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診断戦略

診断力向上のためのアートとサイエンス

著:志水 太郎

  • 判型 A5
  • 頁 288
  • 発行 2014年04月
  • 定価 3,672円 (本体3,400円+税8%)
  • ISBN978-4-260-01897-5
何が診断を曇らせるか、どのように養えば良いか
名医の思考や巧みさ(Art)は再現できるか? その問いに正面から答える。多くの名医に師事し、経営診断も学ぶ著者による「診断力の鍛え方」。診断にともなうバイアスとのつきあい方、病歴をよりクリアにするための具体的な質問例、鑑別ごろ合わせなど、明日から役に立つ心構えとテクニックが満載。認知科学とハードな臨床経験を背景に紡がれる言葉は、まさにArt & Science。
序 文
推薦のことば(ローレンス・ティアニー Jr./青木 眞/藤本卓司/徳田安春)/
(志水太郎)

推薦のことば
Praise

Dr. Shimizu has provided for his readership a much-needed vo...

推薦のことば(ローレンス・ティアニー Jr./青木 眞/藤本卓司/徳田安春)/
(志水太郎)

推薦のことば
Praise

Dr. Shimizu has provided for his readership a much-needed volume. For as long as physicians have practiced, many of the same ideas he espouses have been used, one might say implicitly. While this has its merits, it serves a far greater good to make these concepts explicit. Who better than Dr. Shimizu to do this? I have known and worked with him for many years in Japan, and the force of his intellect and analytical abilities suit him well for the task. This superb book should be essential to all who practice the “art and science” we know as medicine.

 多くの読者に切望されていた本を志水先生が書き上げました.医師の歴史のなかで,彼と同様のアイディアの多くはいわゆる暗黙知として使われていたのかもしれません.その真価が存在する一方で,その概念を明らかにすることは巨大な価値をわれわれに与えるでしょう.
 志水医師をおいてほかに誰がこの仕事をなし得るでしょうか.日本において私は長年彼を知り,一緒に仕事をしてきました.彼の慧眼と分析の能力がこの仕事を可能にしたといえるでしょう.
 この優れた本は,医学という名の「アートとサイエンス」を実践するすべての人々にとって最も重要な一冊となるに違いありません.
Lawrence M. Tierney. Jr.
ローレンス・ティアニー Jr.


 デジタル化が進み情報アクセスや仕事の効率がよくなり,結果として数値や画像といった扱いやすい情報「以外」のアナログな部分での差を感じる時代となった.本書の真髄はそこにある.そうした才に恵まれた志水先生は,少しでも長くベッドサイドで患者から学ぶことが喜びであり,成果を惜しみなく伝えることも実に幸せそうである.
 本書は学習者がぶつかるエラーや困難のときにこそ,他の成書とは異なる支えとなるだろう.彼が言語化したものは単なる知識だけではないからである.
青木 眞


 日々診療を行うなかで,診断力の向上は最も大切なものの一つです.志水先生の書かれたこの本は,私たち臨床医がふだん無意識に行っている診察時の思考過程を客観的に見直してレベルアップするためのきっかけを与えてくれます.鑑別診断の方法について,すでに提唱されているものから志水先生自身が考案されたものまで,盛り沢山に紹介してあります.
 きっと読者の皆さんが築き上げてきた方法がさらに向上するための大きな助けになると確信します.
藤本卓司


 自分が志水太郎先生に出会ったのは彼が初期研修医のときであったが,その頃すでに院内全科診療マニュアルを1人で書き上げていた.その後われわれ2人は,若手医師・医学生の教育のための闘魂外来などをともに展開する同志となった.彼が超人的な行動半径の広さで世界中を飛び回りながら診療・教育の活動を継続しているなか,最も関心のある分野である診断学について送り出すのが本書である.
 最新の研究内容に加えて,PCSやSystem 3など彼独自の実践的なアイデアを縦横無尽に結びつけた診断学イノベーションが満載である.
徳田安春



Preface
すべての医師が診断の力をのばすために


 本書は日本の現役の総合内科医が書きました.患者が病気と闘う者であるなら,医師はその患者にとって治療過程をともに過ごし戦う最大の参謀役です.診療過程のなかで診断の果たす役割は重要です.診断を定めることは患者を苦しめる原因の本態を突き止めることで,本態を突き止めればその戦いの展望を予測して焦点を絞ったプランを立案できるからです.それだけに診断の力は医師に必要とされる根幹的な技術の一つになります.診断する過程は容易なこともあれば,時に困難なこともあります.複雑・不確実性の多い診断環境や生物学的,社会学的な多様性の交絡と戦いながら,医師はさまざまな情報と思考過程を駆使して一つひとつの疑問や問題点を明らかにして診断を詰めていきます.この過程はあらゆる問題解決の戦略的手法と同じであり,本書ではこの診断の方法論・思考過程を総称して「診断戦略」と名づけました.

正しい診断を導くための普遍的な原則を紹介
 これまで診断理論に特化した分析とその具体的な訓練方法について書かれた書籍は国際的にもほとんどありませんでした.理論が明文化されにくかった理由は,その概念を形式化・言語化することが困難だったからなのかもしれません.一方で,理解すれば診断の力を高める基本的な原則もわずかながら確実に存在します.
実際の臨床現場は複雑かつ不確実性に満ちています.不確実な状況のなか,診断の力を高める原則を臨機応変に現場で適応しなければならないことは試練かもしれません.しかし,診断は患者の診療方針を決める核となる要素であり,その診療方針のオリエンテーションが正確につけられることは患者の診療を正しい方向に導くことにつながります.そのため,診断のための普遍的な原則を軸に診療を進めていくことは,たとえ最終的に診断が難しい場合でも患者ケアという航路を進むうえでの羅針盤の役割になると思います.

診断戦略の反復訓練とアートの習得が診断力を高める
 本書の戦略編では現存の診断戦略を改めて紹介したうえで,近年新しく発見された普遍性の高い効果的な診断戦略や診断の助けとなるいくつかの原則を紹介し,さらにその具体的な訓練方法にも触れました.すべての医師がすばらしい天賦の才能をもち,診断という荒波の航路を容易に渡りきることができるとはかぎりません.しかし,主要かつ重要な診断戦略を基本に据えた思考とそれに基づいた行動の絶え間ない反復訓練が診断の天才を生み出すこともあると思います.本書はそのような情熱をもって努力する医療者のために書かれました.

 戦略編のもう一つの重要な内容として,診断のどのような場面でも適応されるべき技法(アート)について取り上げました.診断のプロセスにはいわゆる左脳型思考ともいわれる一切の科学的,機械的な思考過程だけでなく,直観や想像力,構想力といった診断のアートの一部であるいわゆる右脳型思考も存在します.この両者の共同作業が柔軟性と妥当性をもった診断を可能にすると思います.
 アートという言葉は漠然とした概念であり,臨床医学における定義としては明確なものはありません.Evidence-based medicine(EBM)に対してのNarrative-based medicine(NBM)の対比を例に取ると,サイエンスとしての医学ではない部分をアートとして定義するならば,臨床医学におけるアートは診断における直観をはじめとする思考だけでなく,患者とその家族の人生や社会との関わりなども含む複雑性・多義性のある包括的領域といえると思います.診断の思考のプロセスからすればそれは外郭に位置しますが,患者との心理的交流や人間としての対話というアートの部分は医療行為全体からすればむしろ中心に位置するものであり,診断においてもその重要さに触れておくべき話題と思います.診断の手法が確率論や規範的な分析理論といった学問体系にのみ裏づけされるとすれば,それは診断が人間を対象としたサイエンスとなってしまい,そこには人間同士の生のふれあいや温かい心の交流が欠如したがらんどうの味気ない方法論になってしまいます.そこで戦略編では診断戦略に内在するアートには含まれない,しかし診断に直結するアートとその教育・伝達法についても解説を試みました.

知識をシンプルに整理する力が思考にスピードと堅牢性を与える
 一方,診断のアウトカムを確実に積み上げるうえで医師の思考力を支えるのは豊富な医学知識です.増え続ける膨大な医学知識に対峙しなければならない現代の医療者に必要なことは,必要な知識を迅速かつ効果的に運用する整理・分類の力だと思います.そのためには,混然一体となってわかりにくかったり,慣習的な既成概念のもとすでに分類されている知識については一度すべて分解し,本質的で実用的な観点からゼロベースで再構成・再分類・概念化する作業を自分自身で行ってみることが一つの方法かもしれません.この作業を平時から行っておくことは煩雑でときに無駄なように思えるかもしれませんが,いざという時の知識運用の機動力に決定的な違いを生みます.自分の頭で考え,試行錯誤したものは記憶の定着が早く,また強固です.この作業に必要な能力は,多くの現象に共通する臨床的特徴を見抜く視点,知識を再分類してシンプルにまとめようとする発想力や想像力です.診断の分野でも当然この考え方は活きると思います.そこで続く戦術編では,診断の局地的な状況で活きる技術を紹介するとともに,より各論的な内容,つまり症候別・病態別に重要な鑑別疾患を分析的手法で整理し,またできるだけ迅速に記憶を呼び起こす工夫例も紙面の許すかぎり紹介しています.筆者が現場で実際日常的に頻用する,即戦力となる具体的な知識の整理方法を具体的な形で記載しました.その整理法はSystem 2(分析的思考)的な手法,例えば語呂合わせや表を用いたものも多いです.それは語呂合わせにまとめたり,表にしたりする手法が最も汎用性が高く,かつ日常業務の間でも容易に考え整理することができるからです.そして,各項目の本質的な要点をDiagnostic Point,あるいはPearlとして付記し,代わりに他書で得られるような教科書や二次文献でも確認できる一般的な疾患の情報は省きました.

 まとめると,本書は診断に必要な診断戦略とアートについて解説した戦略編,診断の各論的な局面で活きる戦術と,各論的な知識の整理方法を実例を通して紹介した戦術編からなります.

 本書が医師の今日からの診断能力の向上に貢献することを願っています.

 2014年3月
志水太郎

書 評
  • 診断学を超えた,臨床のバイブルとも言える一冊
    書評者:稲葉 崇(筑波大病院・総合診療グループ)

     本書は診断の道筋や戦略を言語化した,今までの診断学書とは一線を画す一冊である。普段ベテラン医師が無意識に頭の中で行っている臨床推論,つまり「戦略」を明快に言語化・理論化し,私のような経験の浅いレジデントでもその思考過程を容易にたどれるように書かれている。そして,ベテラン医師の戦略に豊富なバリエーシ...
    診断学を超えた,臨床のバイブルとも言える一冊
    書評者:稲葉 崇(筑波大病院・総合診療グループ)

     本書は診断の道筋や戦略を言語化した,今までの診断学書とは一線を画す一冊である。普段ベテラン医師が無意識に頭の中で行っている臨床推論,つまり「戦略」を明快に言語化・理論化し,私のような経験の浅いレジデントでもその思考過程を容易にたどれるように書かれている。そして,ベテラン医師の戦略に豊富なバリエーションがあるように,本書にも実際の診療で使える多彩な戦略バリエーションが記載されている。これらの戦略を明日からの実臨床で実践していくことで,診断のエラーを防ぎ,より早く確実な診断へと至ることができるはずだ。

     今までの診断書と大きく異なる点がもう一つ。臨床推論の具体的なトレーニング方法が詳細に述べられている点である。経験豊富なベテラン医師が患者を目の前にしてどのように考え,診察し,診断していくのか。その思考過程を身に付けるためのトレーニングをどのように行えばよいのか。その具体的な方法論にも言及している。

     ここまで戦略戦略などと書いてきたが,残念ながら具体的なイメージが湧きにくいかと思う。それもそのはず,今まで言語化されてきた書籍がほとんどないからだろう。この書評ではその戦略の具体的な中身を紹介できないが,ぜひ手元に取って一読していただきたい。その完成度の高さに感動し,日々の診療における必携の一冊となるはずだ。

     また,本書はコンパクトなサイズでありながら,その内容は診断学書と呼べる範疇を超えている。記憶に定着しやすいフレームワーク(語呂合わせ)の作り方や,教育効果の高いカンファレンスのやり方といった教育における戦略についても触れられており,教育の場面でも大変有用である。また,病歴聴取における技法,患者への接し方や自分のコントロールの仕方といったプロフェッショナリズムについてまで言及されており,臨床のバイブルと言っても過言ではない。

     私は残念ながら著者との面識はないが,目の前にいる著者から直接レクチャーを受けているかのような感覚になった。おそらく,今まで学生や研修医の教育に情熱を注いできた著者の教育に対する熱い思いがそのまま書籍になったからであろう。学生・研修医はもちろん,中堅・ベテランの医師であっても自分に持ち合わせない戦略を得るきっかけになるのではないだろうか。
目 次
【戦略編】
I 基礎的診断戦略
 System 1とSystem 2 標準的診断プロセス
 System 1 直観的思考の訓練
 System 2 分析的思考の訓練

II 新しい診断戦略
 System 3 ラテラル・アプローチ:逆転の発想で,状況を打開する
 Pivot and Cluster Strategy(PCS):ひらめきながらも疑う,ハイブリッド診断戦略
 Horizontal-Vertical Tracing(HVT):合併疾患と原因疾患を確実に追跡し,捉える
 Mesh Layers Approach(MLA):鑑別の網を重ねて診断を絡め取る,診断戦略の奥の手
 新しい診断戦略の開発:あなた自身が診断戦略を生み出すために

III 病歴の技法
 病歴は聴取しない
 4C:病歴を明らかにするための4つのC
 OSCA frame:効果的に病歴を復元するフレームワーク
 BEO approach:よりマクロな視点で病歴を把握する
 身体診察の重要性:病歴に並ぶもう一つのアート

IV 現場における診断学教育
 Division of Diagnostic Medicine(DDM)の設置
 プロブレムを漏らさず挙げる訓練
 診断をあきらめない

【戦術編】
I 注意すべきいくつかの戦術的要所
 診断を困難にする“霧”への対処法
 ブイ(buoy)疾患
 オッカムとヒッカムの切り替え

II 難症例に打ち勝つ戦術
 Time frameを意識した戦い方
 発症様式で絞り込む
 外から絞り込むルール
 関連痛
 ビリヤード・ドレーン理論
 稀な疾患をつかまえる
 その他の重要な戦術

III 即戦Key Mesh-現場ですぐ出る鑑別70
 急性期
 バイタルサイン
 症候
 検査

深く理解するための文献と付記
索引


Key Mesh
 鑑別整理法

急性期
 プレショックに気づくサイン
 PEAの原因
 整理のポイント ショック

バイタルサイン
 ショックで徐脈(BP↓+HR↓)
 相対的徐脈
 相対的頻脈
 超高熱(>41.5℃)
 低体温

症候
 3大不明熱
 不明熱:3大不明熱以外
 薬剤熱(主なもの)
 アジア渡航者の発熱
 感染症の不明熱として考慮すべきもの
 遺伝性周期性発熱症候群
 全身倦怠感または食欲の少ない体重減少
 食欲が保たれる体重減少
 意識障害と痙攣
 整理のポイント 失神
 整理のポイント めまい
 中枢性のめまいを疑うとき
 (一過性)視力低下
 動悸
 心房細動の原因
 致死的胸痛
 肺炎(X線上)と思ったときの鑑別
 危険な嘔気・嘔吐
 吐血・上部消化管出血
 下部消化管出血
 整理のポイント 腹痛
 急性下痢(小腸型:毒素型)
 吸収不良の鑑別
 急性下痢(大腸型:侵襲型)
 便秘
 多尿(>3L/日)
 溶質(浸透圧)利尿
 腎性尿崩症の原因
 診断の難しい浮腫
 血管炎を鑑別に挙げるきっかけとなる臨床症状・臨床所見
 血管炎のcluster
 骨痛
 癌患者の疼痛で鑑別すべきもの

検査
 大血球症
 VB12,葉酸欠乏
 血小板減少
 脾腫を起こす疾患
 代謝性アシドーシス:Anion Gap上昇型
 代謝性アシドーシス:Anion Gap非上昇型
 高カリウム血症
 代謝性アルカローシス
 低カリウム血症
 整理のポイント 低カリウム血症
 LFT(AST)>1,000U/Lを示すもの
 ALP>1,000IU/Lを示すもの
 LDH>1,000IU/Lを示すもの
 フェリチン>3,000ng/mLを示すもの
 ESR>100mm/時を示すもの
 PT-INR延長の原因

頻用cluster
 感冒症状のKiller疾患cluster
 脳梗塞のcluster
 肝性脳症のcluster
 気管支拡張症の原因
 特発性間質性肺炎
 整理のポイント 気管支拡張症
 非心原性急性肺水腫の原因
 急性左心不全の原因
 DCM拡張型心筋症の続発性の原因
 心筋炎の原因
 横紋筋融解の原因