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患者参加の質的研究

会話分析からみた医療現場のコミュニケーション

監訳:北村 隆憲/深谷 安子

  • 判型 A5
  • 頁 344
  • 発行 2011年01月
  • 定価 3,740円 (本体3,400円+税10%)
  • ISBN978-4-260-01163-1
会話分析で患者参加の実態と多様性に迫る!
コミュニケーションが豊富な診療は良い診療なのか? 患者の積極的な医療への参加は、つねに推奨されるべきなのか? 本書では、現在広く推奨されている「患者参加」の概念について議論。これまで研究されることが少なかった、ヘルスケア専門職と患者との相互のやりとりが浮き彫りに。会話分析を中心とした質的研究で、さまざまな場面でのコミュニケーションを検討し、患者参加の実態と多様性を明らかにする。

訳者の所属するエスノメソドロジー・会話分析研究会のサイトでも本書の詳しい情報を掲載中!
序 文
監訳者まえがき(北村隆憲・深谷安子)/推薦の序(Helen Lawal & Sue Lawal)/

監訳者まえがき
 本書は,「患者参加」,つまりヘルスケアの領域で患者が自分のケアの過程にどのように関与するかという問題について,さまざ...
監訳者まえがき(北村隆憲・深谷安子)/推薦の序(Helen Lawal & Sue Lawal)/

監訳者まえがき
 本書は,「患者参加」,つまりヘルスケアの領域で患者が自分のケアの過程にどのように関与するかという問題について,さまざまな研究方法を多面的に用いながら,統合的に理解しようという試みの書です。
 原著のタイトルは『Patient Participation in Health Care Consultations』です。これを直訳すれば,「ヘルスケアのコンサルテーションにおける患者参加」となります。原著でconsultationの語は,ヘルスケアの領域で専門職と患者が出会い,コミュニケーションを行うさまざまな現場を総括的にあらわすものとして使われています。翻訳にあたって,ヘルスケア専門職と患者との会話のやりとりを研究対象として一般的に言及する際には,「医療面接」という言葉を用いています。ただし,読みやすくするために,個別のコミュニケーション場面,面接場面に関する説明や分析の翻訳では,本文の文脈に応じてなるべく慣用的な言葉であらわすように努めました(例えば,面接,診療,コミュニケーションなど)。ですから,本書では,このように違う言葉が使われてはいても,それらの言葉があらわす対象は,ヘルスケア専門職と患者とのコミュニケーション場面や面接場面として統一的な観点から検討されているということを,念頭においていただければと思います。
 患者参加をより深く理解するために,本書ではさまざまな質的な研究方法が用いられています。近年のヘルスケアの領域での質的研究方法への関心の増大には著しいものがあります。人のコミュニケーションは,繊細で豊かな意味やニュアンスを内包し,コミュニケーションの状況にも微妙に影響される複雑なものです。研究,教育,実践の現場でつねにこうした問題に関わらざるをえないヘルスケアの領域において,質的な研究方法への関心が高まることは自然なことといえるでしょう。本書では,インタビュー,観察,フォーカスグループ法,シンクアラウド法といった質的研究方法とともに,とりわけ会話分析によって,患者参加のさまざまな側面が経験的に探求されています。
 本書における中心的な研究方法としての会話分析のアプローチについては,日本のヘルスケアの研究領域では必ずしも十分知られていません。そのため本文の内容に入る前に,本書に登場する会話分析の基本的な考え方について説明するとともに,会話の正確な逐語録を作成する際に用いられる会話分析記号のリストを掲載しています。ただし,本書では読みやすさを考慮し,本文の読解に支障がない場合には,会話分析の専門用語を一般的な言葉におきかえて訳しています。原著の編者の1人であるSarah Collins博士に今回書き下ろしていただいた「日本語版の刊行にあたって」でも,会話分析の研究方法について簡明な言及がなされています。
 本書は,患者参加の調査研究のために役立つだけではありません。本書のなかで示された研究の知見を,ヘルスケア・コミュニケーションの実践や教育で実際に利用することができるように,巻末には各章に対応する「学習教材」が提供されています。これを活用することで,ヘルスケアの現場で本書を実践的に利用することができるでしょう。

 それではみなさん,「患者参加」の探求への扉を開けてください。

 2010年10月
 北村隆憲・深谷安子


推薦の序
コミュニケーションと患者参加

 私たちヘルスケア専門職(看護師,医師,看護学生,医学生など)にとって,良いコミュニケーションを通じて患者参加を実現していくことは,最重要の課題です。本書は,私たちヘルスケア専門職の実践の反省を促し,患者参加について学んでいくための豊富なアイデアの宝庫となっています。
 本書の中心テーマは,ヘルスケア分野でのコミュニケーションと患者参加についてです。このテーマがいかに重要なのか,実際に医療の現場にいる私たち(看護師のSueと,その娘で医学生のHelen)の考えを,インタビューの形式で紹介したいと思います。

■ヘルスケアの領域で,なぜコミュニケーションが大切なのでしょう?
Helen:私は医学生になったばかりですが,コミュニケーションを学習課程の一部だと考えたことはありませんでした。初めてそのことを認識したのは,最初の患者との出会いのなかで,コミュニケーション上の問題に出くわしたときでした。そのときに初めて,コミュニケーションの重要性に気がついたのです。効果的にコミュニケーションを行うことができなければ,医学的な知識をもっていてもどうしようもありません。私が学んだ科学的知識は,ある特定の文脈においてしか通用しないものですが,コミュニケーション・スキルは一生使える技能で,さまざまな社会的状況に応用できるということを悟ったのです。

Sue:私は看護師として,患者との日常生活における個人的で親密な看護実践を通じて,コミュニケーション・スキルを獲得しました。医師によって行われる診察や治療の際には,患者を励まし,慰め,支援することが求められました。こうした経験のおかげで,同僚の医師が行うのとは異なるレベルで,患者とのコミュニケーションを行う技術を学びました。看護師による面接は,患者に安らぎを与えるような親密性と相互性によって特徴づけられると感じています。私がケアしている患者の多くは,完治不能で,日々を何とかやりくりしていくしかないような慢性的な状況にあります。このような状況は,患者に失意と心細さの感覚を生じさせるのです。

■なぜ患者参加が必要なのでしょうか? また,それはどのように実現することができるのでしょうか?
Helen:医学生としてのこれまでの患者との出会いは,医師として私がこれから先に経験するであろう出会いとは異なるものだと思います。医学生として私が病棟で出会った患者の皆さんは,すすんで私のために時間を割いてくれました。患者の皆さんは参加することに熱心に取り組んでくれました。もちろん,まだ資格のある専門家ではない学生と話をしていることも知っています。だからある意味では,ここでの相互行為のダイナミクスは本物ではありません。「エキスパート患者」にも出会いました。「エキスパート患者」は,医学生である私が知っているよりも,自分の病状について完全に理解しており,医学生から質問されることにも慣れています。けれども,質問が適切なものであり,こちらが共感と真摯な関心を示せば,患者の多くは自分のことを喜んで話してくれるのです。

Sue:自分の治療に関する決定に積極的に関わることを嫌う人に出会ったことは,ほとんどありません。もちろん,患者参加の程度は異なりますし,患者が専門家に,パターナリズムと自律との間にある連続線上の,どの位置に立っていてほしいと考えているかを理解しなければなりません。

■医療面接場面で,患者にどのように参加してもらえばよいのでしょうか? どのようにすれば,私たちにもそれができるのでしょうか?
Helen:よくいわれることは,「あなたが十分注意深く患者の話に耳を傾ければ,患者はおのずと語ってくれる」ということです。私の医学校では,医療面接に不可欠なものとして,アクティブ・リスニング,沈黙,患者のエンパワメントをたいへん重視しています。これらのテクニックを上手に用いることができれば,自分自身のストーリーを語ることを患者に促すことによって,専門家にとっての関心事ではなく,患者自身にとっての関心や心配に目を向けることができます。私が学んだことは,患者参加とは専門職の側がこうした技術・技能を用いることに自信をもち,例えば患者の前で沈黙することも自分に許し,自分が安心感をもって臨めば,結果として患者の心から不安を取り除くことになるということです。こうしたことを理解するにはもちろん経験が必要ですが,私の母(Sue)のような経験を積んだ専門家でも,つねに学習しなければならないことなのです。

Sue:私は,ケアにおいては,患者と自分自身とをパートナーだと考えるようにしています。ただ,私は臨床的な知識はもっていますが,実際に病いを経験しているのは患者です。私は,励まして患者の経験を分かち合うことで,彼らの個人的なニーズに適した臨床的なアドバイスとアプローチとを組み立てることができるのです。だからといって,完全に患者主導の医療面接ができるというわけではありません。現実世界では業務のために時間の制約もつねに存在します。慢性疾患の場合,毎回行う面接は,これから何か月も続くであろう長いケアの旅路の一部に過ぎません。時間とともに患者と私自身との人間関係は深まります。この人間関係を,私は,ケアにおけるパートナーシップと考えたいのです。このようなパートナーシップは,専門職と患者の双方にとって,はかり知れないほど得るところの大きなものとなりうるのです。

 Helen Lawal & Sue Lawal



 本書の著者らが最初に集まったのは,白書『NHSプラン』が発行された直後で,患者参加とパートナーシップの議論が政策課題や学術調査計画でもっとも重要視されていた2001年のことでした。当時,私たちは,医療面接における患者参加というテーマで一連のセミナーを立ち上げていました。このセミナーには英国全土から,そしてさらにフィンランドと米国からも,一般市民の方々やヘルスケア専門職,研究者など,さまざまなバックグラウンドをもつ人々が100人以上参加しました。この学際的なセミナーを通じて,本書で示したさまざまなアイデアが展開されたのです。
 このセミナーや本書の執筆は,患者参加というテーマをとおして成長してきた共同プロジェクトです。セミナーでの私たちのディスカッションは,さまざまに異なるアプローチをとる報告者たちによって導かれました。このセミナーで私たちは,異なるヘルスケア状況の現実とその限界について検討する機会を得たのです。同時に,それぞれの参加者にとっては毎日のルーティン業務の場であるそれぞれのヘルスケア現場に,創造的な試みを取り入れていくことができるということを,参加者たちがお互いに気づき合う機会ともなりました。
 ある患者がこのセミナーで報告をしてくれました。その後,このときのことについて,あるヘルスケア専門職が次のように書いています。
この女性の患者さんがスピーチを請われたときにみせた,たいへんへりくだった態度がとても印象的でした。彼女は自己紹介した後に,たくさんのセミナーの参加者の前で「どうしたらよいかわからない」くらい緊張していると告白しました。しかし患者としての彼女が,ヘルスケア専門職との経験について語るのを聞かせてもらって,むしろ私自身のほうが「どうしたらよいかわからない」気持ちにならざるをえなかったのです。

 これと同様に,読者がこの本を読んで,患者参加についての自分の考えを深め,自分以外の人々の観点を検討し,自分自身の経験を振り返り,そして,自身の実践分野─患者や専門職との医療面接,学生の教育,あるいはまた,患者参加というテーマの研究をデザインしたり,その調査を実施すること─のなかで,本書の経験と知見を活かしてくださることを期待しています。
目 次
解説I 本書の理解をより深めるための会話分析入門
会話分析のトランスクリプト(逐語記録)に用いられる記号
訳者解説II 会話分析における記号の使用例

第I部 患者参加の概念とその研究方法に関する議論の状況
第1章 患者参加とコミュニケーションのプロセスを理解する
 イントロダクション/患者参加についてのこれまでの調査・研究/
 患者参加に関する統合的観点の構築のために/本書が患者参加に貢献できること/
 リコメンデーション:要約
第2章 患者参加を研究するためのさまざまな研究方法論
 イントロダクション/本書で利用されているさまざまな研究方法の概要/
 患者参加の研究において研究方法を組み合わせる/さまざまな研究方法を利用する/
 考察/結論/謝辞/リコメンデーション:要約

第II部 さまざまな実践における患者参加
第3章 医療面接における患者参加と患者関与の意味-分類枠組みの提案
 イントロダクション/医療面接における患者関与と患者参加のモデル/
 方法/調査結果/考察/謝辞/リコメンデーション:要約
第4章 良い医療面接と良くない医療面接-患者の視点から
 イントロダクション/方法/
 「良い」医療面接と「良くない」医療面接に関する患者の評価/
 研究知見の要約/考察/結論/謝辞/リコメンデーション:要約
第5章 対等性の感覚-信頼関係と相互性とを生み出す医療面接の相互作用的特徴
 イントロダクション/医療との出会いの場所と環境/
 ホメオパシー療法施設における医療との出会い/
 ビデオカメラについての発話の連鎖/呼称についての発話の連鎖/
 ラポールの促進/より深い社会化/結論/謝辞/リコメンデーション:要約
第6章 定式化と開始連鎖における患者参加
 イントロダクション/患者参加と専門職の相互行為知識/
 患者参加に関する相互行為活動の観点/患者参加を促進する/結論/
 リコメンデーション:要約
第7章 患者参加とは何か?-一般診療,ホメオパシー,そして精神分析からの省察
 イントロダクション/一般診療での診断を提示・受容する際の患者参加/
 ホメオパシーでの治療法の決定を提示する際の患者参加/
 精神分析での解釈を受容する際の患者参加/結論/リコメンデーション:要約
第8章 看護師-患者間コミュニケーション
-看護師と患者との会話は患者参加にどのような影響を及ぼすか?
 イントロダクション/会話データの説明/
 看護師-患者間の面接場面のタイプと各タイプにおける業務/看護師面接の重要性/
 看護師-患者間のコミュニケーションにおける患者参加の形式/
 考察:看護師-患者間のコミュニケーションへの患者参加の影響要因/
 結論/リコメンデーション:要約

第III部 患者参加の概念とその構成要素
第9章 医療面接への患者参加の構成要素-調査・研究のための概念モデル
 イントロダクション/患者参加の5つの構成要素/考察/リコメンデーション:要約
第10章 患者参加研究への統合的アプローチ
 イントロダクション/患者参加とは何か/患者参加を方針として推奨するべきか/
 患者参加はどのように測定できるのか/
 患者参加について他に何を知る必要があるのか/結論/リコメンデーション:要約

付録 学習教材

参考文献
索引