序(原中勝征)/
刊行のことば(高杉敬久 三上裕司)/
監修・編集のことば(林 泰史)
序
少子高齢化が進むわが国において,在宅医療の果たす役割はますます大きくなっている.日本医師会では,平成19(2007)年に「在宅における医療・介護の提供体制─『かかりつけ医機能』の充実─指針」を発表し,「1.尊厳と安心を創造する医療」,「2.暮らしを支援する医療」,「3.地域の中で健やかな老いを支える医療」の3つの基本方針と,「高齢者の尊厳の具現化に取り組もう」をはじめとする7つの提言を示している.
国民のだれもが住み慣れた地域で安心して暮らし,充実した最期を迎えられる社会の実現に向け,一人ひとりの生活や多様な価値観,そして地域の特性に合わせた医療・介護サービスの提供が望まれている.在宅での医療のニーズが高まるなか,都道府県医師会・地区医師会には多職種の連携と地域の基盤整備において中心的な役割を果たすことが期待されている.
その意味で,このたび「在宅医療」をテーマとする本書が生涯教育シリーズの1冊として刊行されたことの意義は大きい.会員の先生方には,本書によって,在宅医療の考え方,実践のための知識と技術を大いに学んでいただき,日々の臨床にご活用いただきたい.さらに,豊富に紹介されている実践事例を通して,在宅医療のもつ大きな可能性をも汲み取っていただければ幸いである.
本書の刊行にあたり,ご多忙のなか監修・編集にあたっていただいた林 泰史先生,黒岩卓夫先生,野中 博先生,三上裕司先生,編集協力としてご尽力いただいた太田秀樹先生をはじめ,ご執筆いただいた諸先生に厚く御礼申し上げる.
平成22年6月
日本医師会会長
原中勝征
刊行のことば
世界に類を見ない高齢社会を迎え,慢性疾患やがん,認知症など,回復が困難な状態で生活を送ることを余儀なくされている高齢者が増加している.長期にわたる療養が必要な人の多くは,暮らし慣れた場所での生活を継続したいという願いをもっている.在宅での医療の提供のためには,患者の生活に合わせた適切な診療計画のもと,多職種が共通理解をもって連携し,地域ぐるみの支援体制を整えることが必要とされる.
本書では,訪問診療の準備段階から在宅患者への具体的なアプローチ,病態・疾患別の知識や急変時の対応,在宅医療に関連する診療報酬と介護保険サービスの活用法を解説した.加えて,自治体と医師会,病院,診療所における取り組みも紹介している.また,本書の大きな特長の1つとして,在宅医療の現場で日々活躍されている執筆陣の深い洞察と情熱によって培われた「生きた知識」がまとめられている点があげられる.
在宅医療を日常臨床の延長として捉え,これらの知識を明日からの診療,いや,「午後から」の訪問診療に役立てていただきたい.
在宅医療が主たる対象とするのは,さまざまな理由により通院が困難となった高齢者である.その意味で,本書は日本医師会生涯教育シリーズとして平成21(2009)年に刊行された『高齢者診療マニュアル』と姉妹書の関係にあるといえる.両者が共に会員の皆様の座右の書となることを切に願うものである.
刊行にあたり,監修・編集,そしてご執筆いただいた多くの先生方に心より感謝の意を表したい.
平成22年6月
日本医師会常任理事(学術・生涯教育担当)
高杉敬久 三上裕司
監修・編集のことば
進捗する高齢社会において増加の一途をたどる慢性疾患患者は日常活動性を維持したまま在宅で長期療養を受けたいと願い,患者の生活の質を重視した改正医療法では病状に応じて計画的に在宅医療を行うような規定を設けている.在宅医療が求められる背景として,日本人人口の約23%を占める高齢者のうち,約10%が在宅介護を受け,今から15年後には在宅要介護高齢者数が2倍に増加するとの予測も要因の1つとなっている.このような状況下で,在宅医療を特定医師によってのみ行われる専門領域として捉えるのではなく,多くの科の臨床医が関わり理解すべき普遍的な医療として捉えるべきであるとの考えが一般化してきた.
身体機能を徐々に低下させて,ついに通院できなくなった外来患者を継続して診療するため,空いている午後の時間帯に訪問診療をしていただこうと,本特集ではカラー口絵で患者・在宅医・グループ訪問チームの一日について写真を用いて紹介した.続いて,在宅医療の理念・必要性,さまざまなケースの在宅医療を紹介し,訪問診療開始にあたっての持ち物から患者・家族との話し合い,関連職種との連携,在宅療養支援診療所についても記述していただいた.
また,栄養管理から災害時の支援に至るさまざまな内容の在宅医療のアプローチ,慢性呼吸不全から脳性麻痺を含む先天性疾患など14病態・疾患に対する在宅医療,脱水から外傷に至る7項目の急変時対応についても書いていただいた.本特集の後半には在宅医療に関わる平成22年度改定診療報酬や経営面で見た在宅医療,在宅医療と密接に関わる介護保険制度の内容について解説していただいた.最後に国内で在宅医療に取り組んでいる代表的な18事例について自治体・医師会中心,病院中心,診療所中心,に大別して紹介していただいた.
在宅医療に関する今までの教科書や特集医学雑誌とは異なり,本特集号では実地医療で活躍中の先生方に,空いている時間帯に在宅医療に関わって医療の幅を広げ,医療の質を高揚していただこうと「─午後から地域へ」との副題をつけて企画編集した.この難しいコンセプトに沿って日常の臨床経験に基づき,科学的でありながら実効性のある内容で執筆していただいた著者の先生方の御労苦に感謝するとともに,臨床医の先生方のうち,一人でも多くの先生が新たに午後から地域に出かけ,在宅医療に関わっていただけるようにと願い,監修・編集のことばとする.
平成22年6月
監修・編集者を代表して
林 泰史