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多職種連携を高める
チームマネジメントの知識とスキル

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患者への質の高いケアの提供には、多職種が連携してチーム医療を行う必要があることはわかっているが、うまく連携できない。医師主導のチームでもうまく事が運ばないことがある。それはなぜか? 本書では、急性期と慢性期でチームのあり方や機能が異なることを指摘し、そのためにどのようにチームを構築し運営すればよいのかをわかりやすく解説している。
篠田 道子
発行 2011年08月判型:B5頁:128
ISBN 978-4-260-01347-5
定価 2,640円 (本体2,400円+税)

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  • 序文
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はじめに

 2011年3月11日に起きた東日本大震災は,マグニチュード9.0という巨大地震,十数メートルに達する津波,深刻な原発事故が加わった複合的な大災害でした.一瞬の揺れで,1万人以上の人が亡くなり,多くの建物が津波にのまれ,美しい町並みはがれきで埋まり,廃墟と化しました.被災された方々を思うと声をなくします.また,自らも被災者でありながら,病院や施設で懸命に働く医療・福祉従事者の姿に心を打たれました.
 このような状況に,国内だけでなく世界各国から届く温かいメッセージや支援は,被災者だけでなく,私たちの心にも届くものでした.モノは壊れても人々の心の絆は壊れることなく,より強く結ばれるものと実感しました.また,未曾有の災害にあっても,日本人が秩序をもって,互いに助け合っている姿に,世界中から賞賛の声があがっています.「お互い様」という日本語の意味を,これほど実感したことはありません.人を思いやることで,自分も役に立っているのだと実感する「互助」の精神が共有されていると思います.
 チームも人と人とのつながりで成り立っています.各々の専門職が,利用者,家族とそれ以外の人々への思いやりの気持ちをもちながら,目標に向かって歩み続けることの大切さを改めて感じました.
 相次ぐ大災害,エネルギー資源の枯渇化,超高齢社会と少子化など,パラダイム(時代に共通した思考の枠組み)の転換に直面しています.医療の高度化,利用者・家族の多様なニーズと消費者意識の高まり,医療・福祉職の人材不足や偏在などで,現場は疲弊しています.さらに,専門志向の高まり,栄養サポートチームなど専門チームの広がりで,ジェネラリスト対スペシャリスト,チーム同士の対立という新たな問題も発生しています.このような問題は,医師対コメディカルの関係を見直し,自律性を高めて連携・協働ができるようなチームマネジメントが求められていると思います.マネジメント(management)とは,直訳すれば経営・運営・管理を包括した用語で,目的を達成するための実践活動です.本書では,チームマネジメントを「組織・チームが,人・モノ・お金・情報・知識という経営資源を共有し,有効に活用することで,質の高いサービスを生み出す営み」と定義しています.
 わが国には,国民皆保険制度,世界一コストパフォーマンスの高い医療,高い専門性をもった医療・福祉の人材やチームという「強み」があります.チームだけをつくっても仕事はうまく回っていきません.「強み」を活かしたマネジメントがなければチームは活性化されません.「強み」を活かし,「弱み」をカバーして全体として高い成果をあげるチームマネジメントとは何かを考えたいと思い,本書を執筆しました.
 本書は3章で構成されています.
 第1章は,チームマネジメントの基礎知識をまとめたものです.チームマネジメントが求められる背景,関連用語,チームの類型,医学・生活モデル,リーダーシップとメンバーシップなどを整理しました.医療・福祉分野では,複雑で多様なニーズに対応するために,高い専門性が求められる一方で,これらを束ねるジェネラルマネジャーという新しいリーダーの必要性を強調しています.また,対人関係スキルや連携力を育むには専門職連携教育が必要で,ここでは,ビジネススクールで効果をあげているケースメソッド教育を紹介しています.これは,「専門職であることは専門職連携(協働)ができる人」と言われるゆえんからです.
 第2章は,対人関係スキルやチームマネジメントを高める技術として,カンファレンスの運営方法,ファシリテーション技術,コンフリクト・マネジメント,参加型事例検討会という「実践知」を高めるものを紹介しています.チームづくりは理念やビジョンが大切ですが,これだけでは空回りしてしまいます.理念やビジョンを達成するためのスキルが必要になるからです.また,スキルだけでも,理念を届けることができません.これらスキルは元来備わっているのではなく,学習によって身につくものです.本書では,日々の実践場面を活用したものを紹介しています.チームマネジメントは実践的活動です.「わかる」「理解している」ではなく,「できる」ことが求められています.書籍で「できる」レベルにまで言語化することは,筆者にとっても大きなチャレンジではありましたが,読者が疑似体験できるよう努力しました.
 第3章は,病院(施設)の機能に応じたチームマネジメントです.まず,急性期病床,亜急性期・回復期病床,長期療養病床という時間軸で整理しています.これらは患者の状態を緩やかに分類したうえで,チームケアを提案しているものです.急性期病床といっても,地域,提供されている医療,職員配置,看護基準,患者の年齢層や状態像は異なるので,サービスにはかなり幅があります.画一的かつ標準的なチームケアは,個々の患者の状態や生活環境を配慮しないばかりか,チームの発展を阻みます.また,退院支援に代表される集中的かつ重層的なチームマネジメント,栄養サポートチームなどコンサルテーション型チームについてまとめました.このような専門チームの広がりで,チーム同士の対立という新たな問題も発生しています.対立は新たな視点を与えてくれる,というプラスの面をもっています.本書では,このプラス面に着目したチームマネジメントの方法を検討しています.
 本書をまとめるにあたって,筆者が長年非常勤として勤務していた,医療法人竜仁会の牛尾浩樹病院長,中川恵子看護部長,澤口ひで子地域医療連携室長,職員の皆様には大変お世話になりました.特に中川氏と澤口氏と交わした議論から多くのことを学びました.
 最後になりましたが,医学書院編集部の藤居尚子さんには,あきらめずに辛抱強く原稿を待ってもらいました.また,制作部の和田学さんには,細部にわたるまで丁寧に校正してもらいました.心から感謝致します.
 本書の出版に際しては,筆者の勤務先である日本福祉大学課題研究費(2010年)の助成を受けました.

 2011年8月
 東日本大震災の復興を願いつつ
 篠田道子

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 はじめに

第1章 チームマネジメントの基礎知識
1 チームマネジメントが求められる背景
 1.チームマネジメントの発展の経緯
 2.診療報酬からみたチームマネジメント
 3.介護報酬からみたチームマネジメント
 4.チームマネジメントの今日的な課題
2 チームマネジメントと関連用語の整理
 1.本書で使用するチームマネジメントと関連用語
 2.本書が考えるチームマネジメント
3 チームの類型(モデル)
 1.多職種によるチームの類型
 2.本書で扱う3つの類型
4 医学モデルと生活(社会)モデル
 1.医学モデル
 2.生活(社会)モデル
 3.生物・心理・社会モデルとしてのICF
5 医療・福祉分野に求められるリーダーシップとメンバーシップ
 1.リーダーシップの2つのタイプ
 2.専門職種を束ねるジェネラルマネジャーが必要
 3.専門性と連携を両立させるメンバーシップ
 4.役割の重なりは無駄ではない
6 チームマネジメントの課題と対応策
 1.チームマネジメントの誤解
 2.階層構造
 3.セクショナリズムと非干渉
 4.組織やチームに対する低いコミットメント
 5.スペシャリストとジェネラリスト
 6.患者・家族の消費者意識の高まり
 7.チームマネジメントの限界
 8.医師・看護師中心に限定した評価である
7 チームマネジメントの評価
 1.チームマネジメントの有効性
 2.チームマネジメントの評価の視点
8 専門職連携教育としてのケースメソッド教育
9 チームマネジメントと個人情報の取り扱い

第2章 チームマネジメントを高める技術
1 チームづくりの場としてのカンファレンス
 1.カンファレンスの定義・目的・機能
 2.カンファレンスの種類
 3.カンファレンスの構成要素(体制,過程,結果)
2 ファシリテーション技術によるチーム力の向上
 1.ファシリテーションとは
 2.関係性と問題解決を両立させるファシリテーション
 3.ファシリテーション技術はチームづくりに有効
3 チームの危機を乗り切るコンフリクト・マネジメント
 1.コンフリクトとは
 2.コンフリクト・マネジメントとは
 3.コンフリクトへの対処行動はチームを成長させる
 4.コンフリクトの予防対策
4 実践知を磨き,チームをつくる参加型事例検討
 1.参加型事例検討はチームで実践知をつくり上げる
 2.参加型事例検討に必要な条件
 3.参加型事例検討の進め方のポイント
 4.事例検討でケアの質の改善を
5 チームと知的資産のメンテナンス
 1.チームは時間とともに変化する生き物
 2.人材と知的資産のマネジメントでチームを活性化

第3章 病院(施設)・チームの機能に応じたチームマネジメント
1 本書が取り扱うチームマネジメントの対象・タイプ
2 亜急性期・回復期におけるチームマネジメント
  在宅復帰支援担当者を中心にした多職種チーム
 1.亜急性期病床とは
 2.調査データからみた亜急性期病床の実態
 3.回復期リハビリテーション病棟とは
 4.調査データからみた回復期リハビリテーション病棟の実態
 5.在宅復帰支援担当者を中心にしたチームマネジメント
3 急性期病床におけるチームマネジメント
 1.急性期病床はチームマネジメントが機能しにくい
 2.短期決戦チームは最初のコンセンサスづくりが重要
 3.チームはルーチンワークで成り立つ
 4.包括的指示を拡大し,専門職の自律性を高める
4 長期療養施設におけるチームマネジメント 終末期ケアに焦点を当てて
 1.長期療養施設のチームマネジメントの現状
 2.高齢者の終末期の3つのパターン
 3.認知症の終末期が最重要課題
 4.看護・介護職を中心とした多職種チーム
 5.医療・ケアチームでのインフォームド・コンセントの推奨
 6.相談・助言機能を強化して意思決定を支える
 7.質の高い終末期ケアの4つの条件とチームマネジメント
5 退院支援におけるチームマネジメント 集中的かつ重層的なケアマネジメント
 1.退院支援とは
 2.退院支援は3つのチームによる協働活動
 3.退院支援におけるチームマネジメントの進め方
 4.入院医療の延長線上としての在宅ケア
 5.医学モデルから生活モデルへのチェンジ
 6.退院支援計画に有効なフレームワーク
6 コンサルテーション型チーム
 1.コンサルテーション型チームとは
 2.NST
 3.緩和ケアチーム
 4.呼吸ケアチーム
 5.コンサルテーション型チームとの連携のポイント
7 災害時における医療・福祉チームマネジメント
 1.災害時における医療チーム
 2.阪神・淡路大震災
 3.地下鉄サリン事件-情報のハブ拠点が活躍
 4.事例から学ぶ災害時のチームマネジメント

 索引

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チームマネジメント力を養うための一冊
書評者: 永坂 和子 (財団新和会 八千代病院看護部長)
◆質の高いチームを作るためにはチームマネジメントが求められる

 医療・福祉サービスの臨床現場では,多職種連携やチーム医療という言葉をよく口にします。しかし,この言葉を理解しているつもりでも,意外に多職種連携やチームの作り方を系統的に学ぶ機会は少ないのが現実です。

 著者は大学の教授ではありますが,実際に臨床のフィールドを持ち活躍されてきました。その経験を生かし,『質の高いケアマネジメント』(中央法規出版),『ナースのための退院調整——院内チームと地域連携のシステムづくり』(日本看護協会出版会),『チームの連携力を高めるカンファレンスの進め方』(日本看護協会出版会)など,現場で役立つ著書を多数執筆されています。

 チームケアなどの専門分野では,鷹野和美・細田満和子・菊地和則氏らの著書がありますが,本書には,これらにない連携専門職を束ねるゼネラルマネジャーの必要性やチームを成長させる仕掛けなどの実践に役立つ記述が盛り込まれています。日ごろから「連携がうまくいかない」「今あるチームを見直し,レベルアップを図りたい」という方にとって,本書は,チームマネジメント力を養うための待望の書です。

◆チームマネジメントを高める技術

 本書では,チームマネジメントを高める技術として,カンファレンス,ファシリテーションスキル,コンフリクトマネジメント,参加型事例検討,チームのメンテナンス等を挙げています。多くの病院(施設)・在宅チームでは毎日のようにカンファレンスを通じて多職種連携が行われています。著者は,カンファレンスこそ,それぞれの専門職の強みを生かす場所であり,連携・協働することで相乗効果を体験することになると述べています。そして,この体験の積み重ねがチームの成長を生み出し,質の高いケアにつながるとしています。さらに,このマネジメントにはファシリテーション技術が重要で,チーム作りとしてコンサルテーション型チームが有効であることもわかりやすく説明しています。ますます注目される多職種チーム作りにおいて,本書は臨床現場で役立つと思います。

◆質の高いチームを作るためには,専門職連携教育(IPE)が必要である

 専門知識を持っている人や臨床経験豊富な人が,必ずしも質の高いチームを作れるとは限りません。臨床現場では,よくマニュアルや手順を作ってがんばっていますが,なかなか現場のチーム医療がうまくいかないことが多いのではないでしょうか。

 超高齢社会を迎え,病院では高齢者が入院患者の半数以上を占めています。臨床の現場では,排尿障害を有する方が6割以上あり,少しでも排尿障害を改善させて在宅・施設へとつなげていきたいと考えています。著者は,チームが1つのまとまりとして機能するためには職種の壁を乗り越えた専門職連携教育(Interprofessional education:以下IPE)が有効であり,そのツールとしてケースメソッド教育を取り入れることを勧めています。私は,臨床現場での排尿ケアについて,マニュアルの作成や研修を行っていますが,さらなる発展と飛躍のためにこのIPEを演習・事例として導入したいと考えています。

 本書は,医療介護福祉分野でのチームマネジメントが体系的に平易に書かれており,とても理解しやすいです。チームマネジメントで悩み壁にぶつかっているとき,本書は実践的でさまざまな解決手法の提言があり,現場で本当に役立つ指南書にもなっています。読後感として,あらためてチーム医療の良さを発見した思いです。

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