ボツリヌス療法アトラス

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眼瞼痙攣、片側顔面痙攣、痙性斜頸、上肢・下肢痙縮等の治療として注目されるボツリヌス療法。本書はフルカラー写真・解剖図で全身へのボツリヌス毒素注射の手技を網羅した、唯一無二のアトラスを翻訳したもの。注射部位の神経解剖学的解説をはじめ、注射量、注射の実際、臨床上のポイントなどがまとめられている。神経内科、整形外科、脳外科、リハビリテーション科、麻酔科、小児科、眼科など幅広い分野の医師に送る貴重な1冊。
Wolfgang Jost
監訳 梶 龍兒
発行 2012年05月判型:A4頁:272
ISBN 978-4-260-01520-2
定価 19,800円 (本体18,000円+税)

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監訳者の序(梶 龍兒)/(Wolfgang Jost)

監訳者の序
 A型ボツリヌス毒素製剤(ボトックス®)は,わが国では保険診療上,眼瞼痙攣,片側顔面痙攣,痙性斜頸,小児脳性麻痺,上肢・下肢痙縮に対して認可されている(2012年3月現在).B型ボツリヌス毒素製剤(ナーブロック®)も本年中に痙性斜頸に対して保険収載の予定である.保険適用外ではあるが,美容目的での顔面筋への施注も認可を受けている(ボトックスビスタ®).
 特に痙縮に対する臨床応用では,脳血管障害後の数多くの患者に応用され,廃用肢が動くようになるなど画期的な成果を上げつつある.この痙縮に対しては,上下肢の種々の筋に施注が認められているが,どの筋を選択すべきか,その用量は,具体的な施注法は,などという重要な情報を学ぶことが難しい.特に下肢の痙縮は米国でも現時点で認可されておらず,わが国における臨床応用はなかば手さぐり状態であるともいえる.
 いわば匠の技ともいうべき印象があるが,経験を積んでいる医師にとってはさほど難しい治療ではない.その基本は以下の3点である.
 1.歩行や障害されている上肢の動作を十分に観察する.
 2.機能解剖の知識を用いて,どの筋をねらうかを決定する.
 3.その筋にどれぐらいの量を用いるかを決め,どのようにアプローチするかを決める.
 本書はそれらを知るための図譜として最適なものであり,表面解剖,筋の機能,アプローチ法,各製剤の標準的な用量,臨床応用上の注意点などが精緻な図とともに解説されたすばらしい教材である.
 ただし,本書ではそのイントロダクションにもあるように,ドイツにおいても日本においても適用外にあたる疾患の治療に必要な部位の記載もあるが,著者および訳者らはこれらの適用外使用については一切責任を負うものではない.各施設において倫理委員会に諮問したうえでの臨床研究の一環として以外には,用いていただくべきではない.

 本書を座右に,より多くの患者を治療する喜びを共有していただければ幸いである.

 2012年3月 徳島にて
 梶 龍兒



 ボツリヌス毒素は,神経疾患の治療において他の薬剤にはない影響を及ぼした.この薬剤によって多くの病弊が治療され,同時に多くの疾患からスティグマを取り去った.ボツリヌス毒素の登場によって,多くの神経内科医が侵襲的治療を行うようになり,新しい診断と治療に取り組めるようになった.
 ボツリヌス毒素の興味深く学際的な側面がわかったことで,異分野の研究者と臨床医による革新的な協力に結びついた.ボツリヌス毒素は頸部ジストニア,眼瞼痙攣および片側顔面痙攣の治療の選択肢として認知されるようになった.上肢痙縮の集学的治療においては,ボツリヌス注射は不可欠である.今日,ボツリヌス毒素を治療に用いることは,小児科(尖足)あるいは皮膚科(多汗症)でも,標準的である.さらに泌尿器科や,痛みの治療において,日常的な治療法として認められるようになってきている.
 ボツリヌス毒素を扱うほとんどの人は,治療を観察することによって注射のテクニックを学び,さらに個人的な研究により知見を深めてきた.さまざまな冊子や書籍も,筋電図アトラスと同様に,ボツリヌス毒素を注射する筋肉や用量の選択に役立ってきた.
 ボツリヌス療法の対象になるであろうすべての筋肉を網羅した特徴的なアトラスが,ここに完成した.本書は日々の診療とともに,ボツリヌス療法の標準化と品質保持に役立てられるべきである.私たちは,ボツリヌス療法に関するすべてを知っているわけではない.したがって,読者の方々からの示唆,新しい情報,建設的批判を受けることができれば幸いである.
 多くの献身的な同僚たちに感謝する.彼らがいなければ本書は完成しなかっただろう.また,KVM publishing houseの皆さん,Dr. K.-P. Valerius,グラフィックデザイナーのDavid Kühn,カメラマンのMartin Kreutter,そしてもちろんモデルのNadine Mönchmeyer, Katrin Möller, Malte Schäfer, Steffen Schwinn, Manoela Rocha-Unold, Junes Aminiにも同じく感謝したい.そしてProf. Dr. med. Gerhard Reichelには,本書に対し批評眼をもって目を通していただき,建設的な示唆をいただいたことを特に感謝したい.多大な時間,労力,忍耐力を費やし,今回の出版にかかわった人々を代表してここに署名する.

 皆さんに本書を楽しんでもらうことを期待している.

 2008年6月 ヴィースバーデン/マールブルクにて
 Prof. Dr. med. Wolfgang Jost

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1 イントロダクション
 1.ボツリヌス毒素を用いた治療
 2.認可を受けた製剤とその臨床適応
 3.適用外使用
2 上肢
 1.胸帯筋
  僧帽筋,下部(上行部)/僧帽筋,中部(横行部)/僧帽筋,上部(下行部)/
  肩甲挙筋/大菱形筋/小菱形筋/前鋸筋/小胸筋
 2.肩関節筋
  三角筋/棘上筋/棘下筋/小円筋/広背筋/大円筋/大胸筋
 3.肘関節筋
  上腕二頭筋/上腕筋/腕橈骨筋/上腕三頭筋/回外筋/円回内筋/方形回内筋
 4.手首関節筋
  長および短橈側手根伸筋/尺側手根伸筋/橈側手根屈筋/長掌筋/尺側手根屈筋
 5.手指関節筋
  指伸筋/示指伸筋/小指伸筋/短母指伸筋/長母指伸筋/虫様筋/浅指屈筋/
  深指屈筋/短小指屈筋/長母指屈筋/長母指外転筋/短母指外転筋/
  小指外転筋/(第1~4)背側骨間筋/(第1~4)掌側骨間筋/母指内転筋/
  母指対立筋/小指対立筋/短掌筋
3 下肢
 1.股関節筋
  大殿筋/腸腰筋/縫工筋/中殿筋/小殿筋/大腿筋膜張筋/恥骨筋/長内転筋/
  短内転筋/薄筋/大内転筋
 2.膝関節筋
  大腿四頭筋:大腿直筋/大腿四頭筋:内側広筋/大腿四頭筋:中間広筋/
  大腿四頭筋:外側広筋/ハムストリングス:大腿二頭筋/
  ハムストリングス:半膜様筋/ハムストリングス:半腱様筋
 3.足関節筋
  腓腹筋/ヒラメ筋/後脛骨筋/前脛骨筋/長腓骨筋
 4.趾関節筋
  短趾伸筋と短母趾伸筋/長母趾伸筋/長趾伸筋/短母趾屈筋/長母趾屈筋/
  短趾屈筋/長趾屈筋/足底方形筋(副屈筋)/短小趾屈筋/
  背側骨間筋(第1~4)/母趾外転筋/小趾外転筋/母趾内転筋/底側骨間筋/
  虫様筋(第1~4)
4 体幹
 1.前腹壁筋
  腹直筋/内腹斜筋/外腹斜筋/腹横筋
5 頸部
 1.前頸部筋
  広頸筋/胸鎖乳突筋/斜角筋:前・中・後
 2.内在筋
  頭半棘筋/頭板状筋
6 頭部
 1.顔面筋
  頭蓋表筋,前頭筋/皺眉筋/眉根筋/眼輪筋/上眼瞼挙筋/鼻筋/上唇鼻翼挙筋/
  上唇挙筋/大頬骨筋と小頬骨筋/笑筋/口角挙筋/口輪筋,辺縁部/
  口輪筋,唇部/口角下制筋/オトガイ筋
 2.咀嚼筋
  側頭筋/咬筋/内側翼突筋/外側翼突筋
 3.舌筋
  舌-内舌筋/舌-内舌筋(作用)
 4.外眼筋
  内側直筋/外側直筋
7 骨盤底
 1.骨盤底筋
  外肛門括約筋/恥骨直腸筋
8 自律神経障害
 1.流涎過多
  耳下腺,顎下腺
 2.過活動膀胱
  膀胱の排尿筋
 3.多汗症
  汗腺(代表的なもの)
9 付録
  薬剤情報/文献/インターネットリンク

索引

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実地で手元に置いて利用できる実用的な教科書
書評者: 有村 公良 (大勝病院院長)
 日本のボツリヌス治療の草分けであり,第一人者である徳島大学臨床神経科学分野教授の梶龍兒先生の監訳による『ボツリヌス療法アトラス』が発刊された。ボツリヌス療法の実地臨床に役立つ待望の書の登場である。

 これまで数多くのボツリヌス療法の解説書が出版されたが,その内容は対象疾患の解説,ボツリヌストキシンの作用機序・投与法・効果,および予後まで幅広くボツリヌス療法に対する基礎知識を述べたものが中心であった。本書の特徴は『ボツリヌス療法アトラス』というその名の通り,ボツリヌス療法を行う実地の場で,手元に置きながら利用できる,まさに実用的な教科書である。

 ボツリヌス療法は1997年眼瞼痙攣が保険適応になって以来,片側顔面痙攣,痙性斜頸,小児の脳性麻痺と徐々に適応が拡大し,2010年10月からは脳卒中後遺症を含む上下肢痙性への適応が認められ,その対象患者数は飛躍的に多くなった。本書の序章に梶先生が書いておられるように,ボツリヌス療法は治療する医師にとって,治療の適応の決定,治療する筋の選択,投与量の決定など多くの知識と経験を要する治療法である。本来なら熟練した医師の指導下で十分な経験を積むことが望ましいのだが,わが国には経験豊富な医師はさほど多くはなく,また専門のトレーニングを受けることができる施設の数も少ないのが現状である。本アトラスはその手助けとなる実用書といえる。

 ボツリヌス療法を適切にかつ効果的に行うためには,いくつかのポイントがある。

 まず臨床や神経生理学的に治療の対象となる筋を同定することから始まる。その次にその対象となる筋へ正確にボツリヌストキシンを投与することが重要である。そのためには,(1)対象筋の解剖学的な位置と神経筋接合部が豊富な筋腹を同定する,(2)可能な限り筋電図,電気刺激,超音波で注射針の刺入部位を確認することが重要となる。『ボツリヌス療法アトラス』では,これらの点についてかゆいところに手が届くがごとく,詳細に解説されている。

 まず筋の解剖図が非常にきれいで,筋の走行や周囲の組織との関連がよくわかる。その図に注射針刺入部位の指標が示されており,極めて実地的である。また同時にほとんどの筋で注射部位の断面図があり,三次元的に対象筋の同定や周囲の神経・血管との関係が一目でわかるようになっている。それぞれの図には対象筋の作用,注射時の注意点,実際の注射位置・方法が記載されており,経験者でも改めて確認できるようになっている。もう一つの本書の特徴は,いくつかの重要な前腕の筋で超音波図が載せられていることである。最近安全かつ確実に注射するために超音波を用いる術者も増えており参考になる。以上のようにボツリヌス療法を行う際に重要な対象筋の同定は,本アトラスを確実に理解することでほぼ解決できると思われる。

 次に重要なことは投与量の設定である。この点についてもすべての筋について投与量の目安が記載されておりわかりやすい。この投与量の目安をもとに,治療対象者の年齢,筋のボリューム,不随意運動の強さなどから,施注者が量を決定することになる。本書ではボツリヌストキシンとして,わが国で認可されているボトックス®のほか,欧米で認可されているほかの2種類の薬剤についてもその投与量が記載されている。将来これらの薬剤がわが国に入ってきた場合でも対応できる。また,本アトラスは保険適用になっている四肢筋群,頸部筋群,顔面筋群のみならず,現在のところ保険適用疾患の対象となっていない骨盤底筋,自律神経系の記載もあり,臨床研究にも応用可能となっている。

 ボツリヌス療法を行う際にはぜひともそばに置いておきたい実用書であり,推奨する一冊である。
ボツリヌス療法実施の際の座右の書
書評者: 木村 彰男 (慶大教授/リハビリテーション医学・医工連携)
 ボツリヌス菌が産生するボツリヌス毒素は,神経筋接合部でアセチルコリンの放出を妨げる働きを持つ。一般にボツリヌス毒素の作用は末梢性に限られるとされており,筋弛緩,鎮痛作用に効果のあることが確認されている。そのため,近年では各種疾患の治療に用いられるようになり,多方面から注目を集めている。

 日本国内においてはA型ボツリヌス毒素製剤ボトックス®が注射剤として承認されており,1996年に眼瞼痙攣,2000年に片側顔面痙攣,2001年に痙性斜頸,2009年に2歳以上の小児脳性麻痺患者における下肢痙縮に伴う尖足へと徐々にその適応が拡大され,2010年に上肢痙縮・下肢痙縮への適応承認へと至る経過をたどっている。リハビリテーション医学・医療の分野では上肢痙縮・下肢痙縮に対するボツリヌス毒素の適応が拡大されたことにより,特に脳卒中患者の後遺症に対する治療として急速に広まりつつある。ただ,どの筋を目的に,どのくらいの用量を使用するかに関してはまだ基準がなく,臨床経験の積み重ねにより標準化されてゆくことが期待されている状況である。

 ボツリヌス治療の実際に関しては,運動学の観点から目標となる筋肉を決定し,その筋に正確に注射する必要がある。臨床神経生理学を専門とし,筋電図検査に精通している神経内科やリハビリテーション科の医師にとっては,表面解剖や機能解剖は基本的知識であり,筋の同定はそれほど難しくはなく,フェノールなどによるモーターポイントブロックに比べ,手技的にはむしろ比較的容易といえる。しかしながら一般の医師にとっては,目標となる筋の同定に苦労することも多いと思われ,専門家にとっても深部にある筋や,神経・血管の近傍に注射を施行する場合には,細心の注意を図る必要がある。そのため電気刺激を用いたり,筋電図や超音波を使用しながらボツリヌス療法を行うこともしばしばである。

 このようなボツリヌス治療の手技に習熟し治療を実践する上で,本書は最適な教科書といえる。治療の対象となるであろうすべての筋肉について,その表面解剖,筋の機能はもちろん,注射の際の筋へのアプローチ法,各製剤の標準的な用量,臨床上の注意点が,極めて繊細なアトラスとともに示されており,本書がボツリヌス療法のガイドブックとしての大きな役割を果たすことは間違いないと思われる。ただしドイツでの使用状況が基本として書かれていることから,当然ながら商品や用量などについては日本の現状に即して考える必要があり,適応外の使用に関しては用いるべきではない。

 監訳者である梶龍兒先生は,本邦におけるボツリヌス療法の第一人者である。長い使用経験を有するとともに,上肢・下肢痙縮へと適応が広がる際には治験をまとめる責任者として大活躍された方であり,このような先生の監訳のもと,徳島大学神経内科の先生方が中心となり,ボツリヌス療法実施の際の座右の書となるべく本書をわかりやすく訳されたことには多大な敬意を表する次第である。広く本書が愛読され,治療適応となる患者さんに多くの恩恵がもたらされることを期待したい。

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