楽しみながら統計を学び,研究に取り組むための一冊
書評者:濱岸 利夫(中部学院大准教授・理学療法学)
年明け早々,“統計”というキーワードが,新聞やテレビなどで連日取り上げられている。国会の委員会でも議論されている。
今年は“統計”についてしっかり学ばなければならない1年になりそうな予感がする。折しも,平成という時代が終わり,新しい元号が始まる。時代が大きく変化する1年でもある。これからを...
楽しみながら統計を学び,研究に取り組むための一冊
書評者:濱岸 利夫(中部学院大准教授・理学療法学)
年明け早々,“統計”というキーワードが,新聞やテレビなどで連日取り上げられている。国会の委員会でも議論されている。
今年は“統計”についてしっかり学ばなければならない1年になりそうな予感がする。折しも,平成という時代が終わり,新しい元号が始まる。時代が大きく変化する1年でもある。これからを生き抜くためには,私たちは“統計”について熟知していなければならないのかもしれない。
巷で議論されている“統計”とは違うが,時勢の流れに合わせたかのように新しい統計に関する一冊が出版された。
著者の田久浩志氏は,病院医療管理学,救急医学,医療統計学などがご専門である。初版は,すでに2004年に出版されており,当初から医療従事者や医療系学生を対象にしており,今回もよく使う統計解析の手法や考え方に的をしぼった実践的な参考書となっている。
「少しでも統計を苦手とする医療従事者を減らし,より多くの方に統計解析,そして,学会・論文発表を行っていただきたいと考え,今回,内容についてよりわかりやすく,より身近な例題とする改訂を行いました」とまえがきにもある。
日々,時間に追われるように勤務する医療従事者や医療系学生を念頭に置いてデータ収集のポイント,集めたデータをExcelへ効率的に入力する方法などを実際の画面を示しながら丁寧に解説してある。また,今回からはカラー刷りになっており,店頭で見かけたらぜひとも手に取ってもらいたい。格段に読みやすい。
構成は第1章から第3章と付録(Q&Aと付表)からなっている。まず,第1章は,データを準備しながら,入力,集計する。そして,Excelが持つ「ピボットテーブル」などを駆使してクロス集計表やグラフを作成する。
これだけでも,“地道にコツコツ”と“瞬間的なパソコン操作”の緩急を取り混ぜながら構成されており,読者を飽きさせない工夫がなされている。
そして,第2章からは時間に余裕がある場合,必ず横に電卓とパソコンを置いて読み進めていくことをお薦めしたい。一方で,時間的に厳しい場合には,第2章にある平均,標準偏差を電卓で計算するページだけでも丁寧に読んでいただきたい。そうすれば,「次も取り組んでみるか」と思い,最後まで読み進めていくことができるだろう。
さらに,第3章にある検定手法も電卓とパソコンを置いて丁寧に読み進めていくことをお薦めする。一つひとつ,丁寧に取り組まなければならない箇所もあり,少し辛抱強く向き合う必要もあるだろう。けれども,医療従事者や医療系学生は日頃からガマンに慣れているから大丈夫だと信じる。
最後に,著者からの“統計”を通して研究に取り組む際のノウハウも随所に書かれている。1つは,イヤイヤ取り組むのではなく,“できるだけ楽しみながら”取り組むこと。また,「データの解析前には必ずグラフで得られたデータの概要を把握し,『だからこうなのだ』と言える内容を検討する」と指摘されている。
医療従事者や医療系学生が,楽しみながら研究・臨床活動に取り組むための一冊であることは間違いない。