• HOME
  • 書籍
  • 中耳・側頭骨3D解剖マニュアル[DVD-ROM付]

耳科手術のための
中耳・側頭骨3D解剖マニュアル[DVD-ROM付]

もっと見る

京都大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科が行っている手術解剖実習コースのマニュアルをベースにして、耳科手術を安全に行うために必要な局所解剖を解説。中耳・乳突腔から内耳・内耳道・頭蓋底に至る領域をカバーし、通常操作することのない内耳の微細構造も示した。多数収載された標本写真、手術映像は、通常の2Dだけでなく3D(アナグリフ)でも呈示。精細な写真・動画により解剖を正確に理解することができる。 ●動画配信中! 付録DVDより一部をご紹介します(音声はありません) 第7章 経乳突的上鼓室開放

3D映像 (付属のメガネで立体視できます)

監修 伊藤 壽一
編集 高木 明 / 平海 晴一
発行 2014年10月判型:A4頁:176
ISBN 978-4-260-02036-7
定価 15,400円 (本体14,000円+税)

お近くの取り扱い書店を探す

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。

  • 序文
  • 目次
  • 書評

開く

監修の序(伊藤壽一)/はじめに(高木 明)

監修の序
 耳科手術を習得・施行するのに最も大切なことは「局所解剖の理解」であることは異論のないところである.しかし耳科手術の対象となる部位・器官の大部分が「側頭骨」なるきわめて複雑な骨組織に含まれており,局所解剖を理解するのは困難をきわめる.手術を始める初心者は,指導医のもと直接患者に向かうこともあるが,これは大変危険な作業である.これまではある意味患者の犠牲のもとに手術手技を獲得してきたことは否めない.以前から欧米先進国の主だった教育機関ではご遺体からの(摘出)側頭骨を用いて局所解剖の理解,手術手技のトレーニングを行ってきた.各施設ではこれをシステム化してトレーニングコースを企画し,多くの若い医師がそれに参加し,局所解剖の理解に努めている.国によっては若手医師で耳科手術医を目指す者はこのようなコースを受講し,実習することが必須になっている所もあり,また実習していないと実際の手術にも主術者として執刀不可となる場合もある.わが国でも以前より側頭骨を用いて解剖実習・手術トレーニングを行ってきた施設もある.しかし例外を除いては単発的な実習のみが多かった.システム化された実習コースを確立するためには,独自の実習室,実際の手術に即した手術機器の整備,卓越した指導者と指導書(実習マニュアル)が必要である.これらを整備するには多大の費用がかかる.また側頭骨を使用するためには,解剖学教室との協力など考慮すべき点も多い.
 ご遺体を使用して手術解剖実習をするのは耳科領域だけでなく,多くの外科系領域でも重要な課題となっている.わが国ではご遺体を用いての実習に関してこれまで明確な指針がなかったが,平成24年4月に解剖学会,外科学会が中心となり「臨床医学の教育及び研究における死体解剖のガイドライン」が出された.側頭骨は一部とはいえご遺体を使用するので,日本耳科学会が中心となり「側頭骨手術解剖実習に対する指針」を作成中である.内容の詳細はここでは省略するが,そこには実習を遂行するにあたり,詳細なガイドブック・テキストが必要と明記される予定である.
 本書は,耳科手術を習熟するための必須課題である「側頭骨解剖実習」のための詳細な指導書である.国内外に同様の実習書は刊行されているが,本書の特徴に関しては執筆者の一人である高木明氏の「はじめに」の項を参照されたい.特に強調したいのは,本書は手術解剖実習書であるが,あくまで実際の耳科手術に即した実習を考慮した点である.そのため使用する器具,機器も実際の手術に類似したものを使用し,まず第1章に基本的な「耳科手術道具の使い方」を記載した.さらに「乳突削開」「後鼓室解放」「人工内耳手術」「顔面神経減荷術」「内リンパ嚢開放術」「経迷路的内耳道アプローチ」など実際の耳科手術に即した解剖実習に対する指導書となっている.また実際の手術を行う際に,事前にCT,MRIなどの画像を撮影し手術計画を立てるのは当然であるが,これまで海外でも実習を行う際にこのような画像を撮影することは皆無であった.京都大学では以前より,側頭骨の解剖実習の際でも事前に当該側頭骨のCTを撮影し,その画像をもとに実習プラニングを立て実習を行ってきた.本書でも側頭骨のCTを撮影して,その画像を掲載しながら実習写真を載せ,解説する方式をとった.さらに実習のDVDも添付した.実際の手術の際の主術者は顕微鏡使用であるので立体的視野で手術を行う.最近では手術助手,見学者も3Dモニターを利用することが増え,主術者と近似の視野で観察することができるようになってきた.しかし,実習書はあくまで2次元状態であり,実際の手術・実習の視野とは乖離がある.そこで本書では完全ではないが3D画像も併載し,実習書からも立体的構造が読み取れるよう配慮を加えた.
 京都大学耳鼻咽喉科頭頸部外科学教室では2000年代初めより独自の手術解剖実習室を整備し,定期的に実習を行ってきた.また約10年前より多くの方々のご要望もあり,この実習をオープンにして学外の医師にも開放しており,実習を受けた学外の医師は既に500人を超えている.これだけ多くの医師が手術解剖実習を受ける必要性を感じていることになる.最近では各大学を中心に実習室を整備し,実習プログラムを組む施設が増加しており,この傾向が継続されることが強く望まれる.
本書が,これから耳科手術を始めようとする若い医師,また現在の技術をさらに向上させようとする方々,さらにそのような医師を指導する立場にある方々の一助になれば幸いである.

 2014年9月
 伊藤壽一


はじめに
 本書はもともと側頭骨のdissectionの実習の手引きとして始まったので,手術書というより側頭骨の解剖を知るための書となっている.一般に手術というのは解剖を熟知して初めてよい手術が行え,また,リスクの回避も可能となる.過去において,解剖は,手術経験の積み重ねから実践的に学ぶとされていたが,中耳手術においては経験を積み重ねても内耳形態の知識は曖昧なままである.実際,内耳形態を熟知しなくても,中耳の手術は可能なことが多い.しかし,進行した真珠腫などでは,半規管,顔面神経の裏側に病変が入り込み,難渋することがある.このような場合,中耳と内耳の明瞭な境界が存在しないなかで,副損傷なくどこまで内耳・顔面神経に迫れるかが手術の成否を決めることとなる.つまり,側頭骨の内耳形態を知ることは中耳手術の限界を知ることであり,結果として良好な手術結果につながる.
 通常の耳科手術では内耳の全貌,顔面神経の全走行を確認することはないので,これらの3次元構造の理解は側頭骨のcadaver dissectionという実習によるしかない.そのため,欧米では耳鼻咽喉科専攻医はtemporal bone dissectionが複数回,義務づけられている.
 ただ,海外でのdissection courseでは,内耳骨包の輪郭までは削開し,その後の内耳膜迷路には興味を払うことなく内耳道・聴神経に至る手技説明となるが,本書では膜迷路の学習も1つの目標とした.これは内耳の機能・生理を学ぶヒントとなる.また,海外のように複数の側頭骨を利用できないので,1つの側頭骨で様々な術式が学べるよう手順を工夫した.また,可能な限り,3Dの写真を挿入し,その立体感を学びやすくした.
 幸い,京都大学耳鼻咽喉科には本格的な側頭骨実習室が整備され,内外の耳科学をめざす医師を対象にdissection courseをもつことが可能となった.その実習でのめざすところは次のような点にあると考えている.
(1)側頭骨全体の立体構造の把握
 立体の把握は書物では不可能である.実習では手を動かし,構造物を様々な角度から観察して,3次元構造の体得をめざす.
(2)内耳を知って中耳手術の限界を知る
 通常の手術では削ってはならない内耳,顔面神経部をあえて削り出して,その見えざる空間位置を確認する.
(3)機能と構造の把握
 機能と構造は不可分である.半規管,耳石器の構造,空間位置を知れば,BPPVの発症機序,耳石置換法の理解が容易となる.また,蝸牛のラセン板を確認することで,骨化した蝸牛への人工内耳の代替アプローチ法を考えることができる.
(4)新しい手術法の考案
 singular neurectomy, cochleosacculotomy などは解剖を熟知したうえで考案された術式であった.また,前庭窓欠損のような内耳奇形を有する場合の開窓部位などは内耳膜迷路の形態を知ってはじめて可能となる.

 耳科手術は指導者の下で手術を行っていても一瞬にして取り返しのつかない副損傷をきたすことがあるので,曖昧な側頭骨解剖の知識で手術を行うことは許されない.
 本書にはDVD-ROMが付属し,dissection ならびに手術を動画で見ることができる.しかも簡便ながらも3Dで鑑賞できる.手術の動画は3D画像に時間軸を付加した4次元データとなり,見る人にとって無限の情報を引き出すことができる.本書の解説とDVD-ROMが耳科手術をめざす専門医の一助となり,広く側頭骨実習の参考書となることができれば,望外の喜びである.

 最後に,膨大な資料を形ある成書に纏めてくれた平海晴一先生に感謝いたします.

 2014年9月
 高木 明

開く

監修の序
はじめに
本書の使い方

第1章 耳科手術道具の使い方
  顕微鏡
  ドリル
    カッティングバーとダイアモンドバー/バーの傾き/
    バーの回転方向と動かす向き/面で削開/十分な水/マイクロドリル
  洗浄
  吸引
  鋼製手術機器
  その他
第2章 京都大学における側頭骨解剖実習
  実習台
  側頭骨固定器具
  顕微鏡
  ドリル
  吸引
  鋼製手術機器
  空調
  廃液
  内視鏡
  CT撮影装置
  実習の手順とチェック項目
第3章 側頭骨外表面
  側頭骨全体
  側頭骨外側面
    Henle棘/側頭線/篩状野,乳突窩/鼓室乳突縫合と鼓室鱗縫合/
    鼓膜切痕/下顎窩/錐体鱗縫合と錐体鼓室縫合
  側頭骨下面
    茎乳突孔/顎二腹筋溝/頸動脈管/頸静脈窩/頸鼓小管/乳突小管/
    鼓室神経小管/蝸牛水管外口/頸静脈孔内稜
  側頭骨内側面
    内耳道/蝸牛水管外口/S状静脈洞溝/前庭水管外口/弓下窩/上錐体洞溝
  側頭骨上面
    三叉神経圧痕/顔面神経裂孔/弓状隆起/破裂孔/卵円孔/棘孔
  側頭骨前面
    頸動脈管/鼓膜張筋半管と耳管半管
第4章 側頭骨CT
第5章 皮膚切開,骨膜剥離
  耳後切開
  耳前切開
  耳内切開
  拡大耳後切開
  筋骨膜弁挙上
第6章 外耳道後壁保存型乳突削開
  乳突削開の開始部位
  乳突洞開放
  外側半規管隆起
  実際の症例
    右真珠腫性中耳炎(外耳道後壁保存型乳突削開術,経乳突的上鼓室開放)/
    左真珠腫性中耳炎(外耳道後壁保存型乳突削開術,経外耳道的上鼓室開放)
第7章 経乳突的上鼓室開放
  キヌタ骨の発見
  ツチ骨頭の発見
  解剖ノート
    上鼓室の膜構造
  実際の症例
    右癒着性中耳炎(経乳突的上鼓室開放)
第8章 後鼓室開放
  後鼓室開放を行う部位
  解剖ノート
第9章 蝸牛開窓,人工内耳電極挿入
  正円窓アプローチ
  蝸牛開窓
  解剖ノート
    蝸牛開窓と正円窓アプローチ
  実際の症例
    先天性両側高度感音難聴(右人工内耳埋め込み術:1歳6か月)
第10章 骨部外耳道後上部切除
  外耳道皮膚剥離(tympanomeatal flap挙上)
  骨部外耳道後上部切除
  実際の症例
    左耳硬化症(アブミ骨手術)
第11章 経外耳道的上鼓室開放
  解剖ノート
  実際の症例
    右真珠腫性中耳炎(経外耳道的上鼓室開放術)
第12章 経乳突的顔面神経減荷
  顔面神経乳突部
  減荷の末梢側限界
  キヌタ骨摘出
  顔面神経の露出
  解剖ノート
    茎乳突孔から耳下腺内顔面神経
  実際の症例
    左末梢性顔面神経麻痺(顔面神経減荷術)
第13章 前鼓室開放
  鼓膜張筋腱周囲の観察
  耳管上陥凹の観察
  解剖ノート
    内視鏡による前骨板の観察/耳小骨連鎖を保存した状態での前骨板の除去
第14章 外耳道後壁削除
  解剖ノート
  実際の症例
    右真珠腫(外耳道後壁削除,軟組織再建)/左乳突腔障害(中耳根治術)
第15章 内リンパ嚢開放
第16章 半規管の解剖
  半規管骨包の剖出
  膜迷路の剖出
  解剖ノート
第17章 顔面神経の移動
  解剖ノート
第18章 前庭の解剖
  卵形嚢の解剖
  球形嚢の解剖
  解剖ノート
第19章 蝸牛の解剖
  基底回転と鈎部
  第2回転から頂回転
  解剖ノート
  実際の症例
    右内耳内神経鞘腫(蝸牛削開)
第20章 前庭水管の解剖
  解剖ノート
第21章 内耳道
  上下前庭神経の剖出
  顔面神経の剖出
  蝸牛神経の剖出
  解剖ノート
  実際の症例
    左聴神経腫瘍(経迷路アプローチ)
第22章 迷路下アプローチと蝸牛下アプローチ
  迷路下アプローチ
  蝸牛下アプローチ
  迷路下アプローチと蝸牛下アプローチ
  解剖ノート
  実際の症例
    左グロムス腫瘍(fallopian bridge technique)
第23章 経下顎窩アプローチ(側頭下窩アプローチB型)
  下顎窩の開放
  鼓索神経の追跡
  中硬膜動脈
  耳管・頸動脈
  実際の症例
    右錐体部真珠腫(経下顎窩アプローチ)
第24章 中耳から頭蓋底,上頸部
第25章 頭蓋底から脳神経
  術野の拡大
  脳神経の確認

付録DVD-ROMご利用に際してのご注意
索引

開く

ビギナーには最初から,ベテランには後ろから読み進めてほしい書
書評者: 加我 君孝 (東大名誉教授/東京医療センター臨床研究センター名誉センター長/国際医療福祉大教授・言語聴覚センター長)
 現代の耳科学手術は人工内耳埋込術と頭蓋底外科というモダンな先端的手術と,60年の歴史のある鼓室形成術からなる。前者は耳科学のエキスパート,後者は耳科学を目指す新世代が最初に目標とする手術である。京大の伊藤壽一教授が他大学の参加者を募って,1年に2回,側頭骨の解剖を中心とする修練のためのコースを長い間開催してきた。国立大学の教室として,このような全国の耳科医に対してコースを開催し続けたのは京大のみである。最近では世界中の各地の大学で同様のコースが企画されているが,私も駆け出しの頃,ロサンゼルスのHouse Ear Instituteの側頭骨解剖コースに2回参加した。このコースから学んだことはたくさんあった。しかし,昨年突然閉鎖されたため,この伝統あるコースもなくなった。私だけでなく世界各国からの参加者はその教育への熱意,臨床のシステム,研究,そして米国の耳科学の伝統に強い印象を受けたことと思う。日本で同様のことができるであろうか。

 伊藤壽一教授と私は,UCLAに同時期に研究のために留学していたことがあり,それ以来親しい関係にある。ロサンゼルス留学で生まれた夢をわが国で実現したのが京大の側頭骨解剖コースと思われる。本書はその成果をA4判の大きなサイズの本に,鮮明な写真と3Dのstill写真と3D DVDが付録として付いている意欲作である。

 本書はビギナーは最初から読み進め,エキスパートは逆に後ろから読むと刺激されるに違いない。鼓室形成術に必要な局所解剖がかゆいところに手が届くように記述されている。手技上注意の必要な点について警告しているところがいい。エキスパートの手がける人工内耳埋込手術,頭蓋底外科の部分は私も大いに参考になった。側頭骨には狭いところに重要な器官が密集している。両眼で観察して手術するのであるが,現在の手術用顕微鏡ではメインの術者しか立体視ができない。すなわち,奥行きがわからないのが大きな弱点である。そのため本書は3D化に力を入れている。すなわち立体的に頭の中に組織解剖を叩き込んで,初めてより安全な手技が可能となる。最近では乾燥側頭骨の価格も高くなり,ましてcadaverになるとわが国では手に入れることはより困難になっている。このような時代,パーソナルに自分の脳を立体写真と動画で刺激できる本書は有用である。ただし,本書に記述している手術手技がどのような歴史的経緯で,誰によって提唱されて発展してきたか,コラムとして解説があればビギナーにとってより興味を持って本書を読み進めることができるのではないかと思う。

 側頭骨の解剖のテキストは立体写真を付録とするものがこれまでも存在するが,本書は耳科学のエキスパートや初心者にとっても優れている。この本の編者の高木明先生の読者にわからせようとする執念と工夫,そして膨大な写真データも準備整理して取り組んだ平海晴一先生の努力の結晶である。

 手術の前にはベテランの域に入っても解剖書を開き予習するように口を酸っぱくして言われたのは切替一郎東大教授であった。本書はその期待に応えることのできるテキストとして,耳科学の術者の座右の書として利用することを薦めたい。
解剖の知識と手術の実践を兼ね備えた若手医師必携書
書評者: 村上 信五 (名市大大学院教授・耳鼻咽喉・頭頸部外科学)
 耳科手術を学び上達するには何が必要か。それは側頭骨解剖の知識と画像の診断能力,そして手術のイメージトレーニングと実践である。すなわち,まずはCTやMRI画像から病巣を読影し,側頭骨解剖と融合させ,手術のイメージトレーニングができるようになることである。

 この度,医学書院から『耳科手術のための中耳・側頭骨3D解剖マニュアル[DVD-ROM付]』が刊行されたが,本書はまさにそれを可能にする書である。耳科手術のための側頭骨解剖書や手術書は数多く出版されているが,その多くはイラストや死体解剖あるいは手術写真で網羅的に解説されているため,解剖と実際の手術視野が一致しておらず,手術がイメージできないことが少なくない。耳科手術に必要なのは,いわゆる「surgical anatomy」で,手術のための実践的な側頭骨解剖である。本書の特徴は,(1)耳科手術に必要な最小限の側頭骨解剖と用語解説,(2)基本的な側頭骨CTの読影,(3)手術機器・器具の紹介と使用方法,(4)写真とDVD動画による死体側頭骨の手術解剖,(5)写真とDVD動画による手術の実際を有機的に秩序立てて解説している点である。また,手術は基本的な鼓室形成術から,人工内耳植え込み術,顔面神経減荷術と移行術,錐体部病変へのアプローチ,内リンパ嚢開放,聴神経腫瘍手術など,ほとんどの中耳手術と側頭骨手術が網羅されている。そして,中耳手術の解剖では,実際の手術では剖出しない深部の内耳や顔面神経が描出されている。これは著者のメッセージでもある「内耳を知って中耳手術の限界を知る」を実践させるための方策で,長年にわたり中耳・側頭骨手術に携わってきた著者ならではの画期的なアイデアである。

 2012年に日本解剖学会と日本外科学会から「臨床医学の教育及び研究における死体解剖のガイドライン」が公表されたのを受け,評者の施設でも死体を活用したsurgical trainingのワーキンググループが結成されている。今後,多くの施設で死体側頭骨を活用した手術教育が始まることが期待される中,本書の発刊はタイムリーで,これから中耳・側頭骨手術を学ぼうとしている若手医師にとって,本書はまさに解剖の知識と手術の実践を兼ね備えたバイブルになると確信する。

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。