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脳血管障害と神経心理学 第2版

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名篇『脳卒中と神経心理学』待望の改訂。脳血管障害に起因する神経心理学的症候と、その病変部位、血管支配の解説について、新たな知見を増補。本書を鳥瞰する「総論」と脳血管障害の病態から神経心理学を論じた「病因からみた神経心理学」の章を新設。さらに「治療と対策」の章では、リハビリテーションに関する項目を充実させ、臨床でいっそう役立つ内容に。神経心理学に携わる医師、言語聴覚士、作業療法士の必読書。
編集 平山 惠造 / 田川 皓一
発行 2013年09月判型:B5頁:560
ISBN 978-4-260-01230-0
定価 13,200円 (本体12,000円+税)

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第2版 序

 1995年,『脳卒中と神経心理学』を発刊した.当時,脳血管障害にテーマを絞った神経心理学書が少なかったこともあり,多くの方々に愛読された.18年の歳月が流れて,この間に脳血管障害の診断や治療が大きく変貌し,また,神経心理学の新しい知見が加わり,ここに本書を改訂することにした.タイトルも『脳血管障害と神経心理学』に改めた.
 改訂にあたり,上記の点を考慮し,理解を深めるために,目次を改変した.新たに「総論」と「病因からみた神経心理学」の章を設けた.旧来の章については項目を変更・追加するとともに,症候に関する概念の歴史的変遷を補充し,病変部位別の特徴や血管別の特徴を機能解剖の解説から始めるなど,いくつかの工夫を凝らした.
 用語については,原則として,『神経学用語集 改訂第3版(日本神経学会用語委員会編,2008)』を使用したが,『リハビリテーション医学用語集 第7版(日本リハビリテーション医学会編,2007)』や『精神神経学用語集 改訂6版(日本精神神経学会・精神科用語委員会編,2008)』も参考にした.
 前書『脳卒中と神経心理学』と同様に本書が神経心理学の臨床の場で活用されれば幸いである.
 最後に,本書の改訂にあたり,分担執筆者各位の協力と,医学書院編集部の諸氏の労に謝意を表する.

 2013年6月
 平山惠造
 田川皓一

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I 脳血管障害における神経心理学
 総論

II 病因からみた神経心理学
 1 脳梗塞
 2 脳出血
 3 くも膜下出血と高次脳機能

III 基本症候と責任病変
A 知能,記憶,情動の障害
 1 意識障害
 2 発動性障害
 3 知能障害
 4 注意障害
 5 記憶障害
 6 情動障害
 7 認知症
 8 一過性全健忘
B 言語の障害
 1 失語の概説
 2 Broca失語
 3 純粋語唖
 4 Wernicke失語
 5 伝導性失語
 6 超皮質性失語
 7 失名辞失語(健忘失語)
 8 ジャルゴン失語
 9 視床性失語と線条体失語
 10 ディサースリアと仮性球麻痺
 11 吃音
C 読字と書字の障害
 1 読み書き障害の概説
 2 失読失書
 3 純粋失書
 4 純粋失読
D 行為の障害
 1 失行症-肢節運動失行,観念運動性失行および観念性失行
 2 強迫的行為と行為の抑制
 3 構成障害
 4 顔面失行と顔面両麻痺
E 認知の障害
 1 視覚性失認
 2 熟知視覚像の失認-相貌失認と地誌的障害
 3 半側空間無視
 4 無視症候群
 5 Bálint症候群と視覚性運動失調
 6 皮質盲と大脳性色覚障害
 7 身体失認と病態失認
 8 聴覚性失認
 9 触覚性失認
 10 失計算

IV 病変部位別の特徴
 1 前頭葉
 2 頭頂葉
 3 後頭葉
 4 側頭葉
 5 島皮質(島)
 6 辺縁系
 7 半卵円中心
 8 脳梁
 9 大脳基底核
 10 視床
 11 小脳・脳幹

V 血管別の特徴
 1 内頸動脈(基幹部)
 2 椎骨脳底動脈(基幹部)
 3 前大脳動脈とその分枝
 4 中大脳動脈とその分枝
 5 後大脳動脈とその分枝
 6 前脈絡叢動脈
 7 脳底部穿通動脈
 8 境界領域(分水界)

VI 治療と対策
 1 脳血管障害の治療
 2 脳血管性認知症の治療
 3 失語のリハビリテーション
 4 失行のリハビリテーション
 5 失認のリハビリテーション
 6 読み書き障害のリハビリテーション
 7 記憶障害のリハビリテーション

話題
 脳血管障害と軽度認知障害
 交叉性失語
 日本語における漢字・仮名問題 revisited
 緩徐進行性失語
 鏡像書字
 右大脳半球症状
 利き手と大脳半球優位
 ブレインアタック時代の神経心理学
 音楽療法

用語メモ
 「痴呆」と「認知症」
 「半側」と「片側」
 「分水嶺」と「分水界」

索引

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「脳血管障害と神経心理学」という不思議の世界へ
書評者: 峰松 一夫 (国立循環器病研究センター副院長)
 35年以上前,新米医の私は,受け持ち脳梗塞患者の症状に驚いた。左側にある物品,自身の左半身に全く無頓着で,本の左半分を読み飛ばし,日記帳の左半分は空白,描画は左側が欠け落ちていた。「左半側空間無視」である。「なぜ,こんな奇妙な症状が起こるの?」と,この病気の不思議さに強烈な印象を抱いた。指導医の勧めもあり,地元の脳卒中勉強会で,この患者のことを発表した。私にとって,初めての脳卒中(脳血管障害)患者,初めての神経心理学,そして初めての研究発表であった。

 当時は,頭部CTやMRIが爆発的に普及し始め,脳血管障害の診断,病態や神経心理学に関する臨床研究が大変盛んであった。この雰囲気に触発された私も,研修終了後に国立循環器病センター(当時,以下国循と略す)内科脳血管部門でのレジデント研修に身を投じた。同じ時期に国循に着任された田川皓一先生から,神経心理学の面白さをずいぶんと教えていただいた。

 神経心理学的症候の最大の原因は脳血管障害である。だが,「失語・失行・失認」「神経心理学」「Neurospychology」「Aphasiology」などと銘打った書籍,「脳卒中」「Stroke」などをタイトルとした教科書はあっても,両者の関係を追究したものはまれであった。Kertesz教授の“Localization in Neuropsychology(Academic Press, 1983)”,Bogousslavsky,Caplan両教授の“Stroke Syndromes(Cambridge University Press, 1995)”くらいだろうか? Kertesz教授は第一章「(神経心理学的)機能局在」で,「病変(傷害)の原因によって症候の内容や経過(回復,悪化)が規定されている」とし,「原因疾患を厳密にコントロールして大脳機能を研究する」ことの重要性を指摘していた。

 1995年,平山惠造,田川皓一両先生の編集で,医学書院から『脳卒中と神経心理学』が刊行された。私も,そのうちの一項を執筆させていただいた。本書は,脳血管障害診療・研究において神経心理学的問題に取り組んでいる若い医師,研究者にとって,バイブルとも言える教科書,名著になった。それから18年,待ちに待った第2版が刊行された。

 時代は大きく変わった。診断・治療技術のさらなる進歩により,t-PAをはじめとする超急性期治療,診療機能の分化(急性期病院,回復期リハビリテーション病院,維持期の在宅・施設)が主流となった。脳卒中患者は,詳細な症候学ではなく,各種スケールの点数で論じられるようになった。患者の症候に対して目をつぶっているがごとくである。また同じ診療者が同じ患者を継続的に診ることが難しくなった。患者がいかに回復能力を持っているかを,急性期診療を行っている医療者が実感できなくなっている。悲劇である。これらの問題点については,新たに書き足された「総論」の中で,田川皓一先生が力説されているのでご一読いただきたい。

 脳血管障害の勉強,診療,研究に励む多くの学生,医師,医療従事者,研究者が本書を手に取り,「脳血管障害と神経心理学」という不思議の世界,ワンダーランドのとりこになっていただきたい。35年以上前の私のように……。
いろいろな角度と断面から脳血管障害に伴う神経生理学的症状を解説
書評者: 栗山 勝 (脳神経センター大田記念病院長/福井大名誉教授)
 この度,医学書院から『脳血管障害と神経心理学 第2版』が出版された。今回18年ぶりの改訂である。実は初版の表題は『脳卒中と神経心理学』であり,今回の版では脳卒中から脳血管障害に変更された。初版の序にも触れてあるごとく「脳卒中とは,意識と運動・知覚機能が卒然と喪失し,ある期間持続する状態を指すものである。したがって急激な脳血管障害にみられる症候であるが,ときとして脳血管障害を代表する言葉として用いられる。本義の脳卒中のみを指したものではない」。よって,今回改訂にあたって本来の脳血管障害に変更したものと思われる。

 神経心理学とは,脳を中心とする中枢神経系と,言語や認知などの精神機能との関係を研究する学問である。特に脳の損傷が,行動および精神へ影響を及ぼす研究が中心となるが,その損傷の代表が脳血管障害であり,一般臨床で経験するのは脳血管障害に付随する病態が大多数である。歴史的にはPierre-Paul Broca(1824~1880年)が,言葉の出ない失語症患者を受け持ち,剖検によって左第3前頭回の脚部に病変があることを報告し,現在ブローカ失語と呼ばれるようになった運動性失語を発見したことが,神経心理学の嚆矢〈こうし〉とされている。神経生理学は失語症研究と大脳局在論の提唱から始まったということができる。150年前のことである。そのころは,Brocaのように外科医として脳の病変を直接に観察したり,病変部位を外科的に取り除いた後の影響を検討したり,あるいは死後に剖検として脳の病変を確認しながらの研究であった。しかし,1970年代から状況は一変した。神経放射線技術の進歩により,脳CTスキャン,MRI,PET,SPECTなどが次々に開発され,臨床の場に登場し,脳の形態のみならず血流状態や代謝の状態などが詳細に確認できるようになり,神経生理学の領域の臨床も研究も飛躍的に進歩した。

 本書の特徴は,総論といえる第1章「脳血管障害における神経心理学」と第2章「病因からみた神経心理学」に続いて,第3章以後は,各症候と責任病巣との関係,病変部位の特徴,血管別の特徴と,いろいろな角度と断面から脳血管障害に伴う神経生理学的症状の解説がなされている。本書は脳血管障害に伴う病態が主であるが,最近非常に注目されている変性疾患,認知症などに付随する大脳高次機能障害に対する神経生理学的アプローチにも非常に参考になる内容が盛り込まれている。また「話題」として,興味ある臨床的項目も取り上げられている。最終章では治療と対策として,かなりの紙面を割いてリハビリテーションに関しても記載されている。

 神経生理学を取り扱う領域は,神経内科,脳神経外科のみならず精神医学,リハビリテーション科,耳鼻咽喉科,小児科など多くが関与する。また医師が関与する医学領域のみならず,ST・OT・PTなどのコメディカルに加え,心理学や言語学,認知科学にまたがる広い領域にも関連する。本書は神経生理学にかかわるあらゆる領域の職種の方にも,参考になる一冊として推薦する。

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