linitis plastica型胃癌
その成り立ちと早期診断

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“発見されたときには既に手遅れ”の癌として恐れられている“スキルス胃癌”の本態は実はlinitis plastica型胃癌である。本書はlinitis plastica型胃癌の芽を摘むために必要な病理学的知識と早期診断のノウハウを、病理と臨床の第一人者が豊富な症例を用いて懇切に解説。癌研時代の師弟コンビが再びタッグを組んで胃癌診断学の最後の壁に挑んだ著者ら渾身の書。胃癌診療に携わる臨床家必読の書。
中村 恭一 / 馬場 保昌
発行 2011年05月判型:B5頁:288
ISBN 978-4-260-01241-6
定価 16,500円 (本体15,000円+税)

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はじめに “linitis plastica型胃癌への小径”の普請に至るまでの短い歴史

 1960年代の日本は,胃癌の頻度が世界で一番高い国であったこともあって,胃癌に関する臨床的ならびに病理組織学的研究が盛んに行われていました.当時の“胃癌組織発生”については,“胃癌は良性病変である消化性胃潰瘍,胃ポリープ,そして慢性胃炎を母地として発生する”という考え方が一般的であり,それぞれ潰瘍癌ulcer-cancer,ポリープ癌polypogenic carcinoma,そして胃炎癌gastritis-carcinomaと呼ばれていました.特に,胃潰瘍は日本人の胃に多かったこともあって,胃癌の発生母地として重要視されていました.そして,村上(1956)1)および太田(1964)2)は,Hauser(1926)3)による胃潰瘍癌の組織診断基準を浅い潰瘍(Ul-II,Ul-III)にまで拡大解釈した基準を発表しました.日本ではその拡大解釈された胃潰瘍癌の組織診断基準が一般的に受け入れられていて,胃癌の60~70%は胃潰瘍を母地として発生するとされていました4).胃潰瘍の三大合併症として大出血,穿孔性腹膜炎,そして癌化が挙げられていて,胃潰瘍は“癌化するから”という理由で胃部分切除が盛んに行われていました.社会的には,「無胃会」結成の新聞記事が掲載されたくらいです.必然的に,病理組織学的検査の俎上には潰瘍で切除された胃が多く現れ,その組織学的検索数は癌症例数を上まわるくらい多かった時代でした.
 1962年から,筆者(中村)は癌研究所病理部で病理組織診断に携わっていましたが,潰瘍そして癌の切除胃の病理組織学的検査においては,早期胃癌に対しては潰瘍癌の組織学的診断基準に従って診断し,そして,胃潰瘍病変に対しては潰瘍癌の初期状態である潰瘍辺縁における微小癌の発見を期待して,日々切除胃の組織学的診断を行っていました.しかし,胃癌の発生母地として重要な地位を占めている潰瘍の辺縁粘膜からは,微小癌は一向に現れてきませんでした.また,文献上でもそのような微小癌はまれにしか報告されていません.潰瘍癌の組織診断基準に疑問を抱くようになりました.なぜならば,潰瘍癌の頻度が高いにもかかわらず,潰瘍辺縁からは微小癌が現れてこなかったからです.
 潰瘍癌とは,潰瘍が先に存在していて,そこに癌が発生するという“潰瘍と癌の因果関係”ですから,潰瘍癌の組織学的診断基準には潰瘍と癌が発生した前後関係を示す時間の所見がなければなりません.しかし,胃潰瘍癌の組織診断基準には,潰瘍と癌とが経過した,あるいは,それらが発生した時間の前後関係を示す肉眼的組織学的所見が見あたりません.そうすると,その組織学的基準は癌と潰瘍とが重なっている組織所見の記述であり,“潰瘍の癌化”であっても“癌の潰瘍化”であってもよいことになります.
 潰瘍癌の組織学的診断基準の正否を検討するためには,どうしても癌の発生からの経過を物語る所見を取り入れた解析が必要となります.潰瘍癌とは,潰瘍が存在していてその辺縁粘膜に癌が発生したという,潰瘍と癌の因果関係の主張であるからです.潰瘍と癌とが重なっている粘膜内癌IIc+III型で,時間の要素となりうる客観的な所見は何か?が脳の片隅から離れませんでした.東海道線の満員電車に揺られながら何となく考えをめぐらせていました.ある時に,“ローマは一日にして成らず”,“胃癌もまた一日にして進行癌にはならず”ということが頭を過りました.胃癌は突然大きくなるのではなく,微小癌に始まり連続的に徐々に大きくなっています.すなわち,粘膜内癌の面積は,癌が発生した時からの粗な経過時間を表していることになります.
 粘膜内癌において,癌の大きさ(面積)別に潰瘍病変を伴っている率を眺めてみると,癌が大きくなるに従って潰瘍を伴っている癌の率が一方的に高くなり,その大きさが径2 cm以上ともなると,大部分の粘膜内癌は潰瘍病変を伴っていました.潰瘍癌の組織診断基準が潰瘍の癌化を意味するのであれば,癌の大きさとは無関係に,その率はある一定の値を示すはずです.しかしながら,一方的にその頻度が増加していることは,粘膜内癌は正常胃粘膜よりも潰瘍化しやすく,粘膜内癌の発育の過程で癌の二次的潰瘍化が生じていることを意味していることになります.したがって,組織学的に潰瘍癌であることの確率の高い病変は,微小癌と潰瘍とが空間的に重なっている病変ということになり,潰瘍辺縁の微小癌および潰瘍瘢痕上の微小癌の頻度が潰瘍癌の頻度ということになります.厳密にいうならば,潰瘍辺縁における微小癌の存在という組織所見ではあっても,小粘膜内癌の潰瘍化によって大部分の癌組織が脱落した状態の癌であることを除外できません.しかしながら,潰瘍切除胃の大部分を組織学的に検索しても微小癌は潰瘍辺縁から現れてこないで,いわゆる正常粘膜から現れてきました.以上のようなことからは,胃潰瘍は癌発生母地病変としては重要でないという結論に達しました5)
 一方,胃癌発生母地として腺腫性ポリープadenomatous polypも重要視されていました.その腺腫性ポリープおよび良性悪性の組織学的鑑別が問題となる異型上皮からなる隆起性病変を“異型上皮巣”と定義して,その癌化と良性悪性の組織学的鑑別診断について検討した結果,その異型上皮巣の癌化の頻度は低く,むしろ良性悪性の鑑別が問題となるとの結論に到達しました6)
 以上のようなことから,胃の良性限局性病変である潰瘍とポリープは,胃癌の発生に関して重要ではないということになります.ここに至って,胃癌はどのような場から発生しているのであろうか?という難問に行き当たりました.再び“ローマは一日にして成らず”からは,“進行癌が存在しているからには,微小癌は必ず存在している”ことになります.しかし,当時においては,日常の病理組織学的検索では微小癌との出会いはまれでした.何故か?われわれは微小癌の粘膜面からみた肉眼的所見を知らなかったからです.X線・内視鏡的に微小癌を見出すためには,当然のことながら,微小癌の肉眼所見を知らねばなりません.必ず存在している微小癌,その発見のためには潰瘍,早期癌あるいは小さな進行癌の切除胃の大部分を切り出して,組織学的に微小癌を探し出すという方法しかありません.
 胃の微小癌を最大径5 mm以下と定義して,切除胃を小彎側に平行にその大部分を切り出して,組織学的に微小癌を探し出すことにしました(切除胃の全割組織標本作製法).全割組織標本作製に際しては,微小癌が発見された場合にその存在部位と肉眼形態を明確にするために,全割切り出し状態の切除胃の写真を全例撮影しておきました.微小癌を発見してもその位置が不明であると,微小癌の肉眼形態を検討することができないからです.
 この切除胃の全割による方法によって,微小癌はかなり発見されるようになりました7,8).微小癌とその近傍胃粘膜は癌が発生した時点での状態をよりよく保存しているとみなすことができます.この胃微小癌からは,胃癌組織発生『腺管形成傾向の極めて弱い粘液細胞性腺癌は胃固有粘膜から,そして腺管を形成している管状腺癌は胃の腸上皮化生粘膜から発生する』を導くことができました7~9).この切除胃全割による微小癌発見のための組織学的検索は,多くの諸先生の協力のもとに続けられました.本書の共著者,馬場保昌博士もその一人です.馬場は,癌研付属病院内科で胃X線二重造影法の創始者の一人である故・熊倉賢二先生に師事する前の約2年間(1971~1973),癌研病理部で筆者と一緒に切除胃の全割と検鏡に明け暮れていました.この全割方式による切除胃症例の積み重ねにより,胃粘膜の全貌を知ることができたと同時に,X線・内視鏡所見←→切除胃肉眼所見←→組織所見の1対1対応を行うことによって多大の成果がもたらされました.胃癌組織発生『胃癌の大部分は良性限局性病変“潰瘍,ポリープ”とは無関係に,未分化型癌は胃固有粘膜から,そして分化型癌は胃の腸上皮化生粘膜から発生する』が導かれ,その結論から派生する数多くの命題とその証明,そして,胃癌組織発生の実際の場における臨床病理学的意義が明確にされました.本書の“linitis plastica型胃癌の癌発生から完成まで”の臨床病理学的な体系化もその1つです.
 馬場が病理から内科へ転科した際に,筆者は彼に臨床面からの胃癌組織発生の意義についての研究を要望しました.胃癌組織発生の実際における意義を見出せないと,それは所詮無用の学説であることになるからです.馬場は,転科してすぐに,胃癌組織発生の観点から早期胃癌のX線・内視鏡所見と切除胃の肉眼所見と組織所見との対比を行いました.そして,馬場・熊倉がX線的にみた陥凹型早期癌の組織型別肉眼形態の違いについて報告したのは,この全割症例の観察に基づいてなされた研究の1つです10).すなわち,馬場はIIc型早期癌の肉眼所見とX線・内視鏡的所見との対応を癌組織型別に行ったところ,IIc型粘膜内癌の典型例あるいは質のよい写真とされているX線・内視鏡写真は未分化型癌に多く,それに反して,同じ条件下で撮影されているにもかかわらず,IIc型の分化型早期胃癌の多くは質の悪いX線・内視鏡写真とされていることに気づきました.そして,典型的とされていなかった陥凹型癌症例の多くは,実は分化型癌の肉眼的特徴がよく写し出されている良質の写真であることを指摘しました.さらに,馬場ら(1988)11)は,微小癌の肉眼的,X線・内視鏡的所見の対比を行い,術前に微小癌として診断しうる陥凹所見は,星芒状の微小陥凹の辺縁を取り巻く軽度顆粒状隆起,あるいは,微小陥凹を取り巻く軽度隆起IIc+IIa(ただし,軽度隆起は炎症性変化による正常粘膜隆起)という特徴を見出しています.
 先に述べた胃癌の組織発生は,対象となっている微小癌の大部分は胃癌の好発部位である胃角部より十二指腸側の腸上皮化生を伴っている,あるいは伴っていない胃幽門腺粘膜領域に見出された癌です.この胃癌組織発生は,胃癌の好発部位である幽門前庭部に存在していて,しかも微小という特殊な状態の癌から導かれた学説です.胃固有粘膜には幽門腺粘膜よりも広い胃底腺粘膜がありますから,この学説が胃癌発生部位,そして癌の大きさとは無関係に,胃癌全体において一般的に成り立つかどうかの検討が必要となります.
 胃癌組織発生の1つである『未分化型癌は胃固有粘膜から発生する』が確実に成り立つためには,胃癌の好発部位ではない胃底腺粘膜領域に発生した癌について,命題『胃底腺粘膜から発生する癌の組織型は,その癌の大きさとは無関係に,未分化型癌である』の証明が必要となります.何故,その命題に“癌の大きさとは無関係に”という条件が付加されているのかというと,先にも述べてあるように,当時,胃底腺粘膜における微小癌症例の数が少なかったことがあり,どうしてもある大きさの癌を対象として証明せざるを得なかったからです.また,ただ単純に小さな未分化型癌が胃底腺粘膜領域に存在していた場合に,その未分化型癌の組織発生について“胃底腺粘膜領域に癌が発生した時点では,そこに腸上皮化生粘膜が存在していた”との反論がなされてしまうと,胃癌組織発生は一般的ではなく特殊な癌においてのみ成り立つということになってしまうからです.その反論を否定するためには,胃底腺粘膜から発生した癌の組織型は癌の大きさとは無関係に未分化型癌であることを証明しなければなりません.
 ここにおいて,胃固有粘膜の腸上皮化生による置き換えに関する規則性の有無を検討することが必要となってきます.当時,腸上皮化生の発生と拡がりについては,胃幽門前庭部小彎側の幽門腺粘膜から始まり,加齢とともに腸上皮化生は他部位の粘膜に波及していることは,経験則として知られていました.しかし,その規則性の有無については知られていませんでした.その検討のために,『腸上皮化生のない胃底腺粘膜領域を限界づける境界をF境界線』と定義して,全割がなされた切除胃の写真上にF境界線を描いてみました.その結果,F境界線の型には本質的に異なる2つの型(通常型と萎縮型)が存在していることがわかりました.そして,F境界線の経時的変化を知るために,2つの型の比(萎縮型/通常型)を年齢層別にみると,その比は加齢とともに一方的に増加し,F境界線の加齢に伴う経時的移動は不可逆的であることがわかりました12,13).すなわち,胃底腺粘膜→腸上皮化生粘膜の変化は不可逆的であるということです.そこで,このF境界線で囲まれている領域(F線内部領域)に存在している癌は,その癌の大きさとは無関係に,胃底腺粘膜から発生した癌であるということができます.さらには,胃癌組織発生からは,組織学的に未分化型癌でなければなりません.全割症例でF境界線内部領域に存在している癌の組織型をみると,97%が未分化型癌でした.この所見は,生物学的事象の多くが確率事象であるのに対して,確実事象ともいえます.なお,この発表の10年後に医学雑誌『胃と腸』の特集で確実事象であるかどうかの追試がなされ,その結果は96%が未分化型癌であり,確実事象であることを強く裏づける結果でした.
 胃底腺粘膜から発生した癌の組織型が未分化型癌であることは,微小癌から導かれた胃癌組織発生を強く支持するところとなりました.それとともに,この全割症例の中に胃底腺粘膜から発生した原発巣の大きさが径2 cm以下のlinitis plastica型胃癌症例が,かなり多く含まれていることに気がつきました.当時は,現在においてもそうですが,幽門前庭部における組織学的なスキルス胃癌は日常的に診断されていて,予後も特別不良ではないのにもかかわらず,何故に“スキルス胃癌の早期診断は難しく,予後は極めて不良である”と捉えられているのか?という疑問を抱いていました.
 スキルス胃癌は,歴史的にSkirrhus, Carcinoma fibrosum, Diffuse carcinoma, Borrmann 4型,あるいはlinitis plastica型胃癌などと,肉眼的,組織学的特徴を捉えた名称で呼ばれていました.それらに共通することは,組織学的にスキルス胃癌であるということです.胃癌診断の進歩した現代においては,X線的および肉眼的にleather bottle状と表現されているlinitis plastica型胃癌以外のスキルス胃癌の早期診断は容易であり,予後も組織学的なスキルス癌以外の組織型の癌に比べて不良ではありません.したがって,“スキルス胃癌の早期診断は困難で予後が極めて不良”というレッテルは,ほかならぬlinitis plastica型胃癌に貼られるべきことなのです.その原発巣の形態と部位が不明であったがために,スキルス胃癌全体にレッテルが貼られてしまっていたわけです.つまり,いわゆるスキルス胃癌の中で,早期診断の困難な,そして,発見された時には予後の極めて悪い癌はleather bottle状あるいは管状狭窄を呈しているいわゆるlinitis plastica型胃癌であり,その原発巣の部位とlinitis plastica型完成までの発育進展に伴う形態変化が十分に解明されていなかったがために,このlinitis plastica型も組織学的なスキルス胃癌に包括されてしまっていたわけです.
 ここに至って,linitis plastica型胃癌の癌発生から完成に至るまでの発育進展過程とそれに伴う胃の形態変化,いわば“linitis plastica型胃癌への小径”の解明を手がけることにしました.その解明の始めには,次の4つの事実,(1)胃癌好発部位である胃幽門側1/2における組織学的なスキルス胃癌の早期診断は容易である,(2)組織学的なスキルス胃癌は,他の組織型の癌よりも予後は良好である(西ら,1969)14),(3)高位の胃癌のX線・内視鏡的早期診断は難しい15),(4)linitis plastica型胃癌の原発巣は,胃底腺粘膜領域に存在している場合が多い,を前提とすると,1つの命題『linitis plastica型胃癌の原発巣は胃底腺粘膜から発生した未分化型癌である』が浮上してきます.すなわち,それを証明するために命題『linitis plastica型胃癌と胃底腺粘膜から発生した未分化型癌との関係』を検討することにしました16~18)
 以上は,1960年代からの日本における胃癌組織発生に関する歴史に始まり,胃癌組織発生,そして胃癌細胞発生の基礎的研究から,副次的に派生した1つの命題“linitis plastica型胃癌への小径”を描くことに至った一連の思考過程〔命題→証明→結論(命題)→証明→結論→〕を長々と書き綴ってしまいました.本書でいきなり『linitis plastica型胃癌の原発巣は胃底腺粘膜から発生した未分化型癌である』を強調しても,そのような結論に達したことの過程を知らないと“小径”が奇異に感じられるのではないかと思ったからです.
 本書は,大きくは2つの部分から構成されています.すなわち,linitis plastica型胃癌となる癌の発生からlinitis plastica型胃癌完成までの経過時間と病理組織学的な形態変化,いわば“linitis plastica型胃癌への小径”の記述,そして,その“linitis plastica型胃癌への小径”の道筋の途上で,linitis plastica型胃癌となる癌の原発巣をより早期に捉えるためのX線・内視鏡的所見および着眼点についての記述です.“linitis plastica型胃癌への小径”の病理組織学的な風景に,linitis plastica 型胃癌をより早期に発見するためのX線・内視鏡的所見を加えることによって,基礎と臨床とを一体化した,実際において有用な“linitis plastica型胃癌への小径”としました.
 この臨床病理学的“linitis plastica型胃癌への小径”の普請にあたっては,当然のことながら,数多くの協同研究者および検査技師諸氏による協力をいただきました.ここで改めて感謝の意を表します.また,本書の出版に至るまでの過程において全面的に支援して下さった医学書院・窪田 宏氏に感謝いたします.

 2011年3月6日
 “La casa de la bella vista en Hakone” にて
 中村 恭一

1. 村上忠重,中村暁史:胃潰瘍と癌.最新医学11:1836-1846,1956
2. 太田邦夫:胃癌の発生.日病会誌53:3-16,1964
3. Hauser G:“Ulkus-Karcinom” in Henke-Lubarsch:Handbuch der spez Path Anat u Histol VoI V/I. Springer-Verlag, Berlin, 1926
4. 特集:胃潰瘍癌の再検討.癌特別研究“胃癌の組織発生”班協議会から.癌の臨床13:464-490,1967
5. Nakamura K, Sugano H, Takagi, K, et al:Histopathological study on early carcinoma of the stomach:Some considerations on the ulcer-cancer by analysis of 144 foci of the superficial spreading carcinomas. GANN 58:377-387, 1967
6. Nakamura K, Sugano H, Takagi K, et al:Histopathological study on early carcinoma of the stomach:Criteria for diagnosis of atypical epithelium. GANN 57:613-620, 1966
7. Nakamura K, Sugano H, Takagi K:Carcinoma of the stomach in incipient phase:Its histogenesis and histological appearances. GANN 59:251-258, 1968
8. 中村恭一,菅野晴夫,高木国夫,他:胃癌の組織発生─原発性微小癌を中心とした胃癌の光顕・電顕的ならびに統計的研究.癌の臨床15:627-647,1969
9. 中村恭一,菅野晴夫,高木国夫,他:胃癌組織発生の概念.胃と腸6:849-861,1971
10. 馬場保昌,杉山憲義,丸山雅一,他:陥凹性早期胃癌のX線所見と病理組織所見の比較.胃と腸10:37-49,1975
11. 馬場保昌,田尻祐二,清水 宏,他:微小癌のX線診断─肉眼所見との対比から.胃と腸23:725-740,1988
12. 中村恭一:高位の胃癌の組織発生.胃と腸5:1111-1119,1970
13. 中村恭一,菅野晴夫,高木国夫,他:胃癌の組織発生─胃粘膜の経時的変化とその立場からみた胃癌の組織発生.外科治療23:435-448,1970
14. 西 満正,七沢 武,関 正威:胃癌の5年生存率─とくに進行癌について.胃と腸4:1087-1100,1969
15. 座談会:高位の胃病変(司会:芦沢真六).胃と腸5:1120-1128,1970
16. 中村恭一,菅野晴夫,丸山雅一,他:Linitis plasticaの原発巣についての病理組織学的研究─胃底腺粘膜から発生した癌とlinitis plasticaとの関係.胃と腸10:79-86,1975
17. 中村恭一,菅野晴夫,杉山憲義,他:胃硬癌の臨床的ならびに病理組織学的所見.胃と腸11:1275-1284,1976
18. 中村恭一,加藤 洋,美園俊明:Linitis plastica型癌の発育過程に関する研究.胃と腸15:225-234,1980

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 序章 腫瘍発生の基本概念からlinitis plastica型胃癌の病理と臨床を概観する
  1 腫瘍発生の基本概念
  2 “腫瘍発生の基本概念”のうえに建つ胃癌の組織発生と細胞発生
  3 胃固有粘膜から発生する未分化型癌と組織学的なスキルス癌とLP型胃癌と
  4 LP型胃癌となる未分化型癌の原発巣の部位
  5 胃底腺粘膜から発生した未分化型癌のうち,LP型胃癌へと発育進展する癌は?

第1部 LP型胃癌の病理
 I スキルス胃癌とLP型胃癌
 II 組織学的なスキルス胃癌の発生
  1 胃癌発生の場
  2 スキルス胃癌となる癌の粘膜内における癌組織像は?
  3 微小癌から導かれる“未分化型癌の組織発生”
  4 加齢に伴う胃粘膜の経時的変化
  5 肉眼的にみたF境界線の位置
  6 胃底腺粘膜から発生する癌の組織型は未分化型癌である
  7 胃の未分化型癌の細胞発生は?
  8 組織学的な意味でのスキルス胃癌の組織・細胞発生のまとめ
 III LP型胃癌の原発巣は?
  1 早期診断の遅れる胃癌の発生部位は?
  2 LP型胃癌の原発巣と胃底腺粘膜との関係
 IV LP型胃癌の定義
  1 典型的LP型胃癌期
  2 潜在的LP型胃癌期
  3 前LP型胃癌期
  4 典型的LP型胃癌状態になるまでの各時期のまとめ
 V LP型胃癌の成り立ち
  1 LP型胃癌となる癌は?
  2 どのような早期癌がLP型胃癌となっているか?
 VI 癌発生からLP型胃癌完成までの経過時間
  1 癌発生からLP型胃癌完成までの経過時間を導くための前提
  2 癌発生から典型的LP型胃癌完成までの各時期の経過時間
  3 結果的に逆追跡が可能であった典型的LP型胃癌症例
  4 例外的な典型的LP型胃癌症例
  5 癌発生から典型的LP型胃癌完成までのまとめ
 VII LP型胃癌の発生から完成までの発育進展過程 “LP型胃癌への小径”
 VIII LP型胃癌の頻度
  1 切除胃標本から導かれるLP型胃癌の頻度
  2 胃癌集団検診で発見されたLP型胃癌の頻度
 IX “胃癌の構造”の骨格 その中における“胃癌の三角”と“早期胃癌診断瀑布”と“LP型胃癌への小径”

第2部 LP型胃癌の早期診断
 X LP型胃癌の臨床診断
  1 癌細胞発生からLP型胃癌完成までの形態変化
  2 微小癌期~粘膜内癌期
  3 前LP型癌期
  4 潜在的LP型癌期
  5 典型的LP型癌期
  6 逆追跡が可能であったLP型胃癌
  7 LP型胃癌の臨床診断のまとめ
 XI LP型胃癌症例
  症例1 術後の検討で診断された1mmの極微小癌(65歳,女性)
  症例2 F線内の微小IIc(×5mm)粘膜切除例(54歳,女性)
  症例3 胃底腺粘膜領域内の微小IIc(×4mm)(42歳,女性)
  症例4 F線内の微小IIc(6×2mm)(48歳,女性)
  症例5 微小IIc(×3mm)(50歳,女性)
  症例6 F線内の小IIc,m癌(7×6mm)(58歳,男性)
  症例7 F線内の小IIc,m癌(60歳,男性)
  症例8 F線内の小IIc,m癌(67歳,女性)
  症例9 F線内の小m癌(59歳,女性)
  症例10 F線内のIIc,m癌(46歳,女性)
  症例11 F線内のIIc,m癌(60歳,女性)
  症例12 F線内のIIc,m癌(50歳代,女性)
  症例13 前LP型癌期(42歳,女性)
  症例14 前LP型癌期(47歳,女性)
  症例15 前LP型癌期(経過1年)(62歳,男性)
  症例16 前LP型癌期(50歳代,女性)
  症例17 前LP型癌期(37歳,女性)
  症例18 潜在的LP型癌期(48歳,女性)
  症例19 潜在的LP型癌期(50歳,女性)
  症例20 潜在的LP型癌期(47歳,女性)
  症例21 潜在的LP型癌期(57歳,女性)
  症例22 潜在的LP型癌期(24歳,男性)
  症例23 潜在的LP型癌期(44歳,男性)
  症例24 潜在的LP型癌期(51歳,男性)
  症例25 潜在的LP型癌期(58歳,男性)
  症例26 F線近傍の潜在的LP型癌期(77歳,男性)
  症例27 典型的LP型癌期(66歳,男性)
  症例28 典型的LP型癌期(35歳,男性)
  症例29 典型的LP型癌期(33歳,女性)
  症例30 逆追跡できたLP型胃癌の経過例(72歳,女性)
  症例31 逆追跡できた典型的LP型癌期(40歳,女性)

  索引

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消化器医をめざす医師にとっての必読書
書評者: 新海 眞行 (半田内科医会名誉会長)
 がん研究会付属病院病理部の中村恭一先生に病理の教示を願って,九州より上京された馬場保昌先生は,臨床内科医として胃X線二重造影法創始者の一人である熊倉賢二先生に師事するまでの約2年間(1971-1973),がん研病理部に所属され,そこでお二人は,切除胃の全割と検鏡に明け暮れておられました。その後,馬場先生が病理から内科に転科する際に中村先生から要望がありました。それは,臨床面からの胃癌組織発生の意義についての研究です。

 馬場先生は転科してすぐ胃癌組織発生の観点から早期胃癌のX線・内視鏡所見と切除胃の肉眼所見と組織所見との対比を行いました。そして,馬場先生がX線的に見た陥凹型早期胃癌の組織型別肉眼形態の違いについて報告したのは,この全割症例の観察に基づいてなされた研究の一つです。すなわち,馬場先生は,IIc型早期胃癌の肉眼所見とX線・内視鏡所見との対比を癌組織型別に行ったところ,IIc型粘膜内癌の典型例あるいは質のよい写真とされているX線・内視鏡写真は未分化型に多く,それに反して,同じ条件下で撮影されているにもかかわらず,IIc型分化型早期胃癌の多くは質の悪いX線・内視鏡写真とされていることに気づきました。linitis plastica型胃癌(LP型胃癌)は未分化型癌ですから,このことはLP型胃癌の早期発見に大きな味方を神はなされたと私は思っています。才に恵まれた馬場先生を愛弟子とされた中村先生,熊倉先生は共同研究者でもあり,人生のよき相談相手ともなっています。

 『linitis plastica型胃癌——その成り立ちと早期診断』という大書は,中村先生と馬場先生の出会いがあったからこそ,また,お二人のみに書くことが許されていたと私は考えています。実は,2011年1月22日,半田医師会健康管理センターにて“胃X線診断へのアプローチ”のタイトルで馬場保昌先生に講演していただきました。その講演後,「中村恭一先生との共著でLP型胃癌の書物が医学書院より今春出版される」と教えてくださいました。

 本書は大きく2部で構成されています。第1部「LP型胃癌の病理」は,「スキルス胃癌とLP型胃癌」「組織学的なスキルス胃癌の発生」「LP型胃癌の原発巣は?」「LP型胃癌の定義」「LP型胃癌の成り立ち」「癌発生からLP型胃癌完成までの経過時間」「LP型胃癌の発生から完成までの発育進展過程“LP型胃癌への小径”」「LP型胃癌の頻度」「“胃癌の構造”の骨格―その中における“胃癌の三角”と“早期胃癌診断瀑布”と“LP型胃癌への小径”」の9章,第2部「LP型胃癌の早期診断」は「LP型胃癌臨床診断」「LP型胃癌症例」の2章です。

 臨床的にLP型胃癌をより早期に発見し,診断するためには,胃粘膜における癌細胞の発生から,微小癌期,粘膜内癌期,前LP型胃癌期,潜在的LP型胃癌期,典型的LP型胃癌期に至るまでの各発育過程における形態変化を知る必要があります。本書では31例のLP型胃癌症例が呈示され,各病期の症例を肉眼的所見とX線・内視鏡所見を交えてわかりやすく解説されています。初期病変の診断指標として,潰瘍を伴わない径1cm以下の未分化型癌,IIc型を標的病変とする必要があります。微小癌期に4症例を,粘膜内癌期に4症例をあげ,X線・内視鏡的な診断指標が丁寧に述べられています。

 症例ごとに呈示されたX線像は美学で,これぞ達人の芸です。微小IIcでは,X線的には不整形バリウム斑と局所的な萎縮粘膜,内視鏡的には褪色粘膜と微小びらんです。小IIc型では,不整形の明瞭な粘膜陥凹であり,粘膜ヒダの中断像を伴います。これらの所見に加えて,X線的には顆粒状の凹凸面,内視鏡的には褪色中の発赤斑を指標とします。最終的には胃底腺粘膜領域の大きさ径1cm以下のIIc型胃癌を標的病変とする必要があります。

 “LP型胃癌への小径”の病理組織学的な背景に,LP型胃癌をより早期に発見するためのX線・内視鏡的所見を加えることによって,基礎と臨床が一体となっています。実際に有用な“LP型胃癌への小径”という過程を考案された中村恭一先生,馬場保昌先生の偉大さには感服しています。

 本書の行間から「X線と内視鏡との協力によってそれぞれの診断力を高めれば難題であるLP型早期胃癌の発見は可能」と私には読み取れました。現在,第一線で活躍する消化器医にぜひ読んでいただき,後を継ぐ消化器医を,本書を活用して指導してほしいと思います。これから消化器医をめざす医師にとっても必読書となる一冊です。
胃癌にかかわる医療人の必読書
書評者: 和田 了 (順大静岡病院教授・病理診断科)
 その日の消化器内科学の講義は強い印象を残した。故・白壁彦夫教授のあの独特のお声がいつも以上に声高だったのみならず,鮮明に描出された微小胃癌のX線像が私のような並以下の医学生にも衝撃を与えたからである。その際,先進国・欧米をも凌駕している消化管病理学者名を併せ教えていただいた。講義終了後,母校の図書館に行き,その人の名前が「中村恭一先生」であることを再確認し,その名著を通じて,中村恭一先生の病理学の洗礼を受けた。

 あれから約30年過ぎたものの,本書の著者の一人,中村恭一先生は,世界に誇れる病理学者の最高峰の方であると,今でも確信している。にもかかわらず,2000年3月に東京医科歯科大学医学部の教授を退官された後,なかなか公の場にいらっしゃらないためか,比較的若い医師・医療人の中には先生のお名前をご存じない人もいるらしい。もう一人の著者,馬場保昌先生は恩師・白壁彦夫先生の消化管画像学の担い手のお一人であり,現在もさまざまな研究会・勉強会において後進の指導にご熱心であり,門外漢の私でさえもわかるようにかみ砕いて,消化管のX線像の読み方をご披露されている。

 本書は「linitis plastica型胃癌」なる予後不良,難解な病態を有する特殊な胃癌におけるお二人のご経験・ご研究の集大成ともいえる。第1部ではその病理像のすべてが記されており,「初期発生から進展に至る諸変化」を「実は数学者?」といっても過言ではないほどの理数的知識を有する中村恭一先生らしい角度から解き明かしている。それは,最大径5 mm以下の微小胃癌の病理,中間的病態の胃癌巣,linitis plastica型胃癌完成像の連続的・臨床病理学的解析を基盤とした内容でもあり,中村流病理学の大ストーリーを読んだことのある人にしか覚えのない「わくわく感」が蘇るごとくの内容でもある。また,この第1部では「スキルス胃癌」なる用語が一部で誤解されていることも併せ強調している。

 そして,第2部では馬場保昌先生のご経験例がX線像・病理像ともども詳細に解説されており,膨大な胃癌学のエキスから,より重要な知見を抽出し,これらの知見が合わさって,実践的な診療学に直結することを明解に示している。第1部と続けて読むとよりわかりやすく,この特殊な胃癌に関して,お二人で共著されたことが改めて頷けよう。本書を読んだ人は,この一冊で,現時点におけるlinitis plastica型胃癌の臨床病理像のすべてを学ぶことができたとの思いに至るはずである。

 以上,本書は経験豊富な医師にとっては,自身の日常診療の妥当性を吟味し得るバイブル的著書であり,医学生・研修医などの初学者にとっては,linitis plastica型胃癌を知るための必読書である。そして,胃癌にかかわる医療人,すなわち,胃癌患者・ご家族の前に出ざるを得ない医師・看護師だけでなく,胃癌研究に取り組む研究者・技術員などにとっても必須の著書である。

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