推薦のことば(佐藤 祐造)/
序にかえて(中野 哲,森 博美)
推薦のことば
『実践 漢方ガイド─日常診療に活かすエキス製剤の使い方』を
漢方初心者の医師,薬剤師に薦める
私が日頃より尊敬する中野哲先生(名古屋大学医学部昭和34年卒,元大垣市民病院院長)が監修者となっておられる『実践 漢方ガイド─日常診療に活かすエキス製剤の使い方』が出版されることとなった.先生は私が日本東洋医学会理事・東海支部長(平成13~21年)在任当時以来,同支部岐阜県部会長として,県部会の発展に尽力されている.また,本年6月に私が会頭として開催する第61回日本東洋医学会学術総会においても,シンポジウム5「機能性消化器障害(FGID)の漢方治療」の座長をお務めいただくこととなっている.
大垣市民病院は岐阜県でも最大規模の病院であり,西濃地区の中核病院となっているが,同病院では,中野先生と今回の監修者でもある薬剤部調剤科長の森博美先生が中心となり,30年以上,140回以上にわたり,医師だけでなく,薬剤師,看護師などコメディカルも加わった漢方勉強会が開催されてきた.この漢方勉強会のメンバーが企画,編集,執筆を行い,上梓に至ったのが本書である.
本書を拝読するに,漢方医学の歴史と基本的概念,漢方医学の診断と治療,中野先生の年来の持説である,東洋医学と西洋医学の相補的結合が「総論」として執筆されている.「臨床編」としては,症状別の漢方薬の使い方,疾患別の漢方薬の使い方が記載されており,発熱,頭痛,上腹部不定愁訴など症状によっても,また,循環器,呼吸器などの臓器の区分による本態性高血圧,インフルエンザ,アトピー性皮膚炎など疾患別によっても検索可能となっている.症状別のパートでは,症状別に漢方適用を示したチャートがあり,漢方診療だけでなく,西洋医学も含んだ診断チャートとなっており,初心者でも気軽に取り組むことができる.
本書のもう1つの特色である「方剤編」には,方剤関連図があり,方剤と生薬を“体を温める,冷やす”で大別し,虚証,実証に対するおおよその適応が示されており,細部にわたる漢方方剤の注意点,解説がある.
本書には執筆者のメンバーの多年にわたる勉強会,臨床の場でのエッセンスが集積されており,また,漢方医学の初心者でも臨床現場で手軽に利用できるよう配慮されており,ここに推薦の一文を記した次第である.
平成22年5月
第61回日本東洋医学会学術総会会頭
愛知学院大学心身科学部長/健康科学科教授
佐藤 祐造
序にかえて
日本は現在,世界一の長寿国となっている.海に囲まれ春夏秋冬の四季をもつという自然環境に恵まれていることや,国民皆保険制度をはじめとする医療制度などさまざまなことがその要因にあげられている.しかし長寿国になったわが国でも臓器医学すなわち西洋医学のみでは対処できなくなっており,心身一元論からなる漢方医学に熱い眼差しが注がれるようになっている.
さて現在,漢方医学を自由に駆使している医師は西洋医学を学んだ後,何らかの理由で漢方医学の有用性を理解し,その道の専門家である師匠のもとで難解な漢方医学を勉強し,研鑽を積んできた方々が多いと思われる.西洋医学のみで教育を受けてきた医師が実地臨床家になって漢方医学の有用性を知っても,この学問を個人レベルで勉強し理解するにはハードルが高すぎる感があった.われわれは30年以上にわたり,同志が集まり,書物から学んだり,専門家の講演を聞いたりして自己流に漢方医学を勉強してきたが,難解な解釈や,時にドグマティックな論法などに出くわして戸惑うことも多かった.しかしこの勉強会でわれわれが感じ取ったことは,長い経験によって裏づけされ,集約された妙なる生薬の配合のすばらしさであった.
医学を実践する医師と薬学の専門家である薬剤師がこのすばらしい漢方医学の実践にあたって,従来の「証」から方剤を選ぶだけでなく,生薬や方剤を組み合わせてつくりだした先人の叡智を理解することから効きそうな病態を考えてはどうかと考え,さまざまな方剤の出自や,方剤の相互関係を明示することを試みてきた.また,臨床の場でこのすばらしい漢方薬の適応が間違ってはいけないとの思いなども加わって,検討を重ねてきた.こうして今回,漢方医学の専門家でもないわれわれがあえて浅学非才を顧みず本書の出版を企画した次第である.
このわれわれの意図を理解し,本を作る機会を与えていただいた医学書院に深甚の謝意を申し上げたい.さらに漢方に詳しい山上勉氏には本書の「臨床編」に貴重なご意見をいただいたこと,また,当漢方勉強会が発足当時から現在の141回まで維持でき,本書が完成できたのも歴代の大垣市民病院長のご支援があったからと深く感謝を申し上げたい.
本書が病院や薬局で活躍されている医師,薬剤師,看護師などの方々の漢方方剤の選択や服薬指導の一助となれば望外の喜びである.
平成22年4月
著者を代表して
中野 哲,森 博美