医学界新聞

 

〔連載〕How to make

クリニカル・エビデンス

-その仮説をいかに証明するか?-

浦島充佳(東京慈恵会医科大学 薬物治療学研究室)


〔第11回〕高木兼寛「脚気病栄養説」(11)

2444号よりつづく

臨床研究を推進するためのリーダーシップ論

 リーダーとは,組織メンバーに対して大目的を提示し,その方向性に向かう決断を下して結果を出していく者のことです。臨床研究の主任研究員は共同研究者に対してリーダーシップを発揮していかなくてはなりません。
 ビジネスの世界では古くからリーダーシップ論が繰り広げられてきました。下図は,ハーバード大学経営学,マーク・ロバーツ教授が講義の際,黒板に書いたものです。
 まずリーダーシップを発揮しなくてはならない状況設定を4つに分けます。皆がその人をよく知っている場合,知らない場合,プロジェクトが大きい場合,小さい場合です。

「コーチ」であるべし

 「皆がそのリーダーのことをよく知っていて,プロジェクトが小さい時には,『コーチ』であれ」
 臨床研究を推進する上でさまざまな問題が発生します。これに対してリーダーは適切なアドバイスを与え続けなくてはなりません。現場スタッフらは,伝統的な管理型上司ではなくコーチ型上司を必要としています。また,臨床研究の開始直後においては研究員のポテンシャルも高いのですが,時間が経つにつれて徐々に低下していきます。ですから,リーダーは現場に行き,時々ネジを巻き直さなくてはなりません。

「グループ・セラピスト」であるべし

 「皆がリーダーを知らない時には,『グループ・セラピスト』であれ」
 リーダーは「何をするべきか」を知っていても解答を自らしゃべってはいけません。あくまで皆に結論を出させるのです。リーダーは,皆が軌道を大きくはずれさえしなければ,だまってみています。これがグループ・セラピストの意味です。その代わり,リーダーはその場にいるだけで黙っていても存在感がなくてはいけません。リーダーの目的はスタッフの意思を統一し,新しいプロジェクトに向かわせることですから,必ずしもリーダーが手取り足取りする必要はないのです。

「予言者」であるべし

 「皆がリーダーを知っていても,プロジェクトが大きい場合には『予言者』であれ」
 大きな企業のリーダーシップをとるには,時代を先取りできなくてはなりません。ただの物知りや,言われたことをきちんとやれるだけでは大きな団体のリーダーにはなれません。兼寛は脚気病が栄養の問題に起因することを予言しました。これに対して海軍内部で多くの賛同を得,皆がこの一大臨床実験にしたがったのです。特に医療施設のようなインテリ・プロ集団を牽引するには,皆をうならせるだけの洞察力が必要です。

「詩人」であるべし

 「リーダーのことを皆が知らない時,そのリーダーが大きなプロジェクトをこなすためには『詩人』であれ」
 これは別に「詩をノートに書け」というわけではありません。私は,「その人の一言一言が,人生そのものが,あるいは人生哲学が詩であり,人々の心を打つ時,その人がリーダーの資質を兼ね備えていると言える」ということなのではないか理解しています。歴史を振り返ると,大きな仕事を成し遂げた人が数多くいます。彼らの生き方そのものが,詩だったのではないでしょうか?
 兼寛の「病気を診ずして病人を診よ」という真摯な診療態度は,多くの人の心を打ち,リーダーとして人々の心をひきつけたことでしょう。リーダーには,「仮にこの人が失敗してもつきしたがって悔いはない」と思えるほどの人間的魅力が必要です。その根底には,慈愛とか人間愛といったヒューマニズムがあるのではないでしょうか?