精神科レジデントマニュアル

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レジデントマニュアルシリーズに遂に精神科が登場! シチュエーションに応じた対応のコツから主要症候、疾患各論、諸問題への対応、他職種との連携まで、研修医や若手精神科医が現場で知りたい情報を具体的およびコンパクトに解説。臨床を重視する新専門医制度対策としてはもちろん、医療現場でこれまで以上の活躍が期待される心理職などにとっても役立つこと間違いなし!
*「レジデントマニュアル」は株式会社医学書院の登録商標です。
シリーズ レジデントマニュアル
編集 三村 將
編集協力 前田 貴記 / 内田 裕之 / 藤澤 大介 / 中川 敦夫
発行 2017年03月判型:B6変頁:352
ISBN 978-4-260-03019-9
定価 4,180円 (本体3,800円+税)
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序にかえて

 今,私の手元に1冊の本がある.『果報者ササル-ある田舎医者の物語』1)という本である.イングランドの小村で開業していた医師ジョン・ササルの生活と思索が,ジョン・バージャーの文章にジャン・モアの写真を織り交ぜて綴られている.原著の初版が刊行されたのは1967年だが,長らく絶版となっており,日本語版が出たのはつい数カ月前である.村松 潔氏の日本語版は大変優れた訳であるが,タイトルの「果報者」の意味は本文をよく読まないとわからない.原題は“A Fortunate Man”である.解説には「治療者とはいかなる存在なのか.他人を癒すことで癒される生,それを限りなく探り究めようとする者の幸福とその代償…」と記されている.
 いい医者とはどのような者だろうか?「(ササルが)いい医者だと見なされるのは,患者の心の底に秘められた,口に出されることのない,友愛を感じとりたいという期待に応えているからである.彼は患者たちを認知する.」(p82)ササルは何科のどんな病気でも怪我でも診るが,常に体とこころを診ている.「患者に話しかけたりその話を聞いたりするとき,取り違えをすこしでも減らすために,彼は両手で触診しているかのように見える.そして,患者に手をふれて診察しているときには,会話をしているかのように見える.」(p83)
 本書『精神科レジデントマニュアル』の読者の多くは,初期研修医,精神科を志す後期研修医(専修医),あるいは精神保健指定医・精神科専門医を目指す精神科専攻医など,卒業後まもない若手医師であろう.あるいは医学生かもしれない.本書はわれわれ慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室のスタッフ陣がそれぞれの専門領域について,毎年の新入局者に行うクルズスなどの指導をまとめた内容となっている.これらの若い人々にとって,1つひとつの章が精神科臨床を学ぶ上で重要なメッセージとなることを確信している.しかし,本書を繙く前に,まず医師とは,いい医師とは,そしていい精神科医とはどのような存在なのか,改めて考えてみてもらいたい.
 日本医療研究開発機構理事長の末松 誠氏(前慶應義塾大学医学部長)は3つのLIFEということを述べている.同じLIFEという言葉に,生命,生活,そして人生という3つの意味があると.医師は患者の生命を預かる職業であるが,生活と人生にも関わっていることを忘れてはいけない.ことに精神科医はもっとも患者の生活と人生に深く関わることになる.
 人生は謎に満ちている.ジョン・ササル自身は妻の死から1年と少し経った1982年8月,診療をやめてから数か月後に拳銃自殺した.あとがきには「彼の人生の謎は深まったが,暗くなったわけではない」と記されている.精神科の患者や家族と向き合うということは常にその人の人生を考えることに他ならない.

 2017年2月
 三村 將


1) Berger J, Mohr J(著),村松 潔(訳):果報者ササル-ある田舎医者の物語.みすず書房,2016

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凡例

第1章 精神科診療における7つの心得
 精神科診療における7つの心得

第2章 シチュエーションに応じた対応のコツ
 当直-精神科救急
 外来
  (1)初診
  (2)再診
 閉鎖病棟
 開放病棟
 コンサルテーション・リエゾンの基本
 家族対応

第3章 検査,評価
 画像検査
 血液検査
 脳波検査
 髄液検査
 心理検査
 神経心理学的検査
 評価尺度

第4章 診断
 予診
 面接の進め方
 従来診断
 操作的診断

第5章 治療
 精神療法
 薬物療法
 精神科リハビリテーション
 電気けいれん療法

第6章 主要症候,主訴
 意識障害-せん妄,アメンチア
 通過症候群
 自殺念慮(希死念慮)
 攻撃的言動,暴言,暴行
 衝動性
 幻覚・妄想
 希死念慮を伴う妄想-微小妄想など
 緊張病症状
 感情の乏しさ-抑うつ,アンヘドニア,感情鈍麻,アパシー
 気分の高揚
 抑うつ状態
 不安,恐怖
 パニック発作
 強迫-強迫観念,強迫行為
 ひきこもり
 解離,転換
 無言-拒絶,緘黙,昏迷
 嗜癖,依存
 身体不定愁訴
 食行動の異常
 不眠,過眠
 健忘
 失語,失行,失認
 解体症状

第7章 疾患
 統合失調症
 うつ病/大うつ病性障害
 双極性障害
 不安症群
  (1)社交不安症/社交不安障害(社交恐怖)
  (2)パニック症/パニック障害
  (3)広場恐怖症
  (4)全般不安症/全般性不安障害
 強迫症,ためこみ症
 心的外傷後ストレス障害,急性ストレス障害
 適応障害
 解離症群/解離性障害群
 身体症状症および関連症群
 パーソナリティ障害群
 摂食障害群-神経性やせ症,神経性過食症
 睡眠-覚醒障害群
 物質関連障害群
  (1)アルコール関連障害群
  (2)鎮静薬,睡眠薬または抗不安薬関連障害群
  (3)不法薬物,危険ドラッグなどの薬物依存
 認知症とその原因となる主要な疾患-その他の器質性含む
 せん妄とその原因となる主要な疾患
 てんかん
 症状性精神疾患
 神経発達症群
  (1)自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害
  (2)注意欠如・多動症/注意欠如・多動性障害
  (3)知的能力障害(知的発達症/知的発達障害)

第8章 諸問題への対応
 身体疾患による精神症状の評価と対応
 緩和ケアにおける精神医学
 臓器移植と精神医学
 困難な患者
 詐病
 死別反応/悲嘆
 自殺とポストベンション
 ライフサイクルと精神ケア
 虐待
 女性精神医学-妊娠・周産期,月経関連
 自動車運転
 外国人患者への配慮と対応

第9章 覚えておきたい法律・制度
 精神保健福祉法
 障害者総合支援法,障害年金制度など
 知的障害者福祉法,発達障害者支援法など
 触法患者への対応
 成年後見制度

第10章 多職種連携
 チーム医療のポイント
 薬剤師との連携
 カンファレンスの進め方
 医療者のセルフケア-陰性感情の扱い方,バーンアウト

第11章 医療分野以外との連携
 保健所,児童相談所とのかかわり方
 司法とのかかわり方
 教育現場とのかかわり方
 職場(民間企業など)へのかかわり方-産業メンタルヘルス

付録
 代表的な評価尺度
 診断書,紹介状の書き方

和文索引
欧文索引

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全科の医師の手元に置いてほしい傑作
書評者: 堀口 淳 (島根大教授・精神医学)
 慶應義塾大学陣の大傑作である! 『精神科レジデントマニュアル』というタイトルだが,全科の医師の手元に置いてほしい。熟練の内科医や外科医などの診察室にも置いてほしい。なぜなら,からだを傷めている患者も,すべからく毎日の心痛と苦闘しているのだ。

 患者の「患」の字は,「心」の上に「串」が刺さっている。これがすなわち「患う」ことの語義である。この「串」を抜かねばならぬ。
 臨床医の日常診療は,訊いて,尋ねて,診て,見て,頷いて,共に悲しんで,笑って,また啼いて,常に患者の「心」を傷めている「串」を探し当て,なんとかして,何度も何度も,患者と「串」を見つけ合い,引っ張り出し,これが「串」だったのかなと見つめ合い,暗いトンネルから,共に明かりを探し出し,膿を出し,光でこころを消毒して,明日を信じて頑張り合う,そんな日常,そんな診療であってほしい。
 
 第1章の「精神科診療の7つの心得」は「臨床全科の7つの心得」に通じる。精神科医に限局すれば,「③ポケットには聴診器と打腱器を」とは,よくぞ書いていただいた! 精神科医のハンマー離れはもうとっくにレッドカードのご時世,さてどうするものぞ,と嘆き,あっちこっちでぼやき,嘆いている私には,ナイスショットの一言。涙が出た。フロイトは神経学,神経病理学からスタートしたのだ。小難しい話ではない。神経学とは身体に触れることである。
 
 第2章は,当直医に必須な知恵をコンパクトにまとめてある。一般救急には,精神不安定な患者が山ほど集まってくる。外来,病棟別の対応原則のコツまで丁寧に記載されている。いい。
 
 第3章では異常脳波のまとめが特にいい。この手のまとめ方は初めて見た気がする。
 
 さて,第5章の診断編のうち,「面接の進め方」もいい。そう,すなわち次の治療編との連関の指摘は,ついつい忘れられがちであるからだ。すなわち予診など,「病気の洗い流し」といった患者との共同作業から,既に治療が始まっているのだ。予診,問診の段階から,患者や家族は医師を診ている。鑑別している。「頼れるか,本気になれるか,話せるか,この医師は」と。これも,全科共通の話でもある。薬物療法は,原則論中心である。一体この薬は抗うつ薬なのか,抗精神病薬なのかがわからない時代になってきた。そんななか,基本が学べる。

 第6章「主要症候,主訴」には精神要素ごとに,臨床現場にすぐに応用できるような配慮が記載され,好感が持てる。しばしば精神科以外の先生や若手の精神科医からでさえ,「この幻覚,幻聴は」などとの,混乱発言を訊く。このモヤモヤをなくしたい私は,すっきりできた。

 最終盤辺りには,現代のホットニュースたる自動車運転問題や女性精神医学なども網羅されている。その割には,本書は白衣のポケットサイズだし,軽い。紙面はオレンジ色の濃淡で,ケバくない。三村教授の性格か? これ,いける!!
“心のよりどころ”として強い実践書
書評者: 伊井 俊貴 (名市大大学院・精神・認知・行動医学/日本若手精神科医の会理事長)
 21世紀は心の時代。随分前から言われてきたことばではあるが,心の問題に対する解決策は見えてこない。精神科の診療は心の問題に悩む患者であふれかえる。統合失調症の患者が妄想を悪化させて興奮しているかと思えば,彼氏にふられた女性がリストカットして来院する。不登校になった子どもを母親が心配して来院し,別の男性は眠れないからもっと睡眠薬を出してくれと攻撃的に訴えてくる。

 心の問題を抱えた多くの患者に,精神科医はどう対応したらよいだろうか? しなくてはならないことは多種多様である。医学的に診断をして薬を出すだけでは問題は解決しない。統合失調症の患者を入院させるのであれば,家族に納得してもらわなければならない。彼氏にふられた女性の話を聞いて,再発を予防しなくてはならない。不登校の子どもの母親の不安を傾聴し,共感してあげなければならない。睡眠薬の要望に対しては,依存の可能性を説明し,減量に向けた取り組みを行わなければならない。そして,これらの問題に必死に対応することでたまるストレスから,自分自身が燃え尽きてしまうことも防がなくてはならない。

 これらの問題にどう対処したらよいかについて,医学部で学ぶ機会はほとんどない。また,こうすればよいという明らかな方針もない。先輩の医師に相談することは役立つが,いつも相談できるわけではない。しかしながら,自分だけで考えていると,本当に自分のやっていることが正しいのか? という不安にさいなまれる。もちろん,失敗を繰り返しながら学ぶことは重要であるが,事前に知識を得ることで失敗を防げるのであれば防ぎたい。さまざまな問題にどう対処したらよいかについてのアドバイスがあり,かついつでも参考にできるものがあると,大変助かる。そしてそのような役割を果たせる本の一つが本書である。

 本書は1章で精神科診療における7つの心得を,2章でシチュエーションに応じた対応のコツを知ることができる。第3章で検査や評価,第4章で診断,第5章で治療に対する一般的な方針を学ぶことができる。そして第6章で主要症候,主訴に応じた対応方法を,第7章で疾患ごとの対応方法を知ることができる。さらに,第8章では,困難な患者への対応といった諸問題への対応方法を,第9章では覚えておきたい法律・制度を,第10章では多職種連携の方法を,第11章では医療分野以外との連携について学ぶことができる。

 本書の特徴は「実践的」なところである。統合失調症の家族にどう説明すべきか,自殺念慮にどう対応すればよいか,母親の不安をどうノーマライズすればよいか,攻撃性に対してはどのようなスタンスで臨めばよいか,さらには,精神科医が燃え尽きないためにはどうしたらよいかなどについて,具体的に知ることができる。もちろん,これらの問題に対して決定的な解決方法があるわけではない,これらの問題に対して,経験のある先生方の一言が記された本書は私にとってはいつでも参照できる「心のよりどころ」として心強い本である。
精神科医の第一歩を踏み出すための要素がぎっしり
書評者: 西村 勝治 (女子医大教授・精神医学)
 この本は「マニュアル」というタイトルからイメージされるようなハウツー本ではない。

 まず,どのように患者に向き合うのか。精神科医としての基本姿勢を説いた第1章「精神科診療における7つの心得」で,このマニュアルの著者たちが求める精神科医のあるべき姿が浮かび上がってくる。そして,第2章以降は,精神科臨床ではどのようなシチュエーションが生じうるのか,それに精神科医はどう応ずればよいのかが,簡潔に,肝を押さえて記述されている。

 評者は常々,精神症候学が軽んじられている近年の傾向を憂いているが,第6章「主要症候,主訴」では,症候を正確に把握し,対応するためのエッセンスが余すことなく盛り込まれており,精神症候学を大切にする著者たちの姿勢が感じられて,うれしい。

 第7章「疾患」では,疾患の特徴や診断のポイントだけでなく,薬物療法や心理社会的療法における原則,さらには患者・家族への説明の仕方まで取り上げられている。患者に向き合う精神科医の姿勢はどのようであるべきかが,ここでも改めて立ち上がってくる。知識・技能・姿勢(態度)という,精神科医として獲得するべきコンピテンシーが自然に意識される,よく練られた内容である。第8章以降ではコンサルテーション・リエゾン精神医学や多職種連携にも触れ,近年ますます発展し,拡大する精神科医の役割が十分意識されている。

 また,「Further Reading」として各章で参考文献が挙げられ,興味に応じて知識を深めることができるようになっているのも,読者の成長を願ってのことだろう。

 本書は慶大精神・神経科学教室のスタッフ陣の手によるものだ。この教室の層の厚さは万人の知るところである。脳科学から心理社会的領域まで幅広い分野の第一線で活躍する先輩精神科医たちの経験がふんだんに盛り込まれている。

 “いい精神科医とはどのような存在なのか? いや,そのまえに,医師とは?” 編者は,本マニュアルの序において,『果報者ササル――ある田舎医者の物語』(みすず書房,2016)という一冊の本を紹介している。そこに綴られたイングランドの小村で開業する医師ジョン・ササルの生活と思索は,本マニュアルの根底に流れるポリシーを象徴している。つまり,常に体とこころを診る。患者の生活,患者の人生にも思いをはせる。このポリシーが通奏低音となって本マニュアルの随所に顔を出し,大変きめ細やかな診療ガイダンスとなっている。

 白衣のポケットに入る,軽く手触りの良いこの一冊には,精神科医の第一歩を踏み出していくためのエッセンスがぎっしりと詰まっている。この本が日々開かれ,読み込まれ,使い込まれる頃には,一つ成長した精神科医の姿がそこにあるだろう。初期研修医や後期研修医をはじめとする若手医師だけでなく,精神科領域にかかわるメディカルスタッフにもぜひお薦めしたい一冊である。

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