内部障害理学療法学

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新たに創刊される系別(領域別)理学療法学のテキストの1冊。内部障害を引きおこす疾患にフォーカスし、それぞれの障害の捉え方、評価、そして理学療法を解説していく。PT養成校のカリキュラムを意識した構成とし、“教員も学生も使いやすい教科書”を目指した。また、現場の最前線を知る著者を集め、標準シリーズならではのAll Japanのクオリティを担保。一流の執筆陣が漏れなく、分かりやすく理学療法を教授する。
*「標準理学療法学」は株式会社医学書院の登録商標です。
シリーズ 標準理学療法学 専門分野
シリーズ監修 奈良 勲
編集 吉尾 雅春 / 高橋 哲也
発行 2013年02月判型:B5頁:392
ISBN 978-4-260-01626-1
定価 5,500円 (本体5,000円+税)
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 内部障害理学療法学が注目されるようになったのはいつからだろうか?
 2006(平成18)年度の診療報酬の改定で理学療法料が廃止され,疾患別リハビリテーション料になった.4つの疾患別リハビリテーションのうち2つが内部障害(心大血管疾患リハビリテーションと呼吸器疾患リハビリテーション)であったことから,次第に内部障害は無視できない領域と認知されてきた.もっとも,心臓リハビリテーションは1988(昭和63)年に心疾患理学療法料として算定が開始されており,理学療法士が心臓リハビリテーションの中心的役割を担ってきた職種であることは疑いもない事実である.
 呼吸理学療法は一時の手技ブームが去ったものの,嚥下障害に対する治療や人工呼吸器の発展などから理学療法士の役割が拡大し,さらに栄養サポートチームや呼吸サポートチームのなかで理学療法士は専門性を他職種と分かち合うようになってきた.また,超高齢社会を迎え,生命の基本的営みをつかさどる内臓器への関心は無視できないものであるとの理学療法士の認識は深まったのではないだろうか.
 内部障害が身体障害者福祉法で認められたのは1967年である.それから45年の時を経た2013年,医学書院の標準シリーズに内部障害理学療法学が加えられたこと,それを編集する機会に恵まれたことは,内部障害理学療法学を専門にする者として望外の喜びである.
 本書には,心疾患,呼吸器疾患,糖尿病はもちろんのこと,腎臓病,肝臓病,代謝異常,高血圧,肥満症,メタボリックシンドロームが収載され,まさに超高齢社会に働く理学療法士のためのバイブルとして完成した.オープニングには,わが国の国立大学で唯一,内部障害学分野の講座をもつ東北大学大学院の上月正博教授に内部障害理学療法学概論をご執筆いただき,本書の学術的品格が格段に上昇した.
 一言で内部障害といっても,対象は心臓機能障害から呼吸器機能障害,腎臓機能障害,肝臓機能障害,そのほか多岐にわたる.そのため,どのような構成としたら限られた紙数に収まるのか,目次の構成に大変苦慮した.一方,編集作業は辛くとも楽しい作業であった.全体を編集する際には細部まで熟読し,まるで共著者の先生方の講義を間近で受けているような充実感に満たされながらも,日々の臨床態度や教育態度を反省した.
 標準シリーズは,理学療法士養成校の学生をメインターゲットにしたシリーズと認識しているが,ことさら内部障害は急速に進歩し続けている分野でもある.執筆には内部障害分野の教育現場や臨床現場で活躍し,編者が最も信頼できる先生方にご執筆いただいた.理学療法士養成校の学生はもちろんのこと,臨床の理学療法士の学び直しの成書としても十分耐えうる内容になっている.理学療法の専門家として,本書を熟読することはもちろん,本書を手に臨床の現場に立ち,症例と向き合い,カンファレンスなどを通じて活用していただきたい.
 本書の編集中に,編者の恩師,群馬県立心臓血管センター名誉院長谷口興一先生が他界された.谷口先生はいつも「症状の正しい観察こそが内科診断学の基本」とおっしゃられていた.
 内部障害者は外見からは障害があることがわかりにくい(いわゆる“見えない障害”)ため,周囲の理解が得られにくいという不利益を受けやすい.理学療法士にとっても,内部障害は障害が見えにくいということで苦手意識をもちやすいことは想像に難くなく,また,内部障害理学療法学は,他の理学療法学と異なり,華々しい手技やテクニックが存在しない.そのため,理学療法士の興味の最上位にはなりにくい分野でもある.
 しかし,理学療法では,いかにしたらできるようになるかという障害学的分析に加えて,なぜそのような状態なのか,その症状や症候はどこから来ているのか,医学的情報を収集し,病態生理を理解する症候学的分析も重要で,谷口先生の言葉を借りれば,「症状の正しい観察」こそが臨床理学療法の第一歩であり,観察を通じた患者の理解こそが内部障害理学療法学の最大の醍醐味でもある.
 本書から谷口興一先生の教えが少しでも感じ取れるとしたらこの上ない喜びである.謹んで本書を谷口先生の御霊に捧げたい.

 2013年2月
 高橋哲也・吉尾雅春

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I 序論
 1 内部障害とは

II 循環器障害の理学療法
 1 循環器系の解剖
 2 循環器系の生理
 3 心電図
 4 身体所見のとり方
 5 運動負荷試験
 6 回復期運動療法
 7 虚血性心疾患
 8 大動脈疾患
 9 末梢動脈疾患
 10 心不全
 11 小児心疾患
 12 心肺蘇生法

III 呼吸器障害の理学療法
 1 呼吸器系の解剖
 2 呼吸器系の生理
 3 呼吸機能の評価
 4 呼吸不全
 5 フィジカルアセスメント
 6 呼吸理学療法評価
 7 呼吸理学療法の実際
 8 慢性閉塞性肺疾患(COPD)
 9 在宅でのCOPD
 10 肺炎(誤嚥性肺炎)
 11 嚥下障害
 12 肺高血圧
 13 無気肺
 14 外科手術後

IV 代謝疾患の理学療法
 1 糖尿病
 2 腎障害
 3 肝機能障害
 4 脂質異常
 5 高血圧
 6 肥満(症)
 7 メタボリックシンドローム

索引

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「内部障害」に対する「理学療法」を1冊にまとめた良書
書評者: 古川 順光 (首都大学東京准教授・理学療法学科)
 本書は,吉尾雅春氏,高橋哲也氏が満を持して発刊に至った,現時点における内部障害理学療法学の集大成ともいえる書である。編者らが「序」において述べているように,内部障害の理学療法には「華々しい手技やテクニックが存在しない」。故に,いかにすれば患者の「症状の正しい観察」が的確にできるのか,治療につなげられるのかを,われわれ理学療法士(および学生)に真正面から問いかけている書となっているといえるであろう。

 本書の内容をみていくと,第1部の序論で,まず内部障害とは何か,その定義づけや歴史,内部障害者の動向などについて,わが国で唯一国立大学で内部障害分野の講座をもつ,東北大学の上月正博教授が詳しく述べておられる。

 続く第2部,第3部では,それぞれ循環器障害・呼吸器障害の理学療法について,解剖・生理の基礎的な事項から,心電図や身体所見のとり方,運動負荷試験に至るまで,患者の症状の把握をいかに行うかが示されるとともに,回復期運動療法や虚血性心疾患・心不全などの循環器障害の代表的な運動療法について,評価と治療,予後やリスク管理に至るまで明快に述べられている。また,昨今理学療法の対象として取り上げられることの多くなったCOPDについても,入院から在宅に至るまでの流れをつかむことができ,嚥下障害へのアプローチにも触れられている。さらに,無気肺や外科手術後の理学療法にまで論が展開されている。

 最後の第4部では代謝疾患の理学療法について,糖尿病や腎障害,メタボリックシンドロームまで,理学療法のみでなく病態に関しても詳細に述べられている。

 これまで概観してきた通り,本書はある疾患に特化した理学療法,あるいは特定のテクニックについて述べられた書ではない。呼吸器疾患理学療法学,循環器疾患理学療法学など,いずれかの疾患について述べられた書はこれまでにも散見される。しかし,本書のように「内部障害」「理学療法」を1冊の書で網羅したものは,初めてではないであろうか。ここに謙虚かつ誠実な編著者の姿勢がみられるのではないだろうか。養成校の学生や経験の浅い理学療法士は,運動器ばかりに目がいくことが多い。しかし,その運動器を効果的に使用し,患者のADLやQOLの向上を達成するためには,本書で取り上げられている循環器系,呼吸器系,代謝機能がより正常に,かつ運動器と連結して機能する必要がある。いずれか一方でも機能低下・機能障害があった場合,果たしてその患者の生活はよりよいものになるのだろうか。編者らが本書を1冊にまとめ上げたことの意義はここにあるものと考える。

 最後になるが,これまで述べた通り,本書は多くの項目を取り扱いつつ,過不足ない内容で構成されている。現在,理学療法学を学んでいる学生にとっても,臨床で実際に患者の治療に携わっている現役の理学療法士にとっても,患者の「症状の正しい観察」を常にすることを教えてくれる最良の書といえる。

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