看護学生のための物理学 第6版
看護の現場では物理学が役に立つ
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医療や看護の現場では、物理学の観点から考えると理解が深まることが多い。人体の構造も物理学からみると実に巧妙にできており、感激することさえある。本書では、数式は最小限にし、医療・看護、日常生活に身近な現象をわかりやすく解説する。看護教育に長年携わってきた物理学教師が“物理嫌い”の学生の目を覚まさせてくれる。「物理=難しい」を打破する1冊。
著 | 佐藤 和艮 |
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発行 | 2022年01月判型:B5頁:216 |
ISBN | 978-4-260-04685-5 |
定価 | 2,530円 (本体2,300円+税) |
更新情報
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正誤表を更新しました。
2022.12.19
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正誤表を追加しました。
2022.01.25
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- 目次
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序文
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第6版の序
本書初版が1989年に出版されてから既に30年以上になります。その間,医療現場も看護師職務内容もずいぶんと変化して,看護学生が学ぶべき課題も変わってきました。それに対応してこの教科書の内容も順次書き改めてきました。新たに話題を掘り起こし物理学との関連で内容を深めた事柄もあれば,看護教育の中では以前ほどは重要視されなくなってきた内容もあり,本書の限られた頁数に収まりきれずに削除した内容もあります。
最新の医療を効果的に進め発展させていくために,看護業務には物理学的視点がますます重要になっていますが,現実の看護教育の場では物理学を履修する看護学生はごく少数で,ほとんどの看護学生は物理学を学ばないようで残念なことです。そうした中で,勇気を持って本書を手にされた皆さんが,真に役立つ学びができたと感じられるよう,しかもそのご努力が苦難ではなく喜びに感じられるようにと願っています。
看護学には全くの素人の筆者が,たまたま看護の物理教育にかかわるようになってから既に50年以上が経過していますが,その間,看護学生や卒業生の教え子や同僚の看護教員の皆さんに,たくさんのことを教えてもらいました。その中で,看護学が実に奥深く崇高で,学問的にも大変興味深いことや,看護学にとって物理学がとても大事な視点であることを知り,大いに知的に楽しませてもらいました。ありがたくとても感謝しております。
看護学と物理学の関連性には絶対的な確信を持ったものの,看護学生の先入観である「物理嫌い」には,かなり苦労しました。物理学に苦手意識を持った看護学生たちに何とか学習意欲を持ってもらい,学んでよかったとか楽しかったとか思ってもらえる講義を目指して,試行錯誤を繰り返してきました。物理学に対する拒否反応を解ときほぐし前向きに学んでもらうために,「遊び心の物理学」というキャッチフレーズでさまざまな試みをした教育実践例を「日本物理教育学会」等の場で研究発表していた時期もありました。本書はこうした精神を継承して書かれています。
第6版では,本文での主要な記述に追加して,「脚注」と「参考」の欄をさらに充実させて,関連事項を多面的に興味を持って学べるように工夫を凝らしてあります。この部分は,講義の中ではおそらく時間不足になると思われるので,是非皆さん自身の自己学習で深めていってください。さらにまた今回の第6版では,本文を読む頭脳活動だけでなく,自分で簡単な実験を試みる「遊び心の演習」を,各章に新たに加えました。実際に自分の手先も身体も使って,物理学の学びを楽しんでいただきたいと思います。
巻末の『寺田寅彦の科学随筆』 3編は,ご遺族と岩波書店の特別のご厚意で初版から掲載させていただいており,看護学生先輩諸氏が愛読し好評をいただいております。おそらく皆さん方も共感し,自然の見方が変わってくることでしょう。そして皆さん自身が,看護実践や日常の生活の中でこうした面白い視点を見つけ出して,探究を楽しんでいってください。
「看護学生の声」は,今ではベテラン(すでに定年退職された方も大勢いらっしゃいます)の元看護学生諸氏が,現在の皆さんと同様に希望にもえて看護学の道を歩み始めた時期に残してくれた貴重なお言葉の一端です。真摯な前向きのお気持ちが正直に綴られています。皆さんの思いと共通する部分も多々あるのではないでしょうか。学生の頃にはいろいろと迷い悩んでいても,真剣に立ち向かって努力しつづけていけば必ずや立派に成長し,誇りと確信を持って世の中に立派な役割を果たしていくようになることを,筆者はたくさん知っています。こうした本文以外の付録的記述欄も,皆さんの励みとなりお役に立てば幸いです。
本書はこうしていろいろな試行錯誤をした結果,従来の格調高い教科書とは随分と違った雰囲気の,手作り感いっぱいの教科書になってしまいました。この教科書で看護学生のための物理学を楽しく学んでいただき,それが将来の看護実践や生涯の生活に少しでも役立ってくれれば,筆者の大きな喜びであります。
奥深い看護学の世界の中には,浅学の筆者が気づいていない看護学と物理学の接点や学問的面白味がたくさん存在しているはずです。それらを皆さんご自身で見つけ出し深めて,そしてそれを役立ててくれることを期待しております。
2020年初頭より,おそらく人類の歴史に記されるであろう大きな出来事,新型コロナウイルス感染症(COVID‒19)の世界的な感染拡大によって,世界中の誰もが大きな影響を受け,多大な苦難を強いられてきました。とくに医療従事者のご苦労は計りしれず,感謝と敬意を表します。さらにこれに関連して,看護教育においてもさまざまな影響が表われ,安全・安楽・安心の目標に加え,感染リスクを軽減するための処置がより注意深く求められています。この看護物理学に関連しても,とくにボディメカニクスの学問的原理と具体的な感染予防策との関係で,むずかしい対応が必要になっています。患者と看護師の両者にとって最大限の安全が保たれるように,「標準予防策(スタンダード・プリコーション)」を遵守しながら,必要な看護行為を確実に実施していただきたいと思います。ご健闘をお祈りいたします。
なお,このたび本書第6版発行にあたっては,医療環境の大きな変化に対応して記述内容を大幅に入れ替えた部分が多く,編集担当者の溝口明子さんには大変お骨折りをいただきました。感謝いたします。
2021年10月
著者
目次
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第1章 重いものを持つにはどうしたらよいか
A 力のモーメント
1 力とは
2 力のモーメントとは
3 アンプル
4 ものを支えるとは
5 力のモーメントの応用
6 看護動作(患者の挙上)にみられる力のモーメントの応用
7 椎骨の突起の役割
8 骨の出っ張り
B てこの原理の人体中での応用
C 筋肉の張力と関節にはたらく力
1 僧帽筋の張力(第1種のてこ)
2 腓腹筋の張力(第2種のてこ)
3 上腕二頭筋の張力(第3種のてこ)
4 人体メカニズムの力学模型
D 腰にかかる力
1 第5腰椎ならびに脊柱起立筋にはたらく力
2 腰を傷めないために
3 重いものを持つときの5つの基本
4 正しい姿勢は美しく見せる
練習問題
遊び心の演習 どっちが重い?
看護学生の声
第2章 看護ボディメカニクスの物理
A ベッド上の患者の上体を起こす方法
1 動作の観察
2 動作の物理的考察
B 小さな力でも大きな効果が
1 仰臥位から側臥位への体位変換の方法
2 ベッドメイキングでの皺
C 看護ボディメカニクスの物理的重点事項
1 まず前準備,ベッドの高さを調節
2 両足を広げ,安定性を増す
3 膝を曲げて低い姿勢をとる
4 持ち上げるより水平にずらす
5 自分に近づける方向に引っ張る
6 自分の横方向への作業は非能率
7 力を節約するための工夫
8 最も重い部分を広い面積で支える
9 強い筋肉を優先的に使い,自分の体重も利用する
10 急激な速さの変化や方向の変化を避ける
練習問題
遊び心の演習 模擬ベッドメイキング「下シーツ角の三角の作り方」の一例
看護学生の声
第3章 身近な圧力
A 圧力とは何か
1 力と圧力の違い
2 片足立ちした人が地面に及ぼす圧力
3 注射針の先端が皮膚に及ぼす圧力
4 注射を刺すときの針の刃面の向き
5 褥瘡を防ぐために
6 体重を支える長骨の圧力
7 スケーリングの話
8 生体における面積と体積の関係
B もし気圧が変わったら人間はどうなるか
1 大気圧の表し方
2 大気圧の大きさ
3 水柱圧
4 高圧力のもとでの人間
5 低圧力のもとでの人間
6 耳の圧力変化に対する工夫
C 入浴とベッドの圧力効果
1 浴槽内の水圧効果
2 入浴は血圧のジェットコースター
3 入浴介助の注意点
4 スプリングベッド
5 ウォーターベッド
練習問題
遊び心の演習 靴が床に及ぼす圧力
看護学生の声
第4章 呼吸器と吸引の物理
A 肺はどのようにして呼吸をするのか
1 呼吸運動のメカニズム
B 吸引(胸腔ドレナージ)
1 3連ボトルシステム
2 チェスト・ドレーン・バッグ(一体型)
3 気管吸引
C サイフォン
1 サイフォンとは
2 サイフォンの原理
3 胃洗浄
4 真空採血管による採血
練習問題
遊び心の演習 サイフォンの模型
看護学生の声
第5章 点滴静脈内注射の物理
A 点滴静脈内注射のセッティング
1 ソフト・プラスチックバッグの点滴セッティング
2 ガラス製ボトルの点滴セッティング
3 プラスチック製ボトルの点滴セッティング
4 複雑な点滴セット
B 流量の調節
1 ローラークレンメの役割
2 点滴所要時間
3 輸液ポンプとシリンジポンプ
4 電動ポンプの初期設定
C 輸液バッグの高さ
1 静脈血圧
2 点滴持続に必要な輸液バッグの高さ
3 点滴終了後のチューブ内の空気は
練習問題
看護学生の声
第6章 循環器の物理
A ポンプとしての心臓
B 血液循環と血圧
1 血流抵抗の大きさ
2 ドロドロ血とサラサラ血
3 動脈硬化
4 高血圧の原因
5 低血圧
6 血圧と血流量の変化
7 毛細血管
C 血圧が測定できる理由
1 血圧測定の歴史
2 水銀血圧計を使った血圧測定の原理
3 収縮期血圧(最高血圧)・拡張期血圧(最低血圧)の確定原理
D いろいろなタイプの血圧計
1 アネロイド血圧計
2 自動電子血圧計
3 “水”血圧計による血圧測定デモンストレーション
E 血圧の重力による影響
1 なぜ血圧は心臓の高さで測定するのか
2 立ちくらみ
3 静脈血はなぜ心臓まで戻れるのか
4 静脈血が滞留してしまうと…
5 キリンと恐竜の血圧
練習問題
遊び心の演習 「“水”血圧計」の簡易模型
看護学生の声
TeaTime 生体のゆらぎ
第7章 感覚器の物理
A 感覚の大きさ
1 感覚は刺激の変化に敏感
2 刺激量を加工して感じる
B 聴覚の大きさ
1 音の大きさ
2 音の高さによる聴覚の感受性
C 対数目盛を使った感覚範囲の拡大
1 算術目盛とは
2 対数目盛とは
3 生物の感覚器官
D 対数目盛の感覚で聞いている音程
E 生理現象も対数関係
F 感覚は変化に敏感で,時間とともに弱まる
1 変化を敏感にキャッチ
2 感受性は時間とともに鈍化
G 視覚の機能
1 暗いところでの見え方
2 暗順応の寄せ集め機能
3 明るいところでの見え方
練習問題
看護学生の声
TeaTime 冷罨法と温罨法
第8章 体温制御の物理
A 身体各部の温度
B 身体の熱流モデル
C 体温調節のための機能
1 基礎代謝率
2 筋肉運動による代謝率
3 呼吸などによる熱伝達率
4 筋肉のふるえによる代謝率
5 皮膚からの蒸発による熱伝達率
6 皮膚からの対流による熱伝達率
7 皮膚からの放射による熱伝達率
8 各部分間の熱伝達率
D 身体の熱収支の計算例
1 激しい運動時
2 裸で静かに座っているとき
3 中程度の運動時
E 体温調節のための制御機能
1 フィードバック・システム
2 体温調節のフィードバック・システム
3 設定値
4 ダイエットとリバウンド
F 体温異常のメカニズム
1 発熱とうつ熱の違い
2 発熱と解熱のメカニズムの仮説
3 発熱の意味は
G 熱温存のための巧妙な仕組み
1 対向流
2 動静脈吻合血管
練習問題
看護学生の声
付録 観察と思考の物理
1 看護師はきつい!?
2 まずよく観察する
3 思考する愉しみ
4 事実を他人に正しく伝える
5 理系の表現
6 文章を仕上げる秘訣
7 寺田寅彦の科学随筆
看護学生の声
寺田寅彦全集より
線香花火
夏
涼味
参考図書
練習問題の解答
索引
正誤表
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本書の記述の正確性につきましては最善の努力を払っておりますが、この度弊社の責任におきまして、下記のような誤りがございました。お詫び申し上げますとともに訂正させていただきます。