消化管の病理学 第2版

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口腔・食道疾患から大腸・肛門疾患に至るまで、代表的病理組織カラー写真をふんだんに用いながらも、高度な内容が要領よく体系的に解説されていることから、消化管臨床医、病理医を目指す医師に圧倒的支持を得た、独創的なtextbookの改訂版。コンパクトな初版の良さはそのまま残しつつ、大腸sm癌、症例提示の章を新設するなど、臨床医の関心が高い病理写真を大幅に充実させた。
藤盛 孝博
発行 2008年06月判型:B5頁:312
ISBN 978-4-260-00620-0
定価 13,200円 (本体12,000円+税)

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第2版 序

 “消化管の病理学”の第1版が完売したとの連絡を受けた。2007年の11月頃のことである。2004年5月が発刊日であるので約3年半ということになる。第1版は序やあとがきにも書いたが紆余屈折があってやっと完成したものであった。その時の教室員,編集の方々の後押しでやっと上梓できた経緯がある。前任の医学書院の担当であった荻原足穂氏や武田誠氏に頑張って協力していただいたにもかかわらず,いわゆる拙速で私の力不足もあり正誤表を添付しなければいけないほど大事なところでの誤字脱落があった。そんなことから意図したわけではないが発刊と同時に改訂に向けて準備した。このような処女作であったが仲間,諸先輩方のご支援で何とか改訂にこぎ着けた気がする。そういう点からは教室員も含めて私も医学書院から改訂の依頼が来るのを心待ちにしていたところもある。このような流れで“消化管の病理学”の改訂版が年末から年始の約3カ月で作られた。本書も実力不足から色々と訂正すべき箇所が指摘されることであろうが次回改訂のエネルギーとしたい。
 今回,改訂の第1は誤字脱落の訂正,第2は症例の追加,第3は大腸pSM癌の取扱いに関する病理学的補足,第4は文献の整理,であった。これらに関して3年かけて教室員とともに準備した。症例は潰瘍性大腸炎の癌化例と粘膜下腫瘍に力を入れた。特に潰瘍性大腸炎の癌化は私の最初の症例報告(1980,胃と腸)であり,その後30年近くかけて集めた経緯と思い入れがある。多くの大学院生と教室の藤井茂彦君の協力があってはじめて整理できた。東京女子医大,亀岡信悟教授はじめ,症例を提供してくださった施設,先生方に深謝したい。原稿入力と文献整理は前回の続きで宮原さんと菊地さんにご苦労願った。技術的な標本作製は松山さんを中心とする旧来の技師の皆さんにお願いした。写真らについては前回と同じ教室員にお願いしたが,新しく山岸秀嗣(大学院生)君に負担をかけた。研究としては木村時子(大学院生)君が加わった。医学書院での編集担当は大橋尚彦氏,制作担当は板橋俊雄氏であった。多大なお力添えを賜った。前任の武田氏にも一部お世話になった。結局のところ単著とはいえ完成できたのは関係各位のご協力の賜物であり,心から感謝したい。
 病理医の扱う症例は臨床医の協力があってのことである。第1版は提供願った先生方や施設名を各々の症例でできるだけ明記するようにしたが結局のところ,限られた症例になった。第2版ではこのような不都合を避けるために巻頭に提供施設を明記し各々の症例での記載は除いた。不興を買うこともあると思うが御許し願いたい。

 2008年4月
 藤盛孝博

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第1章 消化管生検診断の基礎
 A.消化管生検の依頼から標本作製まで
 B.粘膜切除材料の取扱い
 C.消化管生検の実際
第2章 大腸SM癌の取扱い
 A.大腸SM癌の取扱い
 B.大腸SM癌の種々相
第3章 症例で学ぶ間葉系腫瘍と類似病変の病理アトラス
第4章 消化管の病理組織診断―口腔
 A.先天性異常
 B.炎症性疾患
 C.S胞性疾患
 D.エプーリス
 E.腫瘍性疾患
第5章 消化管の病理組織診断―食道
 A.非腫瘍性疾患
 B.腫瘍性疾患
 C.食道p平上皮癌の種々相
第6章 消化管の病理組織診断―胃
 A.非腫瘍性疾患,胃炎,胃潰瘍
 B.胃ポリープ
 C.上皮性良性腫瘍―腺腫
 D.上皮性悪性腫瘍―胃癌
 E.非上皮性腫瘍
 F.胃癌の種々相
 G.生検診断で注意が必要な組織像
第7章 消化管の病理組織診断―小腸
 A.非腫瘍性疾患
 B.腫瘍性疾患
第8章 消化管の病理組織診断─大腸
 A.非腫瘍性疾患
 B.炎症性腸疾患(狭義)
 C.炎症性腸疾患(広義)
 D.腫瘍性疾患および腫瘍類似病変
 E.非上皮性腫瘍
 F.肛門管・虫垂病変
第9章 消化管病理に必要な発生と正常組織
 A.消化管の発生
 B.消化管の器官形成
 C.消化管の解剖と正常組織像アトラス
第10章 消化管病理に必要な基礎的染色法と遺伝子診断に関連する技術
 A.癌の遺伝子診断と治療
 B.いろいろな染色法
 C.日常使われている遺伝子診断のプロトコール

文献一覧
索引

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“Festina lente”(ゆっくり急げ) 簡明で画像が豊富な消化管病理学の傑作
書評者: 竹本 忠良 (日本消化器病学会名誉会長/山口大名誉教授)
 藤盛孝博著『消化管の病理学』の刊行のいきさつは,2つの序に詳しい。つい“Festina lente”(ゆっくり急げ)という名言を思い出す。この格言,ギリシア語Speude brodeõsをエラスムスがラテン語化したと伝えられている。筆者は,フランソワ・ラブレー作(渡辺一夫訳)『第一之書 ガルガンチュワ物語』(岩波文庫1973)で,この「悠々と急げ」(フェステナ・レンテ)を学んだ。今年,文庫化された柳沼重剛の『語学者の散歩道』には,どこに向かって急ぐのか自分が納得できる「区切り」といい,「楽しみつつ区切りをつけよ」と理解している(岩波現代文庫,48頁)。

 藤盛氏の本は,好評のうちに,改版できる「区切り」に達した。初版に,「この本の初期・中期の経緯」と表現したが,獨協医科大学の人体病理を担当して,さほど年月をおかないとき,長廻紘氏と企画したテーマ“内視鏡医に必要な病理学の基本”がついに中断し,「燃えつき症候群」に近い心情さえ味わったらしいだけに,感慨も深いだろう。

 単独執筆と決まっても,消化管全体にわたって,内視鏡像まで含めて諸資料を整えることに,さぞ苦労しただろう。その努力が報いられ,この本が狙いとした「消化管臨床医が日常臨床で臨床画像とマクロ・ミクロを含めた病理所見との対比を行う際に役に立つようにコンパクトに提示した」ことに成功している。

 この“簡明消化管病理学”は図譜という形容を付けてもよい好著だが,この定価で出版されたことに,医学書院の意気込みも現れている。消化管全体に関心をもっていて,筆が立つ病理学者は意外に少ないのかもしれない。

 まず,症例の収集と選別が本書の大きな要素だから資料提供施設も見てみたが,出身の神戸大学に連なる関西は別にして,獨協医科大学に勤務12年にして,関東の研究フィールドをよくも育てたと感心している。筆者は,内視鏡の師近藤台五郎先生までつながる研究会の木曜会(会長・寺野彰獨協医科大学学長)に参加して,藤盛氏の懇切な病理所見の解説を知っている。だから,諸施設も喜んで,内視鏡写真・病理材料を提供して,本書の刊行に協力した。

 気障だが,世阿弥『風姿花伝』の言葉を,馬場あき子『古典を読む風姿花伝』(岩波現代文庫2003)を参照しながら引用しておく。それは,「年来稽古条々・四十四五」にある「天下に許(ゆる)され,能に得法(とくほう)したりとも,それにつきても,よき脇の為手(して)を持(も)つべし」云々がある。馬場は「天下に許された名手といえども,すぐれた『脇の為手』たる達者な助演者が必要だ」としたが,「脇の為手」をツレまでも含む助演者集団を擁することの必要性を説いたと考えている(40頁)。この本の狙いを貫くために,獨協医科大学消化器内科,東京女子医科大学外科ほか,助演者諸集団から擁護宣しきを得たことは幸いであった。

 ちょうどMedical Tribune(2008年8月7日号)が「2007年9月,医道審議会で病理診断科が診療科名として認められ,今年4月から実施されている」ことを報じたばかりだ。「標榜科としての病理診断科」ができて,病理診断は医療行為であり,医療機関において,病理診断医が行う業務になった。この制度改定に併せ,平成18年度診療報酬の病理診断料が増額された。“病理診断外来”の開設も増えるだろうし,病理診断業務を専業とした開業も可能になった。やがて深刻な病理診断医の不足も改善する方向だろう。それにしても,タイミングのよい本書の改版である。
消化管臨床医と病理医を志す医師必読の書
書評者: 武藤 徹一郎 (財団法人 癌研有明病院名誉院長/メディカルディレクター・消化器外科学)
 まことにユニークで役に立つ病理学の本が出版されたものである。2004年5月に第1版が上梓された時から,この日を機して3年半の準備を積み重ねた上での第2版出版となった。その意気や好し,当然のことながら内容は好評であった第1版にも増して充実したものとなっている。消化管臨床医を対象に書かれているだけに,美しい精選された写真が多くてとにかくわかりやすい。写真を見ているだけで楽しくなってくるのは,形態学が得意な人にとってはたまらない贈り物である。のみならず,消化管病理を志す人々にも大変役に立つ専門性を含んだ成書でもある。

 本書は10章から構成されている。第1章は切除標本と生検の取り扱いで,極めて実際的に注意事項が記載されている。第2章は大腸SM癌の取り扱いの要点が,かなり専門的な問題も含めて詳しく述べられている。実地に詳しい筆者がかなり力を注いだ部分であることが分かる。第3章に間葉系腫瘍と類似病変の病理アトラスとして,珍しい13症例が提示されている。この辺の構成がいかにも筆者らしくユニークなのである。第4章から第8章までは病理組織診断として口腔,食道,胃,小腸,大腸(肛門管を含む)が順序よく記述されている。口腔病変ならびに肛門管病変についても記載があるのも,いかにも筆者らしくユニークなところである。筆者が序文で自ら述べているように,colitic cancerにはかなり力を注いで記載していることが分かる。著者の幅広い交友関係を反映して,数多くの優れた臨床家の協力を得たおかげで,教育的な症例が多数提示されているのは特筆すべきであろう。掲載されている写真はいずれも症例選択が的確で美しく,この分野の経験に乏しい医師にとっては非常に参考になると思う。全体的にみてもどの写真も質が高く,著者の病理学者としての自負がうかがわれる。何度見直してみても「?」がつく写真は1枚もない。

 本書の最大の特徴の1つは第9章と第10章の存在であろう。第9章では消化管病理に必要な発生と正常組織が正常組織アトラスと共に詳しく述べられている。しかし,本書の最もユニークな所は第10章の「消化管病理に必要な基礎的染色法と遺伝子診断に関連する技術」の記載であると評者は思う。分子生物学の得意な筆者の面目躍如な章であると言うべきであろう。HE染色から始まって,PAS染色,アルシアンブルー+PAS染色,エラスチカ・ヴァン・ギーソン染色,グリメリウス染色,ギムザ染色,ワルチン-スタリー染色,免疫染色の染色手順が詳しく記載されているだけでなく,日常使われている遺伝子診断(結核に対するPCR-RFLP,ras,p53,c-kit変異,IgH再構成)のプロトコールも記載されているのは大変ユニークである。今やこれらの技術は実地病理診断の場でも要求されるものとなっていることを考慮した章である。この2章は従来の消化管病理の成書にはみられない興味深い構成であり,病理に興味のある消化管臨床家,病理医を志す人々を対象にした筆者の本書執筆の意図が明確に示されている。

 以上述べてきたように,本書は病理診断医であると同時に病理学の研究者としての筆者の経験と知識を総動員して,消化管臨床医と病理医を志す人々のために指針を示したものであり,実用的であり日々の診療に役立つ素晴らしい内容を含んだ本となった。何度も繰り返すが,掲載されている写真はいずれも精選された質の高いものばかりであり,説明に用いられている図表も適切なものばかりである。消化管専門医,消化管病理専門医を志す人々にとって必読の書であり,座右の書として一読を薦めたい。

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