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レジデントのための感染症診療マニュアル


(第3版)

著:青木 眞

  • 判型 A5
  • 頁 1536
  • 発行 2015年03月
  • 定価 10,800円 (本体10,000円+税8%)
  • ISBN978-4-260-02027-5
感染症診療の原則はいつも変わらない、いつも一緒
幅広い読者層に支持されてきた感染症診療のバイブル、待望の第3版。熱・白血球・CRPに依存した感染症診療から自由になるための1冊。第一線で活躍する感染症医の協力を得て、さらに内容が充実。感染症以外の疾患との鑑別など、総合診療にも役立つ。
序 文
第3版 序

 初版は1990年代の後半,自分が信じる感染症診療を少しでも多くの医療従事者に届けたい思いで執筆したものである。「日本の感染症診療が,このままでよいはずがない……」という強い思いが2000年発行の初版として形となった。「日本になじまない」「米国に帰ったほうがよい」とい...
第3版 序

 初版は1990年代の後半,自分が信じる感染症診療を少しでも多くの医療従事者に届けたい思いで執筆したものである。「日本の感染症診療が,このままでよいはずがない……」という強い思いが2000年発行の初版として形となった。「日本になじまない」「米国に帰ったほうがよい」といったこともいわれた当初,何度も版を重ねることなど思いもよらないことであった。
 第2版は日々データが古くなるにもかかわらず利用者が減らない初版を放置できず,2008年に出版となった。相当数の文献を再収集,再検討して内容を拡充。気づけば頁数は初版の2倍以上となっていた。途中,大元のガイドラインが変われば書き直した。
 そして,このたびの第3版は,これまでの孤独な作業をやめ,各章を筆者が信頼する次世代,次々世代の医師らにお願いすることにした。帰国後当初から,一番の理解者は常に最前線の若い医師であり,その人たちがすでに名だたる感染症の専門家として活躍するフェーズになった。教育者としてこれ以上の幸福はない。
 本書は単著のときよりも内容が格段に向上しており,その意味では第3版は新しい執筆協力者たちによる全く新しい本ともいえる。同時に筆者が帰国以来20年間伝えてきた「感染症診療の原則」は基本骨格として各章で丁寧に踏襲されており,その意味で第3版は第1,2版となんら変わることがない。
 この版は東北大学の具 芳明先生の助力なしに日の目を見ることはなかった。執筆協力者の選考,期限を過ぎた原稿の催促,すべての原稿校正を筆者とともにこなしてくださった。彼の表現によると「同じ幹だけれども,より豊かに葉が生い茂った木」となった第3版を皆様にお届けします。皆様の診療や教育に役立てて頂ければ幸いです。

 2015年1月
 青木 眞
書 評
  • すべてのレジデントと指導医のために
    書評者:岩田 健太郎(神戸大大学院教授・感染症治療学/神戸大医学部附属病院・感染症内科)

     青木 眞先生の『レジデントのための感染症診療マニュアル』が改訂されました(2015年3月,第3版)。本書の存在は日本の臨床感染症学の方向性を大きく変えました。歴史に残る名著です。現在,臨床感染症に関わる関係者で,本書に救われた体験のない者は皆無でしょう。

     しかし,です。本書の本質はあまり正...
    すべてのレジデントと指導医のために
    書評者:岩田 健太郎(神戸大大学院教授・感染症治療学/神戸大医学部附属病院・感染症内科)

     青木 眞先生の『レジデントのための感染症診療マニュアル』が改訂されました(2015年3月,第3版)。本書の存在は日本の臨床感染症学の方向性を大きく変えました。歴史に残る名著です。現在,臨床感染症に関わる関係者で,本書に救われた体験のない者は皆無でしょう。

     しかし,です。本書の本質はあまり正しく理解されていません。ターゲットとするオーディエンスには届いていないからです。正しいオーディエンスに『マニュアル』を届けることが,本稿の主たる目標です。要するに,『マニュアル』を使いこなしている人はどうせ第3版も購入されるに決まっていますから,本稿は読まなくてもよいです。

     では,「正しいオーディエンス」とは誰か。

     それは,すべての研修医(レジデント)とレジデントを指導する,すべての指導医です。大きく出ましたね。でも,誇張ではありません。以下に,その根拠を述べます。

     本書の初版は2000年に誕生しました。「発熱患者を抱えて途方に暮れているインターン,抗菌薬を次から次へと替えても熱が下がらず焦っているレジデント,肺炎の改善がみられず諦めかけている若い医師,無数の感染症治療薬に窒息しかかっている学生」(初版序より)のために作られたマニュアルだったのです。

     当時の目的は,ほぼ達成されたと言ってよいと思います。現在,「途方に暮れている」研修医たちは,まず間違いなくこの『マニュアル』を読んでいます。そんなわけで「途方に暮れていた」2000年以前の状況はほとんど払拭されたはずです。もっとも『マニュアル』以降も,「マニュアルに書いてあることと指導医の言っていることの齟齬」という新たな問題に「途方に暮れている」研修医は今も大量に存在していますけれども。

     でも,こうも思うのです。「困っている」研修医はまだマシなのだ。問題なのは「困っていない」研修医なのだ,と。

     感染症診療で「うちはちゃんとやってますよ」「困ってませんよ」という病院はほぼ100%感染症診療の質が低い病院です。なぜ質が低いのかというと,問題があることすら認識ができていないからです。

     おざなりな診察,見当違いな検査,的外れな治療をしているのに気づかない。だから,「困らない」。患者の治療がうまくいかなくても,「いや,セプシスでもってかれたねえ。そういうこともあるよ」と問題意識を持たない。

     海堂尊氏は日本を「死因不明社会」だと断じましたが,多くの医者は「なぜうまくいかなかったかを真摯に謙虚に検討しない」という点で,ぼくは海堂氏と同意見です。学会に行けば,「なんとかマイシンで救命できた一例」といった武勇伝,武勇伝。失敗から学べない体質がここに象徴されています。

     まっとうな病院に行けば,たいてい「うちの感染症はまだまだです。いろいろご指導ください」と真摯に謙虚に言われます。逆説的に,そういう病院の感染症診療は,それほど悪くない。

     研修医でも「困って」「悩んで」いる場合はまだ救いがあります。上の先生から言われたことを鵜呑みにして,そこに悩みすら生じていない研修医こそが問題なのです。

     研修医の目標は,「優秀な研修医になること」ではありません。「上の先生の言うことを上手にこなせること」ではありません。将来,優秀な指導医になることこそ研修医の目標なのです。そして,優秀な指導医とは「悩むべき時に悩むことができる」指導医とほぼ同義語です。悩まない研修医は(そして指導医は),はっきり言って危うい。

     なので,感染症診療で「困ったことのない」研修医はぜひ本書を手にとって読んでください。(医学書院さんと青木先生には悪いけど)最初は立ち読みだって構わない。見た目の分厚さにだまされてはいけません。まずは,第1章の「基本原則」と第5章の「発熱患者へのアプローチ」だけでよいから,通読してほしいのです。それぞれ数十ページしかありません。本書には驚くほどテクニカルな言葉(業界用語)がありませんから,読み通すのはさして苦痛ではないはずです。

     そこには,あなたが今まで聞いたこともない言葉(業界用語のことじゃありません)がたくさんあるはずです。指導医が指摘したこともないような言葉が並んでいて当惑させられるはずです。例えば,「漫然と病棟で(培養検査)結果伝票が返ってくるのを待っていてはだめである。研修医の時は足繁く細菌室に通うことが大事である。細菌室の技師さんも臨床サイドの情報を喜んでくださるはずである」(p. 20)。「よくみられる誤りは,広域スペクトラムの抗菌薬で開始,2~3日後順調に回復し始めた時点で,よりスペクトラムの狭い抗菌薬でも治療可能な起因菌と判明しても,不測の事態を恐れて広域スペクトラムの抗菌薬を使い続ける,というものである」(p. 29)。こんなことを言ってくれる指導医,あなたの周りにいますか?(いたら幸いです)

     そこで,ぜひ考えてほしいのです。なぜ,『マニュアル』と「指導医の言葉」に齟齬が生じているのか,と。

     ぼくが知る限り,日本の研修医はたいてい,総じて頭が良いです。単にその良い頭を使っていないか,使う機会を奪われているだけで。あなたの優秀な頭を使って真剣に考えれば,答えは自然に出てくるはずです。

     前版のときも書きましたが,感染症を診ない医者はいません。診ないとしたらそれは臨床医ではない,と言っても過言ではないでしょう。したがって,どの診療科を専門にしたい研修医であっても,感染症の勉強は必要なのです。

     日本でも感染症医は増えましたが,まだほとんどの医療機関には感染症のプロはいません。青木先生の『マニュアル』並みの指導を受ける僥倖に恵まれた研修医は少数派に属します。なので,研修医はみんな,まずこの『マニュアル』を携行することによって,自分の施設の欠落した部分を充填する必要があるのです。

     病棟で発熱患者を見たとき,尿培養から○○菌を検出したとき,○○という抗菌薬を使うよう指導医から指示されたとき,研修医は「発熱患者に対する診療の進め方」「尿路感染症」あるいは感染症治療薬の各項を参照するとよいでしょう。ブレット方式でまとめられた本書を使えば当該箇所を開けば診療中に時間をかけずに欲しい情報を得ることができます。その内容はレジデントが知っておいてよい基本的な内容に満ちています。たくさんの学びを本書から得られるはずです。

     本書は1,500ページ近くある本で,大著であります。値段も1万円以上します。しかし,2年間の初期研修に使いこなすのであれば,年間5千円ちょっとの投資でよいのだから安いものです。ワシントンマニュアルの翻訳版など9千円以上するのですから。後期研修まで5年ほど活用すれば年間2千円程度の出資にすぎません。

     すでに述べたようにページ数はたいした問題ではありません。読まないところがあってもよいし,繰り返し読み直す箇所があってもよいでしょう。1回読破したら2度と開かない安っぽいテキストを買い重ねるよりもずっと賢い買い物なんです。

     さて,あなたは病院に感染症で相談できる先生がいますか? もしいないとしたら,ここに1万円ちょっとで手に入る「最良の指導医」(に最も肉薄する存在)がいるのです。研修時代に感染症で困りそうなことはほとんどすべてここに網羅されています。逆に言えば,研修医が感染症で困りそうなことを全部集めると,だいたいこのくらいの分量になるのです。だから,決して「ぶ厚い」と思ってはいけない。

     あなたの指導医は『マニュアル』とは異なる指示を出すかもしれません。そういうときは質問してください。どうして『マニュアル』と先生の言うことは噛み合っていないのか,と「ご指導ください」と丁寧に,謙虚に言うのが大事です。議論をふっかけるのではなく,本当に知りたい,と思うのが大事です。その指導医が「ほんまやな,どうしてなんやろ」と思ってくれたら,大成功です。

     幸い,2000年の往時とは異なり,現在は制度による縛りはかなり消失しています。必要な抗菌薬やワクチンはだいたいそろい,不適切な添付文書は改められています。血液培養を2セットとってもちゃんと保険請求できますし,最大量のペニシリンGを使って重症感染症を治療することもできます。あとは,指導医の納得と理解を得るだけでよいのです(たいていの場合は)。

     さて,指導医の皆さま。もしあなたが感染症診療についてなんからの指導を研修医に提供しているのでしたら,そしてあなたが臨床医であれば,提供している可能性は極めて高いのですけれども,ぜひ本書を手にとって読んでください。読むところはさしあたって,研修医と同じく第1章,第5章,そして自分の専門領域でよくみる感染症から始めても構いません。

     そして,『マニュアル』の言葉と自分の指導に齟齬はないか,ぜひチェックしてほしいのです。そして,もし齟齬があるとしたら,考えていただきたいのです。それはいったい,なぜなのか,と。

     齟齬があること「そのもの」には問題はありません。感染症医が10人いても10通りの診療スタイルがあるのですから。『マニュアル』を聖典のように鵜呑みにして,他を全否定しろと主張しているのではありません。というか,そういう「全肯定,全否定」的な医者は,あまり感染症診療には(そして臨床には)向いていないと思います。

     自分の意見とマニュアルの齟齬を「どうしてだろう」と頭をかきむしり,首をひねって考え抜くのが,謙虚で誠実な臨床医のあるべき姿だと思います。

     青木先生の『マニュアル』は時に感染症界の「バイブル」と呼ばれます。困ったときの大きな救い,という意味ではそうかもしれません。でも,やはり『マニュアル』は「バイブル」ではないのです。医学書に盲信してよい「バイブル」などあってはならないのです。『マニュアル』は,我々が一所懸命感染症と取っ組み合うための,大切なツールなのです。

     ぼく自身,本書を通読する際,自分のプラクティスと考え方で理解できないところがありました。なので,Mandellという感染症の成書とか,Kucersという抗菌薬のテキストとか,その他いろいろ引っ張り出しながら,行きつ戻りつ『マニュアル』の文章を検討しました。性格,悪いですね。

     例えば,「第2世代セファロスポリン系は髄液への移行が悪いので使用できない」(p. 129)と『マニュアル』にはありますが,セフロキシムなど髄液移行が悪くない第2世代セフェムはあります。「使えない」理由はむしろスペクトラムの問題だと岩田は考えますし,だから場合によってはde-escalationは可能だと考えています。まあ,実際に髄膜炎を第2世代で治療するケースはほとんどなく,de-escalationできたら一気にペニシリンということが多いので,結論的にはほぼ一諸になってしまうのですけれど。

     幸いにして,こういった「齟齬」は数えるほどしかなく,たいていの言葉はすんなり納得だったので苦痛はありませんでした。いずれにしても,ぼくは『マニュアル』はそのように葛藤しながら読まれるべきテキストだと思っています。

     なので,感染症を指導する機会のある医者は,一度は本書に目を通しておくべきだと思います。自分のプラクティスのキャリブレーション・ツールとして。そして,「齟齬」の存在に気づくべきだと思います。「なぜ」その齟齬が生じているのか考えてみるべきだと思います。もっと言うならば,自分たちのプラクティスがどのような根拠に基づいているのか,深く再検討してみるべきだとも思います。それは「昔からそうなっていた」「教授がそう言っていた」「医局のルールだった」「なんとかいうメーカーのごちそうしてもらったお弁当の影響」「“なんとかマイシンを中心に”みたいな学会のランチョンセミナーの影響」ではなかったでしょうか?

     ぼくは日本感染症界の歴史を振り返り,かなり突っ込んで検証したことがあります(感染症対策の新展開,新通史 日本の科学技術第4巻,原書房,2011年)。

     そのとき役に立ったのは日本内科学会雑誌で定期的に行われてきた感染症界重鎮による「座談会」でした。座談会はアカデミックな情報には乏しいけれど,当時の空気,時代のエートスを知るにはとてもよい資料なんです。

     さて,『マニュアル』以前の座談会では,「(日本は)抗生物質は世界一発達している国」(日本内科学会雑誌82,1993)といった牽強付会な万々歳コメントに満ちていました。「問題ない」「うまくいっている」のオンパレードでした。MRSAが問題になった後ですら,強気のコメントはそのままでした。

     こうした座談会で問題意識を明らかにした言葉を見いだせるのは,『マニュアル』の出版された2000年まで待たねばならないのです。「わが国は感染のリスクマネージメントという面では,欧米に比べるとかなり遅れているというのが現状です(賀来満夫)」(日本内科学会雑誌89,2000)。

     今でも「重鎮」といわれる人々が「日本の感染症はうまくいっている」「少量のβラクタム剤1日2回投与で困ったことはない」といった強気のコメントをしています。しかし,「うまくいっている」「問題ない」と口に出した瞬間,それは「本当はうまくいっていない」「うまくいっていないことすら認識できていない」というカミングアウトをしているのです。

     なぜなら,「マニュアル」などを熟読して,勉強と訓練を重ねて,ベストを尽くした医療をめざしてなお,うまく治療できない感染症は多々存在するからです。うまくいかなかったケースが定期的に存在するのが,「普通の」感染症のプロの日常だからです。

     どんなにテクノロジーが進歩しても,新しい抗菌薬が開発されても,例えば肺炎球菌による髄膜炎やMRSAによる心内膜炎,壊死性筋膜炎はいまだに「手強い」「御し難い」感染症です。その苦しみは,『マニュアル』のあちこちにも見いだすことができます。この苦しみを知らず,「感染症なんて簡単だ」とうそぶいた瞬間,感染症のことは何もわかっていないと吐露しているのです。

     2007年に本書の第2版が上梓されたとき,これを「日本版マンデル」と称する声を聞きました。「日本語で書かれた最高のテキスト」という意味においては,この呼称もあながち見当違いではないと思います。

     しかし,本書はやはり「レジデントのためのマニュアル」なので,それ以上でもそれ以下でもないのだとぼくは思います。本書が「バイブル」でないように,本書は「和製マンデル」ではないのです。

     マンデルが臨床感染症のプロを念頭に置いたコンプリヘンシブなリファレンスなのに対して,本書はあくまでも「レジデントのためのマニュアル」なんです。見た目の重厚さにごまかされてはいけません。こんなにぶ厚い本でも,コンテンツ的には昨今の研修医が頻用するUpToDateよりも圧倒的に分量は少ないはずです。エボラ治療の新薬とか,新しいカルバペネム耐性菌とか,感染症「オタク」が好みそうな「セクシーなトピック」はほとんど触れられていないのも象徴的です。本書においてマニアックな(専門医的な)内容がしばしば「成書に譲る」とあっさり捨象されているのも,本書がマンデル的なテキストを最初からめざしていない証左なんです。

     さて,本書はこれまで青木先生の単著でした。しかし,本版から多くの感染症医たちが制作に加わっています。

     ところが,驚くべきことに本書を読んでいても,前2版との「論調の違い」が全く感じられません。青木先生が単独で著したと言われても全然不自然ではありません。「医療関連感染の予防」(第3章:藤本卓司先生担当)と「旅行・熱帯」(第21章:竹下望先生担当)という2つの新しい章が加わったのに,やはり不自然さはありません。

     これは青木先生の思考プロセスとその精神をよくよく理解した共著者が,その文体を壊さないように十分に配慮したからだと思います。

     たくさんの新しい文献,新しい情報,新しい図表が加わっています。ぼくが米国にいるとき使っていたカスポファンギンと日本に帰国してから使い出したミカファンギンの直接比較などは,本版のかなり目新しいところだと思います(p. 266など)。特に治療薬をまとめた第2章の文献的な充実ぶりは際立っています。最近の生物学的製剤と感染症の関係図(p. 1214-15)なんかは,「こういうのが欲しかったんだよね~」的なとても臨床的で有用なまとめです。「黄熱ワクチンの追加接種が不要」(p. 1417)みたいな情報も「へ~勉強になった~」的新しい情報です。

     しかし他方,肝となるテイク・ホーム・メッセージは2000年の初版からほとんど変わっていません。これはおどろくべきこととも言えますし,「まあ,そうかな」と思えるところでもあります。

     ぼくはこの第3版で,「お,これは」と思うところは第2版を開いて比較しながら読み進めました。「お,これは」のほとんどが第2版で全く同じ内容で書かれています。おまけに,たいていの場合,ぼく自身がアンダーラインを引いています。テイク・ホーム・メッセージには普遍性があるのです。レジデントがみる感染症の「原則」は15年たっても変わらない。

     われわれはどんどん変化する医学のカッティングエッジな領域ばかりに注目しがちです。だから,「(コンテンツが刷新されていない)印刷された教科書なんて読まなくてよい。PubMedで最新のエビデンスを集めていればいいんだ」なんて豪語する人すら出ています。

     しかし,その領域のカッティングエッジなところ,変化し続ける辺縁のところは,いずれ新しい情報に置き換えられてしまう,寿命の短いところでもあります。コアなど真ん中なところはそう簡単に変化しません。2000年に上梓された本書が,15年たってもコアなメッセージが変わっていないのは,そのためです。研修医にとって習得すべきは,どちらか。ぼくは,答えは明らかだと思っています。

     それにしても,後進の教え子たちに自分のテキストを査読させ,校正させる青木先生のなんとスケールの大きいことか。自分の文章を若手に直させる度量を持つベテラン医師が日本に何人いるでしょう。まあ,ゴーストライターとしてこき使うことはあるかもしれないけれど。それにしても,アンダーラインを引いた箇所をことごとく覚えていない岩田の頭の悪さっぷりのなんとひどいことか。全く恥じ入るばかりです。

     日本には30万人近くの医者がいます。青木先生の『マニュアル』がこれまで何万部売れ,何人の医者に読まれたのか,ぼくは知りません。しかし,この稀代の大ベストセラーも,マジョリティの医者には読まれていないのが現実です。ぼくが大学の教員になって,あちこちの病院を訪問し,たくさんの医者のプラクティスを眼にしても,「この国の感染症診療はいまだ夜明け前」だと痛感します(そして,当事者はそのことに気付いていません)。

     しかし,15年前を振り返ると,『マニュアル』以前の黒歴史を振り返れば,ぼくは楽観的にならざるを得ません。メッセージは確実に実を結びつつあります。それは本『マニュアル』に貢献した共同作成者たちの顔ぶれをみればあきらかです。青木先生も15年前のような孤独な存在ではありません。たくさんの後進たちに支持されています。青木先生(や岩田)に陰でぶつぶつ言う輩はいても,学会のような大きな舞台で面と向かって否定する,否定できる人はいなくなりました。時代の流れは,決してひっくり返ることはありません。

     本書が「夜明け」を早めてくれるのを,心の底から希望しています。薄明かりは,もう見えているのです。
目 次
第1章 感染症診療の基本原則
 A はじめに基本的な大原則
  1.発熱,CRP・白血球数上昇に対して抗菌薬などを使わない
   (感染症の存在を正確に認知する)
  2.重症度を理解する
  3.各論的に考えよう(問題の臓器・解剖と原因微生物の検討)
  4.やるとなったら治療は徹底的に
  5.回復のペース,パターンを予測する
  6.耐性菌で患者を失うことは少ない
  7.経時的な変化を追う
 B 発熱患者(感染症を疑う患者)に対する診療の進め方
  1.どの臓器・解剖による発熱か?
  2.感染症か? 感染症ならば原因微生物は?
  3.どの感染症治療薬を使うか?
  4.治療効果は何と何で判定するか?
第2章 感染症治療薬の概要
 A 抗菌薬
  1.抗菌薬の種類
  2.抗菌薬の分類
  3.抗菌薬の投与量の調節
  4.抗菌薬の副作用
  5.抗菌薬の予防投与
  6.抗菌薬各論
 B 抗真菌薬
  1.抗真菌薬の分類
  2.抗真菌薬各論
  3.臨床状況による抗真菌薬の使用
  4.併用療法
  5.真菌感染症の研究・評価の難しさ
  6.表在性真菌症(皮膚糸状菌症,白癬)用抗真菌薬
 C 抗ウイルス薬(HIV治療薬を除く)
  1.抗ウイルス薬の分類
  2.抗ウイルス薬各論
 D 抗寄生虫薬
  1.原虫
  2.線虫
  3.吸虫
  4.条虫
第3章 医療関連感染の予防
  1.標準予防策
  2.接触予防策
  3.飛沫予防策
  4.空気予防策
第4章 検体の取り扱いと検査の考え方
 A 検体別の採取法と取り扱い
  1.一般的な注意
  2.菌の種類
  3.検体の種類
  4.感染臓器の種類
 B 検査の基本的な考え方
  1.各検査の概要
  2.穿刺液検査
第5章 特殊な発熱患者へのアプローチ
 A 不明熱
  1.診療のポイント
  2.具体的な検索の進め方
  3.治療
  4.感染症以外の不明熱の原因
  5.特殊な不明熱
  6.再発性の不明熱
  7.原因究明のできない場合
 B 皮疹を伴う発熱患者
  1.最初に検討すべきこと
  2.皮疹を伴う発熱患者の効果的な診療のポイント
  3.各種皮疹とその原因微生物,原因疾患
 C 発熱とリンパ節腫脹
  1.概要
  2.診療の進め方
  3.各種リンパ節腫脹
  4.リンパ節生検
第6章 中枢神経系感染症
 診療のポイント
 A 髄膜炎
  1.診断
  2.治療
  3.脳室内シャントおよび関連器具に伴う髄膜炎
  4.原因微生物別各論
 B 脳膿瘍
  1.疫学・病因・病態など
  2.診断
  3.治療
  4.治療効果の判定
  5.予後
  6.原因微生物別各論
 C 硬膜外膿瘍,硬膜下膿瘍,頭蓋内化膿性血栓性静脈炎
  1.硬膜外膿瘍
  2.硬膜下膿瘍
  3.頭蓋内化膿性血栓性静脈炎
 D 脳炎
  1.診断
  2.治療
  3.治療効果の判定
  4.予後
  5.単純ヘルペス脳炎
  6.日本脳炎
  7.ウエストナイル脳炎
 E 急性顔面神経麻痺と感染症
第7章 呼吸器感染症
 診療のポイント
 A 上気道感染症
  1.急性ウイルス性鼻炎
  2.急性咽頭炎,扁桃腺炎
  3.急性気管支炎
  4.慢性気管支炎の急性増悪
  5.ヘルペス性気管支炎
  6.急性喉頭蓋炎
  7.百日咳
 B 下気道感染症(肺炎)
  1.胸部異常陰影,喀痰の増加,発熱の組み合わせ
  2.原因微生物想定の努力
  3.肺炎の治療
  4.肺炎の改善過程の見守り方,治療効果の判定方法
 C 肺膿瘍を含む亜急性肺病変
  1.空洞性亜急性肺病変
  2.非空洞性亜急性肺病変
 D 胸水,膿胸
  1.病因・病態
  2.診断
  3.治療
第8章 尿路・泌尿器関連感染症
 A 尿路感染症
  1.総論
  2.各論
 B その他の泌尿器関連感染症
第9章 血管内感染症
 A 感染性心内膜炎
 診療のポイント
  1.診断
  2.治療
  3.治療効果の観察
  4.合併症
  5.原因微生物別各論と治療
  6.心内膜炎の予防
 B カテーテル関連感染症,カテーテル関連血流感染症
  1.中心静脈カテーテル関連感染症
 C 特殊な血管内感染症
  1.感染性動脈瘤・感染性動脈内膜炎
  2.人工血管感染症
  3.心筋内膿瘍
  4.心筋炎
第10章 腹部感染症
 A 急性下痢症〔急性(胃)腸炎〕
  1.診断
  2.治療
  3.原因微生物別各論
 B 腹腔内感染症
  1.腹膜炎
第11章 皮膚・軟部組織感染症
 診療のポイント
 A 表面の限局した病変
  1.小水疱を認め滲出液を伴う病変
  2.疱疹(小水疱の集合=ヘルペス)を認める病変
  3.紅斑が広がる病変
  4.膿疱,膿性の滲出液を伴う病変
  5.リンパ節,リンパ管の感染症
 B 深部で急速に進展する病変(皮下組織,筋膜の感染症)
  1.病因・病態
  2.臨床像
  3.診断
  4.治療
  5.特別な菌
 C 既存の皮膚病変・傷害に生じる二次的な感染症
  1.外傷による創感染症
  2.手術部位感染症
 D その他
  1.市中感染型MRSA(CA-MRSA)による軟部組織感染症
  2.免疫不全に伴う軟部組織感染症
第12章 骨髄炎・化膿性関節炎
 A 骨髄炎
  1.総論
  2.各種の骨髄炎
 B 感染性関節炎(化膿性関節炎)
  1.総論
  2.特殊な化膿性関節炎
第13章 眼科関連感染症
  1.眼瞼感染症
  2.結膜感染症
  3.角膜感染症
  4.ぶどう膜炎
  5.眼内炎
  6.涙腺関係感染症
  7.眼窩感染症
  8.HIV感染症と眼科感染症
第14章 頭・頸部感染症
 A 耳・副鼻腔領域感染症
  1.急性中耳炎
  2.滲出性中耳炎
  3.急性乳様突起炎
  4.慢性中耳炎
  5.ICUなどで問題になる経鼻挿管・経管栄養に伴う中耳炎・副鼻腔炎
  6.耳鼻科領域の帯状疱疹
  7.急性副鼻腔炎
  8.慢性副鼻腔炎
  9.外耳道炎
  10.蝸牛~前庭感染症
  11.耳鼻科領域から進展する髄膜周囲,頭蓋内感染症
 B 口腔内・頸部領域感染症
  1.口腔内感染症
  2.歯科領域感染症
  3.唾液腺関係の感染症
  4.頸部感染症
第15章 性感染症
 診療のポイント
  1.男性の尿道炎
  2.精巣上体炎
  3.女性の尿道炎
  4.腟の炎症
  5.子宮頸管炎・子宮頸炎
  6.骨盤内炎症性疾患
  7.外陰部潰瘍性病変
  8.外陰部非潰瘍性病変
  9.皮疹を伴う急性多発性関節炎(播種性淋菌感染症)
  10.咽頭炎
  11.小腸炎,大腸・直腸炎
  12.性暴力(レイプ)被害者の診療
  13.妊婦のスクリーニング
第16章 重要な微生物とその臨床像
 A 黄色ブドウ球菌感染症
  1.細菌学
  2.病態
  3.治療薬
  4.臨床像
  5.MRSAと院内感染症
 B 連鎖球菌感染症(肺炎球菌感染症を含む)
  1.連鎖球菌の分類
  2.化膿性連鎖球菌感染症
  3.Streptococcus agalactiae 感染症
  4.肺炎球菌感染症
 C 腸球菌感染症
  1.細菌学
  2.疫学
  3.病因・病態・病原性
  4.臨床像
  5.耐性
  6.治療
 D 潜在性結核と活動性結核
  1.理解すべき基本的な病態
  2.疫学
  3.診断
  4.治療
  5.治療効果の判定
  6.治療に失敗した場合
  7.再発を認めた場合
  8.HIV感染症と結核
  9.妊娠と結核
  10.腎機能障害・腎不全の場合
  11.臓器別各論
  12.治療薬各論
  13.耐性結核菌
  14.ツベルクリン反応(ツ反)とインターフェロンγ遊離試験
  15.潜在性結核の治療
  16.隔離予防策
 E 非結核性抗酸菌症
  1.概要と診療のポイント
  2.臨床像
  3.代表的非結核性抗酸菌各論
 F カンジダ症
  1.表在性カンジダ症
  2.深在性カンジダ症
  3.Candida の微生物学
 G アスペルギルス症とムーコル症
  1.アスペルギルス症
  2.ムーコル症
第17章 免疫不全と感染症
 診療のポイント
  1.免疫の構成要素・機能とその障害因子
  2.免疫不全の種類と問題となる微生物
  3.免疫低下がみられる種々の臨床状況
  4.各種移植に伴う感染症
  5.免疫不全と胸部異常陰影
第18章 HIV感染症・後天性免疫不全症候群
  1.HIV自体に対する診療
  2.合併症(日和見感染症,腫瘍)の診療
  3.新たな感染源としない努力,工夫
第19章 重症敗血症・敗血症性ショック
  1.敗血症をとりまく各種用語の定義
  2.診療の基本原則
  3.原因となった感染症の診断
  4.抗菌化学療法
  5.血液培養で検出された菌・真菌各論
  6.血液培養で検出された菌・真菌と臨床状況
  7.感染源コントロール
  8.支持療法
第20章 予防接種
 A 基礎的なこと
  1.予防接種のタイプ
  2.成人で考慮すべき予防接種の種類とスケジュール
  3.予防接種の禁忌と副作用
  4.接種の実際
 B 予防接種各論
  1.ウイルス生ワクチン
  2.ウイルス不活化ワクチン
  3.細菌ワクチン
 C 特殊な対象
  1.医療従事者に対する予防接種
  2.糖尿病患者に対する予防接種
  3.腎機能低下症例に対する予防接種
  4.慢性肝疾患症例に対する予防接種
  5.骨髄幹細胞移植症例に対する予防接種
  6.固形臓器移植症例に対する予防接種
  7.悪性腫瘍症例に対する予防接種
  8.ステロイド使用例,解剖学的・機能的無脾症に対する予防接種
  9.妊娠と予防接種
  10.HIV感染症と予防接種
  11.ヒトパピローマウイルス感染症と予防接種
  12.海外渡航と予防接種
第21章 旅行・熱帯
 A 海外渡航歴がある患者に対する診察
 B 代表的な症状
  1.発熱
  2.下痢
  3.動物咬傷
  4.皮疹

あとがき
欧文索引
和文索引
処方例索引
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