イラスト看護診断

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NANDA-Iの各領域から、看護学生の臨地実習や看護師の臨床において使用される頻度の高い39の看護診断を取り上げ、各診断の定義が理解できるような患者像をイラストを交えて事例と共に紹介。各診断をどのような状態の患者に用いればよいかを解説する。各診断を4ページで展開する。

編集 古橋 洋子
発行 2021年12月判型:A5頁:180
ISBN 978-4-260-04904-7
定価 2,750円 (本体2,500円+税)

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発刊に寄せて

 「NANDA-I看護診断」は、原書が改訂されるたびに翻訳され、2021-2023年版で、原書第12版を迎えました。この十数年、国内では紙カルテから電子カルテ化への移行が飛躍的に進み、看護診断に違和感があっても看護の共通言語である看護診断を電子カルテ上に反映しないと、仕事が進まなくなり、是が非でも導入せざるを得なくなりつつあります。

 国内で最初に電子カルテに看護データベースシステムを導入したのは、東京都立多摩総合医療センター(旧:東京都立府中病院)でした。都立の6つの病院が連動して使用するために、看護診断・成果・介入の連動を考える必要があり、2002年『看護診断・成果・介入 NANDA, NOC, NICのリンケージ』が医学書院から発行されたのを機に、許諾を得て東京都立病院が看護データベースをシステム化しました。看護部長を始め看護師長が一丸となって電子カルテに看護の共通言語である看護診断を導入したのです。その結果、一連の看護ケアは電子カルテに蓄積され、以後の看護ケアの根拠となり、看護独自の機能が明らかになって行きました。

 「NANDA-I看護診断」は元をただせば、米国のセントルイス大学病院で電子カルテを導入する際、看護独自の機能を説明する言葉がなかったため、1973年、その用語開発を目指して発足したNANDA(北米看護診断協会)が、そのルーツになっています。同じような過程は、数年遅れで日本でも起こりました。しかし、電子カルテに看護診断を入れなければと勉強してもなかなか理解できず、挫折する病院も多かったように思います。そのためでしょうか、看護診断の解説書が数多く発行され、現在に至っています。

 著者らが独自に開催しているGT(グラウンデッド・セオリー)研究会には、前述した都立病院の電子カルテシステムの構築に参与したメンバーや大学の教員も加わっています。その中で、何度も話題になったのが、看護診断を現場の看護師や学生に理解してもらうことの難しさです。個々の看護診断が示す世界を、何とか分かりやすく表現できないかと話し合っている中で、定義をイラストで表現してみてはどうだろうというアイディアが出され、試行錯誤を繰り返しながら事例の挿入や、他の情報を盛り込むことで、完成したのが、本書です。
 診断名の選定にあたっては、NANDA-Iの各領域すべてから選択するよう配慮し、臨床の看護師や看護学生が臨地実習の病院で、多く使用されている39の看護診断を選びました。

 本書の特徴は、看護診断の定義をイラスト化するとともに、その看護診断が適用となる事例もイラストで表現し、個々の看護診断が示す世界をイメージ化しようとしたことです。このイラスト化は、視覚的表現に慣れていない執筆者全員が最も苦労したところです。悪戦苦闘する中、著者の意向を汲みつつサンプルを提示してくれたのが、医学書院の前編集担当常務の七尾清氏です。結果として、本書のすべてのイラストは、七尾氏にお願いすることにしました。

 本書は以下のように構成されています。

第1章「看護診断を理解するために」では、看護診断を使うにあたって知っておくべき基本的知識を解説しました。陥りやすい誤解や誤りにも言及し、看護過程の中で、看護診断をどう使っていくかを述べました。さらに、電子カルテで看護診断を用いる場合、必須となる看護診断・成果・介入(NANDA-NOC-NIC)のリンケージについても言及しました。

第2章は本書の中心をなす部分で、NANDA-Iの領域ごとに39の看護診断の「定義・事例」をイラストを用いて解説しています。
1.〔定義のイラスト〕化について
 定義は抽象化された概念がおおもとにあるため、翻訳された日本語のみをイメージに表すだけでなく、その概念化の内容をイラストで表現しています。
2.〔この看護診断名の適用が想定される事例〕について
 事例は、各看護診断に2事例紹介しています。これは、1事例だけでは、各看護診断が示す内容を十分に伝えきれないと考えたためです。各事例のイラストは、その事例の内容をイメージしやすいようポイントを絞りイラスト化しています。
3.〔事例から診断指標を選択〕について
 診断指標はほぼ症状に近い形で表現されています。そのため事例の解説文の中から、診断指標に近い内容を選び表にしています。
4.〔事例から関連因子を選択〕について
 事例の原因になっている関連因子を解説文の中から選択し表にしています。関連因子を一つに焦点を絞っている理由は、第1章で説明していますので詳しくはそちらを確認してください。要は、症状や訴えがたくさんあったとしてもその原因を探っていくとおおもとは一つ。関連因子をたくさん出すことによりケアプランがダブっていくことになるためです。
5.〔この看護診断が適用・活用できる事例・症状・状態〕について
 当該の看護診断が2つの事例に示されている他に、どのような事例や症状・状態時に使用できる可能性があるかを説明しています。
6.〔この看護診断の適用・活用時の注意〕について
 この看護診断を用いてはならない事例や類似する看護診断との鑑別や使い分けを説明しています。

 “COVID-19”が拡大する中、直接顔を合わせての編集会議を開催することができず、詰めの相談は、ほぼインターネット上でのやり取りで行いました。一時期進行が滞り、もしかしたら出版はもう無理かもしれないと思ったこともありました。そんな、方向性を見失いかけたとき、思い余って相談した医学書院常務取締役の堀口一明氏の示唆により新たな気持ちで再スタートを切ることができました。改めて感謝いたします。

 紆余曲折はありましたが、何とか本書が完成したのは、すべてのイラストを準備し、編集全般にわたり的確な指摘を下さった七尾清氏の大きな援助のおかげです。著者たちが迷っているときに、常にそばにいて励ましていただいた鈴木照実氏・佐藤淳子氏と共に、感謝の思いをささげたいと思います。

 2021年10月
 古橋 洋子

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第1章:看護診断を理解するために

第2章:イラスト看護診断
 気分転換活動参加減少
 坐位中心ライフスタイル
 肥満
 体液量不足
 体液量過剰
 腹圧性尿失禁
 切迫性尿失禁
 慢性機能性便秘
 消化管運動機能障害
 不眠
 睡眠パターン混乱
 移乗能力障害
 歩行障害
 非効果的呼吸パターン
 入浴セルフケア不足
 更衣セルフケア不足
 摂食セルフケア不足
 排泄セルフケア不足
 急性混乱
 自己同一性混乱
 介護者役割緊張
 性機能障害
 非効果的行動計画
 家族コーピング機能停止
 死の不安
 非効果的否認
 気分調節障害
 無力感
 意思決定葛藤
 スピリチュアルペイン
 感染リスク状態
 周術期体位性損傷リスク状態
 口腔粘膜統合性障害
 成人褥瘡リスク状態 
 皮膚統合性障害
 術後回復遅延
 組織統合性障害 
 急性疼痛
 慢性疼痛

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イラストにより看護診断が示す世界をイメージできる本
書評者:岡本里美(富山県立中央病院 副院長・看護部長)

 看護診断は,看護の共通言語として,患者さんの看護上の問題を表現するツールであり,電子カルテシステムにおいても広く活用されている。当院では2007年に電子カルテを導入した際に,古橋洋子先生のNANDA-NOC-NIC研修会などで学習し検討を重ねた上でNANDA-NOC-NICリンケージを搭載した経緯がある。自施設で電子カルテを導入するにあたり,看護過程における看護計画立案のシステム化をどうするか悩まれた看護管理者も多いと思う。そして,システムを導入してからも看護記録の質向上のため継続教育が必要となる。当院では電子カルテ導入後にも,古橋先生から多くの看護職員がレクチャーを受けた。

 本書は,看護診断の概念から具体的な事例までイラストを用いて解説されており,病院で働く看護スタッフや実習中の看護学生にもわかりやすく,看護診断が示す世界をイメージしながら理解できる本である。

 第1章では,看護診断を理解し,活用するためのポイントが記されている。1つは,看護過程におけるアセスメントの大切さである。看護過程において,アセスメントなしに看護診断を導くことは不可能である。アセスメントにより看護問題の原因となっている関連因子にたどり着くことができる。もう1つは,NANDA-NOC-NICリンケージの重要性である。NANDA-NOC-NICリンケージとは,看護診断(NANDA)が決定するとその解決された姿である看護成果(NOC)が設定でき,その成果を達成するための看護介入(NIC)を選択し実行するとその成果が明らかになるという,NANDA,NOC,NICの結合をいう。途中で選択が適切であるか定義などを確認しながら進める必要があるが,芋づる式に看護計画が立案できる優れモノである。

 第2章では,NANDA-I看護診断267のうち,39の看護診断の「定義・事例」について,イラストを用いて領域ごとに解説されている。なかでも,定義は抽象化された概念であり翻訳された日本語であるため,わかりにくいものがあるが,本書ではその内容がイラスト化されていてとてもわかりやすい。また,診断指標は患者さんの症状・状態に近いものを選択すること,関連因子を1つに絞ることが示されているため,患者目標が明確となり,看護計画が整理される。さらにどのような事例・症状・状態の場合に適用・活用できる可能性があるか明記されており,その看護診断を用いてはならない事例や類似する看護診断との鑑別,使い分け方も説明されている。

 本書を読んでいると,研修会での古橋先生の語り口調が感じられる。看護診断の概念から個々の看護診断の解釈,そして看護過程の展開方法まで,事例を交えながら明快にレクチャーしてくださる古橋先生の姿が思い浮かぶ,そんな1冊である。

(「看護教育」63巻3号掲載)


イラストで楽しく学び,活用できる看護診断の最新の学習書
書評者:高橋京子(前・公益社団法人福島県看護協会 会長/医療法人慈繁会土屋病院 副院長)

 本書の著者らはこれまでに看護過程や看護診断を導く情報収集などについて,長年にわたり解説書を系統立てて出版・改訂し,看護過程に沿ってどのようにケアを行い,記録するかについての教育にご尽力くださっている方々です。
 現在,電子カルテが多くの病院に導入されています。しかし,電子カルテが導入されていても,看護情報からどのようにアセスメントし,考えたかについての記録があまり見られず,さらに入院患者の看護上の問題がパターン化している,との指摘もあります。
 著者らはこれらの現状を見聞きし,看護過程における「看護上の問題」すなわち「看護診断」をより分かりやすく,さらに活用しやすいものとするために,看護診断の定義や適応事例に“イラスト”を付け加えたらよいのではないか,と考え本書の執筆に至ったと述べています。イラストには動きがあり,定義や関連因子をイメージしやすいので,新人からベテラン看護師まで幅広く,楽しく学び,活用できる「看護診断」の最新の学習書と言えます。

 看護診断の基礎的知識の解説
 本書は第1章と第2章の2部構成になっています。第1章「看護診断を理解するために」では,看護診断に関する基礎的知識について,順序立てて学習しやすいように解説されています。例えば2ページには,「看護診断は,臨床推論に基づいて患者の問題が何であるかを判定し,看護師が何をすべきかという臨床上の意思決定を含むものです」と,看護診断の本質が述べられています。
 また,「看護の視点」である機能的健康パターンと情報収集のヒントが表1(5ページ)に示されており,入院時に看護師として何をどのように情報収集すればよいかが理解できます。これは医学モデルとの違いであり,看護が理論を踏まえて実践する根拠でもあるため,看護診断の理解には必須です。

 使用頻度の高い看護診断のヒントと事例
 第2章「イラスト看護診断39」では,NANDA-I分類法の13領域に分類される267の看護診断のうち,臨床で頻回に使用されると思われる12領域の中で使用頻度の高い39の看護診断について,事例を基に診断の「定義」「関連因子」の考え方が解説されています。
 そのため,情報を収集しアセスメントした内容が看護診断の「定義」と合っているかは事例を見れば分かります。また,「診断指標」は患者の症状であり,「関連因子」はその症状の原因であることも説明されています。そして,事例には必ずイラストがあり,看護診断をイメージしやすくしてくれています。定義や関連因子をイラストから読み解くこともできるので,楽しく学べ,活用しやすいと言えます。

 理論を踏まえ専門職としての仕事のために
 「療養上の世話」は看護師独自の判断で行える領域です。機能的健康パターンに基づく看護の視点で患者情報を収集し,療養上の問題を的確に判断してこそ,理論を踏まえた看護の専門職としての活動になります。看護は理論を踏まえた専門職の「思考過程の基準」として「看護診断」を必要としていることを本書が示唆しています。
 IT化の今こそ看護診断を看護実践の方法論として用い,看護実践に活かす時です。本書は看護診断についてとても分かりやすく書かれており,確かな看護診断へと導いてくれる待望の良書です。

(「看護管理」32巻5号掲載)

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