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わたしがもういちど看護師長をするなら

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助産師、看護管理者として30数年間、患者に接しながら現場のマネジメントに携わってきた、日本看護協会会長によるマネジメント実践書。現場の多くの管理者がぶつかる問題や悩みについて、自身の経験を振り返りながら解説。単なるスキルではなく、何のためにどのように乗り越えていくのかを、エピソードを交えて、発想の仕方を日常のことばで語る。
坂本 すが
発行 2011年08月判型:四六頁:130
ISBN 978-4-260-01478-6
定価 1,650円 (本体1,500円+税)

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はじめに

 「一時たりとも人に支配されない人生を送る」
 私はこれまで、できるかぎり「自分の考え」を内省して、人から言われたことにそのまま従うのではなく、「自分はどう考えるのか」を大事にしてきました。「こうしたほうがいいよ」という意見には素直に耳を傾け、どうしてそうなのかをよく考えたうえで、最終的には自分の思うように決断するというところに落ち着きます。これも、母からよく「あまのじゃく」と言われていたゆえんでしょう。
 その後、そのときそのときでリーダーの役割を務めてきましたが、私のリーダーの原点はここにあるように思います。そして、これが私の看護職としての、いえ人生の原点です。
 私は幼少の頃、学級委員などのリーダーに推薦されるような子では決してありませんでした。しかし、関東逓信病院(現・NTT東日本関東病院)で看護師長になった1989(平成元)年から現在までの二二年間に、看護部長や大学の教授・学科長などの管理職を務めてきました。
 本書には、その間に、私が管理者としての発想のセンスと行動の仕方を、どのように身につけてきたのかについて述べました。
 超少子高齢社会、医療費の増大、医療職の不足、チーム医療の推進、看護師の役割の見直しなど、看護師を取り巻く情勢はめまぐるしく変化しています。そうしたなかでも、くじけずに看護職という仕事に希望を見出し、スタッフに希望を伝えて成長させていくことが、今、看護管理者に求められていると思います。
 本書は、どの章から読んでもよいように構成しました。多忙をきわめる日々の業務の合い間にでも、ちょっと肩の力を抜いて気軽に向き合ってみてください。気ままにページをめくって、目に留まったページから読んでいただき、日々の看護業務に役立つエッセンスを拾っていただければ、こんなにうれしいことはありません。

 坂本すが

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 はじめに

第1章 組織マネジメント
 看護管理者は「仕事を楽(ラク)にする」こと
 「仕事が楽しい!」は、看護師としての「やりがい」が出はじめた証
 問題解決の方法はリスクが最小限のものを選ぶ
 問題解決までのプロセスを重視する-奥の手は最後まで取っておく
 根回しとは小さな確認作業を繰り返すこと
 本質を残して、あとは捨てる
 周囲を俯瞰し患者のリスクを察知できる看護師だからこその特定看護師(仮称)
 チームワーク強化には、協働するメリットを見せる
 特定のスタッフに仕事を集中させず、チーム全体で成果を出す
 人の評価は、必ずプラス思考で
 「一〇%だけ成長する」を合言葉に
 いたずらに同僚を批判する人には新たな仕事を
 スタッフに緊張感をもたせるには少しドキドキさせる
 表面上の事象で判断せず、深読みする
 共通言語をつくる
 批判的な意見には真摯に耳を傾け、その意味を考える

第2章 人材マネジメント
 「合わせ鏡」でいる
 時には立ち止まって内省する
 自己制御力をもつにはユーモアとジョークで
 壁にぶつかったスタッフには、「場所を変える」よう勧める
 よく働き、よく遊べと新人をけしかける
 スタッフのキャリア形成は多様でよし
 常に最終目標を見失わない
 スタッフに裁量権をもたせるようにする
 真摯でいる

第3章 タイムマネジメントとリスクマネジメント
 なぜタイムマネジメントか-目的と締切日を共有する
 タイムマネジメントは長期&短期目標を組む
 最初に締切日を徹底させる
 リスク管理は先手必勝-後手は禁止

第4章 政治のなかにある看護 生活のなかにある看護
 政治の動きに目を向け、社会の将来像から看護のあり方を探る
 地域医療のリーダーとして-訪問看護の標準化と普及を
 小規模多機能型居宅介護で「看護のいえ」をつくりたい
 リーダーとは「新しい価値を見出せる人」

 おわりに

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書評 (雑誌『訪問看護と介護』より)
書評者: 角田 直枝 (茨城県立中央病院・茨城県地域がんセンター看護局長)
 この本のタイトルを見たら、世の看護部長はきっと飛びつくに違いない。実際、福岡県での第16回日本看護サミット2011の会場では、あっという間に100冊が売り切れてしまったと聞く。

 たしかに、看護部長たちと話すと、「師長のときが、いちばん楽しかった」とか、「もう一度師長をしたら、こんなことがしたい」という言葉をよく耳にする。私自身も、現在は看護局長という立場にもかかわらず、看護師長から相談を受けたときや病棟の課題を発見したときに、自分がその病棟の師長をやりたいと思う瞬間がある。だから、この本は看護部長には自分の部下に薦めたいと、非常に共感を呼ぶのであろう。

 さて、このように考えると、本書は病棟師長が読む本だと捉える人が多いと思う。本書を知っても、訪問看護管理者は「きっと病院の看護師長へのアドバイスが書かれているのだろうから、あまり自分たちに関係のない本だ」と決めつけてしまうのではないだろうか。たしかに病棟で師長として取り組んだことが、実践例としていくつも述べられている。当院の師長・副師長たちは私の推薦によりこの本を購入したのだが、業務改善や後輩指導などの参考になるだろうと考える。

 ところが、実は訪問看護管理者にぜひ読んでいただきたいのである。

◆訪問看護管理者こそ、看護師である 幸せと管理者としての喜びを感じて

 では、どう読むか? 訪問看護管理者にはまず「第4章 政治のなかにある看護 生活のなかにある看護」から読んで、本書に親近感をもっていただきたい。私は、訪問看護は看護のなかでも「生活のなかの看護」のもっとも象徴的な領域であると考える。同時に、医療保険と介護保険双方の枠組みに含まれ、在宅医療推進の流れなど、政治から直接的な影響を受けるという意味で、「政治のなかにある看護」としても最前線の分野だと考える。この章から、著者が訪問看護に高い関心を寄せ、訪問看護の標準化と普及に強い信念をもっていることが伝わり、私も勇気づけられた。これは全国の訪問看護師も同じではないだろうか。

 4章を読んだあと、著者が「はじめに」で“どこからでも読める”構成にしたと述べているように、自分が管理者として悩んでいること、壁にぶつかっていること、そういったことに近い箇所を、目次から選んで読んではどうだろうか。人材マネジメントとタイムマネジメントの部分は、きっと訪問看護管理にすぐに役立つだろう。「第1章 組織マネジメント」では、訪問看護管理者が自分の職場で応用するには若干イメージがわきにくい部分があるかもしれない。そのようなときは、目次に戻って見出しの言葉を、あたかも自分の上司からの言葉として受けとってみてほしい。

 著者は、本書全体を通して、看護が素晴らしい仕事であることを繰り返し伝えている。看護管理者も幸せな仕事だと述べている。訪問看護管理者は、看護師である幸せと管理者としての喜びを、病棟師長よりも濃厚に共有できる羨ましい仕事である。忙中閑あり。忙しい時間を止めて本書を読み、それを実感してほしい。

(『訪問看護と介護』2012年3月号掲載)
俯瞰するというスタンスと持論をもつ強さを (雑誌『看護管理』より)
書評者: 勝原 裕美子 (聖隷浜松病院 副院長兼総看護部長)
 病院にいると,よくもまあ,毎日毎日いろんなことが起きるものだと思う。院内新聞を書こうものなら,政治面,経済面,社会面,生活面などは連日記事に困ることはなかろう。

 そのような目まぐるしく動く多様な事象に対して,日々現場で対応しているのが看護師長であり,その対応がなるべくスムーズにできるようなしくみを整え環境を整備するのが,看護部長を長とする看護部管理室の役割になる。

 本書は,日本看護協会「長」としての著者が,これまでさまざまな「長」を経験し成功体験を積んできたなかで体得した持論を整理したものである。具体的な事例にもとづき,師長や部長のありようを現場目線で伝えてくれている。著者が現場で陣頭指揮をとっているのが想像できるような文体であり,人となりも活字からあふれ出ていてたいへん読みやすい。

 さて,これから本書を手に取ろうとする読者には,次の2点を共有できたらと思う。

◆全体のなかで最も大切なことは何か

 まず,何度も出てくる「俯瞰する」という言葉の意味を考えてほしい。俯瞰とは,鳥が空から世界を眺めるかのように,部分ではなく全体を把握する力をいう。先に述べたように,現場では多様な事象が起きている。その渦のなかに巻き込まれてしまうと,対応にばかり追われ,時間が知らぬ間に経過する。業務をこなすだけの感覚に陥り,達成感をもてず,モチベーションが落ちてしまう。そうなる前に,一呼吸おき,自分と現象をつなぐ空間の広がりを感じながら物事を俯瞰してとらえることができると,全体のなかで最も大切なこと(本質)が何であるかが見えてくる。そして,本質に向き合えているのかどうかに気づくことができる。本書では,その事例がいくつも示されている。

◆成功の法則は1つではない

 2つ目に,著者の持論がすべてではないという事実に向き合ってほしい。管理者としてすばらしい実績を積んできた著者の持論には説得力があり,示唆に富むものばかりで大いに共感する。こんなふうにできたらいいなと誰もが思う。しかし,書かれていることが全員にできるのか,書かれていることがすべてなのかと問われれば,私を含めて必ずしも皆に当てはまるわけではない。成功の法則は一つではないからだ。私たち読者が著者から学ぶべきことは,理論と事象を理解したうえで自らの管理のありようを持論として言い切れる強さであり,その強さが周囲を引きつけているという事実ではないだろうか。

 私たちは管理者である。管理することが仕事である。それならば,自分は何を考えて行動しているのか,どうすればうまくいったのかを管理的視点で内省し,言語化し,次につなげていかなければならない。それには,俯瞰というスタンスと,持論をもつという強さが必要だということを確認させられた一冊である。

(『看護管理』2012年2月号掲載)
個を活かし尊重する看護管理
書評者: 石垣 靖子 (北海道医療大大学院教授・看護管理学)
 本書は看護管理者に向けた管理の指南書である。随所に「俯瞰する」ことの重要性が述べられている。

 管理者に最も求められるのは日常に埋没しないこと,「グローバルに見て,ローカルに行動する」力だろう。看護管理者の役割は「スタッフが仕事をできるように支えること」であり,スタッフが育つ環境をつくることである。本書は,ではどうするとよいのかについても具体的に述べている。誰もが必ずしもその通りにできるとは限らない,しかし,お手本があると自分なりに行動しながら,身につけていくための方向性がわかる。

 看護管理者は人のポジティブ評価が不得手な人が多い。超まじめな看護管理者はそれだけ他者への要求も高くなるからだ。「人のマネジメントとは,各人の強みを発揮させること」であるならば,スタッフ一人一人が持っている強み(長所)を見出す力は,看護管理者が持つべき必須の能力かもしれない。それは管理者にとっても心地よいものであり,そのプロセスこそがスタッフとの結びつきを強くすることになる。著者は自分もそのように育てられてきたので,「人の多様性,つまり個性や持ち味を尊重する教育やキャリア育成を大事にしてきた」とある。人は育てられたように人を育てるものなのだ。そして「出会いで人は自分を発見し,成長し,変わっていく」ものであり,たった一度きりの人生だから,出会いを大切にしなさいと著者は語りかけてくる。時には場所を変え新しい自分に出会うことも大切だ。そのようにスタッフに言える看護管理者は素敵だ。

 言うまでもなく医療はチームで行うものであり,チームメンバーの協働が医療の質を決めることにもなる。協働のベースになるのは,チームメンバーが「共通言語」をつくることであり,ある表現(ことば)を,「共通認識」することと著者は説く。そしてそれはチームメンバーが価値観を共有することなのだと読者は気付いていく。病院にはさまざまなマニュアルやガイドラインが必要であるが,チームメンバーでそれらをまとめるプロセスの中で,お互いに表現の意味を確認し共有していくことなのだ。それは,組織文化をつくるプロセスでもある。

 考えてみれば看護は,患者一人一人に対するものであり,それは私たちにとっては当たり前のことである。ケアすることと,人を育てることは同じことなのだ。そしてそれは管理者である自分自身を育てることでもある。

 著者は最後に,リーダーとは「新しい価値を見出せる人」であることを強調している。これまでやってきたことが状況の変化で必ずしも今,有効であるとは限らない。看護管理者は,常に俯瞰する姿勢を持ち,新しいことに挑戦する勇気を持ちたいものだ。

 「一時たりとも人に支配されない人生を送る」という著者の哲学に基づいた生き方が,全編を通して読む人に素直に伝わってくる。患者と同様にスタッフにも真摯に向き合う著者の姿勢がそうさせるのだ。

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