心臓外科

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心臓外科のビギナーからベテランまで、幅広い読者のニーズに応える手術テキスト。新進気鋭の執筆者により、最新の手術手技はもとより、周手術期のさまざまなテクノロジー、遺伝子工学・細胞工学の臨床応用に至るまで、up-to-dateな心臓手術の全てがわかる決定版。施設による術式の違いもきめ細かく記載し、編者の個性溢れるユニークな編集も魅力的な1冊。
編集 新井 達太
発行 2005年11月判型:B5頁:648
ISBN 978-4-260-00140-3
定価 22,000円 (本体20,000円+税)
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  • 目次
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先天性心疾患
 第1章 心臓中隔欠損症
 第2章 肺静脈還流異常
 第3章 肺動脈弁,右室流出路異常
 第4章 先天性僧帽弁弁膜症
 第5章 先天性三尖弁の異常
 第6章 複合心奇形
 第7章 大動脈の異常短絡
 第8章 大動脈弓部の奇形
 第9章 先天性大動脈弁および弁上・弁下異常
 第10章 先天性冠状動脈異常
 第11章 体肺動脈短絡手術,肺動脈バンディング
後天性心疾患
 第12章 大動脈弁疾患
 第13章 僧帽弁疾患
 第14章 三尖弁弁膜症
 第15章 連合弁膜症
 第16章 感染性心内膜炎に起因する弁膜症
 第17章 心房細動に対する外科治療
 第18章 人工弁・機械弁と生体弁
 第19章 虚血性心疾患
 第20章 急性心筋梗塞と梗塞後の合併症
 第21章 拡張性心筋症
 第22章 低侵襲心臓外科
 第23章 心臓腫瘍
 第24章 不整脈の外科治療
 第25章 遺伝子工学,細胞工学の心臓外科への応用
 第26章 ティッシュエンジニアリング法の心臓外科への応用
和文索引
欧文索引

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心臓外科におけるランドマークとなる書
書評者: 小柳 仁 (聖路加国際病院ハートセンター・顧問)
 ダヴィンチの詳細な解剖学から500年,ウィリアム・ハーベイの血液循環説から350年,アレキシス・カレルの血管吻合法から100年,カレル・リンドバーグポンプ(人工心肺の原型)から60年ほどの時間が経過した。現在の心臓外科の医療は,これらの歴史的な業績の上に成り立っており,エジプト以来の5000年の歴史を持つ脳外科,整形外科と比べて格段に短い60年の時間を刻んできた。

 ここで1人の心臓外科医の個体発生を,学習,習熟,練達のキャリア形成として考えてみよう。せいぜい40年の職業生活の前半に心臓手術に習熟し,後半はリーダーとして当該分野に貢献しなければならない。人生は決して長くなく,直接の指導者以外に,ここに手術書の存在理由がある。

 心臓外科の手術書は評価に足るものだけでも本邦と世界をあわせ十指を越えるが,すべて20世紀までの「形状認識を助けるための解剖書」である。そして美しい手術のシェーマについての極めて良心的な警告が語られている。それは,“Diagrams do not bleed.(手術の絵は決して出血までは描いていない)”という言葉である。

 この秋,驚くべき教科書が世に出た。ここにご紹介する『心臓外科』(新井達太編集)である。新井先生は東京女子医科大学,東京慈恵会医科大学で心臓外科の教授を20数年務められ,小生は先生の講師時代から,人工心肺係,つまり外回りの奴隷として,常に肩越しに先生の緻密な手術を拝見してきた。人工心肺も心筋保護も不安定な時代であり,決して時間が豊富にあるわけではない。その環境で,決して後悔しない美しくも確実な手術を心がけておられた。そして,その先駆的な時代に記録性を追求され,病院の写真技師は術野の真ん中で宙吊りのような姿勢で狭い術野を記録することを厳しく要求されていた。本書を拝見し,まず感銘したのは術中や写真の迫力であり,surgeon’s viewで,一針一針に術者の苦心と息づかいが感じられる。もちろん現代であるから術野に血液は見られないが,この優れた写真とシェーマの臨場感は,出血をも描いているといえよう。各著者も編者の期待に見事に応えたといえる。

 全体の構成こそ特筆すべきものである。確立された手技については第一人者が,そして考え方,手技の改良,材料の進歩が今なお続いている手技では対論を語れる複数の著者により記述が行われている。手技の成熟度によって軽重の差が巧まずしてつけられており,異論のあるところに手厚い。記述として特に,左室形成(Dor,David-Komeda),大動脈基部置換(Ross,ホモグラフト),Tissue engineering,不整脈の外科などに斬新さがある。

 類書にないこのような構成は,外科医に思考の機会を与え,また自らの手技を完成させていくための恰好の道標となろう。

 ダヴィンチの解剖図は見事であるが,死体置場でのスケッチから生まれている。ルネッサンスの実証科学が解剖図を生んだ。50年前,暗黒大陸のような心臓外科に分け入った編者の透徹した視線を各所に感ずることができる。21世紀初頭,われわれはランドマークのような手術書に出会うことができた。世界に類のない臨場感溢れる本書について唯一の不満は,本書がもし英文で書かれていれば,全世界の若い心臓外科医の自己研鑽に貢献できる可能性があったということであろう。

 本書は,成熟して完成期に入った心臓外科のバイブルであり,1人の心臓外科医にとって自らのキャリアデザインを図るための最適の書である。ぜひ座右に置き,日々紐解かれることを勧め,また期待している。


読者の考える力を涵養する教科書
書評者: 幕内 晴朗 (聖マリアンナ医大教授・心臓血管外科)
 わが国でも心臓外科の教科書はいくつかあるが,手術手技に力点を置いた本格的な手術教科書は意外と少ない。この『心臓外科』には,各心疾患の診断,局所解剖,手術適応とタイミング,手術成績なども記載されているが,その中心をなすのは手術手技であり,これが本書を特徴づけている。編集は埼玉県立循環器・呼吸器病センター名誉総長の新井達太先生によるものである。現役時代に数多くの心臓手術を手掛けられた先生は,学会のシンポジウムの司会で外科医が聴きたい「手術のコツ」などについて演者に鋭く質問されていたことを,今でもよく憶えている。新井先生は以前に『心臓弁膜症の外科』という書を編集されているが,今回は先天性心疾患から冠動脈疾患を含めた後天性心疾患まですべて網羅しており,実際に読んでみると先生の本書にかけるこだわりが随所に認められる。

 まず特筆すべきは,きわめてup-to-dateな内容が満載されている点である。このような大部の教科書では執筆開始から出版までに時間がかかり,市販された時点ですでに陳腐になっている場合が少なくないが,それを見事に克服している。

 項目立ても通常と異なり,連合弁膜症などの合併手術,および同一疾患でも病態や使用材料に応じた術式について,さまざまな角度から取り上げている。またMy Techniqueという,2人の著者に同一疾患の手術法を執筆させるユニークな方法は,「手術のコツ」の微妙な違いを浮き彫りにし,最新の手術法に関する理解を深めるのにきわめて有用で,本書をマニュアル的な押し付けでない,読者の考える力を涵養する教科書にしている。このほか,Pitfall & One Point Adviceと称した囲み記事にも工夫のあとが感じられる。さらに最後の25章と26章では,遺伝子工学や細胞工学の心臓外科への応用という最先端の研究を掲載し,明日の心臓外科の指針となる重要な課題を教示している。

 本書の執筆陣は新進気鋭からベテランまで幅広く構成されており,わが国を代表する心臓外科医がほとんど網羅されている。これだけ執筆者が多数にわたると,ともすれば内容がばらばらになりがちだが,非常によくまとまっているところに編者の多大な努力のあとがしのばれる。手術書の生命といえる図については,執筆者が精魂込めて作成したものが多数掲載されており,必要に応じてカラーとなっていて大変わかりやすい。術中写真も実に鮮明で,術式の理解に役立っている。ただあえて難を言えば,図のタッチに多少統一性を欠くことであるが,多数にわたる執筆者を考慮すれば致し方ないであろう。

 心臓外科医は仕事に追われて常に忙しいが,本書は手術の概念がよく解説されているので,手術に入る前にぜひ一読することを推奨したい。そして手術法を十分に理解した上で,さらに自分がどのように工夫するか考えて手術に臨めば,必ずよい結果が得られるはずである。いずれにせよ,この手術書は将来心臓外科医を目指す修練医はもちろんのこと,ベテランの心臓血管外科専門医にとっても大変有用であり,常に手元に置いておくべき価値の高い書といえる。

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