医学界新聞

 

EBMと「UpToDate」【後編】

李 啓充(マサチューセッツ総合病院・ハーバード大学医学部助教授)


2451号よりつづく

診療現場の疑問に対し,簡便に信頼できる答えを得られないか

 「UpToDate」の創始者バートン・ローズ博士によると,医師は,外来診療に際し,50-70%の患者で自分が答えを知らない臨床上の疑問を抱くが,抱いた疑問のうち30%にしか答えを得ていないという。また,答えを得た場合でも,その方法は,他の医師に電話などで聞くというものであり,外来診療の場で自分で文献検索をすることは稀であるという。
 「外来診療の場で,目の前の患者の臨床像から抽出された疑問に対し,簡便に信頼できる答えを得ることができないか」と考え続けた挙げ句に思いついたアイディアが「UpToDate」であったと,ローズ博士は言う。

10の内科領域をカバー
4か月ごとに改訂

 「UpToDate」は,1992年に,ローズ博士の専門とするところのNephrologyで最初に作られたが,その後次々と他の内科領域を含むようになり,現在の「UpToDate」はPulmonary and Critical Care,Endocrinology and Diabetes,Cardiovascular Medicine,など,10の内科領域をカバーしたプログラムとなっている(産婦人科,小児科も1年以内に含められる予定になっている)。
 「UpToDate」は「臨床で遭遇する疑問に答える」ことを主眼にプログラムが作られており,想定される5000の臨床上の「トピックス」(疑問)に対し,その「解答」を用意している。「解答」は,各領域から選りすぐった2900人のエキスパートが「UpToDate」のために書き下ろしたものである。また,その名の通り,「UpToDate」の記載は4か月おきに改訂されているが,1回の改訂で全トピックスのうち30%で記載が更新されるという。
 以下,「UpToDate(バージョン9.2)」のプログラムを,「2型糖尿病患者が高血圧を合併しているが,血圧をどこまで下げたらよいか」という疑問に対する答えを探すということを例にして,紹介しよう。
 New Searchの画面に「diabetes」とキーワードの一部を入力すると,Diabetes mellitusをはじめ,21個の検索候補が提示される。この中から「Diabetes mellitus, Type 2」を選ぶと32項目のトピックスが現れる。ここで,検索の絞り込みを行なうために,同一画面に「hypertension」と2次キーワードをタイプすると,8個の検索候補が提示される。この中からHypertensionを選び,絞り込みを行なうと,トピックスは20に絞られ,その一番最初が「Treatment of hypertension in diabetes mellitus」と,そのものずばりの題名となっているので,これを選択する。この間の操作には,わずか数十秒しかかからない。
 このトピックを開くと,著者はNorman M KaplanとBurton D Roseの2人であることが,明示され,最新の改訂は2001年4月25日であったことも書かれている。「UpToDate」では,どのトピックスでも,頁の記載を初めからすべて読むことで,専門外の病気についても教科書的な知識を得ることができるようになっている。

厳選されたevidenceとエキスパートによるrecommendation

 また,頁左方に「目次」のウィンドウがあり,目次の項目をクリックすることで,頁内をジャンプすることもできるようになっている。このトピックの場合,目次は「pathogenesis」「treatment」「recommendations」など,となっている。「pathogenesis」で病因がまとめられ,「treatment」では薬剤別に治療効果に関するevidenceがまとめられている。ここでまとめられたevidenceは執筆者があらかじめ「批判的吟味」を加えた後に厳選したものである。
 「UpToDate」の特徴の1つは,診療室での実用性・読みやすさを損ねないように文献に関する情報が必要最小限に抑えられ,evidenceに等級をつけて比較するなどのようなあまりに詳細に及ぶ文献の批判的吟味は意図的に省略されていることである。本文中の文献番号をクリックすると,新たなウィンドウにMedlineのabstractが表示され,重要なデータについては,グラフなどを表示することも可能になっている。同様に,薬剤情報,関連トピック情報も簡単にクロス・リファレンスができるようになっている。
 「UpToDate」のもう1つの特徴は,「Recommendations」であり,各トピックスについて,執筆者がエキスパートとして具体的な指針をrecommendationするようになっている。その際,evidenceがしっかりしていれば,evidence(文献)が提示され,evidenceがなく,執筆者の「opinion」に基づくrecommendationであれば,その旨が明記される。2型糖尿病における高血圧治療の目標血圧値についても,evidenceの有無をあげながら,(1)心血管系の合併症を防ぐ場合,(2)腎合併症を防ぐ場合,(3)すでに腎障害がある場合,の3状況に応じて具体的な目標値が記載されている。
 ちなみに,昨年4月,「JAMA」誌の「User's Guide to the Medical Literature」のシリーズ(第21篇)(283巻1875頁)が,「55歳女性の2型糖尿病患者が高血圧を合併している。血圧をどこまで下げたらよいか」という疑問に対し,「Best Evidence」「Cochrane Library」「Medline」「UpToDate」の4種類のリソースを使い,解答にたどり着くまでの実際を比較したが,短時間で疑問に答えるevidence(文献)にたどり着くことができたのは,「UpToDate」だけであったとしている。

6学会が推奨,教育病院に普及

 現在,「UpToDate」は米国・ヨーロッパなどで急速に普及しており,特に米国では腎臓病学会,内分泌学会,胸部疾患学会など6学会が,学会認定教育ソフトウェアとして公式に「UpToDate」を推奨している。また,イェール大学病院,ジョンズ・ホプキンス病院,ペンシルバニア大学病院など,施設として「UpToDate」を購入する教育病院も増えている。に,マサチューセッツ総合病院,ブリガム&ウィメンズ病院における「UpToDate」の使用頻度を示したが,昨年6月に導入後,「UpToDate」の使用回数が鰻登りに増え続けていることがおわかりいただけよう。ちなみに,日本でも聖路加国際病院,東海大学病院など,7施設で「UpToDate」を1年間試験使用することが決まっており,今後,日本における普及も急速に進むものと思われる。
 最後になるが,「UpToDate」は,7日間と期限が限られているが,インターネットで試験使用ができるようになっている(無料)。試しに使ってみたいと思われる向きは,「UpToDate」社のホームページ(www.uptodate.com)にアクセスされたい。