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外科臨床と病理よりみた小膵癌アトラス


著:山口 幸二/田中 雅夫

  • 判型 A4
  • 頁 184
  • 発行 2005年05月
  • 定価 16,500円 (本体15,000円+税10%)
  • ISBN978-4-260-12267-2
膵臓癌のエキスパートによる決定版アトラス
沈黙の臓器として長く診断治療が難しかった膵臓癌は、現代の最新の画像診断技術により、pTS1といわれる20mm以下のものまで発見が可能となってきた。切除可能な小膵癌をいかに早く発見し、化学療法を含めた集学的な取り組みによって患者の高いQOLを保たせる効果を上げるか、消化器臨床医の将来にわたる課題である。膵臓癌のエキスパートが、惜しみなくそのエッセンスを注ぎ込んだ小膵癌の決定版アトラス。
書 評
  • 膵癌早期発見へ向けた世界的権威によるアトラス
    書評者:松野 正紀(東北厚生年金病院院長)

    ◆1.豊富な小膵癌症例

     膵癌による年間死亡者数が2002年に2万人を突破した。これは年間の交通事故による死亡者数の3倍に当たり,毎年増加している。統計上,年間の罹患数と死亡数がほぼ同じというのは膵癌だけである。膵癌が難治癌といわれるゆえんであるが,その理由は早期診断が困難であることと,膵癌細...
    膵癌早期発見へ向けた世界的権威によるアトラス
    書評者:松野 正紀(東北厚生年金病院院長)

    ◆1.豊富な小膵癌症例

     膵癌による年間死亡者数が2002年に2万人を突破した。これは年間の交通事故による死亡者数の3倍に当たり,毎年増加している。統計上,年間の罹患数と死亡数がほぼ同じというのは膵癌だけである。膵癌が難治癌といわれるゆえんであるが,その理由は早期診断が困難であることと,膵癌細胞の生物学的悪性度が高いことに尽きる。以前から早期診断と早期手術が叫ばれてきたが,世界的にみても残念ながらその成果は上がっていない。

     本書は,教室をあげて膵癌の治療成績向上に取り組んでいる九州大学臨床・腫瘍外科(第一外科)で経験した2cm以下の小膵癌症例を画像,病理の面から解析し,小膵癌診断への道を切り開こうとしたものである。大きさが2cm以下の膵癌の切除例は,多い施設でも数例しか経験していないものであるが,35例を経験しているのにまず驚かされる。これらは,小膵癌と鑑別を要する疾患も含まれているが,その豊富な症例には目を見張るものがある。

    ◆2.アトラスの真髄

     小膵癌の臨床上の特徴,病理組織学的な特徴は不明な部分が多い。本書は小膵癌と関係のある糖尿病,黄疸,疼痛,画像等の臨床所見や最近話題の膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)や粘液性嚢胞腫瘍(MCN)との関連を美しい写真で明らかにしている。摘出標本の写真や膵の画像は精細をきわめている。とくに標本の扱いや,バルーンERCPは見事で,著者らの教室の伝統をみることができる。かつて池田靖洋教授がバルーンERCPを駆使して『膵管像からみた膵疾患の臨床と病理』を出版し好評を博したが,本書の画像呈示と症例の解説はその流れを汲むもので,症例を1つひとつ大事にする九州大学第一外科の精神が脈々と生きづいている。精緻な写真のレイアウトと簡潔にまとめられた解説文のバランスのよさから,本書には最後まで一気に読ませてしまう魅力があり,「アトラス」の真髄をみる思いがする。

    ◆3.小膵癌発見へのインパクト

     著者の山口助教授,田中教授は膵疾患,特に膵腫瘍の研究についてはわが国の第一人者であり,すでに2000年に上梓した膵嚢胞性腫瘍の英文テキスト『Atlas of cystic neoplasms of the pancreas』は海外でも大変好評を得ている。

     田中教授は2004年仙台で開催された国際膵臓学会で「IPMN/MCNのコンセンサスミーティング」を司会され,お二人が中心となってそのガイドラインをまとめられた。また,お二人は日本膵臓学会の「膵癌診療ガイドライン」作成に精力的に携っておられる。このような膵癌の世界的なエキスパートによって著された本書は,小膵癌を理解するための入門書となると同時に,膵癌早期発見への強烈なインパクトを秘めた「アトラス」となっている。

     膵臓病を専門としている医師はもとより,広く消化器病学,臨床腫瘍学に携っている方々にぜひ一読をお薦めしたい好書である。
  • 膵癌診療のすべてを網羅 早期診断・治療のために
    書評者:今村 正之(京大名誉教授/大阪府済生会野江病院院長)

     膵癌は難治癌の代表格であり,しかも手術でしか根治を期待できなかった癌の1つである。外科医が多年にわたり,手術法の改良に努めてきたために,膵癌切除術は安全な手術になったが,切除後の生存曲線は芳しくない。化学療法としてgemcitabineが登場して以来,膵癌に対して化学・放射線照射療法の有効であった...
    膵癌診療のすべてを網羅 早期診断・治療のために
    書評者:今村 正之(京大名誉教授/大阪府済生会野江病院院長)

     膵癌は難治癌の代表格であり,しかも手術でしか根治を期待できなかった癌の1つである。外科医が多年にわたり,手術法の改良に努めてきたために,膵癌切除術は安全な手術になったが,切除後の生存曲線は芳しくない。化学療法としてgemcitabineが登場して以来,膵癌に対して化学・放射線照射療法の有効であったとする報告が増えつつあるが,長期生存の向上に関してはさらなる新薬の開発が待たれるところである。現状では膵癌の長期生存者を増やすためには,早期診断で小膵癌を見つけて,早期に切除手術するのが本道である。如何にして小膵癌を見つけるか,これが膵癌臨床医の長年の課題である。

     このたび九州大学臨床・腫瘍外科の田中雅夫教授と山口幸二助教授が出版された本アトラスには,様々な経過で見つけられた小膵癌患者の興味深い症例の記録が集積されている。

     本アトラスは,膵癌の教科書としても要領よくまとめられており,膵癌診療の現状の知識のすべてが網羅されているといえる。個々の患者の症例報告は診断契機と診断手順,画像所見,手術法が記載され,切除標本と組織診断がきれいな写真とスケッチで分かりやすく提示されている。これだけ多くの小膵癌を予後とともに提示されたのは,同じ九州の福岡大学池田靖洋教授のアトラス『膵管像からみた膵疾患の臨床と病理』(1991年刊,2003年絶版,医学書院)以来のことであろう。

     田中雅夫教授らはIPMT患者において膵臓のIPMTと関係のない部位に小膵癌が発生したことを報告して,国際的にセンセーションを巻き起こしたことで有名である。本書の中でも,それらの症例集積と発癌機序の考察も行い,臨床的注意点にも触れている。IPMTと膵管癌の発癌過程が異なるものか,共通性を持つのか,興味深いところである。将来,IPMTを有する膵臓の症例中には,膵全摘をすることにより膵癌を免れて長期生存しうる患者がいることが示唆されている。膵全摘は,インスリンのコントロールさえすれば,十分寿命を全うできる術式である。適応例はいると考えられる。

     膵臓は膵管細胞から分化して膵の様々な細胞ができてくるが,膵癌はどの段階の細胞と類似性があり,どのような細胞と遺伝子を共有しているのかを評者らは研究している。そして,多くの膵癌は領域発生のように見えるが,どのような遺伝子異常が領域的に起こるのか,領域発生の範囲はどのような条件を満たす領域なのかなどについても興味を持っている。

     本書に収められたさまざまな患者の記録が,読者にこれからの膵癌研究のテーマを提供していくことを考えると,本書の意義は非常に高いといえよう。現在活躍中の膵臓外科と膵臓内科の医師には,座右の書として置いて欲しいし,医局の図書室で若い研修医達に気楽に繙いて欲しいアトラスでもある。

     長年の九州大学外科教室膵臓グループの努力に敬意を表し,本書の刊行を心からお慶び申し上げるとともに,本書が多くの読者を持つことを願っている。
  • 膵癌早期発見をめざした第一人者による書
    書評者:白鳥 敬子(東女医大教授・消化器内科学)

     膵癌で死亡する患者数は年間2万人,男女とも癌死亡率の第5位を占めるようになった。近年,胃癌や大腸癌の死亡率がかなり低下してきているのに比べ,膵癌だけは罹患率と死亡率がいまだに同じであり,膵癌が治癒していないことがわかる。膵癌全国登録調査(日本膵臓学会)によれば膵癌切除例の5年生存率は約13%に過ぎ...
    膵癌早期発見をめざした第一人者による書
    書評者:白鳥 敬子(東女医大教授・消化器内科学)

     膵癌で死亡する患者数は年間2万人,男女とも癌死亡率の第5位を占めるようになった。近年,胃癌や大腸癌の死亡率がかなり低下してきているのに比べ,膵癌だけは罹患率と死亡率がいまだに同じであり,膵癌が治癒していないことがわかる。膵癌全国登録調査(日本膵臓学会)によれば膵癌切除例の5年生存率は約13%に過ぎないが,2cm以内の小膵癌で切除されれば約30%に向上する。しかし,小膵癌の症例数は全膵癌症例の6%(87例;1999年度全国調査)に過ぎず,極めて少ないのが現実である。したがって,膵癌の治療成績をあげる近道は,小膵癌をいかに早く発見するかにかかっているといっても過言ではない。

     本書は,長年,膵疾患の研究,外科診療に取り組んでこられた九大臨床・腫瘍外科,山口幸二先生と田中雅夫先生が共著で出版された。小膵癌だけに焦点をあてたtextbookは今までになく,本書が初めてと思われる。例数が限られる中,小膵癌35症例を集積されアトラスとして一挙にまとめられたことに心から敬意を表したい。折しも昨年来,日本膵臓学会主導で田中雅夫先生を委員長として「エビデンスに基づいた膵癌診療ガイドライン」が作成されつつある。山口先生も事務局幹事として取りまとめ役をされており,膵癌診療のエキスパートだからこそ書けた『小膵癌アトラス』であるといえる。また,本書の特徴として英文による写真説明と症例解説が付記され,外国人も読者の対象としている。国際的にも広く活躍されている著者ならではの企画であろう。

     本書では,小膵癌の豊富な経験例の中から選ばれた35例について,病歴,検査成績,各種画像,そして切除標本の写真,シェーマ,病理までを簡潔にまとめている。各章のネーミングにも工夫がされており,「糖尿病と小膵癌」,「膵炎と小膵癌」,「背部痛と小膵癌」,「黄疸と小膵癌」などのように,日常診療でみられる疾患や症状が小膵癌の発見につながることを読者に伝えたいという著者の気持ちがよく表れている。提示された症例から,小膵癌発見の最前線に立っているのは高次医療施設の膵臓専門医よりも,むしろ地域医療,プライマリ診療,一般内科に携わる医師たちであることがわかる。その意味で,本書は広く消化器領域以外の先生方にも推薦したい一冊である。内容は疾患解説→症例提示→問題点の順に構成され,消化器医でなくとも大変わかりやすい。

     小膵癌の発見は容易ではないように思われているが,提示された症例を読むと膵癌検出のきっかけの多くが腹部超音波検査であることがわかる。腫瘍マーカーなどは正常値がほとんどである。日常診療で疑わしい患者さんを腹部超音波検査へ早く導くことが,小膵癌の最初の検出になるのかもしれない。小膵癌の知識と認識を少しでも広げることが,早期発見率の上昇と膵癌全体の治療成績を向上させることにつながるのであり,本書の果たす大きな役割に期待したい。
目 次
第1章 小膵癌(自験例)のまとめ
 A. 膵臓癌のスクリーニング
 B. 小膵癌(pTS1)自験例の検討
第2章 膵管内乳頭粘液性腫瘍と小膵癌
 Case 1-3
第3章 糖尿病と小膵癌
 Case 4-7
第4章 膵炎と小膵癌
 Case 8-10
第5章 背部痛と小膵癌
 Case 11、12
第6章 膵腫瘤と小膵癌
 Case 13-17
第7章 黄疸と小膵癌
 Case 18
第8章 膵管内乳頭粘液性腫瘍
 A. 膵管内乳頭粘液性腺癌(非浸潤癌)  Case 19-22
 B. 膵管内乳頭粘液性腺癌(微小浸潤癌) Case 23-28
 C. 膵管内腫瘍由来の小膵癌       Case 29,30
第9章 膵粘液性嚢胞腫瘍
 非浸潤癌 Case 31
第10章 小膵癌と鑑別を要する疾患
 A. 限局性主膵管狭窄 Case 32-34
 B. 腫瘤形成性膵炎  Case 35
索引