2013年版の序
24年前に「治療薬マニュアル」がはじめて出版されて,ほぼ四半世紀にならんとしている.当時の「治療薬マニュアル」の厚さに比較してみると,現在のマニュアルは2倍近い厚さへと拡大している.この厚さは次々とマーケットにあらわれた新しい抗腫瘍薬あるいは抗自己免疫疾患薬としての分子標的薬,経口糖尿病薬の追加,新抗凝固薬などを加えた情報量の多さによる.また,すでに十分利用されていることであるが,後発品全てについて,それらの商品名,製薬会社名,剤形,規格単位を網羅してある.この点は一般名処方を考慮している医療機関に対して,十分な役割を果たしていると思う.後発品がこのマニュアルにのっているので,他院からの患者がどのような後発薬を使用しているか知ることができ,誤投薬をさけることにも一翼を担っていると信じている.
さて「治療薬マニュアル2013」でも,新たな要素が加わっている.妊婦および授乳婦への投薬リスクをアイコン形式で掲載するようにした.胎児あるいは乳児への薬物リスクは常に頭を悩ませる問題である.妊婦への投薬リスクはオーストラリア医薬品評価委員会からのデータを利用している.また,授乳婦への投薬リスクはHaleによる「Medications and Mothers' Milk 2012」を参考にしている.ここにあげた2資料のデータは世界的に評価されており,わが国においても十分に利用できるものである.
本書はわが国で使われているほぼ全ての薬物を掲載しており,書籍形態によるだけでなく, 「今日の診療DVD-ROM・WEB版・イントラネット版」でも幅広く活用されている.これらのマニュアルの使用方法は利用者の仕事場,年齢などによって,異なるであろうが,各セクションの最初にかかげられたように薬物の特徴,あるいは主たる疾患に対する薬物の投与方法あるいは病態による薬物選択の違いなども配慮されており,利用しやすく工夫されている.
医療に携わる医師にとっては
「今日の治療指針」との相互レファレンスにより,よりよい医療がおこなえると考える.また,教育制度の改正により,6年制となった薬学を志す学生諸君はもとより,現場で処方に関与する薬剤師の方々の要望には対応できていると自負している.
最後に,このマニュアルの進歩発展に尽力された執筆者の方々と医学書院編集担当諸氏に心より感謝したい.
2012年10月
北原光夫