疫学への招待
周産期を例として

はじめに
第1章 EBMの理論的根拠としての疫学
第2章 文献検索の方法
第3章 「有意に差がある」とはどういうことか
第4章 論文の読み方－いろいろな研究の種類
第5章 論文を読むための専門用語
第6章 質的方法を用いた研究：
　　　　Qualitative Research－数字のもつ意味を超えて
第7章 母子保健の基本的指標－妊産婦死亡率を中心に
第8章 疾病の頻度計測PrevalenceとIncidence
第9章 疫学研究の倫理
第10章 “ブレイクスルー”疫学にむけて
第11章 バイアス，誤差，交絡因子とは何か
第12章 疫学のためのコンピュータプログラム：Epi Info
第13章 “あなたの真実”を科学する
　　　　－リサーチ・クエスチョンと研究計画書
第14章 質問票を作る
第15章 EBMふたたび
あとがき
索引

この本いかがですか？（雑誌『助産雑誌』より）
書評者: 宗　祥子 (松が丘助産院院長)
　本書は疫学が，助産の臨床の場にどのように役立ち，いかに必要かについて明確に答えてくれます。また，疫学的なものの見方は，現状を把握し，変革を提示できるきっかけになることを，さまざまな手法で私たち助産婦に語りかけています。

　臨床の場で，日々の仕事に追われていると，助産婦が行なう仕事の意味や，その社会的な位置，レベルがどこにあるのかが見えてきません。本書は疫学的な見方を，サッカーのコーチにたとえて説明しています。

　「疫学的な見方をコーチだとすると，コーチは実際にゲームには加わっていませんが，ルールを理解し，ゲームを外から観察しています。つまりコーチを持つことで，自分の置かれている状況を少し離れて客観的に把握でき，より良いプレーができるというわけです」と著者は述べています。

　疫学を学ぶうえでの，基本的な専門用語の解説に始まり，実際のデータ検索の方法，疫学的なものの見方をした研究を進めるうえでの基本的技術と知識を学ぶことができます。しかし最も著者が伝えたいことは，研究を行なううえでの倫理的態度・ポリシーや，本当に伝えたいことは何かを持つことの重要性です。

　私は，助産院のなかで，日々自然のお産に付き合っています。自然のお産にかかわると，教科書で習ったこととは異なる状況に多々出会います。たとえば病院で出産する場合，子宮口が全開してから2時間以内に出産できないと，教科書的には遷延分娩と言って，陣痛促進剤の適用や，急墜分娩の適用になることがあると思います。

　しかし，自然のお産に携わる助産婦が助産所でお産を見ていると，お母さんが元気でリラックスできており，子どもの心音も問題なければもう少しお産を待ちます。それは時間だけで測れることではなくて，ケースバイケースです。この方の場合は大丈夫という感覚を，人に伝えることはとても難しいのですが，ずーっと妊娠期からお付き合いしていると，産婦さんの様子が，数字ではなく感じられるのです。

　その‘大丈夫という感覚’は，自然のお産に付き合っている助産婦はしっかりと持っています。そして，その感覚をデータとしてあげ科学していくことで，病院でのお産と異なる進み方があることを，示すことができるのかも知れません。著者は，その感覚を疫学的手法で，科学の言葉として伝えることの重要性を私たち助産婦に，この本を通して語りかけています。

　研究というと，難しく，日々の実践とかけ離れているように思っていましたが，本書を読んで，自分たちが行なっているケアを，グローバルな立場から評価してみたい，さらには，日々女性に寄り添うことで感じる感動を，科学の言葉に代えて発信していきたいと思いました。医療の下で管理されたお産ではなく，自然にまかせた人間らしいお産で生まれ変わる力強い女性の真実を，多くの方に伝えたいと思います。自然のお産に携わっている助産婦に是非読んで欲しい一冊です。