見てできる褥瘡のラップ療法

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「浸軟やかぶれにどう対応するの?」「感染があったらラップ療法は中止?」「医療用被覆材とラップはどう使い分ける?」……ラップ療法を「褥瘡の局所治療のひとつ」と位置づけ、その実践技術について、豊富なカラー症例写真と図解で詳しく解説する。手技、手順、アセスメント、注意点など、ラップ療法をめぐるあらゆる疑問に答える、現場のための決定版テキスト。
シリーズ 看護ワンテーマBOOK
編著 水原 章浩
発行 2011年04月判型:B5変頁:128
ISBN 978-4-260-01315-4
定価 1,980円 (本体1,800円+税)

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  • 序文
  • 目次
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はじめに

 ラップ療法について講演を行うと、さまざまな質問を受けます。たとえば、「ラップはずっと貼っていてもよいのですか?」「ラップ療法では軟膏は使ってはいけないのですか?」「医療品を用いないので、介護者や家族が自己判断で行ってよいのでしょうか?」などです。
 いかがでしょう。皆さんはこういった質問に、適切に答えることができるでしょうか。
 ラップ療法は、治療効果がよく、処置も簡単で低コストであることから、現在広く行われるケア方法になっています。しかし、こういった質問が少なくないところをみると、実際には基本的なポイントが理解されていないのではないかと感じます。
 日本褥瘡学会の隆盛とともに、褥瘡ケアの方法は飛躍的に発展してきました。2005年に日本褥瘡学会から“褥瘡局所治療ガイドライン”が出てからは、それに準拠した治療がWOCナースを中心に行われてきました。
 一方、ラップ療法は2000年頃から行われていましたが、“医療用ではない食品用ラップや穴あきポリエチレンなどを創傷被覆材の代替として用いる褥瘡・創傷治療”(2009年8月 第11回日本褥瘡学会ラップ療法シンポジウム)であるため、学会からは長い間、無視されてきました。
 しかし、ラップ療法が全国的に普及し、近年多くの医療者の関心が集まるなか、2010年3月、日本褥瘡学会理事会はラップ療法を条件付きで容認するにいたりました。こうして、ラップ療法は、褥瘡治療体系の選択肢のひとつに加えられたというわけです。今後は、急性期病院、後方病院、さらには施設、在宅の区別なく、褥瘡を扱うあらゆるスタッフがラップ療法の正しい適応と安全な施行に関する知識を共有する必要があります。
 こうした背景のもと、「ラップ療法を実際に施行する看護師、介護者の目線で、ラップ療法をわかりやすく解説する」という趣旨でまとめたのが、本書です。
 さて、冒頭であげた質問はこのように要約されます。

  □ ラップ療法の基本的な手技、手順はどのようなものか
  □ 薬剤を含めた既存の治療法と、ラップ療法をどう使い分けるのか
  □ 医療品でない食品用ラップなどを用いる際に注意すべきことは何か

 本書を学ぶことで、このような基本的な疑問に答えることができるようになることはもちろん、ラップ療法を含めた褥瘡治療全体について、実践的なケア方法を身につけていただくことを望みます。

 2011年2月
 著者代表 水原章浩

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はじめに

第1章 基本的な考え方
 創傷治療の3原則
 実践の前提
  アセスメント/除圧/栄養/スタッフ間の情報共有
 ラップ療法の利点
  コスト削減効果/医療用創傷被覆材との使い分け/
  頻回な被覆材交換が可能/負担の軽減
 ラップ療法の注意点
  正しい適応と安全な施行についての知識の共有
  施行には医師の指示、および本人・家族への十分な説明が必要
  禁忌:ラップ療法を行ってはいけない褥瘡

第2章 実践法
 使用する物品
  最低限必要な物品/準備しておくとよい物品
 基本手順
 アセスメントと被覆材の選択
 処置のバリエーション 基本編
  ポリウレタンフィルム
  ハイドロコロイド被覆材
  穴あきポリウレタンフィルム
  食品用ラップ
  おむつや生理用ナプキンのじか貼り
  非固着性吸水ドレッシング材
  アルギン酸塩(1) 止血
  アルギン酸塩(2) 吸水
   ワンポイントレクチャー
   (1)穴あきポリウレタンフィルムの作製
   (2)フィルムドレッシング材の剥がし方
 処置のバリエーション 応用編
  便や尿による汚染
  浸軟
  かぶれ・湿疹
   掻痒を伴う場合
   食品用ラップによるアレルギーの場合
  バイオフィルム・Critical colonization
  過剰肉芽
  過剰な壊死組織・ポケット
  軟らかい壊死組織がある場合
  硬い壊死組織がある場合
  膿汁が多い
  抗菌薬入りステロイド含有軟膏による保存的治療
  陰圧閉鎖療法
  悪臭
  創感染
   ワンポイントレクチャー
   (3)創感染のアセスメント
   (4)デブリードマン
 在宅の事例
  CASE 1 家族の自己判断による処置で褥瘡が悪化
  CASE 2 ラップ療法を導入したが、悪化が止まらない

第3章 実践力テスト
 アセスメント力テスト
 ラップ療法○×クイズ

第4章 ラップ療法の過去と未来
 ラップ療法の歴史と実情からみた課題
 ラップ療法のエビデンス

おわりに

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最新のケアとしてのラップ療法を知るための入門書 (雑誌『看護教育』より)
書評者: 六角 僚子 (東京工科大学医療保健学部看護学科教授)
 一昔前は,褥瘡をもつ患者への処置は,(1)生理食塩水でごしごし洗い,(2)お天気のよい日は部位を日光に当てるかドライヤーでしっかりと乾燥させ,(3)イソジンで消毒しガーゼを当てる……,これが通常のケアでした。そんななか,4,5年前から耳にするようになったのが本書のタイトルである「ラップ療法」です。簡単に治せる,手軽に治せる,コストもかからず誰にでも治せる,施設では大流行というような噂。何となく疑わしい怪しそうな療法と,私自身が決めつけていたところがありました。

 今回本書を手にして,まず写真がたくさんあり,言葉も端的で非常に読みやすいという印象をもちました。これには「ラップ療法を実際に施行する看護師,介護者の目線で,ラップ療法をわかりやすく解説する」という著者らの意図が表れています。先に紹介されている創傷治療の原則,アセスメントの重要性は褥瘡に向き合う多職種に必要な基本的な知識といえますし,紹介されている事例は,丁寧に実践を積み上げてきたことを傍証しています。批判を受けながら,地道に事例を積み上げてきた結果が本書では実感できます。

 本書で知りましたが,日本褥瘡学会で2010年3月に,条件付きではありますが,ラップ療法が治療法として認められました。しかし2009年の調査によると,一般病院などの医師の5割はラップ療法を認めているもののその認知度は一律ではなく,特に老人保健施設ではラップ療法施行に至らないケースも少なくない,これがラップ療法が浸透していかない要因であり,大きな課題であると著者らは述べていました。まず医師がラップ療法に対して正しい理解をして取り組んでいくことにより,在宅や施設の患者が救われることも多々あると感じます。

 本書で何度となく提言しているのは,「(1)医師の指示のもとで行う,(2)患者・家族に十分な説明をする,(3)患者・家族の同意をとる」という施行条件です。ですから「誰でも簡単にできる」というのは実はただの噂で,正しい手順を踏んでの実践が求められます。またラップ療法の禁忌事項も明確にされているので,看護師・介護者が本書から学んだことを医師とともに活かすのに役立ちます。

 筆者はデイサービスセンターを運営していますが,正しい手順を踏めば,センターの看護師が処置を行うことも可能となり,ほぼ毎日通所する利用者にとっては大きなメリットになります。医療と介護が両輪でケアを進めていけば,在宅でも施設でも効果的に褥瘡治癒が期待できるでしょう。看護教育の現場では,まだテキストに取り上げられていなくても,「ラップ療法」をエビデンスのある最新のケア情報,医療現場での課題として取り上げ,情報発信をしていきたいと思います。

(『看護教育』2011年10月号掲載)
書評 (雑誌『訪問看護と介護』より)
書評者: 仙石 真由美 (社会福祉法人函館厚生院函館五稜郭病院 皮膚・排泄ケア認定看護師)
 褥瘡管理では個人の基礎疾患や病状をはじめ、除圧の方法、摩擦やずれ対策、スキンケアの方法、栄養管理、リハビリテーションなど、さまざまな視点から総合的に考えることが基本となります。局所の治療は医師の指示で行なうことが前提ですが、どのような方法であっても、実際のケアに関わるスタッフは安全に配慮した方法と、創を正しく評価できるように経験を積み重ねていくことが重要です。実際に褥瘡ケアを行なっている方は、治療方法に関する具体的な知識を求めているのではないでしょうか。

◆在宅、施設でも可能な現実的な選択肢

 褥瘡に関する書籍は多くありますが、治療方法の内容は日本褥瘡学会の「褥瘡局所治療ガイドライン」に推奨されている外用薬とドレッシング材に言及しているものがほとんどです。実際に使用したくてもドレッシング材が入手困難な環境では、外用薬での治療や、工夫を重ねながら衛生材料を活用したケアを行なっているのが現状だと思います。また、鳥谷部俊一氏らが始めたラップ療法が、在宅や介護施設を中心に広く行なわれていることから、すでにラップ療法を行なっている方もいることでしょう。

 2010年3月に日本褥瘡学会が条件つきでラップ療法を認めたことから、褥瘡治療の選択肢が広がりました。このことは療養環境を問わず褥瘡ケアに関わりが多い看護師や介護スタッフが、ラップ療法について正しい知識を身につけておく必要があるということでもあります。

◆これまでにない現場目線のテキスト

 本書は、褥瘡に限定したラップ療法について、看護師や介護スタッフの目線を考慮して構成された、これまでにはなかったテキストと言えます。編著者の水原章浩氏は、これまでの著書や講演においても、褥瘡を含めた創傷に対するラップ療法の基本手技と応用方法について紹介されています。そして、その優れた効果以上に、ラップ療法を安全に行なうための注意点について強調して述べられています。

◆テストとクイズでよくある疑問に答える

 本書は初めての方でもイメージしやすいように症例写真が豊富で、基本的な考え方をはじめ、ラップ療法の基本手技から応用方法についてポイントを押さえた内容になっています。また、アセスメント力テストとクイズで理解度を確認することができ、現場で生じやすい疑問点についての回答も明快に述べられています。

 使用される材料はラップだけにとどまらず、外用薬、ドレッシング材、衛生材料の使用、またその組み合わせ方法など豊富なバリエーションがあることから、現在ラップ療法を行なっている方は、改めて学べる内容も多いことと思います。また、困難な症例と照らし合わせることで、大きなヒントを得ることのできる1冊です。

(『訪問看護と介護』2011年8月号掲載)
ラップ療法の安全で正しいやり方とさまざまな褥瘡に対する応用例がわかる実践書
書評者: 岡田 晋吾 (北美原クリニック理事長)
 わが国の褥瘡管理は日本褥瘡学会を中心に目覚ましい発展を遂げてきました。褥瘡予防・管理ガイドラインをはじめ,世界に誇れる成果が示されています。多くの病院では多職種からなる褥瘡対策チームが活動しており,その結果病院での褥瘡発生率は低下しています。

 その一方で,社会の高齢化に伴い療養場所が多様化しており,介護施設や在宅などで医療を受けている患者さんが増えてきています。そのような場所で療養生活を続けている患者さんは,低栄養や活動性の低下など褥瘡発生のリスクが高い方が多く,褥瘡の予防や早期の治療が必要です。そして褥瘡が発生した場合には病院とは違って高価なドレッシング材は手に入らず,たとえ得られたとしても長期に使用することは不可能です。

 鳥谷部俊一氏らが開発したラップ療法は,安価かつ簡便なため,患者さんや介護者にやさしい方法として主に在宅や介護施設から急速に広まりました。確かにほとんどの褥瘡はラップ療法をうまく使うことで治ってしまいます。私も開業してから今まで以上に在宅や施設で褥瘡を診るようになり,ラップ療法は患者さんにとっては経済的負担も少なく,体にもやさしい方法であり,介護者にとっても負担が少ない優れた方法であると感じるようになりました。

 2010年3月には,条件付きではありますが,ラップ療法を一つの治療法として認める初めての見解が日本褥瘡学会から出されました。本書の編著者である水原章浩氏はラップ療法が学会で認められるために大きな役割を果たされました。ラップ療法の優れた点を講演で紹介するとともに,しかしその一方で,安易なラップ療法の選択はとても危険であるということを必ず話されています。

 ラップ療法は簡便,安価なことが強調されていますが,実はラップ療法の先駆者の方々は,しっかりと創の状態を評価して対応しています。これから褥瘡の治療にラップ療法を行おうとする方は,褥瘡治療の基本について学ぶとともに,創の状態を正しく評価できる必要があります。そして患者さんや介護者の負担を減らすためには,創の状態だけでなく,患者さんの療養環境に応じた治療法を選択することも必要になってきます。

 本書はラップ療法の正しいやり方を丁寧に紹介しているだけでなく,いろいろな症例に対する応用例がカラーで紹介されていますので,初めてラップ療法を行おうとする方にはとても参考になると思います。またラップ療法をすでに実践している方でも,困難症例で悩まれたときにすぐに使える知識が書かれています。本書で学んだ知識に基づいて一例一例実践を積み重ねていくことで,褥瘡をやさしく治すという考えを実感できると思います。

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