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「気になる子ども」へのアプローチ
ADHD・LD・高機能PDDのみかたと対応

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ADHD(注意欠陥・多動性障害)、LD(学習障害)、高機能PDD(高機能広汎性発達障害)には、現在さまざまな専門職がかかわっている。本書は、発達障害をもつ子どもと共に生きる医療・保健・福祉・教育関係者が、彼らの成育をどう理解し、取り組んでいるかを紹介する。
編集 宮尾 益知
発行 2007年11月判型:A5頁:344
ISBN 978-4-260-00442-8
定価 3,850円 (本体3,500円+税)

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宮尾益知(編者)

 『「気になる子ども」へのアプローチ ADHD・LD・高機能PDDのみかたと対応』を,お届けします。
 「発達障害」という用語は,元来,知的障害に対する社会的サポートの観点から考えられた行政用語であり,医学的観点からの「疾患としての障害」とは異なっています。
 発達障害はさまざまな観点から,対応が考えられてきました。決まった有機的な関連づけもなく,各分野あるいは個々の施設に任せられてきたと言えるかもしれません。ところが,わが国において,2005年4月1日の発達障害者支援法が施行されてから,発達障害は医学が独立して扱う「疾患」としての位置づけから,社会全体で乳児期から成人期に至るまでのさまざまな問題点を「障害=社会的サポートが必要」として考えていく「認知の偏り」,あるいは「少し変わった子どもたち」として考えられるようになってきました。しかし,知的障害が明らかでない学習障害(LD),高機能広汎性発達障害(高機能PDD;自閉症スペクトラム),注意欠陥/多動性障害(ADHD)は,知的障害が軽度であるが故に,抱える行動などの問題が決して軽度であるとは言えないのに,「軽度発達障害」という概念で語られることがあり,まるで障害が軽度であるかのような印象を与え,社会認識上大変に危険なことにもなってきています。文部科学省ではこの用語を使わない方向性も打ち出してきています。一方,“発達障害”をもっているということばで,すべてがわかったかのような発言を聞くこともあります。各発達障害は,小児期すなわち発達期に現れる障害であることは共通していても,診断により導き出される具体的対応も異なってきます。このような子どもたちをどう考えればよいのか,どのように対応すればよいのかを考え,その後良き大人として社会に出してあげることが私たちに与えられた使命だと考えています。
 この分野を扱った本は,数多く出版されています。しかしこの本は,ほかの同種の本と異なり,発達障害をもった子どもから大人までの分野をみることのできる各専門家に,それぞれ一貫した観点から書いていただきました。さまざまな分野から成育を考えた本になっています。一貫して書いてあるため,少し長くなり,読みにくい点もあるかもしれません。わかりにくい表現もあるかもしれません。まず,どこからでも結構ですから読んでみてください。各専門家の文章をいくつか読み進めるうちに,発達障害をもつ人たちが理解できるようになり,優しい気持ちで,このような子どもたちのこころを考えながら対応することができるようになると思います。
 私たちに多くのすばらしいアイデアを与えてくださった発達障害をもつ子どもと大人,そしてその保護者の方々に感謝したいと思います。
 そして,この本は,そのような人々と日々一緒に生きている療育現場,教育現場,医療分野のかたがたにもっとも読んでいただきたいと思っています。
 最後に,この本のアイデアに賛成してくださり,筆の遅い私たちを辛抱強く待ちながら励ましてくださった医学書院のかたがたに深く感謝いたします。
 2007年10月
 発達障害の診療の難しさとやりがいを考えながら,
 外来終了後の一室にて

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第I章 はじめに
第II章 子どものこころの発達:発達障害との関連から
第III章 医学的観点からの発達障害
第IV章 発達心理学からみた発達障害
第V章 感覚統合障害としての発達障害:みかたと対応
第VI章 言語障害としての発達障害
第VII章 家族機能傷害あるいは社会問題としての発達障害
第VIII章 地域と医療現場の連携-乳幼児・学童期を中心に
第IX章 医療と教育の接点-望ましい方向性とは
第X章 発達障害への対応とこれからの方向性
おわりにあたって
付録(1)発達障害者支援法
付録(2)
索引

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子どもたちのための「不思議な本」
書評者: 山田 孝 (首都大大学院教授・作業療法学)
 この本は不思議な書である。例えば,発達障害への小児科的対応と精神科的対応というところで(p.4),いきなり「一次障害に加えて,二次障害(うつ状態,反抗性障害,行為障害など)を併発してくることが多々ある」として,基本症状よりも,二次障害について説明していくといった本である。基本症状については第3章で初めて説明がなされる。また,その第3章でも,3節に,発達障害は早期発見が大切であるが,早期発見をすればそれでよいわけでなく,具体的早期対応が必要となるとしている。

 そのように読んでいくと,著者たちの気持ちが伝わってくるようである。著者の一人であり,編者でもある宮尾先生は,早期発見をした医師はその子どもにとって適切なアドバイスをしなければならないし,場合によっては家庭生活,家族機能など事細かな部分にも及ぶ必要があると言う。また,軽度発達障害(HFPDD,LD,ADHD)を早期発見する意義は,保護者や周囲の心構えでできることと,気になる行動を理解することにより,対応を改善できることであると言う。

 「思春期から成人に至るADHDの問題点」では,問題を内在化障害と外在化障害とに分けて考えると理解しやすい,と言う。幼児期のこころの育ちかたとして,愛着障害が前景に現れる場合には虐待を引き起こし,対人関係での貪欲さと空虚感が境界型人格障害に発展することがある。父親が家庭内暴力やアルコール依存のある場合には,外在化障害として家庭内暴力がみられると述べている。内在化障害としての社会的問題点は,ニート,ひきこもりの進行から社会・生産的問題となり,反抗挑戦性障害,不安障害,パーソナリティ障害の存在と関連するという。

 「成人のLDに対して」は,求めていることを手紙に書いてきてもらう。その手紙を読むことで,そのクライアントの抱える問題が明確になってくる。すなわち,最初のサンプルは手紙ということになるとしていることが,興味深い。また,中学校教師でもある月森先生の率直な意見にも耳を傾ける必要があろう。医師は専門用語を使わずに子どもの状態像や具体的な対応と支援についてわかりやすく説明してほしい。医療と教育の連携については,具体的な内容をメモに書いて,紙上で会話していただけるとありがたいと述べている。
 この不思議な本を理解する鍵は,帯封の「良き大人として社会に送り出すために」という文章にあった。著者たちがそのような考えの下に本書を書いたとは何と素晴らしいことであろうか。
発達障害の専門家による診察上の工夫を垣間見る
書評者: 原 仁 (横浜市中部地域療育センター所長)
 編者の宮尾益知博士をはじめ,本書の著者たちのいく人かは,評者にとって,かつて職場や学会活動でご一緒した,懐かしい方々である。同じ領域で同じ仕事に携わる評者にとって,通読を始める際の緊張感は,いわばライバル意識が働いてのことなのかもしれない。今,彼らは何を考えながら,子どもの何を診ているのだろうか,興味津々であった。

 はっきり言って,見かけよりかなり読み応えのある内容である。最近流行の,「誰にでもわかりやすく」でもないし,やたらと漫画が出てくるわけでもない。したがって,ある程度,発達障害に関わる実務を経験した中級レベルの専門職の方々に適しているのが本書だと思う。宮尾博士が冒頭で述べているとおりである。その領域の第一線の専門家に,重複を恐れず,それぞれ一貫した観点からの執筆を依頼したようで,各章が独立した論文といってよい。

 医学的な立場からは,宮尾益知,森優子,笠原麻里博士たちが,発達障害全般に対して,それぞれがご自分の考えに基づいて書き下ろす体裁である。心理学の立場からは五十嵐一枝教授が,作業療法の観点からは福田恵美子教授が,言語発達の観点からは佐藤裕子言語聴覚療法士が,福祉の立場からは伊東ゆたか博士,伊藤くるみ氏,大河内修氏が,そして教育の立場からは月森久江氏が,同じように執筆している。まずは読者自身の立場の章から,あるいは今特に興味のある領域から読み始めていただきたい。

 評者の興味は,実際の診察上の工夫を垣間見ることができる表現である。理論はそれとして,日々の実践でどのように具現化しているのであろうか,である。なるほどと納得いった1歳半の乳児を診察する際の記述を2つ紹介してみよう(19―21頁)。第1は,乳児を抱っこして保護者(母親)から1―2メートル引き離してみる方法である。評者もかつてよくこの方法をつかった。当然期待するのは,「知らないおじさんに母親から引き離された,大変だお母さん!」という行動である。第2は,診察室の小道具として,ぽぽちゃんというミルク飲み人形をつかった見立て遊びをおこなっているようである。評者の場合はわんちゃん人形と積み木をつかっているが。

 福田教授が担当する,感覚統合療法の第5章がわかりやすい。この領域に関心はあるが,専門外なのでもう少し学んでみたい,そして理解を深めたいと思う読者には適している。第7章の「家族機能障害あるいは社会問題としての発達障害」は,このタイトル自体がショッキングである。しかし,臨床の最前線にいる評者にとって,その事実はまさにそのとおりと同意せざるを得ないのである。

 大いに共感するのは,本書のまとめともいうべき第10章の記載である。宮尾博士の指摘するのは,3点。第1,発達障害児・者への支援のあり方を家族機能の視点から見直すことが必要である。第2,発達障害がある人が人生をまっとうするには,リラクゼーションの方法が重要である。つまり,世の中にあふれるストレスをいかに解消するかである。第3,ライフスタイルの確立がさらに重要である。もっとも,第3の指摘は,発達障害の有無にかかわらず,人間すべてが見つめなければならない人生の課題である。

 なお,本文とは別に,挿入されたコラムが19編ある。こちらもこの続きをもう少し読みたいと思う話題に満ちている。

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