治療の拠り所がなく,難治性の高齢不妊患者を半ば放置,あるいは不十分な知識で治療せざるをえないことも多いと思われる.これは患者にとって,不幸で由々しき問題である.
 高齢不妊患者に対しては,従来の先端科学技術の応用はもちろんのこと,心に対するケアや伝統医学を含む全ての手法を組み合わせて用いることが必要であるが,これがエビデンスを作りにくい原因ともなっている.しかし,私たちはこういったエビデンスが低いと言われる治療法の組み合わせが,ときに高い臨床効果を上げることがあるということを少なからず経験している.つまり,抗加齢医学という治療領域は,他の領域に比して解析する因子の数がきわめて多いのである.しかも,私たちの身体はこれらの治療に影響され刻々と変化することも,解析を困難にしている.すなわち,この領域のデータ解析はパーソナルコンピュータの守備範囲を越えており,本来はビッグデータとしてスーパーコンピュータレベルで解析されるべきではないかと考えている.しかし,それは現在のところ実用段階には至っていないため,本書は現時点で有効性があると思われる治療法の情報をできるだけ丁寧に収集し,網羅的に編集した初めての書籍である.本書が,高齢不妊患者治療に苦悩する全医療者の道しるべとなって,多くの患者の救済に役立つことを祈ってやまない.
 最後に,私たちの熱い思いに賛同していただき,惜しみなく最先端の情報と臨床経験を提供していただいた執筆者の皆様に,そして本書の編集のため奔走し多大なる貢献をしていただいた前田健次氏をはじめとする医学書院の皆様のご努力と慧眼に敬意を表するとともに,深甚の謝意を捧げたい.

 2019年9月
 森本義晴
 太田邦明
書 評
  • 加齢不妊に対してはARTと統合医療の併用が重要
    書評者:久保 春海(東邦大名誉教授)

     2019年10月に医学書院から森本義晴(IVF JAPAN),太田邦明(福島県立医大)両先生の編集により『高齢不妊診療ハンドブック』が上梓されました。この本の帯にある「多くの不妊診療専門医が苦慮している高齢不妊患者さんに対してどのように治療していますか?」という問い掛けに対して,最新の治療方法とし...
    加齢不妊に対してはARTと統合医療の併用が重要
    書評者:久保 春海(東邦大名誉教授)

     2019年10月に医学書院から森本義晴(IVF JAPAN),太田邦明(福島県立医大)両先生の編集により『高齢不妊診療ハンドブック』が上梓されました。この本の帯にある「多くの不妊診療専門医が苦慮している高齢不妊患者さんに対してどのように治療していますか?」という問い掛けに対して,最新の治療方法として,検査,生殖補助医療技術(ART)手技から統合医療的アプローチまでを含め,高齢不妊患者さんを妊娠へと導くための秘訣をわが国の一流の専門医が伝授することを目的とした成書であります。体外受精・胚移植(IVF-ET)のパイオニアのひとりであるPatrick Steptoeが,世界初のIVFベビーを誕生させた直後の1978年に米国のカリフォルニア大サンフランシスコ校(UCSF)を訪れた時の講演会で,「IVF-ETによる加齢不妊治療は可能ですか?」という私の質問に対して,「IVF-ETは卵管因子による絶対不妊に対してのみ使用すべきものである」と答えられました。これは今から40年以上前のことですが,今やわが国では結婚,出産年齢の高齢化に伴い加齢不妊はART症例の半数以上を占める大きな命題になっています。

     加齢に伴う生殖機能低下は,女性の場合32~33歳頃から徐々にはじまり37歳頃から急速に妊孕性が低下しますが,これは主として加齢に伴う卵母細胞数の減少と質の低下によると考えられています。一般にアンチエイジングというと60兆個の細胞で構成される肉体全体の加齢に伴う老化を予防する手段ですが,思春期以降の卵巣内に存在する約30万個の卵母細胞の老化を予防する方法はいまだにありませんし,ヒト卵子幹細胞はあったとしても,卵子に分化させる方法は未知であります。出生時の卵母細胞の数や加齢に伴う減少速度,質の低下には個人差があり,更年期までに残存する卵母細胞の数とその質には遺伝的素因と環境因子が深く関与しています。この環境因子を取り除く努力が加齢不妊に対する臨床の基本であり,本書に述べられているARTのEBMと統合医療の併用が重要であることは間違いありません。個体にかかる長期間の心理的ストレスや酸化,糖化による肉体的ストレスは,内分泌,循環器,免疫,神経系などの相互作用による精神・身体の恒常性の維持を困難にし,身体諸器官とともに生殖器官の機能的,器質的障害を発生するようになります。編者の森本先生は「ストレスをどう発見するのか,そしてどう取り扱うのか,さらにはストレスによって生じた障害をどう取り除くのかは,統合医療における最重要課題といっても過言ではない」(p.229)としています。加齢不妊と思われる患者に対する治療や予防法はいまだ緒についたばかりであり,本書は現時点で可能性のある効果的な治療法,対処法を全て網羅しています。私も本書を精読した後で加齢不妊に対する自分自身の知識と考え方,対処法を再構築することができたような気がします。本書は不妊診療専門医のみならず,一般産婦人科医やFrailty専門医そして不妊診療に携わる看護師,心理士,エンブリオロジストの方々にもぜひ読まれることをお薦めします。
  • 「高齢不妊治療」という臨床現場の最重要問題に答える
    書評者:菅沼 信彦(京大名誉教授)

     近年の不妊治療において,体外受精をはじめとする生殖補助医療技術(ART)が発展し,多くの不妊患者に福音をもたらしていることは周知の事実である。日本においてもART出生児は年間56,617人(2017年)に及び,少産化が進むわが国においては全出生児の17人に1人となっている。しかしながらARTによっ...
    「高齢不妊治療」という臨床現場の最重要問題に答える
    書評者:菅沼 信彦(京大名誉教授)

     近年の不妊治療において,体外受精をはじめとする生殖補助医療技術(ART)が発展し,多くの不妊患者に福音をもたらしていることは周知の事実である。日本においてもART出生児は年間56,617人(2017年)に及び,少産化が進むわが国においては全出生児の17人に1人となっている。しかしながらARTによっても児を得られないカップルが存在する。その主たる原因が「高齢不妊」である。特に女性の加齢による卵子の質的・量的変化は著しく,臨床現場では苦慮する場合も多い。本書は「高齢不妊診療」に焦点を当て,基礎から臨床に至るまであらゆる問題点を考察し,まさに現在の不妊治療に必須な項目が網羅されている。

     まずは第1章の「高齢不妊診療のための基礎理論」において,加齢による妊孕性低下のメカニズムが統計を含め詳細に述べられている。一般臨床医にとっては見逃しがちな本質が明解に記載されている。続く第2章では,卵子提供も含む「高齢不妊診療の実際」が具体的に示されており,外来現場でそのまま役に立つ情報が満載である。さらに第3章は,本書の特徴ともいうべき「統合医療的アプローチ」が紹介されている。これまでの不妊治療専門書では,サプリメントなどの解説は僅少であったが,実際に患者さんが服用している場合も多く,その説明に非常に役立つ。また第4章の「ケーススタディ」は,このパートのみを読んでも日々の臨床症例として興味深い。

     本書は多数の著者により執筆されているが,各領域の専門家が自らの分野を深く詳述している。しかしながらその内容は決して難解ではなく,臨床現場に従事する者にとっても十分に理解できる。それは多くの図表が駆使され,一見による認識を可能にしているためであろう。その点からは医師のみならず,不妊診療に携わる他の医療者にとっても有用である。さらに各単元に置かれた文献の多さにも目を見張る。それはエビデンスに基づく記載を保証するのみならず,さらなる情報の検索にも有益であろう。同時に,著名な執筆者の本音とも言うべき「コラム」は,一服の清涼剤のような味わいである。

     このように本書は,高齢不妊診療における高度な医学的知識を供給するとともに,不妊診療専門医,産婦人科や泌尿器科の一般臨床医,研修医,胚培養士,看護師などにとっても読みやすく,重要な知識を享受できる名著である。
目 次
第1章 高齢不妊診療のための基礎理論
 加齢による妊孕性低下
  1 総論
   生殖における加齢医学
  2 加齢の要因
   加齢とDNA損傷・修復
   テロメア短縮による加齢とサーチュイン遺伝子
   加齢によるエピジェネティクス変異
   加齢と細胞老化
   卵子と胚のミトコンドリア機能
   AGEs(終末糖化産物)と加齢
 不妊とアンチエイジング
   アンチエイジング医学総論
   卵子のアンチエイジング
   精子のアンチエイジング

第2章 高齢不妊診療の実際
 検査編
   AMHと加齢
   胞状卵胞数計測(AFC)
   FSHの捉えかた
   酸化ストレスと抗酸化力測定
   AGEs(終末糖化産物)と生殖医療
   ERA®(子宮内膜着床能検査)
   子宮内フローラ
   精液の酸化ストレス
   PGT-Aの有効性
 治療編(ART)
   オーバービュー:高齢不妊治療の現況
   高齢不妊患者への卵巣刺激法
   高齢不妊患者への採卵法
   高齢不妊患者への胚移植法
   高齢不妊患者へのPiezo-ICSI
   高齢不妊患者由来胚の培養法
   高齢不妊患者の胚凍結法
   高齢不妊患者における着床障害へのアプローチ①スクラッチング
   高齢不妊患者における着床障害へのアプローチ②子宮内膜刺激胚移植法(SEET)
   高齢不妊患者における着床障害へのアプローチ③タクロリムス
   高齢不妊患者における着床障害へのアプローチ④G-CSF
   高齢不妊患者における着床障害へのアプローチ⑤シルデナフィル
 情報提供・患者支援
   卵子提供―国内外の現況
   国外での卵子提供―米国での実例
   養子縁組
   生殖心理カウンセリング
   生殖遺伝カウンセリング
   治療終結のカウンセリング

第3章 統合医療的アプローチ
   オーバービュー:高齢不妊治療における統合医療の役割
   栄養療法
   サプリメント①ビタミンD
   サプリメント②葉酸
   サプリメント③マルチビタミン
   サプリメント④DHEA
   サプリメント⑤レスベラトロール
   サプリメント⑥プラセンタ含有サプリメント
   サプリメント⑦亜鉛
   サプリメント⑧今後が注目されるサプリメント
   アンドロゲン補充療法
   成長ホルモン補充療法
   漢方療法
   運動療法
   ヨガ
   受胎気功
   生殖鍼灸
   低出力レーザー治療(LLLT)
   ファータイルアロマセラピー

第4章 ケーススタディ
 ケーススタディ1 AMHが非常に低値だったが,エストロゲン投与を中心に
            ホルモンコントロールし,採卵・胚凍結を繰り返し,
            融解胚移植により出産に至った47歳女性
 ケーススタディ2 11回目(前医5回,当院6回)の採卵後に新鮮胚移植にて
            妊娠に至ったAMH 0.1ng/mLの43歳女性
 ケーススタディ3 胚質不良による難治性反復不成功例に対し,ミトコンドリア機能の
            改善を目指した治療を行い妊娠に至った症例
 ケーススタディ4 他院で菲薄化した子宮内膜に3回良好胚移植するも妊娠に至らず,
            当院でhMG+hCG療法にて子宮内膜を作製して胚移植を行い
            妊娠に至った40歳女性
 ケーススタディ5 Th1/Th2比高値を示す反復着床不全症例に対して,
            免疫抑制薬を用いた免疫療法が奏効し健児を得た42歳女性
 ケーススタディ6 不妊治療歴7年,10回のARTで着床なし! HSGとエコーから
            子宮腺筋症と診断,全胚凍結後子宮腺筋症薬物療法で
            妊娠・分娩し生児を得た42歳女性
 ケーススタディ7 高度乏精子症のためmicro TESEにより精子を採取し,
            顕微授精にて2児を得た80歳男性
 ケーススタディ8 難治性の原発性不妊症であったが,統合医療の積極的な活用により
            治療を継続し,妊娠・正期産に至った45歳女性
 ケーススタディ9 長期に渡る不妊期間において,あらゆる治療を試して
            最後に卵子提供を選択した45歳女性
 ケーススタディ10 13年間の治療の末,治療終結を決意した夫婦の葛藤と
            グリーフプロセス

索引

コラム
 1 AMHよもやま話
 2 PGT-A(着床前胚染色体異数性検査)
 3 高齢不妊患者へのプレコンセプションケア
 4 ミトコンウォーク
 5 ファータイル・ストレッチ
 6 受胎リフレクソロジー