頭蓋顎顔面外科
術式選択とその実際

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本書は1つの症例を提示して術式選択の方法論を述べ、併せて頭蓋顎顔面骨の機能解剖、診断と治療、顎運動と咬合の管理、エヤートームやノミの使い方など頭蓋顎顔面外科の基本的知識と技術を懇切丁寧に解説している。それぞれの症例に対して常に創意工夫を怠らず、「最新の症例に最善の結果」を求めて臨床に関わってきた著者が頭蓋顎顔面外科を学ぶすべての臨床医に贈る、40年にわたる集大成の書。
上石 弘
発行 2008年10月判型:A4頁:208
ISBN 978-4-260-00602-6
定価 19,800円 (本体18,000円+税)

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推薦のことば(塩谷信幸)/(上石 弘)

推薦のことば
 上石先生が頭蓋顎顔面外科のテキストを書かれた.内容は先天異常,発育異常,外傷,腫瘍,美容外科と5部門からなり,クラニオフェイシャルサージャリーから唇裂口蓋裂まで,およそ頭蓋顎顔面すべてをカバーした大著である.

 上石先生は当代随一の形成外科医であり,こと頭蓋顎顔面外科に関しては彼の右に出るものはいないと僕は信じている.
 彼は歯科と医科のダブルライセンスの持ち主であるが,かつてアメリカで最初の形成外科学会(アソシエーションと呼ばれる)ができたとき,歯科と医科のダブルライセンスの所持が必要条件とされた.それほど形成外科では,歯科の知識と技術が重要視された.その後情勢が変わり,この伝統の維持は不可能になったが,ダブルライセンス保持者の優位さには変わりはない.
 そして彼の学問と診療,手術に対する執念には並々ならぬものがあり,天性の器用さも兼ね備えている.彼との長い付き合いの中で,僕はどれほど彼から多くのことを学んだことだろう.
 上石先生がレジデントとして横浜市立大学形成外科に来られて間もなくの頃,ローテーション先の神奈川県立こども病院の形成外科部長だった前田華郎先生に僕はこう言われた.
 “すごいですよ,今度の上石君は.傷跡がキレイに治るんですよ,唇裂でも何でも”
 “でもそれは形成外科なら当たり前じゃない?”
 “いやそのキレイさがぜんぜん違うんですよ”
 大学に戻って改めて彼の手術に立ち会うと前田先生の言うとおりであった.
そしてレジデントのうちから唇裂・口蓋裂外来を任され,チーフを終える頃にはその頃台頭し始めていたクラニオフェイシャルサージャリーに取り組み始めていた.当時並行して誕生したマイクロサージャリーも,彼にとっては苦もない操作であった.神奈川県下での最初の切断指の再接着は彼の手で行われた.

 “形成外科とは美と血流との相克である”,と先達ミラードは喝破した.形を整えるためには,ぎりぎりまで血流に切り込まねばならぬ.やりすぎれば皮膚壊死を起こすが,遠慮しすぎると形がもたつく.同様のことは顎顔面の骨切り術にもいえる.やりすぎたときの骨壊死の被害は,皮膚壊死の場合より遥かに深刻である.その意味で形成手術は,絶対に足を踏み外せぬ“綱渡り”といえる.
 なにによらず軸となる基本方針は重要である.だが,形成外科の手術は一例一例がすべて応用問題であり,マニュアル人間では務まらない.このテキストで彼が症例ごとの説明の展開にこだわるのは,原則をいかに現実に合わせるかのコツを示したいからであろう.
 その意味で,本書は形成外科に携わるものの必読の書と言っても過言ではない.

 2008年7月
 北里大学名誉教授
 NPO法人アンチエイジングネットワーク理事長
 AACクリニック銀座名誉院長
 塩谷信幸



 頭蓋顎顔面外科に着手して40年,筆者は1つの症例に対し常に創意工夫を怠らず「最新の症例に最善の結果」を求めて臨床に携わってきた.
 筆者は歯学部教育を受けて口腔外科の知識を習得し,さらに医学部教育を受けて外科,脳神経外科,耳鼻咽喉科,眼科を学んで形成外科を専攻する中で,歯科と医科を包括した視点から術式の選択を行ってきた.その間に貴重な症例を経験し,斯界の優れた先達から多くの知識や技術を受け継ぎながら,筆者自身の見識を培ってきたと言ってよい.
 本書では,1つの症例を通じて術式選択の実際をわかりやすくプレゼンテーションすることに主眼を置いてまとめてみた.併せて頭蓋顎顔面骨の機能解剖,診断と治療の基礎的知識,顎運動と咬合の管理,エアートームやノミの使い方など,頭蓋顎顔面外科の基本的知識と技術についても解説している.
 疾患の如何にかかわらず,病態生理に基づいた診断が治療の原点である.加えて術式の選択が治療成績の要因であることは外科の通念で,頭蓋顎顔面外科の臨床にあっても例外ではない.1つの症例に対してその病態生理を把握したうえで最良の治療結果を想定し,その結果を得るための術式選択はいかにあるべきか,その思考過程が重要である.
 端的に言えば,どこがどうおかしいのかを明らかにし,どうなればよいのかを想定し,どうしたらそうなるか術式を考えることになる.そのうえで発育や長期的結果なども視野に入れながら,患者の身体的条件,医師側の諸条件,社会的要因,手術侵襲や安全面などの利害・得失などを考えに入れて術式が選択されるのである.頭蓋顎顔面外科領域には臨床各科が近接しており,治療に当たっては各科とコンセンサスを共有する術式の選択も求められている.
 また,常に新しい術式を生む発想も必要であり,近視眼的選択やマンネリは避けなければならない.術式選択の偏りを避けるためにはradical,moderate,conservativeの3つの術式を想定し,その利害・得失を踏まえて,患者にとって最適の術式とは何かを検討することも必要である.筆者はそのために日を改めて繰り返し検討する手順を踏んできた.そして,先達や同僚の言には常に聞き耳を立ててきたとも言ってよく,その教えは本書に引き継いで,コラムの形で随所に掲載させていただいた.本書の内容が頭蓋顎顔面外科を学ぶ臨床医に引き継がれ,術式選択の一助となって役立つならば望外の喜びである.

 序文の末尾ではありますが,横浜市立大学,北里大学時代を通じてご指導をいただいた恩師の塩谷信幸先生と同門の諸先生,日本形成外科学会名誉会員の荻野洋一先生,塚田貞夫先生,札幌医科大学口腔外科の恩師,故佐々木元賢先生並びに同門の諸先生,国際的にご指導いただいた藤野豊美先生,清水正嗣先生,母校の日本歯科大学口腔外科の故宇賀春雄先生と同門の諸先生に深甚の謝意を表します.また,ともに臨床に携わり協力してくれました近畿大学形成外科の磯貝典孝先生と医局の諸先生各位に心より感謝の意を表します.
 刊行にあたっては,卓越した企画の労を賜りながら発刊を待たずしてご他界された医学書院の故川崎哲二氏,その後の編集作業を引き継いでご尽力を賜った医学書籍編集部の渡辺一氏,制作部の田邊祐子氏の労に心より感謝いたします.

 2008年7月
 上石 弘

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総論

第1章 先天異常
I 頭蓋狭窄症─短頭
II 頭蓋狭窄症─舟状頭
III 眼窩隔離症
IV 眼窩隔離症(重症例)
V 口唇裂口蓋裂による顎変形
VI 口唇裂口蓋裂による顎変形と不正咬合

第2章 発育異常
I 筋疾患による顎顔面変形
II 小下顎症
III Klippel-Weber症候群
IV 線維性形成異常

第3章 外傷
I 下顎骨折
II 鼻骨骨折
III 上顎骨折─Le Fort I型骨折
IV 上顎骨折─歯槽骨骨折
V 上顎骨折─Le Fort III型骨折
VI 頬骨骨折
VII ブローアウト骨折
VIII 前頭蓋底骨折①
IX 前頭蓋底骨折②
X 陳旧性顔面骨折

第4章 腫瘍
I 眼窩腫瘍
II 化骨性線維腫

第5章 美容外科
I ガミースマイル
II 下顎前突症
III 咬筋肥大症
IV 頬骨突出
V 眼球突出症
VI 上下顎前突症

文献
索引

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頭蓋顎顔面外科のバイブル
書評者: 鳥飼 勝行 (横浜市立大教授・形成外科学)
 本書は,日本におけるCraniofacial Surgeryのパイオニアであり,口蓋形成術の上石法で知られる著者による頭蓋顎顔面外科のテキストである。本書の構成は「先天異常」「発育異常」「外傷」「腫瘍」「美容外科」の5章から成る。本書では,医師と歯科医師のダブルライセンスをもつ著者の秘伝を含めた,頭蓋顎顔面外科の全範囲を,かゆいところに手が届く丁寧さと,著者独特の明快かつシャープな講義をもって学ぶことができる。

 著者は横浜市立大学および北里大学を通じての私の師であり,長年にわたり暖かいご指導を頂いてきた。よく学会発表の結びなどで「今後さらに研究を重ねて…」とか「今後の研究が待たれるところである…」などのフレーズを耳にすることがあるが,そんなときに著者はよく「そんなことはこの場で聞きたくないよ」とおっしゃっていた。妥協を許さず,その場その場で最高の結果を出すよう全力を尽くされる著者らしいお言葉である。

 本書では,著者が妥協を許さず,出し惜しみせず,限られたスペースの中で頭蓋顎顔面外科の全範囲にわたり講義してくれている。初学者が知っておくべき基本から,口伝として今までなかなか活字にならなかった手術のコツまで本書で学ぶことができる。例えば本書のコラムにある,「形成外科にはレーゲル(決まり)がない-頭蓋顎顔面外科ではアイデアが重要」や,「仕事は段取り八分,見て覚えるもの」「松竹梅-術式は3つの選択肢から選べ」などは,この部分を読んでいるだけでも面白い。私にとっては著者の教えが凝縮しよみがえってくるが,読者の方々にとっても,本書を通読した後にもう一度コラムを読んでみるとさらに味わい深くなるのではないかと思う。

 本書はまさに,これから頭蓋顎顔面外科を学ぼうとする者,また既に実践している専門医らにとって必携のバイブルといえる。
頭蓋顎顔面外科を志す形成外科医に最適な書
書評者: 川上 重彦 (金沢医大教授・形成外科学)
 本書の著者である上石弘先生は長年近畿大学形成外科教授としてご活躍され,2006年にご退職された後はNPO法人クラニオフェイシャルセンターを立ち上げ,その理事長として頭蓋顎顔面外科を志す後進の指導に精力を傾けておられている。著者は日本における頭蓋顎顔面外科領域の草分け的存在であり,私も著者からご指導を受けた一人である。

 二十数年前,私は著者が北里大学におられたときに開催された上・下顎骨切り術のワークショップに参加し,その手術を見せていただいた。さらにその数年後,私は本学で行われた著者による斜頭症の手術の助手を務めさせていただき,その知識,技術を肌で感じさせていただいた。それ以降,私も頭蓋顎顔面外科への道を歩み始めたと言っても過言ではない。また,著者は医科と歯科のダブルライセンスをお持ちで,その修練をされているが,私はさまざまな機会において,頭蓋顎顔面外科における歯科的知識の重要性,さらにその技法を著者から教えられてきた。

 さて,本書は「総論」から始まり,「先天異常」「発育異常」「外傷」「腫瘍」「美容外科」の5章から構成されている。それぞれの項目は疾患別に記載され,一つ一つの疾患ごとにまずその病態と生理が解説され,次に症例を呈示して,その症例に対する術式の選択と予想される結果が述べられている。そして,実際に行った手術とその術後結果および評価が呈示され,その術式を選択するに至ったポイントが解説されている。また,術式選択や治療の際に求められる知識,留意点などが,最後に“解説”として記載されている。

 本書は要点が非常に簡潔に記載されているのが特徴であり,頭蓋顎顔面外科領域の疾患解説書として本書を読むと,逆に物足りなさを感じるかもしれない。しかし,本書は頭蓋顎顔面外科疾患を実際に治療するための実践書である。したがって対象となる読者は,頭蓋顎顔面外科領域の知識を全く持ち合わせていない形成外科医ではなく,少なくとも専門医資格を取得し,本領域の疾患や手術法について一通りの知識を持ち合わせている医師となろう。さらに言えば,頭蓋顎顔面外科医を専門としてこれからこの道を進もうと考えている形成外科医にとって最適の書であろう。

 本書には,著者が30年以上の長きにわたって経験されてきた症例と,その結果の蓄積を基に導き出された診療・手術のポイント,さらには“コラム”としてまとめられた著者の格言のような「独り言」などが至る所に散りばめられている。経験のない医師にとっては,これらのフレーズが何を意味しているのかがすぐには理解し難いかもしれないが,経験を積めば積むほど思い当たるフレーズが多くなる書であろう。一読して終えるのではなく,何度も読み返してほしい。その都度,著者が伝えたい意味が新たに見えてくる。

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