当直の際に出くわす可能性のある疾患を幅広く押さえた一冊
書評者：三井 貴彦（山梨大教授・泌尿器科学）

　泌尿器科は，新生児から高齢者まで幅広い年齢層を対象とした診療科ですが，対象疾患も泌尿器悪性腫瘍から下部尿路機能障害，小児泌尿器疾患，女性泌尿器疾患，腎機能障害，腎移植，内分泌疾患，外傷など，多岐にわたります。通常診療においても，これらの疾患に対する幅広い診療を行う必要があります。加えて当直の際には，経験する機会が少ない疾患や教科書にあまり詳細に記載されていない疾患に対する診療を行わなければならないことがあります。日中ですと上級医に相談すればよいですが，当直時には自分自身で判断しなければならないケースも珍しくありません。一方，経験する機会が少ない疾患や病態については，上級医であっても治療方針の決定に苦慮することも少なくないはずです。

　本書は総論から始まり，外来診療および入院診療で緊急で対応しなければならない疾患，さらに泌尿器科医が対応に苦慮する疾患まで，非常によくまとまって解説されています。経験する機会が少ない疾患はもちろんですが，当直で経験する可能性のある各種疾患についても，「絶対に見逃してはいけないポイント」や「診療のフローチャート」が記載されていますので，限られた時間の中で診療方針を立てる際に役に立つと思います。また，救急外来で診る可能性のある急性期の疾患や，近年泌尿器科でも使用頻度が増えている悪性腫瘍に対する分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬などの有害事象への対処法は，通常の外来診療でも重宝できるかと思います。一方，超高齢社会を迎えた現在は高齢者の外科治療の機会が増えていますが，各種の術後合併症に対する対処法は，入院患者のケアに役立ちます。さらに，泌尿器科医があまり得意としない精神疾患や皮膚疾患に対する診療のポイントも詳細に記載されています。

　このように本書では，当直をしている際に出くわす可能性のある幅広い疾患について，診療のポイントを押さえて記載されていますので，時間のあるときに目を通しておくことをお勧めします。きっと当直の際ばかりでなく，通常の外来診療や入院診療でも役に立つことでしょう。コンサルトを受ける側の上級医の先生方にもお薦めの一冊です。ぜひ手元に置いてご活用ください。

企画にあたって
大家 基嗣

■総論
泌尿器科当直医の心得
篠島 利明・朝倉 博孝

尿検査の基礎的知識
篠島 利明・朝倉 博孝

緊急時の超音波検査の基礎的知識
中村 祐基・吉田 宗一郎

緊急時のCT検査の基礎的知識
中村 祐基・吉田 宗一郎

■外来編
緊急対応を要する疾患・トラブル
腎外傷
柳 雅人

腎梗塞
山下 慎一

急性腎盂腎炎・敗血症
安田 満

急性前立腺炎
森 健一

尿管結石・疝痛発作
岡田 真介・森川 弘史

肉眼的血尿・膀胱タンポナーデ
佐々 直人

膀胱外傷（骨盤骨折）
飯島 和芳

男性の尿道外傷（骨盤骨折）
堀口 明男・尾島 健一郎・新地 祐介

急性尿閉
大塚 篤史・三宅 秀明

陰茎絞扼症
小林 憲市・河内 明宏

嵌頓包茎
小林 憲市・河内 明宏

持続勃起症
江夏 徳寿

陰茎外傷（尿道損傷・陰囊外傷を含む）
佐々木 春明・橋本 湧・山岸 元基

陰茎折症
近藤 宣幸

亀頭包皮炎
久松 英治

急性陰囊症（精巣捻転）
守時 良演・水野 健太郎・林 祐太郎

精巣外傷
笠原 瑞希・山辺 史人・中島 耕一

フルニエ壊疽
阿南 剛

カテーテルトラブル：腎瘻・膀胱瘻
杉野 善雄

カテーテルトラブル：尿管ステント
杉野 善雄

腎移植後患者の発熱・感染症
田邉 起・堀田 記世彦

緊急対応を要するがん薬物療法の副作用
腎細胞癌に対する分子標的薬
森田 順

腎細胞癌に対する免疫チェックポイント阻害薬
森田 順

膀胱癌に対するBCG療法
井上 省吾

尿路上皮癌に対する抗がん剤・免疫チェックポイント阻害薬
井上 省吾

去勢抵抗性前立腺癌に対する抗がん剤
井口 太郎・平山 幸良・加藤 実

去勢抵抗性前立腺癌に対する新規アンドロゲン剤
井口 太郎・加藤 実・玉田 聡

■入院編
術後合併症
術後疼痛
馬嶋 剛

術後せん妄（注意力障害・意識障害）
松本 純弥

術後脳梗塞（しびれ・麻痺・痙攣）
舘野 冬樹・榊原 隆次

術後心筋梗塞・重症不整脈（胸痛・胸部違和感）
上田 希彦

術後肺血栓塞栓症・無気肺・肺炎（呼吸困難・胸痛）
齋藤 好信

間質性肺炎・胸水貯留（呼吸困難・SpO2低下）
坂本 晋・本間 栄

術後急性腹症（穿孔・腸閉塞・イレウス）
永仮 邦彦・石崎 陽一・嵩原 一裕

術後下肢静脈血栓症（深部静脈血栓症）
横山 泰孝

術後出血（開放手術・腹腔鏡手術後の血圧低下）
井上 高光・成田 伸太郎

術後血尿（経尿道的前立腺手術・膀胱腫瘍手術後の血尿）
福多 史昌

TUR症候群
濱川 隆・梅本 幸裕・安井 孝周

ESWL後被膜下血腫
樋口 雅俊・山下 真平・原　勲

術後コンパートメント症候群
新保 正貴・服部 一紀

仮性動脈瘤（腎部分切除術・腎外傷・腎生検・経皮的腎瘻造設術後の肉眼的血尿）
蓼沼 知之・槙山 和秀

尿管損傷・膀胱損傷（外科・産婦人科手術後のドレーン排液増加）
松﨑 洋吏・坪内 和女・羽賀 宣博

術後創部感染
嶋田 修一・千葉 大豪・伊藤 明宏

処方・処置に伴う合併症・トラブル
薬剤性腎不全
渡辺 裕輔・岡田 浩一

腫瘍崩壊症候群
黒部 匡広・河合 弘二・宮崎 淳

造影剤・抗がん剤・抗菌薬などによるアナフィラキシーショック
竹村 弘司・三浦 裕司

抗がん剤化学療法中の発熱・悪心・嘔吐
河嶋 厚成・野々村 祝夫

抗がん剤化学療法中の吃逆
楠原 正太・近藤 千紘

尿道カテーテルによる膀胱刺激症状
芦刈 明日香・宮里 実

■外来・病棟での愁訴・トラブル
抑うつ状態・うつ病
大坪 天平

脱水症・熱中症
三宅 康史

悪心・嘔吐
井上 泉

かゆみ（皮膚瘙痒症・蕁麻疹・薬疹）
栁田 のぞみ・田中 暁生・秀 道広