序
心臓突然死は年間,米国では約30万人,わが国では3~5万人と推定され,その約80%は心室頻拍・細動による。心臓失神も心臓突然死の数倍は存在すると推測され,突然死の前兆としての意義をもつ。このような観点から,心臓突然死・失神の予知は重要であり,多くの医師,とくに不整脈専門医の関心は高い。実際,2009年6月,31カ国からの参加者のもと横浜で開催された「第13回国際ホルター・ノンインベイシブ心電学会」(会長 田邉晃久)における3日間の410余題の講演・発表では,心臓突然死・失神が36題,突然死層別化・予知手法が49題と多数を占めた。
しかし,現在,容易な心臓突然死予知の決定的な策はなく,不整脈が誘因と考えられる場合,まず,12誘導心電図,ホルター心電図,運動負荷心電図や基礎病態を把握するための心エコー,冠動脈CT,MRIなどの検査を行う。さらに,必要に応じ,診断,重症度把握,カテーテルやデバイス治療の要否のための侵襲的(インベイシブ)検査である心臓電気生理学的検査を施行する。しかし,心臓電気生理学的検査は入院を要し,数本のカテーテルを心臓内に留置し,高額な費用を要すなど,患者や家族にとって肉体的,精神的,経済的負担は大きい。
近年,インベイシブな心臓電気生理学的検査を行うことなく非侵襲的(ノンインベイシブ)に心臓突然死を予知する種々の検査法が欧米を中心に考案,開発され,わが国でもデータが蓄積されている。このような検査法は,広く,わかりやすく紹介されるべきであるが,この領域の専門家が学会,論文,解説書などで報告している程度に留まり,不整脈を専門とする医師でさえ造詣が深くないのが現状と思われる。
以上を鑑み,本書を発刊する必要性を感じた。本書では,まず心臓突然死の実情,突然死を起こす不整脈について述べた。次いで突然死・失神予知のための検査法としてのホルター心電図(植込み型ホルター心電図を含む),head-up tilt test(HUT),心拍変動解析,baroreflex sensitivity(BRS),加算平均心電図(心室遅延電位),QT/RR dynamics,T-wave alternans(TWA),T-wave variability(TWV),heart rate turbulence(HRT),さらにはごく最近発表されたdeceleration capacity(DC)などを挙げ,最新データを加味しながら概説した。各課題の執筆者はわが国におけるそれぞれの代表的な専門家であり,わかりやすい内容になったと自負している。
本書は,心臓突然死の予知のみでなく,不整脈検査法として必要かつ普及が確実な内容を多く含み,心電学,不整脈学を学ぶ医師,さらに検査法としての書から臨床検査技師の皆様にもお役に立てると確信する。
最後に,本書の発刊によせて,終始ご協力をいただいた大野智志氏はじめ医学書院のスタッフの皆様に感謝し,御礼を申し上げたい。
2010年3月
田邉晃久