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内科医のためのうつ病診療


(第2版)

著:野村 総一郎

  • 判型 A5
  • 頁 152
  • 発行 2008年05月
  • 定価 3,080円 (本体2,800円+税10%)
  • ISBN978-4-260-00639-2
うつ病診療入門書の決定版、待望の改訂
「わかりやすい、読みやすい」と大好評を得た初版発行から約10年が経過し、うつ病を巡る状況は大きく変化した。プライマリケアに関わる臨床医のために、うつ病診断の技術と初期治療の技法を明快に示すという初版の方針は踏襲しつつ、診断類型の変化、新しい治療薬の使い方・副作用への対応など、臨床に直結したここ10年間の新知見を盛り込んだ全面改訂。内科医はもとより、うつ病診療の正しい知識が求められるすべての医療関係者にお薦めしたいベストセラー。
序 文
第2版の序

 大変うれしいことに,1998年に出版した本書第1版は非常なご好評をいただき,第3刷を重ねることになった。内科医にとってうつ病診療の知識が必要であることは論を俟たないが,それではどう勉強したらよいのかとなると,適切なテキストに乏しいと言わざるをえない状況があった。つま...
第2版の序

 大変うれしいことに,1998年に出版した本書第1版は非常なご好評をいただき,第3刷を重ねることになった。内科医にとってうつ病診療の知識が必要であることは論を俟たないが,それではどう勉強したらよいのかとなると,適切なテキストに乏しいと言わざるをえない状況があった。つまり,精神医学の専門書では難解に過ぎ,かといって一般向け啓発書では水準が低すぎる。いわばちょうど隙間に落ちたような形であって,それが内科医のうつ病診療への取り掛かりを悪くしている一要因ではないか。このような問題意識のもとに本書を執筆したが,売り上げ数だけから見ても,この初版本のねらいは成功したものと理解している。しかし,初版以来ほぼ10年を経た今日までに,うつ病を巡るわが国の状況は大きく変化していることを考えれば,それに合わせて本書も大改訂することが必要ではないかと思うようになった。こうしてできたのがこの第2版である。
 「うつ病を巡る状況は大きく変化した」と今述べたが,それを箇条書きにしてまとめてみると,次のようになろう。
(1)奇しくも本書第1版を上梓した1998年(平成10年)から,わが国では自殺既遂者が一挙に増え,以来年間3万人を超えたままで高止まりしており,今や日本は世界にも冠たる「自殺大国」の汚名を着せられるに至っている。もちろん自殺原因のすべてがうつ病ではないが,多くの部分(5割近くとも言われる)の背景にうつ病が存在すると考えられている(非常に皮肉な言い方をすれば,その意味からは本書初版の出版は実に時宜を得ていたことにもなる)。
(2)これを受けて厚生労働省では2006年から「自殺関連うつ対策戦略研究」を開始,2007年には自殺総合対策大綱を策定するなど,次々手を打ち始め,その中心にうつ病医療対策を据えている。そのなかにはプライマリケア医のうつ病診療力を高める研修などの施策が含まれている。
(3)2004年には日本うつ病学会が発足し,精神科医,内科医,プライマリケア医,産業医,臨床心理職,看護師,保健師,うつ病の神経科学や抗うつ薬の創薬に関わる研究者などが一堂に会して,うつ病医療について考え,研修をする場ができた。市民公開講座も行われている(2007年度から筆者が日本うつ病学会の理事長を務めている)。
(4)一般社会でのうつ病への関心が高まり,多くのマスコミで特集番組・特集記事が取り上げられるようになった。これに合わせて,日本でもうつ病の自助団体,支援団体の活動が徐々に始まろうとしている。
(5)うつ病診断を巡る国際標準化がさらに進み,古典的な精神病理学に基づくうつ病の概念は第一線現場の診断法としては後退し,あらかじめ定めた定義に合致するかしないかにより診断を行う演繹的な診断法が広く用いられるようになった。その一方で,うつ病の下位分類に関する関心がますます議論を呼び,双極II型うつ病や非定型うつ病などが注目されている。
(6)世界の主流となっている抗うつ薬,SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)が1999年から日本に登場し,2007年時点で処方量としてはSSRIが全抗うつ薬で第1位となっている。最新の抗うつ薬SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)も使用されるようになり,それに続いてさらに多くの新薬が日本でも登場する兆しがある。一方で,欠点の少ない薬と言われたSSRIの問題点も少しずつ指摘されるようになっている。
(7)新たな抗うつ薬の導入にもかかわらず,治りにくい,所謂「難治性うつ病」の存在が問題視され,それに対する対策の研究が盛んになっている。
(8)脳内セロトニンが少ないのがうつ病だ,と単純に考えられていたうつ病の神経科学的研究が進み,細胞新生,細胞死がうつ病の病態と大きく関係するという考え方が主流になってきた。
 そして,これらの動きは相互に関連し合って,うつ病を巡る動きを活発なものにしている。この雰囲気や最新の情報を,内科医をはじめとしたプライマリケアに関わる臨床医にも伝える必要がある。第2版においては,そのことを心がけた。その結果,全体としてかなりの大改訂となり,3割以上を新たに書き改めることとなった。ただし,うつ病診療の最大のポイントは「うつ病の概念を理解することである」という姿勢は初版から貫き,難しい専門的な論議や解釈を避け,非専門医にとっての分かりやすさ,実用性を第一義の目的としていることは本書の方針としてまったく変えてはいない。本書がうつ病に関わるすべての医師の日常診療に役立ち,自殺者の減少にいささかなりとも寄与することができれば,それに勝る喜びはない。

 2008年4月
 野村総一郎
書 評
  • 一冊でうつ病のすべてが分かる実用書
    書評者:久保木 富房(東大名誉教授・心身医学)

     高い評価を受けていたうつ病診療入門書『内科医のためのうつ病診療』(野村総一郎著)が10年ぶりに改訂された。野村氏は現在日本うつ病学会の理事長としてうつ病の研究,臨床,教育に専念している。国内だけでなく国際的にも広く活躍中の研究者であり精神科医である。筆者は心療内科を専門としていることもあり多くの精...
    一冊でうつ病のすべてが分かる実用書
    書評者:久保木 富房(東大名誉教授・心身医学)

     高い評価を受けていたうつ病診療入門書『内科医のためのうつ病診療』(野村総一郎著)が10年ぶりに改訂された。野村氏は現在日本うつ病学会の理事長としてうつ病の研究,臨床,教育に専念している。国内だけでなく国際的にも広く活躍中の研究者であり精神科医である。筆者は心療内科を専門としていることもあり多くの精神科医との交流を持っている。信頼できる精神科医として,さらに友人として20年近くの付き合いがある。

     本書は内科医はもちろん,うつ病診療にかかわるすべての医療職,心理職,企業関係者,家族にとって分かりやすい入門書といえる。著者は,うつ病診療の最大のポイントは「うつ病の概念を理解することである」と述べ,非専門医にとって分かりやすさ,実用性を第一主義の目的として本書を世に出している。本書を精読してみると,分かりやすさや実用性だけでなく,広範な内容に十分深い検討が加えられていることがわかる。まさに,この一冊でうつ病が分かる専門書ともいえる。

     筆者が本文中で興味を持った表現をいくつか挙げておく。まず,うつ病のサブタイプに関して,うつ状態と正反対の躁状態が存在するかどうか,うつ状態の程度と睡眠・食欲のパターン,経過が長いかどうか,の3つの要素によって分類すると述べている。その結果,(1)大うつ病性障害(単極性うつ病),(2)双極性うつ病(躁うつ病),(3)気分変調症(気分変調性障害),(4)非定型うつ病,の4つのタイプがある。さらに,このサブタイプと病前性格との関係を以下のように表現している。(1)大うつ病性障害は「几帳面で気を遣う真面目人間」,「凝り性でくどい,こだわり人間」,(2)双極性障害は「明るい,ハイでテンションの高いお調子者」,(3)気分変調症は「神経質で気にしやすい弱力性の人」,(4)非定型うつ病は「対人過敏,対人不信が強く,傷つきやすくキレやすいタイプ」とまとめている。

     うつ病の病因論に関しては,「遺伝と環境の相互作用」によってうつ病は発症するとしている。遺伝子については単純なうつ病特有の遺伝子ではなく,「本来何かに必要な遺伝子」ではないかと述べ,「徹底性の遺伝子」の可能性について触れている。通常は非常に役に立っているのだが,ある種のストレスがかかると「それが裏目に出て」,一時的にうつ病の形をとるという考え方である。「徹底性」がかえって都合が悪い環境が「新奇な事態」である。うつ病が発症するのは新しい環境に置かれた場合だけではないが,「徹底性遺伝子」に都合の悪い環境でうつ病は生じるのではないかと述べている。

     先に述べたように本書はこの一冊でうつ病のすべてが分かる実用書である。内科医だけでなく各科の臨床医,医療関係者にお薦めしたいものである。日本医師会には全会員の必読書として利用することをお薦めしたい。
  • 患者の診療のために そして自分自身の精神衛生のために
    書評者:藤田 芳郎(トヨタ記念病院 腎・膠原病内科部長)

     本書で精神科について初めて勉強した気になった,名ばかり管理職ならぬ名ばかり総合内科医,人間失格ならぬ総合内科医失格の書評であることをまずもってお断りし,お許し願いたい。本書を,よりよい総合内科医あるいは救急医あるいは家庭医になろうと努力している医師に,もっといえば何科であっても良医であろうと奮闘し...
    患者の診療のために そして自分自身の精神衛生のために
    書評者:藤田 芳郎(トヨタ記念病院 腎・膠原病内科部長)

     本書で精神科について初めて勉強した気になった,名ばかり管理職ならぬ名ばかり総合内科医,人間失格ならぬ総合内科医失格の書評であることをまずもってお断りし,お許し願いたい。本書を,よりよい総合内科医あるいは救急医あるいは家庭医になろうと努力している医師に,もっといえば何科であっても良医であろうと奮闘している医師にぜひお薦めしたい。二つの意味で。一つは,患者さんの診療のために,そしてもう一つは自分自身の精神衛生のために。

     名ばかり総合内科医としては知らないことばかり。「もっと頑張らないと」との叱咤激励が禁句であること(p. 53)はさすがに知っていたが,「旅行でも行きなさい」「温泉にでも行ってきたら」は最悪のアドバイス(p. 56)であること,自殺のことは割とストレートに話してよく,「迷惑をかける」という言い方は禁忌だが「自殺をすれば,家族に迷惑がかかる」という言い方はよいということ(p. 58),抗ヒスタミン剤のH2遮断薬によりうつ病が生じること(p. 47),「自律神経失調症」は病名として認めがたいこと(p. 43,44)などなど。具体的な症例が多いことも本書の素晴らしさの一つだ。中でも「認知症と誤診されそうになった(「仮性認知症」の)うつ病」(p. 102―105)の症例は,驚くべき症例であった。治りうる痴呆の鑑別診断のリストにうつ病を入れなくてはいけない。抗うつ薬の解説(p. 61―91)もわかりやすく,本書を診療の座右の書として手元に置いておきたい理由の一つである。さらに圧巻なのは第VI章の「うつ病にかからないためのアドバイス――予防論」である。

     今どこの総合病院でも「総合医」が必要とされているかのごとくである。本当に必要なのか? ぜひ「専門医」に再考してほしい。「専門医」の都合により右往左往させられるのが「総合医」である。大うつ病性障害(単極性うつ病)の病前性格,「几帳面で気を遣う真面目人間」「凝り性でくどい,こだわり人間」(p. 5)は病気の原因を追及していく総合医としては,ぴったりの性格かもしれない。しかしそういう総合医は「全か無か思考」(私は「百点主義」と呼びたい)の餌食である(p. 108,109)。第VI章がお勧めだ。

     いくつもの問題を抱えた高齢者は「分類不能」患者の代表であり「専門医」はみたがらない。膠原病だか感染症だか悪性腫瘍だかうつ病だか不明な段階での「若い患者」も専門医はみたがらない。不定愁訴として「頭痛」「めまい」は多い(p. 27,43)。しかし,頭痛,胸痛,腹痛などの初期診療は落とし穴が多く難しい。結果が明らかになったのちに,診断治療についての専門医の批判・批評をまともに受けたとしたらどうなるか? 診断名も目まぐるしく変化する。そんな診断名なんて古い,治療も古い,全然ダメだ,なぜ専門医に見せなかったのだ,などという「全か無か」の批判をまともに受けたらどうなるか? 「うつ病」になるしかないのである。したがって「総合医」は,自分が「うつ病」にならないために本書を読まなければならない。「総合医」はどの専門に関しても百点の診療ができない。合格点が取れればよいのである。合格点もとれないって? もしそうなら合格点をとれるように環境を整える義務は専門医の方にあるのである。優秀な総合医が育ったとしたら周囲の専門医のおかげである(そういうすばらしい専門医ももちろんいる)。そのことを理解させるためには,総合医の役割を専門医の交替制にし(例えば3か月ごとの)実際に体験させるか,総合医を院長直属にして権限をもたせるかのどちらかしかない。

     精神科ではド素人である名ばかり総合内科医は,その役を背負わなければならぬ時,不定愁訴と一見思われる患者さんに対して,「騙されてもいいからすべて本当と信じて」「いったん騙されるつもりで」(もちろん患者さんにとっては,すべて真実であることは言うまでもない)器質的疾患を探す態度を堅持しなければならないと自戒する毎日である。診療が遅いと看護師さんに文句を言われながら,「頭痛,胸痛,腹痛はすべて入院だ」と研修医にうそぶきながら,そしてこの書を座右の書のひとつとして抱えながら。
  • 一般医の目線で記載された,うつ病の解説書
    書評者:松村 真司(松村医院院長)

     当院には時に医学生や研修医が診療所実習に訪れる。実習が終わった後には必ず,彼らが実習中に受けた印象を聞くことにしている。患者との距離の近さを挙げる学生がもちろん多いが,それとともに「診療所には精神面の問題をもつ人がこんなに多いと思わなかった」との印象を述べる実習生が多い。不安障害,認知症などととも...
    一般医の目線で記載された,うつ病の解説書
    書評者:松村 真司(松村医院院長)

     当院には時に医学生や研修医が診療所実習に訪れる。実習が終わった後には必ず,彼らが実習中に受けた印象を聞くことにしている。患者との距離の近さを挙げる学生がもちろん多いが,それとともに「診療所には精神面の問題をもつ人がこんなに多いと思わなかった」との印象を述べる実習生が多い。不安障害,認知症などとともに,身体的愁訴が前景に立ったうつ病患者は本当に数多い。最近ではうつ病に関する啓発も増え,患者自らが「自分はうつ病ではないか」と考えて訪れる患者も多くなってきている。

     著者自身も記しているが,認知症,高血圧,糖尿病などと並び,うつ病は疾患の罹患率とその症状の多彩さ,そのアウトカムの重大さから考えると,専門家のみですべてに対応することは現実的ではない。著者によると,内科医のうつ病診療のレベルが期待された水準にないことが,本書のような啓発書を書くきっかけだったとのことである。確かに,これほどありふれた疾患であるにもかかわらず,卒前・卒後における研修機会は十分とは言えない。精神科医に相談をすることも,地域に出てしまうとなかなか容易ではない。また,地域によっては精神科医の診察のアクセスが悪い場合もあり,その場合には好むと好まざるとに関わらず,非精神科医が治療の相当の部分まで担当せざるを得ない場合もある。できれば専門医に診療してもらいたいと思いながらも,薄氷を踏む思いで診療をしている非専門医はかなりの数に上るのではないだろうか。

     本書は,わが国のこの分野の第一人者である野村総一郎先生によって書かれた啓発書が改訂されたものである。第一版は内科医がうつ病の知識を得るためのテキストとして好評を博してきた。内科医のための,とうたってあるが,内容は内科医に限らずすべての臨床医や,一部のコメディカルや患者家族にも有用である。第一版の改訂とはいっても,近年の診断,治療方法の変化(特にSSRI/SNRIの扱い)を踏まえて大幅に書き改められている。前書きにあるように,「うつ病の概念を理解する」というポリシーが本書のすべての記載にわたって貫かれ,必要十分な内容が頭にすっと入ってくる大変実用的なものである。特に野村先生ご自身の経験が診断時の注意,初期対応のポイント,薬の「使い勝手」,典型例などにふんだんにちりばめられており,今日からの診療にすぐにでも役に立つ内容になっている。

     わが国のうつ病診療の質を高めるためには,一般医,コメディカル,患者・患者家族,社会との協同作業がどうしても必要である。そのためにも一般医と専門医との交流がより緊密なものになることが望ましい。本書のように一般医の目線で記載された解説書が,他の専門疾患においても数多く世に出されることを一般医の一人として望む次第である。
目 次
第I章 うつ病とは

第II章 うつ病をどう診断するか――症状論と診断
 A. うつ病の臨床類型
 B. うつ病の症状
 C. うつ病の行動上の特徴
 D. 診断のポイント
 E. 内科臨床とうつ病をめぐる諸点

第III章 うつ病者とどう接し,どう治療を始めるか

第IV章 抗うつ薬による治療
 A. 抗うつ薬とはどんな薬か
 B. 抗うつ薬の分類
 C. 抗うつ薬の神経化学的作用
 D. 抗うつ薬の臨床効果(うつ病以外への効果も含む)
 E. 各抗うつ薬のプロフィール
 F. 抗うつ薬治療の実際

第V章 うつ病の症例
 A. 実存的な悩みで来院した単極性うつ病の症例
 B. 身体愁訴が主体のいわゆる仮面うつ病
 C. 老年うつ病による仮性認知症の症例

第VI章 うつ病にかからないためのアドバイス――予防論
 A. うつ病予防の意味
 B. うつ病にかかりやすい考え方の歪み
 C. うつ病を防ぐ日常の心構え

第VII章 精神科医との連携
 A. 内科医がうつ病を診るために必要な前提
 B. うつ病診療の技術をどこまで身につけるべきか
 C. 内科医の限界と精神科医への紹介のポイント

第VIII章 余録――うつ病の病因論
 A. うつ病の病因論の現況
 B. 遺伝と環境
 C. 徹底性の遺伝子
 D. 徹底性の本態は何か
 E. 病前性格はどう形成されるか
 F. うつ病の発病
 G. モノアミン系の異常との関係
 H. 演繹的仮説と今後の課題

索引