臨床心臓構造学
不整脈診療に役立つ心臓解剖

もっと見る

豊富な剖検例の考察をもとに、EPS、造影写真、CT、CARTOなどのデータと比較しながら、不整脈の局在を心臓の3次元イメージから明らかにしていく。心臓の発生や正常像を抑えた上で、不整脈の局在となる部位別に症例をあげて解説。カテーテル・アブレーションなど不整脈の非薬物療法において、心臓の構造的な特性から何に注意して手技を進めればよいのかが一目で分かり、明日の治療戦略にいかせる。
井川 修
発行 2011年03月判型:B5頁:184
ISBN 978-4-260-01121-1
定価 13,200円 (本体12,000円+税)

お近くの取り扱い書店を探す

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。

  • 序文
  • 目次
  • 書評

開く

推薦の序(野上昭彦)/(井川 修)

推薦の序
 この本は,不整脈の診療・研究に携わる者が渇望していたまさに画期的な書である。著者の井川修博士が名づけた『臨床心臓構造学』という概念は,古代ギリシャに始まる長い歴史を有する解剖学と,最先端の臨床不整脈学を結びつける大きな役割を果たしたと言える。このように不整脈の機序やカテーテルアブレーション治療の方法を様々な角度からの解剖所見と比較して論じた本格的な著書は世界で初めてで,これは井川修博士の不整脈専門医としての長年の臨床経験と基礎医学者としての心臓解剖学・病理学の研鑽があってこそ可能となったことであろう。今まで私は不整脈治療における参考書として,Anderson and Beckerの『心臓解剖学カラーアトラス』(絶版)を座右の書としてきた。この著書も臨床医にとって,まさに目から鱗が落ちるような記述が満載の名著であるが,残念ながらカテーテルアブレーション治療が出現する以前に書かれたテキストであり,もう一歩のところに隔靴掻痒の感があった。それに対して本書は綺麗な解剖組織カラー写真とともに,3次元CT像やカテーテル電極を含んだ透視像,さらには心内心電図までもが併記されており,これは刮目に値する。
 本文は,「I.心臓構造の理解に必要な発生学」に関する記述から始まる。この臨床心臓発生学に関する章は,複雑心奇形を扱う医師以外にはあまり必要ではないと考えられる方もいるかもしれないが,それは大きな間違いである。なぜ不整脈が起きたのか,なぜこの部位をアブレーションすると不整脈が治るのか,などを考える時に完成された心臓のみを見ていたのではわからないことが多すぎる。不整脈発生の機序は心臓の発生と密接な関連があるのである。
 「II.部位別に見た心臓構造の特殊性と不整脈の関連」の章に進むと,不整脈治療における解決のヒントが満載である。ここでは,今まで個々の不整脈医が育んできたカテーテルアブレーションのテクニックやコツの理由までもが,明確に解き明かされている。また,今まで私が知らないで過ごしていた事実も多く記載されており,明日からのカテーテルアブレーション施行に身の引き締まる思いを感じた。また各論ではカテーテルアブレーションのみならず,心臓デバイス植込みのコツや注意点にまで言及されている。
 専門外の者にとって異分野の用語は難解である。臨床医にとっても基礎解剖学の用語は医学部での系統解剖学で学んだ以来の言語であり,日常使っている臨床での「解剖用語」には誤用や誤解も多い。そのような用語の解説から始まり,難解な解剖所見を読者が理解できるように説明するには大変な労力を要したと思われる。この本を読むと,今まで知っていると自惚れていたことが整理され理解が深まることはもちろん,新たな不整脈治療や研究のアイデアまでもが浮かんでくる。その意味でこの本は,不整脈専門医・アブレーショニストにとって必携の書であると推薦できる。

 平成23年2月
 横浜労災病院不整脈科 野上昭彦



 「循環器病学・不整脈学を理解するための臨床心臓解剖学(臨床心臓構造学)」の研究を始めてから,はや23年が過ぎ去ってしまった。あっという間である。
 この研究は,臨床不整脈にかかわり始めた駆け出しの頃,2次元透視像の中のカテーテル位置を3次元構造の中へ厳密にイメージしたいとの思いから始めた「勉強」である。どこにも教科書はなかった。自分の力だけが頼りである。心臓の解剖を臨床データと対比させながら厳密に見る努力を続けること約10年,折しもカテーテルアブレーション治療が登場し,心臓および周辺領域の解剖の重要性が叫ばれる時代となっていた。心臓構造を3次元的に理解することの重要性が叫ばれると同時に,基礎医学と臨床医学を結び付ける学問の重要性も強調され始め,この「心臓の構造を研究する領域」が一つの学問分野として認知されるに至ったのである。23年前,全く周囲を気にすることなく,ただただ,自分自身を納得させようと始めた「勉強」が,非薬物療法の発達という時代背景の中で,一つの「学問」分野となっていった。
 私は認知された領域,つまり「臨床を実践している医師の目から見た臨床心臓解剖学」を,臨床循環学と基礎心臓解剖学を結びつける学問として「臨床心臓構造学 Clinical cardiac structurology 」と名づけ体系化する努力を続けてきた。
 この研究手法は,これといって最新機器を用いたものでもなければ,華麗な特殊テクニックを駆使したものでもない。ただ,臨床の場で湧きあがった問題点・疑問点を剖検心に投影し,心臓構造を見ながらひたすら考える。考えに考えて問題点を解決していく,そんな単純作業なのである。華やかな色合いは何もない,泥臭く,根気の要る作業である。日中の臨床業務を終え,夜もふけてからその作業に取り掛かる。作業は深夜にまでおよび,ときに朝まで続く。こんな時間を長年,すごしてきたのである。(よく辛くないのかと尋ねられるのであるが,心臓に触れているこの深夜の時間は,辛いどころか,すべてを忘れて没頭できる至福の時である。今でも,この生活は続いている。)
 気がつけば,認知されてからもさらに10年が経過し,既に,20年以上が過ぎ去ってしまった。
 確かに,不整脈領域は新しい治療法・検査法が登場し劇的な進歩を続けている。しかしながら,その華やかな時代の中で,どこかに我々が置き忘れてきたものがあるように思えてならない。臨床医学と基礎医学を結びつけて正確にものを見ようとする学問が今こそ,必要ではないだろうか? とりわけ,臨床を実践する循環器医の目で基礎医学(心臓解剖)を分析する学問体系が,この時代であるからこそ求められているのではないだろうか。
 研究開始後20数年が経過したとは言え,臨床に携わりながら心臓解剖を見ていると日々,新しい発見がある。「20数年経ってもまだ,きわめなければならないところが多い。」それ程に心臓構造は神秘的なものである。「臨床心臓構造学」という新しい学問体系構築への道のりは,まだ,道半ばである。半ばどころか4分の1のレベルに到達したに過ぎない。「これまでは序曲,おもしろいところはこれから!」という思いである。
 ここに「臨床心臓構造学」としてこれまでの研究の一部をご紹介できる喜びをしみじみと感じている。本書が読者の心臓構造への理解に少しでも役立つことを期待してやまない。
 20数年という長きにわたりこの臨床研究を遂行することができ,それを継続することが可能となっているのは,決して私一人の力ではなく,支えていただいている多くの方々のご協力のお蔭と信じている。とりわけ,以下にご紹介させていただく一人の研究協力者(足立正光先生)と三人の恩師(井上貴央先生,久留一郎先生,新 博次先生)の存在は大きく,そのご恩は言葉に言い尽くせない程である。
 この「臨床心臓構造学」を仕上げるにあたり,さまざまな資料作成を献身的にお手伝いいただいたのが,足立正光講師(鳥取大学医学部附属病院循環器内科)である。先生は,この臨床研究開始当初より常に,私と行動を共にしながら,データを集め,データのあり方を議論し,学問を練り上げてきた「ただ一人の共同研究者・ただ一人の同志」である。先生と施設を異にするようになった今でも,臨床心臓解剖・病理を根っから愛してやまないものどうしの定期的なカンファレンスは続いている。
 私が恩師と仰ぐ井上貴央教授(鳥取大学医学部医学科機能形態統御学講座・形態解析学分野)には,この臨床研究の重要性を早い段階よりご理解いただき,積極的に援助していただいた。先生には研究的側面ばかりでなく精神的側面も含め,さまざまな場面で適切なご指導を賜ったが,その心臓解剖に向かう姿勢はきわめて厳格であり,その考え方は今も私の研究姿勢に脈々といきづいている。先生の存在なくしては,この研究の現在はなく,また,その継続もなかったと考えている。
 また,久留一郎教授(鳥取大学大学院機能再生医科学専攻再生医療学講座)は,研究遂行にあたりいつも貴重なご意見をいただいた。常にcreativeにものごとに挑むその姿勢は尊敬に値し,先生の生き方から多くのものを学ばせていただいた。その思想は,少なからず私の現在のものの見方に影響を与えている。
 もう一人の恩師,新 博次教授(日本医科大学多摩永山病院病院長)は,私の現在の上司である。平成22年10月1日,先生のもとへ赴任させていただいたが,同じ臨床不整脈領域をご専門とされる先生のご理解とご配慮で,快適な臨床研究環境をいただきこれまでと同様の研究継続が可能となっている。よき上司のもと,日々,見守られこれまでにない心の安らぎをいただいている。
 先生方より賜ったご支援に対し,謹んで感謝の意を表するところである。

 平成23年1月12日
 井川 修

開く

 写真中の略語一覧
 Introduction
  A.臨床心臓構造学とは?
  B.臨床心臓構造学とカテーテルアブレーション
  C.構造分析法-心臓の3次元イメージ

I.心臓構造の理解に必要な発生学
 総論
 1.どのように心臓の発生を心臓構造と結びつけるか?
 2.心臓の発生過程から見た心臓構造完成までの基本的な考え方
  A.心臓の基本構造
  B.2つの変形
 各論
 1.「完成した心臓」の基本構造から見た心臓の発生
  A.胎生期静脈系と静脈洞
  B.静脈洞右角と原始心房
  C.心房の左右分割と左房
  D.下大静脈と右房峡部
  E.房室管の分割
  F.(原始)心室と心球(円錐部)の「左右分割」
  G.大動脈弁と肺動脈弁の形成
  H.房室弁の形成

II.部位別に見た心臓構造の特殊性と不整脈の関連
 1.下大静脈-三尖弁輪間峡部構造の特殊性
  A.Subeustachian pouch(SEP)
  B.SEPとCTI領域の電位について
  C.CTI領域の構造と頻拍中の興奮伝導様式
  D.小心静脈
  E.Sinusoid様管腔
 2.右心耳構造の特殊性
  A.右心耳の解剖学的定義
  B.右心耳ポケット
  C.選択的右心耳造影における“Twin dome structure”
  D.右心耳ポケットと洞房結節の関係
  E.構造から想定されるRRAポケット内カテーテル挿入時の電位所見とリスク
  F.認識の修正が必要な右心耳構造
 3.三尖弁中隔尖の弁下構造の特殊性
  A.房室弁の構造
  B.三尖弁弁尖の構造
  C.三尖弁中隔尖と膜性中隔
 4.右室流出路-肺動脈幹基部接合部の解剖
  A.流出路-大血管接合部の解剖の特殊性
  B.右室流出路-肺動脈幹基部接合部の解剖
 5.左心耳と左上・下肺静脈および左側分界稜の関係
  A.左房左側の様相
  B.左側分界稜
  C.左心耳基部について
  D.左心耳基部前方起源の心房頻拍
 6.左房天井の特殊性(左房天蓋静脈とは)
  A.どの部位を左房前壁-天井境界部とすべきか?
  B.どの部位を左房後壁-天井境界部とすべきか?
  C.臨床に即した左房天井の定義とは?
  D.左房天井に接する構造物
  E.左房天井に対するカテーテルアブレーションの注意点
 7.僧帽弁構造の特殊性
  A.左室自由壁基部の構造とアブレーション
  B.僧帽弁の基本構造
  C.構造から見たカテーテルアブレーション
 8.大動脈弁直下構造の特殊性(左心側からイメージする刺激伝導系)
  A.ヒス束アブレーションによる完全房室ブロック作製
  B.房室接合部の構造と右心側の刺激伝導系
  C.大動脈弁直下の構造と左心側の刺激伝導系
  D.ヒス束アブレーション前のカテーテルポジション
  E.構造から見た至適アブレーション部位
 9.心房(間)中隔の解剖~心房(間)中隔穿刺法(ブロッケンブロー法)
  A.心臓の中隔とは?
  B.1次および2次心房中隔
  C.心房(間)中隔の定義と想定される電気生理学的特性
  D.房房間伝導と心房(間)中隔の解剖
  E.卵円窩の大きさと緊張度
  F.2次心房中隔-大静脈洞境界部の様相について
  G.心房(間)中隔最下端のレベル
  H.左房から見た心房(間)中隔
 10.房室中隔とは?
  A.房室中隔
  B.心房(間)および心室(間)中隔から房室中隔への構造的連続性
  C.房室中隔と膜性中隔
  D.房室中隔と房室結節
  E.房室中隔と房室弁尖
  F.房室中隔と大動脈洞(無冠状動脈洞)および膜性中隔
  G.房室中隔とPyramidal space
  H.房室中隔を走行する房室結節動脈
  I.房室中隔の電気生理学
  J.房室中隔におけるカテーテルアブレーション
 11.右室流出路中隔および周辺構造について
  A.右室流入路・流出路について
  B.右室内腔鋳型のイメージ
 12.心臓静脈系の解剖~心室再同期療法
  A.構造から見た心臓循環と他臓器循環の相違
  B.心臓の静脈系構造の考え方
  C.冠状静脈洞
  D.静脈系と右房胎生期静脈洞
  E.静脈洞という用語の混乱
  F.Chiari網
  G.Duplication of the coronary sinus
  H.冠状静脈洞閉鎖
  I.静脈洞瘤・憩室
  J.小心(臓)静脈
  K.左心房斜静脈〔別名,Marshall静脈〕

 索引

開く

心臓構造学の習得に大いに役に立つ名著
書評者: 平尾 見三 (東京医歯大病院不整脈センター長)
 待望の本が出版された。井川教授の心臓解剖の講演会が開かれると,まず満席になり講演後の質疑応答も活発で時間が足りなくなる。それだけ人気がある。書評子も例外ではなく,臨床的見地から入って精緻〈せいち〉を極めた心臓解剖学へ導く井川講演のファンの一人で,この本の登場を心待ちにしていた。多くの解剖図と解説文,それらを体系的に構築・解析する独自のシェーマが加えられて,このたび『臨床心臓構造学』という珍しいタイトル名の本書が上梓された。

 目次を俯瞰すると通常の解剖学の教科書でないことがわかる。これまでの解剖書があくまでも解剖専門家の視点で書かれたことを思うと,不整脈臨床家としての視点で本書が書かれていることが斬新であり,嬉しい驚きでもある。不整脈が先にあり,それに関連した解剖学が展開される構成で,これは臨床医にとって大変ありがたい。それぞれの項目を開くと,解剖学の本であるにもかかわらず,心腔内電位図や心臓の3Dmapping像・X線造影写真・透視像がふんだんに取り入れられ,それに関連したマクロ解剖図が示される。この解剖図が素晴らしい。われわれが見たい,知りたいと思うものに回答すべく心臓に割が入れられ,ある時は裏から光を当てた鮮明な写真が掲載されている。推察するに,著者は自分が日常不整脈診療において抱いた心臓解剖・構造上の疑問について,多くの病理解剖を積み重ねながら明晰〈めいせき〉な洞察力をもって一つ一つ粘り強く,かつ徹底的に研究を継続されたのだと思われる。本書はまさにそれらの集大成である。

 1990年初頭より本邦に導入されたカテーテルアブレーションは,症例数が漸増して今や3万人を超えている。特に,日本にも約70万人以上存在するといわれる心房細動に対する肺静脈隔離術の有効性が知られて以来,この数年間はその実施件数が年間30%以上伸びている。それに伴い,アブレーション手技に不可欠な心臓画像の技術革新は目覚ましい。いまでは数十秒で心腔内の3D像が得られ,また先に撮影しておいた心臓CT像上に心臓各部位の電位高,伝導様式などが可視化できる。非常に有用な診断支援装置が使える時代になった。しかし,マッピングにより得られる心臓構造情報は解像度,大きなゆがみなどの補正などにやはり限界がある。症例ごとに足りない部分は補い,また修正を要することもでてくる。その作業においては臨床医の知識・経験・臨床センスが問われるが,その意味で本書は心臓構造学の習得に大いに役に立つ名著であると確信している。自分自身,手元において日々のアブレーション診療の道しるべとしたい。

 不整脈診療にかかわる医師のみならず,循環器疾患診療に携わるすべての医療関係者,臨床心臓解剖学を学ぶ医学生にも自信を持ってお薦めできる一冊である。
不整脈学の基礎と臨床の懸け橋となる一冊
書評者: 副島 京子 (川崎市立多摩病院・循環器科/聖マリアンナ医大講師)
 規則正しく一日10万回も拍動し効率的に循環をつかさどる心臓は,勉強すればするほど奥の深い臓器です。その発生,解剖,不整脈の機序などを学ぶほどに興味と愛情が増し,自分が循環器医であることに喜びを感じます。井川修先生による『臨床心臓構造学』は,先生が長年培ってこられた心臓への愛情,不整脈への愛情,そして患者さんへの愛情の集大成だと思います。先生の持っている構造学,不整脈学への情熱がひしひしと伝わってきます。

 今まで,ほとんどの不整脈を専門とする医師はAnderson/Becker,Netterなどの解剖学者による教科書を参考にしていたと思いますが,本の知識を臨床へ応用するのは個々の読者にゆだねられていました。つまり,内容を理解して応用できるかは読者の力量次第だったと思います。

 この本では井川先生が基礎と臨床の懸け橋となり,臨床医にも非常にわかりやすく,即時に臨床応用できるような解説がされています。不整脈のカテーテル治療を専門とうたう医師は世界中に多いのですが,井川先生ほど,心臓の解剖から機序,治療のためのテクニックを知り尽くした上で,わかりやすく解説できる医師はいないでしょう。

 総論で先生が,“循環器疾患を考える場合,「心臓構造・解剖」の窓を通してそれを見ると,「成因・病態・治療」について新しい方向からその内容を考えることができる。「心臓構造・解剖」への理解は,「心臓形態の形成過程」をたどることでさらに深まるが,可能であればその作業を3次元的に行うと,「完成した心臓構造・解剖」への認識がさらに踏み込んだものとなる”と,述べておられるとおりだと思います。漁で大海を航海するのには地図がとても重要です。さらに漁を効率よくするためには,高性能の魚群探知機が必要でしょう。この本はまさに”最新フル装備を備えた船“のようなものです。不整脈の機序の理解,カテーテル操作の工夫,合併症予防のための注意点など,臨床医が知らなくてはならないことが満載されています。

 これから不整脈を学ぶ医師,不整脈治療を既に行っているすべての臨床医がこの素晴らしい本から学ぶものは数えきれず,不整脈医必携の本であると思います。そして,今後のさらなる不整脈治療の発展の大きなきっかけになると確信しています。日本だけにとどまらず,今後ぜひ英訳され,海外の医師にも役立つような本になることを祈念します。
初心者のみならず,不整脈専門医にとっても役立つ書
書評者: 熊谷 浩一郎 (福岡山王病院ハートリズムセンター長)
 ついに待望の書がでた! 以前から不整脈専門医はこのような教科書を待ち望んでいた。不整脈診療を行うには,電気生理学的な知識のみならず,心臓の解剖を理解することが必要である。今までも基礎医学者が書いた解剖学の教科書や心内心電図ばかりの臨床電気生理学の教科書はあったが,両者を関連づけた教科書は皆無であった。井川修博士は元来臨床不整脈専門医であるが,独学で解剖学を勉強し,基礎解剖学と臨床不整脈学を結び付けた「臨床心臓構造学」という新たな学問を提唱した。そして長年の研究成果の一部をこの一冊にまとめた。

 カテーテルアブレーションやデバイス治療を行う場合,二次元透視下に心腔内の三次元構造をイメージしながらカテーテルを操作しなければならない。カテーテルアブレーションが登場したころ,われわれの世代はまず剖検心や動物心で房室結節を触ったり,解剖学的に重要な部位にマーカーとして金属を装着して透視で見ながらどう見えるかイメージしたり,実際アブレーションした後,焼灼部位を観察した。しかし,当時きちんと説明した教科書はなく,かなり曖昧な理解であったように思う。本書は解剖組織のカラー写真とカテーテルの透視像,心内電位を対比して説明してくれているので非常にわかりやすい。最近の若い医師の中には,解剖の勉強をせずにカテーテル手技ばかり習得したがるものが多いが,カテーテルを握る前にまず本書を読むことを勧めたい。解剖を知らずにアブレーションを行うことは,地図を見ずに知らない土地に行くようなものである。また,合併症を起こさないためにも,心臓の構造を正しく理解することは極めて重要である。

 この本では,心臓の解剖のみならず,発生学から説明してくれている。これは不整脈のメカニズムを考える上で意味がある。筋肉の塊である心臓がしなやかに動くのはまことに不思議で神秘的である。その昔,田原淳博士はこの筋肉の塊の中に“刺激伝導系”を発見した。この発見なくして,心電学・臨床電気生理学もアブレーションも存在し得なかった。剖検心を手に持ち,地道にひたすら根気のいる作業を深夜まで行いながら,研究成果を集大成した著者の姿は,田原淳博士に重なるものがある。まさに井川修博士は平成の田原淳博士といえよう。

 私は本書を読んで,今までいかに知ったかぶりをしていたか,間違った理解のままアブレーションをしていたのかを思い知らされた。この本は,今からカテーテルアブレーションを始める初心者のみならず,不整脈専門医にとっても役立つ書である。本書は不整脈専門医の聖書の一つになるに違いない。

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。