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DSTC外傷外科手術マニュアル [Web動画付]


監訳:日本 Acute Care Surgery 学会 /日本外傷学会 

  • 判型 B5
  • 頁 416
  • 発行 2016年09月
  • 定価 8,640円 (本体8,000円+税8%)
  • ISBN978-4-260-02829-5
手術手技も動画で確認! 外傷外科を学ぶ若手医師必携の1冊
IATSIC(International Association for Trauma Surgery and Intensive Care)による「DSTC(Definitive Surgical Trauma Care)コース」のテキスト。外傷に関する広い領域をカバーし、その内容は論理的かつ簡潔明快。外傷外科を学ぶ若手救急医、外科医に有益な情報が満載。実際の手術を収録したWeb動画閲覧権付。
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序 文
翻訳の序(溝端康光)/(Ken Boffard)/はじめに

翻訳の序
 2002年秋,早朝の清々しい空気のなか,私はメルボルン王立病院の門をくぐりました.IATSIC(International Association for Tra...
翻訳の序(溝端康光)/(Ken Boffard)/はじめに

翻訳の序
 2002年秋,早朝の清々しい空気のなか,私はメルボルン王立病院の門をくぐりました.IATSIC(International Association for Trauma Surgery and Intensive Care:万国外傷外科集中治療医学連合)が開催するDSTCコースを受講するためです.当時,日本ではJATECが出版され,そのコース開催が緒についたばかりで,DSTCのような,生体を用いて外傷外科を学ぶことのできるoff the job trainingを受講できる機会はありませんでした.3日間にわたるコースには,animalとcadaverを用いて実際の手術手技を修得するセッションに加え,decision makingを討論するセッションが設けられており,その実践的な内容に深く感銘を受けたことを記憶しています.
 2012年,帝京大学の坂本哲也教授,藤田尚准教授のご尽力で,DSTCコースが日本で初めて開催されました.本書の執筆者であり,DSTCの開発と普及のリーダー的存在であるBoffard教授が来日され,自ら先頭に立って指導して下さいました.DSTCコースはその後も定期的に開催され,毎年多くの医師が受講しています.最近は,日本の医師だけでなく,韓国からの受講も増えており,広く外傷外科のレベル向上に寄与しているものと思います.
 本書の初版は,2003年にDSTCのコースマニュアルとして出版されました.第4版の内容は,「外傷システムとコミュニケーションの原則」「生理学と外傷に対する身体の反応」「Damage Control Surgery」「特定臓器の外傷」「診断治療技術」「特別な治療の側面」という6部で構成されています.すなわち本書は,単に外傷外科の手術手技を紹介したものではなく,迅速なdecision makingと良好なcommunicationを必要とする外傷外科の手引書であり,外傷外科医を目指す医師にとって実践で求められる知識をすべて網羅したものとなっています.第4版では,外傷手術における麻酔の項が新たに追加され,術中の麻酔医との“blood brain barrier”を取り除き,チームワークを確立することの重要性が解説されています.
 今回,翻訳を担当した医師のほとんどは,日本でのDSTCコースのインストラクター,もしくは受講生です.DSTCの内容について,身をもって理解し修得した医師が翻訳しています.このため,DSTCの魅力を余すところなくお伝えできているものと自負しています.私の教室ではこれまで英語の原書を医局員の間で輪読し,外傷外科について学んでいました.翻訳書の出版により,今後はより深く勉強し理解できると喜んでいます.また,本書の内容が外傷外科に携わる医師にとって大変有益なものであることは,自信をもって推奨させていただきます.ぜひ皆様もお手にとってご確認下さい.
 最後になりましたが,本書をご監訳いただきました,日本Acute Care Surgery学会,日本外傷学会,ご推薦いただきました日本救急医学会に心より御礼申し上げます.

 2016年9月吉日
 DSTC翻訳委員会
 委員長 溝端康光



 多くの外科医にとって重症外傷を診療する機会が少なければ,診療の意思決定に必要な技能レベルを維持することは困難である.その技能には,外科的介入において必要となる意思決定能力と手術技能が含まれる.それらはかなり高度で,必要とされる機会は少ないかもしれないが,外傷の救命のためには,迅速に出血源に到達し出血をコントロールする外科的介入が不可欠である.その際,専門領域の外傷専門医を必要とすることもあるが,そのような医師を,求める時間のなかで確保することはまず不可能である.
 過去には,多くの外科医が戦争で技能を磨き,非戦時下での診療に応用してきた.この状況は,21世紀には変化し,いまだ紛争の少ない地域で活動している外科医がいるものの,ほとんどの外科医は非戦時環境で働いている.多くの国で,外傷の発生頻度,特に自動車事故に伴う外傷が,記録上最低レベルにまで減少している.外傷の多くが非手術的に治療され,手術的介入および手術技能を発揮する機会は減少している.このため適切な臨床的判断ではなく経験の少なさや自信のなさにもとづいて,手術しないという決定がなされることがある.
 有能な外傷医は,良い術者というだけでは十分ではない.外傷診療に求められる基本的な内科的・外科的対応を計画し実践できる多職種チームの一員でなければならない.

 対応を計画するにあたって以下の明確な理解が必要である.
地域での発生メカニズムを含めた外傷の原因
患者への初期治療,すなわち病院前と救急室での治療
患者が病院に搬送されその後手術室に移送されるまでの状況.これは初期対応に左右され,そして転帰に影響する.
院内の物理的・知的資源と,多発外傷患者に伴う特有の問題を明らかにし対応できる能力
求められる時間のなかでの専門性を持った外傷専門医を確保することの困難さ

 1993年,万国外科学会(ISS)および万国外傷外科集中治療医学連合(IATSIC)のメンバーであるHoward Champion(米国),Stephen Deane(オーストラリア),Abe Fingerhut(フランス),David Mulder(カナダ)とDon Trunkey(米国)の5人の外科医がAmerican College of Surgeon(ACS)学会中にカリフォルニア州サンフランシスコで会合をもった.普段の手術トレーニングがあまりにも臓器・部位特異的なため,多発外傷患者に対する適切な判断と意思決定を行うことができていない外科医に対し,外傷への手術対応トレーニングが必要なことは明らかであった.特に上級の研修医や外科トレーニングを終えた医師への対応が必要であった.
 手術が必要な外傷患者にまれにしか対応しない外科医を対象に,救命を優先した外科的技能と意思決定に焦点をあてた短期間のコースを行う必要があるとされた.このコースは,世界的なニーズに応えるものであり,すでに広く普及し認められているACSのATLSを補完するものとなる.Stenn Lennquistがスウェーデンの外科医を対象に実施していた5日間コースの経験を取り入れたプロトタイプがパリ,ワシントンDCそしてシドニーで開催された.
 1999年,ウイーンで開催されたInternational Surgical Weekにおいて,IATSICのメンバーがDefinitive Surgical Trauma Care(DSTC)の基礎となるコア・カリキュラムとマニュアルを承認した.このマニュアルの初版は2003年に出版され,その後2007年,2011年に改訂,2015年に第4版となった.
 初期のDSTCコースはオーストリアのグラッツ,オーストラリアのメルボルンとシドニー,そして南アフリカのヨハネスブルクで開催された.これらのコースで使われた教材が改良され,修練システムが教育の専門家らにより作成された.こうして現在開催されている標準化されたDSTCコースの基礎ができた.このコースのユニークな点は,基本は標準化されているものの,使用される国の環境とニーズにあわせて変更を加えることができる点である.
 IATSIC教育委員会には国際的なDSTC小委員会があり,コースの質と内容を監視している.このため,DSTCの基本はコース毎で異なることはない.最初に開催された国(オーストリア,オーストラリア,南アフリカ)に加え,世界28か国で開催され,毎年IATSICのプログラムに新しい参加者が加わる.コースとそのマニュアルは英語のみならず,ポルトガル語,スペイン語に訳されている.
 DSTCコースは,好むと好まないにかかわらず手術を要する重症外傷に対応せざるをえず,しかも必要な専門技能を有しない医師をサポートすることを目標とする.DSTCコースやDSTCプログラムの設置に必要なものを本マニュアルの付録Cに記載した.DSTCプログラムの作成者からなる委員会がマニュアルの作成と更新を行っている.マニュアルやコースの準備,編集,内容の再検討,そして開催における彼らの多大な努力に感謝する.
 この最新の改訂第4版には,新たなエビデンスにもとづく内容が記載されている.非手術療法の普及,そして時にはそれが害となることも記載した.平和維持の必要性が増加していることや最近の不平等な紛争をふまえ,また特有の外傷形態があることから,軍時下での内容が最近の紛争の経験を反映して改訂増頁されている.
 以前から明らかであったことが,ここ何年かでついに形をなした.麻酔科医と集中治療医の関わりが,外傷へのアプローチ法と多職種外傷チームの概念を変化させた.オランダ,スカンジナビア,スイス,英国,そしてその他多くの国の麻酔科医たちが熱心に関与することで,このコースと並行して,Definitive Anaesthetic Trauma Care(DATC)コースが開発された.このマニュアルに麻酔管理を含めることができたことを嬉しく思う.
 本書は以下の項に分類できる.
外傷システムとcrew resource management(CRM)コミュニケーション原理
外傷の生理学と生体反応
 ・代謝反応
 ・輸血
 ・ダメージコントロール
 それぞれの解剖部位や臓器系については,損傷の概要と臓器特有のピットフォール,さらにその領域の重症外傷を扱うために必要となる外科手技を記載した.また,熱傷,頭部外傷,高齢の四肢外傷も含んでいる.
最近の診断と治療テクノロジーとして
 ・画像
 ・低侵襲手術の役割
専門的治療の特別な側面として
 ・麻酔学
 ・軍の関係
 ・集中治療
手術室看護師の重要性(別項,付録)
外傷スコアと損傷評価の資料

 Ken Boffard


はじめに
 外傷は,世界の健康面における大きな問題であり,多くの国で問題は拡大しつつある.外傷には,教育,予防,急性期治療,そしてリハビリテーションがひと続きで一貫して対応していることが理想的である.初期診療のあらゆる面を改善することに加え外科的技能を改善することで,より多くの患者を救命でき,機能傷害も減少させることができる.
 一般的な標準外科修練の経験では,外傷修練として不十分かつ部分的である.その理由の1つは,以前から行われている外科修練が血管外科,肝胆膵外科,内分泌外科など高度専門化され臓器特異的となっていることである.また1つは,多くの確立された修練では多様な外傷患者に対する経験が不足することである.

外傷の予防
 外傷の予防は以下の3つからなる
一次予防:外傷の発生頻度を下げるために教育と法制化を行う(アルコール飲酒下での運転)
二次予防:設計を通じて外傷の発生頻度を最小限にする(シートベルトやヘルメット)
三次予防:外傷が発生したあとは,早期の良い治療により影響を最小限にする

 一次予防と二次予防が,外傷後の死亡と合併症を減少させるうえで大きな役割を果たしていることは疑いないが,外傷に対する不適切な診療を最小限にすることも必要である.そのためには,物理的損傷を高度に管理できる技能の修練が求められる.

手術における安全
 「決してあってはならないこと」(never event)はNational Quality Forumの前主席事務官であるKen Kizerが2001年に初めて紹介した言葉である.「決してあってはならないこと」とは,決して生じてはならない多くは防止しうる患者安全に関わるインシデントで,今日欧米で広く認識されている.手術における「決してあってはならないこと」は以下の3つである.
手術部位の間違い
体内への術後異物残留(開腹ガーゼやスポンジ)
あやまったインプラント

 安全チェックリスト(例えばWHOのSafer Surgery Checklistなど)が「決してあってはならないこと」の減少に役立つことが知られている.単に状態が緊急そうだという理由だけで,重症外傷患者の手術において,実施すべき安全チェックをとばしてよいことにはならない.ダメージコントロール開腹において,ガーゼ(スポンジ)は初回手術の際に腹腔内に留置される.ガーゼのサイズとその数を記録しておくことは,特に患者管理を他の医療者に引き継ぐ場合には,必須である.戦時下でのdamage control surgeryでは,通常,どのような手術を実施したかを正確にドレッシング材の表面に記載している.
 損傷の見落としは,外傷外科医にとって「非公式な」「決してあってはならないこと」であろう.成人外傷における損傷の見落とし頻度は9から28%とされ,多くは軽いものであるが,時に致死的あるいは生涯にわたる機能障害をもたらす.小児外傷を対象とした研究では,損傷の見落としは20%にのぼると報告されている.また,重症外傷患者では特に損傷を見落とすリスクが高い.
 明らかなあるいは注意を引く損傷とともに体腔内にも損傷が存在することがあり,外科医はそれを見落としやすい.また,主な損傷から離れた部位の損傷は,身体のどの部位にも存在し,蘇生経過のなかで外傷チームが見逃しやすい.損傷が見落とされやすい患者因子としては,意識レベル低下や緊急性の高い損傷の存在,そして循環が不安定な多発外傷である.
 外科医が未熟な場合や経験不足の場合には,損傷を見落とす危険性が高い.しかしながら損傷の見落としは,経験を積んだ上級の医師にも起こることである.ATLSコースのprimary surveyとsecondary surveyは外傷初期評価での系統的な診療手順であり,救急室において短時間で致死的状況に至る損傷を見落とす危険性を低下させる.Primary surveyの後,ICUや病棟において患者の安全が得られれば,注意深い患者再評価と画像確認からなるtertiary surveyを行う.Tertiary surveyは,見落とし損傷を確実に回避するうえで大いに役立つ.
 術中は,系統的かつ定型的,徹底的な評価をすべての患者に実施する.確認された損傷のある部位のみに集中するのではなく,すべての部位で損傷の有無を評価する.この注意深い評価は,特に多発外傷患者において重要である.近年の戦時下での開腹術では,初回手術における臓器損傷の見落としは1.3%と報告されている.

重症外傷の管理のためのトレーニング
The IATSIC National Trauma Management Course(NTMCTM
 NTMCは,医療者がいるものの診療環境が整備されておらず医療資源も不十分な国における外傷診療を改善するためにIATSICが提案したものである.ATLSを基本として,地域の状況で修正されながら,IATSICが開催するか,地域の外傷組織が開催するコースとして提供される.今日までに,世界12か国において,Academy of Traumatology of India (http://www.indiatrauma.org),College of Surgeons of Sri Lanka (http://www.lankasurgeons.org),IATSICなどの組織の後援のもと7,000人の医師が訓練を受けた.

The Advanced Trauma Life Support Course
 American College of SurgeonsのATLSは,世界で最も広く受け入れられた外傷プログラムである.現在,約60か国で開催され,100万人以上の医師が受講している.

ATLSを超えた外傷外科トレーニング
 先進国や発展途上国において,外傷は病院前および院内医療のいずれにおいても,公衆衛生上の大きな問題で,財政負担となっている.多くの国で政治的かつ社会的不安が増していることに加え,暴力行為における銃器の使用,さらに交通事故が世界中で外傷の原因となっている.これらの社会経済的因子が結果として多くの外傷患者を生み出す.
 米国では,外傷は若い世代と高齢世代における問題である.全年代を含めると外傷は死亡原因の第3位であり,1~44歳では1位である.45歳以下が外傷死亡の61%を占め,入院患者の65%を占める.また,65歳以上では,致死的あるいは長期の入院となるリスクが高い.外傷死の50%は受傷後数分で生じ,早期死亡の大部分は大量出血と中枢神経損傷による.
 解剖のデータにより,中枢神経損傷がすべての外傷死の原因の40~50%を,出血が30~35%を占めることが示されている.車両事故と銃創は,それぞれ外傷死の24%と29%を占める.南アフリカにおいて1995年には殺人(10万人あたり56人)と車両事故が多かった.
 オーストラリアや英国のように,穿通性損傷が少なく,充実した外傷予防キャンペーンにより外傷患者が確実に減少している地域がある.しかしながら,車両事故や墜落,娯楽活動,そして高齢者に生じる外傷は数多くある.外科医が外傷患者に接することが比較的限られていることから,外傷領域の専門知識は低下している.外傷医療施設の指定,重症外傷診療のための特別な技能の上達が求められている.
 さらに,西インド,南アメリカ,アジアの発展途上地域では,一般外科修練に,外傷診療に必要な広い領域の手術修練や精神科的専門知識の修得が必ずしも含まれていない.また他の地域では,一般外科に胸部外科が含まれないところもある.それゆえ,胸部出血の根本治療を依頼される一般外科医が,必要となる手技を規定の修練のなかで獲得できていない.
 世界中の病院前医療が改善するなかで,以前は病院前で死亡していた患者が生命徴候を保ったまま病院に搬送されるようになった.多くの場合,気道と換気は管理できるものの,出血により患者が院内で死亡する.外傷初期診療において,骨折固定や骨盤固定などの整形外科的止血手技や重症頭部外傷の管理が重要な役割を果たしているが,出血の外科的コントロールやその生理学を理解することも必要である.
 世界の多くの地域で紛争が生じている.これらの紛争には,超大国のみでなく他の多くの国の軍も関わっている.軍の外科医は,戦場で発生するすべての穿通性外傷を管理できるよう訓練されていなければならない.しかし軍が直面し深刻化するジレンマは,近年の紛争が非同時性,一方的,小規模,地域限定的であり,多くは頻回に負傷者を発生させないということである.この理由から,戦場や緊張下の状況において高度な外科テクニックを迅速に駆使できるように,数多くの外科医を確保しておくことは困難である.
 戦場での負傷者や主に穿通性外傷に対応できる十分な経験を積むことが軍外科医にとってますます困難になっている.そして多くの軍の修練プログラムは,非戦時下での相手を協力者として求めている.
 統計資料は,軍事下であれ非軍事下であれ,外傷患者の治療を行う責任のある外科医が,致死的な損傷の評価,診断,手術の技能を有する必要があることを示している.迅速で適切な外科的介入により重症外傷患者の転帰を改善できることが,多くの外科医には十分に理解されていない.経験の少なさや他の分野への興味から,外科医はもはやそのような致死的状況に対応する技能を有していない.これらをふまえ,コースは開催される国の必要性に応じて柔軟なものでなければならない.救急室のみでなくATLSが終了した後の診療において,患者の外科的蘇生と治療に必要な技能を有する外科医を養成する必要性が増している.

外傷における外科トレーニングコース
 American College of SurgeonsのAdvanced Trauma Operative Management(ATOM)コースは約15年前にLenworth M. Jacobsにより開発された.講義と,それに続く麻酔下生体動物モデルを用いた手術指導からなる1日コースである.胸部と腹部の穿通性外傷に対する手術における外科的能力を向上させ,自信を持たせる効果的なものである.
 Definitive Surgical Trauma Care(DSTC)コースは,1993年に6人の国際的な外科医のリーダーシップで開発された.そして,スイスのルジンゲンにあるInternational Society of Surgeryの構成団体であるIATSICが管理している.DSTCは3日間のコースであり,短時間の講義と手術に関する広いディスカッション,グループディスカッション,症例ディスカッションそして麻酔下生体動物を用いた実習からなる.外傷に対して用いる外科手技と,最適な治療法を選択するための意思決定に重点が置かれている.コースは現在,24か国において,4か国語で開催されている(英語,ポルトガル語,スペイン語,タイ語).

DSTCコース
コース目標
 本コースの修了までに,受講生は以下を可能とする修練を受ける.
外傷患者の外科生理について知識を深める
外傷における外科的意思決定が可能となる
重症外傷患者管理における高度な外科的テクニックを駆使できる
重症外傷における治療の可能性と,そのエビデンスを理解する

コースの説明
 DSTC受講の前提は,一般外科のトレーニングで基本を完全に理解していることと,ATLSコースの受講である.このため,外傷外科の基本や重症外傷の初期蘇生についての講義はコースには含まれない.
 コースは2日から1日半として計画されたコアカリキュラムを含む.コアカリキュラムに加え,開催する地域の状況に適したコースとなるよう追加モジュールが数多く準備されている.
 コースは多くの要素からなる.
講義…外科的蘇生の重要な考え方を紹介し,蘇生の目標を議論し,臓器への最適な到達法を指導するよう作成されている.
献体実習…新鮮なあるいは保存されたヒト献体,もしくは摘出組織を用いる.これにより,重症外傷における到達経路についての人体解剖の知識を高める.地域の慣習や法が献体を使用することを認めない場合には,利用可能なもので代用する.
動物実習…手術用に準備された麻酔下生体動物を可能であれば用いる.インストラクターはさまざまな外傷を紹介する.実習の目的は,精神運動的技能を向上させ,臓器を修復して出血をコントロールするための新たな技能を修得させることである.出血を伴う損傷は,動物を死亡させないようにしないといけないため,獣医麻酔医と外科医にとって挑戦的である.現実世界の手術室における重症外傷治療を模したシナリオである.
症例提示…提示された症例に対する戦略を考え検討するセッションである.いくつかの症例を提示するなかで,受講生とインストラクターの間で自由なディスカッションを行う.この症例提示では,すでに学んだ講義や精神運動技能を現実の患者管理シナリオに組み入れることを目指している.

Tertiary Survey
 軽症外傷のおおむね20%が初期の評価で見落とされている.これらには,顔面骨骨折,手首や手の損傷などが含まれる.患者が十分に安定し覚醒すれば,それらの損傷を否定するためにtertiary surveyを実施する必要がある.

まとめ
 DSTCコースは,主要な外傷センターの患者を模倣して外科的に作成された損傷に対して診療できるように外科医を訓練することを目指している.上級外科医や外科研修医そして軍の外科医はすべて,軍事下あるいは非軍事下にかかわらず致死的な穿通性あるいは鈍的外傷に対し自信をもって対応できる必要があり,DSTCコースはその教育,認識,精神運動の要求に応えるものである.

文献
引用文献
1. World Alliance for Patient Safety. WHO Surgical Safety Checklist and Implementation Manual. http://www.who.int/patientsafety/safesurgery/. Accessed January 2015.
2. Smith I, Beech Z, Lundy JB, Bowley DM. A prospective observation study of abdominal injury management in contemporary military operations: damage control laparotomy is associated with high survivability and low rates of fecal diversion. Ann Surg. 2015; 261(4): 765-73.
3. Fingerhut LA, Warner M. Injury Chartbook. Health, United States. 1996-1997. Atlanta, GA: National Center for Health Statistics; 1997.
4. Fingerhut LA, Ingram DD, Felman JJ. Firearm homicide among black teenagers in metropolitan counties: comparison of death rates in two periods, 1983 through 1985 and 1987 through 1989. JAMA. 1992; 267: 3054-58.
5. Bonnie RJ, Fulco C, Liverman CT, eds. Reducing the Burden of Injury, Advancing Prevention and Treatment. Washington, DC: National Academy Press; 1999: 41-59.
6. Brooks AJ, Macnab C, Boffard KD. Trauma care in South Africa. Trauma Q. 1999; 14: 301-10.
7. Enderson BL, Maull KI. Missed injuries. The trauma surgeon’s nemesis. Surg Clin North Am. 1991; 71(2): 399-418.
書 評
  • 外傷外科医として学ぶべき基本事項がここに詰まっている
    書評者:渡部 広明(島根大教授・Acute Care Surgery)

     待望の“Manual of Definitive Surgical Trauma Care”の第4版が出版された。本書はこの全訳版であり,外傷外科手技をトレーニングするDSTCコースのコースマニュアルである。

     近年,外傷外科手術症例の減少に伴い外傷外科手術を習得するのは困難となっている。こ...
    外傷外科医として学ぶべき基本事項がここに詰まっている
    書評者:渡部 広明(島根大教授・Acute Care Surgery)

     待望の“Manual of Definitive Surgical Trauma Care”の第4版が出版された。本書はこの全訳版であり,外傷外科手技をトレーニングするDSTCコースのコースマニュアルである。

     近年,外傷外科手術症例の減少に伴い外傷外科手術を習得するのは困難となっている。こうした中,外傷外科手術を習得するためのoff-the-jobトレーニングコースに対する期待感は非常に大きい。DSTCコースはその代表的な国際的コースであり,1993年に開発されて以来,全世界の多くの外科医が受講し外傷外科手術の基本事項を学習している。本コースで学ぶべき事項は多いが,本書はそれを網羅するだけではなく,手術手技にとどまらず外傷外科手術症例を治療する上で重要な外傷患者の生理学的事項,ダメージコントロールの基本事項などが詳述されている。また重症外傷症例の多くは,術後集中治療の成否が救命の可否を左右するわけであるが,これについても詳しく解説している。

     外傷外科手術は優れた手術手技さえ持っていれば患者を救命できるというものではない。研ぎ澄まされた手術手技を修練するとともに,これを成功させ患者を救命へと導くための治療戦略を持ち合わせていなければならない。こうしたことを感じさせるポイントが本書には包括されている。そもそもDSTCコースでは動物と献体を用いた手術手技を習得するセッションと同時に治療戦略(decision making)を学習するセッションが設けられている。本書ではdecision making能力を習得するための要素が随所に記載されており,実臨床でも大いに役立つものとなっている。

     さらに本書では手術手技や戦略決定能力に加えもう一つ重要な要素として外傷外科手術チーム員へのコミュニケーションについて記載している。重症外傷診療におけるノンテクニカルスキルに関して新たな解説を加え,外傷外科手術チームを統率するリーダーシップとコミュニケーションのあり方について述べている点は注目に値する。また,手術室看護師へのブリーフィングについて言及している点は,外傷外科を解説する書籍としては素晴らしい視点といえる。

     本書は外傷外科医が習得しておくべき,戦略,戦術,チームワーク構築という重要な要素を網羅し,さらに臨床実践することを想定した内容となっており,医師のみならず,外傷外科手術に関わる全ての職種に推薦したい一書である。外傷外科医ならばぜひとも持っておきたい書籍といえる。
  • 外傷診療に長けた外科医の技能と意思決定が凝縮
    書評者:横田 順一朗(堺市立病院機構副理事長)

     今,止血できなければ死につながる。重度外傷の緊急手術ではこのようなシリアスな状況に遭遇する。熟練した外科医でも,経験したことのない状況や見たことのない術野にたじろぐことがある。専門領域でなくても,救命のためには迅速な止血など外科的介入により,蘇生しなければならない。重度外傷と対峙する外科医にはこれ...
    外傷診療に長けた外科医の技能と意思決定が凝縮
    書評者:横田 順一朗(堺市立病院機構副理事長)

     今,止血できなければ死につながる。重度外傷の緊急手術ではこのようなシリアスな状況に遭遇する。熟練した外科医でも,経験したことのない状況や見たことのない術野にたじろぐことがある。専門領域でなくても,救命のためには迅速な止血など外科的介入により,蘇生しなければならない。重度外傷と対峙する外科医にはこれを乗り切る技量と意思決定が求められる。予定手術では事前に手術アプローチ,術式の選択および術後管理まで予習できるが,救急現場では不可能である。遭遇する機会が少ない上に,守備範囲が広く,予定手術とは異なった判断が必要となる。症例を重ね,経験を積むといった修練の難しい領域である。このため臨床経験を補完する手段としてシミュレーション教育が脚光を浴びている。

     ここに紹介する『DSTC外傷外科手術マニュアル』は,重度外傷に対する外科的技能をウエットラボで修練するDSTCコースのために書かれた図書である。DSTCコースは,世界的にトップクラスの外傷外科医が直接指導する実践さながらの修練システムである。本書は,コース受講の教材といった程度のものではなく,まさしく重度外傷治療のテキストとして充実した内容が詰まっている。外傷診療に長けた外科医の技能と意思決定が凝縮されているといっても過言ではない。また,Webを介して実践さながらの手術動画を閲覧することができ,コースの受講に至らずとも,本書の熟読と動画の視聴とでかなりの学習効果が期待できる。翻訳をされた先生方の意図が,実はこの点にあるのではないかと推測する。

     さて,重度外傷は救急診療の中でも病勢の変化が早く,救命や後遺症の回避のためにはチームアプローチを必要とする代表的な領域である。病院前救護,初期診療,IVR,手術および集中治療へと場面を移すだけでなく,ここに多くの職種,診療科が関与する。本書は手術室まで持ち込んだ場面を想定したものである。本書の内容を最大限生かすには初期診療で防ぎ得る死亡を回避し,手術室まで持ち込む技量を備えていなければならない。このため標準化された外傷初期診療の展開が求められ,DSTCではATLSの受講またはそれに沿った初期診療が推奨されている。わが国ではATLSに相当するものとしてJATECコースがあり,本書の内容を実践するには外傷初期診療ガイドラインJATECを順守した診療が前提となる。

     本書がわが国の外傷外科の進歩と診療の質向上に寄与するものと期待している。
目 次
翻訳の序

はじめに
執筆者
編者紹介
付録Web動画の使い方/収載内容

1部 外傷システムとコミュニケーションの原則
 1章 総論
1.1 救急室での蘇生
1.2 重症外傷の治療
1.3 救急室での手術
1.4 まとめ
 2章 重症外傷におけるコミュニケーションとノンテクニカルスキル
2.1 総論
2.2 外傷診療におけるコミュニケーション
2.3 外傷診療におけるリーダーシップ
2.4 ダメージコントロールにおけるコミュニケーション

2部 生理学と外傷に対する身体の反応
 3章 蘇生の生理学
3.1 外傷に対する代謝反応
3.2 ショック
 4章 外傷における輸血療法
4.1 輸血の指標
4.2 輸血に使用される製剤
4.3 輸血・血液製剤の効果
4.4 現時点での最善の輸血法
4.5 自己血輸血
4.6 赤血球の代替物
4.7 大量出血/大量輸血

3部 Damage Control Surgery
 5章 Damage Control Surgery(DCS)
5.1 総論
5.2 Damage Control Resuscitation(DCR)
5.3 Damage Control Surgery(DCS)

4部 特定臓器の外傷
 6章 頸部
6.1 総論
6.2 治療の原則
6.3 治療
6.4 頸部へのアクセス
 7章 胸部
7.1 総論
7.2 救急室開胸(EDT)
7.3 胸部への外科的アプローチ
7.4 救急部開胸の手技
7.5 根本治療手技
7.6 まとめ
 8章 腹部
8.1 開腹術
8.2 小腸と横隔膜
8.3 肝と胆道系
8.4 脾臓
8.5 膵臓
8.6 十二指腸
8.7 腹部血管損傷
8.8 泌尿生殖器
 9章 骨盤
9.1 はじめに
9.2 解剖
9.3 分類
9.4 臨床検査と診断
9.5 蘇生
9.6 骨盤パッキング
9.7 合併損傷
9.8 複雑(開放)骨盤損傷
9.9 まとめ
 10章 四肢外傷
10.1 総論
10.2 重症四肢外傷の治療
10.3 四肢血管損傷の治療
10.4 クラッシュ症候群
10.5 開放骨折の治療
10.6 広範囲の四肢外傷:生命対四肢
10.7 コンパートメント症候群
10.8 減張切開
10.9 四肢損傷の合併症
10.10 まとめ
 11章 頭部外傷
11.1 はじめに
11.2 受傷機転と分類
11.3 測定可能な脳機能の生理学的指標
11.4 TBIの病態生理学
11.5 TBIの初期治療
11.6 脳灌流閾値
11.7 頭蓋内圧閾値とモニタリングの適応
11.8 画像
11.9 手術適応
11.10 その他の治療
11.11 小児で考慮すべき点
11.12 コツとピットフォール
11.13 まとめ
 12章 熱傷
12.1 総論
12.2 解剖
12.3 熱傷深度
12.4 熱傷面積
12.5 治療
12.6 特別な部位
12.7 熱傷ケア補足
12.8 転送のための基準
12.9 まとめ
 13章 特別な配慮を要する患者の状況
13.1 小児
13.2 高齢者
13.3 無益な治療
 14章 外傷患者の集中治療
14.1 はじめに
14.2 外傷集中治療の目標
14.3 集中治療の各段階
14.4 低体温
14.5 全身性炎症反応症候群
14.6 多臓器障害症候群,多臓器不全
14.7 重症外傷の凝固障害
14.8 頭蓋内圧亢進の認識と治療
14.9 急性腎不全と急性腎障害の認識
14.10 代謝障害の評価
14.11 疼痛管理/鎮静/せん妄
14.12 家族への接触とサポート
14.13 ICUでのTertiary Survey
14.14 栄養管理
14.15 ICUでの予防処置
14.16 抗菌薬
14.17 呼吸補助療法
14.18 国際敗血症ガイドライン
14.19 腹部コンパートメント症候群(ACS)
14.20 臓器提供

5部 診断治療技術
 15章 外傷における低侵襲手術
15.1 手術手技
15.2 胸部外傷
15.3 横隔膜損傷
15.4 腹部外傷
15.5 非手術療法後の管理
15.6 外傷腹腔鏡の危険性
15.7 まとめ
 16章 外傷放射線医学
16.1 はじめに
16.2 放射線量と放射線防護
16.3 骨盤骨折
16.4 鈍的脾損傷
16.5 肝損傷
16.6 大動脈破裂と主要血管動脈損傷
 17章 外傷における超音波検査
17.1 外傷における超音波検査の有用性-はじめに
17.2 Extended FAST(EFAST)
17.3 外傷における超音波検査の他の活用法
17.4 トレーニングとピットフォール
17.5 まとめ

6部 特殊な治療の側面
 18章 過酷な環境および戦時下環境
18.1 はじめに
18.2 損傷形態
18.3 救急医療システム
18.4 トリアージ
18.5 多数傷病者事案
18.6 後送
18.7 蘇生
18.8 爆傷
18.9 戦場での鎮痛
18.10 麻酔の論点
18.11 集中治療
18.12 戦時体験の平時の外傷診療への活用
18.13 まとめ
 19章 外傷麻酔
19.1 はじめに
19.2 ダメージコントロールの準備
19.3 Damage Control Resuscitation(DCR)
19.4 Damage Control Surgery(DCS)
19.5 循環血液量減少性ショックでの麻酔の導入
19.6 戦場麻酔

付録
 付録A 外傷システム
A.1 はじめに
A.2 包括的な外傷システム
A.3 包括的な外傷システムの構成要素
A.4 システム内における外傷患者の管理
A.5 システムを構成する際の5ステップ
A.6 結果と研究
A.7 まとめ
 付録B 外傷スコアとスコアリングシステム
B.1 はじめに
B.2 生理学的スコアリングシステム(重症度指標)
B.3 解剖学的スコアリングシステム(重症度指標)
B.4 依存疾患スコアリングシステム
B.5 アウトカムの分析
B.6 外傷評価システム
B.7 臓器特異的損傷分類
B.8 まとめ
 付録C DSTCコース:コースに必要なものとその概要
C.1 背景
C.2 コースの発展と検証
C.3 コースの詳細
C.4 IATSICの公式認証
C.5 コースの情報
 付録D DSTCコース:コアとなる外科手技
 付録E 手術室の看護師のためのブリーフィング
E.1 はじめに
E.2 手術室の準備
E.3 外科手技の手順
E.4 閉腹
E.5 器具と大ガーゼのカウント
E.6 法医学的な側面とコミュニケーションスキル
E.7 緊急事態のストレス問題
E.8 結論

索引

付録Web動画 収載内容
 Access to the neck(頸部へのアプローチ)
 Access to the anterior mediastinum(前縦隔へのアプローチ)
 Aorta(大動脈)
 Access to the axilla(腋窩へのアプローチ)
 Bleeding control(出血コントロール)
 Craniotomy(開頭術)
 Fasciotomy(筋膜切開術)
 Heart(心臓)
 Heart and lung(心肺)
 Iliac shunting(腸骨動脈のシャント)
 Kidney(腎臓)
 Laparotomy(開腹手術)
 Liver(肝臓)
 Pancreas(膵臓)
 Pelvic packing(骨盤パッキング)
 Small bowel(小腸)
 Spleen(脾臓)
 Sternotomy(胸骨切開)
 Stomach(胃)
 Thoracic(胸部)
 Ureteric repair(尿管)