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がんのリハビリテーションマニュアル
周術期から緩和ケアまで

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“がん(悪性腫瘍)のリハビリテーション”にはがん医療全般の知識が必要とされると同時に、運動麻痺、摂食・嚥下障害、浮腫、呼吸障害、骨折、切断、精神心理などの障害に対する専門知識も要求される。本書は、がん医療やリハビリテーションに関する豊富な臨床経験をもつ執筆陣が、その概要から実際のアプローチ方法にいたるまでわかりやすく解説。すぐに臨床応用できる“がんのリハビリテーション”の実践書。
編集 辻 哲也
発行 2011年06月判型:B5頁:368
ISBN 978-4-260-01129-7
定価 5,060円 (本体4,600円+税)
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 悪性腫瘍(がん)の治療を終え,あるいは治療を受けつつあるがん生存者は2015年には533万人に達すると予測されており(いわゆる“2015年問題”),いまや,“がんが不治の病であった時代”から“がんと共存する時代”になってきています.がん患者が,がんの経過に合わせた最適な治療やケアを受けるためには,さまざまな職種がチームを組み,“多職種チーム医療”を展開し,治癒を目指した治療からQOLを重視したケアまで切れ目のない支援体制を確立していく必要があります.がん患者にとっては,病としてのがんに対する不安は当然大きいでしょうが,がんの直接的影響や手術・化学療法・放射線治療などによる「身体障害に対する不安」も同じように大きいものです.加えて近年のめざましいがん医療の進歩とともに,障害の軽減,運動機能や生活機能の低下予防・改善,介護予防などを目的としてリハビリテーションの必要性は,今後さらに増していくと考えられます.
 欧米では,“がんのリハビリテーション”はがん治療の重要な一分野として認識されており,たとえば,全米屈指のがんセンターであるテキサス大学MD Anderson Cancer Centerでは脳脊髄センター,血液・幹細胞移植センターなどと並んでリハビリテーションが,がん治療の一つの柱となっています.一方,わが国では,がんセンターに代表される高度がん専門医療機関においては,これまでリハビリテーション専門医が常勤している施設はほとんどなく,リハビリ療法士もごく少数という状況で,がん自体あるいは治療過程により生じうるさまざまな身体障害に対しては,積極的な対応がなされてきませんでした.
 そのような状況のなか,2006年にがん対策基本法が成立し,基本的施策として,がん医療の均てん化(どこでも高い医療の質を提供すること)の促進などが挙げられ,がん患者の療養生活の質の維持向上を行うことが国の責務であることが明確にされました.そのための施策としては,症状緩和と精神心理面を支援するための緩和ケアとともに,身体活動面の支援にはリハビリテーションの充実が必要不可欠です.しかし,いまだ“がんのリハビリテーション”に関して,専門的な知識および技能を有する医師・医療従事者が十分に育成されていないのが現状です.
 “がんのリハビリテーション”には,がん医療全般の知識が必要とされると同時に,運動麻痺,摂食・嚥下障害,浮腫,呼吸障害,骨折,切断,精神心理などの障害に対する高い専門性が要求されます.そこで,“がんのリハビリテーション”を学んでいくための実践的な入門書として本書を企画しました.2007年度から厚生労働省委託事業として,がんのリハビリテーション研修ワークショップ(実施:財団法人ライフ・プランニングセンター)が開始され,わが国でも本格的に“がんのリハビリテーション”に関する専門家育成の取り組みが始まったことから,同ワークショップの講師を中心に,現在,第一線でがん医療やリハビリテーションに携わっておられる先生方にご執筆いただきました.
 “がんのリハビリテーション”の入門書として,EBM(evidence-based medicine)に配慮しつつ,執筆陣の豊富な臨床経験から培われた内容が満載されており,がん医療に携わる医師や看護師,理学療法士,作業療法士,言語聴覚士,管理栄養士,歯科衛生士,臨床心理士,医療ソーシャルワーカーなど多職種チームの方々の日々の臨床においてお役に立てるものと自負しています.本書が,がん医療の質の向上に貢献し,がん患者さんのQOL向上の一助となることを期待しています.

 2011年5月
 辻 哲也

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序章 悪性腫瘍(がん)のリハビリテーション-過去から未来へ

I がんのリハビリテーション総論
 1.がんの基礎的理解
 2.がんのリハビリテーションの概要

II がんのリハビリテーションの実際
 1.脳腫瘍
  1.脳腫瘍の特徴・治療・リハビリテーションの概要
  2.片麻痺へのアプローチ
  3.高次脳機能障害および摂食・嚥下障害へのアプローチ
 2.頭頸部がん
  1.頭頸部がんの特徴・治療・リハビリテーションの概要
  2.摂食・嚥下障害,発声障害へのアプローチ
  3.頸部郭清術後の副神経麻痺へのアプローチ
 3.乳がん・婦人科がん
  1.乳がんの特徴・治療・リハビリテーションの概要
  2.乳がんの周術期リハビリテーション
  3.婦人科がんの特徴・治療・リハビリテーションの概要
  4.婦人科がんの周術期リハビリテーション
  5.リンパ浮腫への対応
 4.肺がん・消化器系がん
  1.肺がん・消化器系がんの特徴・治療・リハビリテーションの概要
  2.開胸・開腹術前後の呼吸リハビリテーション
  3.食道がん術後の摂食・嚥下リハビリテーション
 5.骨・軟部腫瘍,骨転移,脊髄腫瘍
  1.骨・軟部腫瘍,骨転移,脊髄腫瘍の特徴・治療・リハビリテーションの概要
  2.上肢の障害へのアプローチ
  3.下肢・体幹の障害に対するリハビリテーション
 6.造血器腫瘍
  1.造血器腫瘍の特徴・治療・リハビリテーションの概要
  2.造血幹細胞移植前後のリハビリテーション
 7.小児がん
  1.小児がんのリハビリテーション
  2.急性リンパ性白血病のリハビリテーション

III 緩和ケアのリハビリテーション
 1.進行がん・末期がん患者におけるリハビリテーションの概要
 2.がん性疼痛に対するリハビリテーション(物理療法)
 3.廃用症候群・体力消耗状態・がん悪液質症候群へのアプローチ
 4.進行がん患者の基本動作,歩行・移動障害へのアプローチ
 5.進行がん患者の呼吸困難へのアプローチ
 6.日常生活動作の障害へのアプローチ
 7.緩和ケアチームにおけるリハビリテーションスタッフの役割
 8.こころのケアとしてのリハビリテーション

索引

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臨床現場ですぐに役立つ実践的な入門書
書評者: 水間 正澄 (昭和大教授・リハビリテーション医学)
 がんのリハビリテーションは,従来からリハビリテーション医学の一つの領域として,リハビリテーション科専門医の所属している施設では地道な活動がなされていたが,必ずしも欧米でみられるような専門の診療部門として運営されていたわけではなかった。特に,がん治療を専門とする病院においてはリハビリテーション科専門医が専従として勤務することも少なく,積極的なリハビリテーションアプローチが展開されていたとは言い難い。

 本書を編集された辻哲也氏は,2002年に開院した高度がん専門医療機関である静岡県立静岡がんセンターにおいて,わが国におけるがんリハビリテーション専門の診療部門としての先駆的な取り組みを開始された。その後,2006年には「がん対策基本法」が施行され,がんの予防,早期発見,研究推進とともに医療の質として患者のQOLの維持向上も求められ,リハビリテーションの役割も重視されるようになった。

 さらに,2010年度診療報酬改定では「がん患者リハビリテーション料」が新設され,その施設要件の一つとして多職種チームによる研修会受講も必須のものとなった。これを機にがん拠点病院のみならず一般病院においてもがんのリハビリテーションの必要性が認識され,多くの施設が研修会を受講し施設認可を受け本格的な取り組みを始めたところである。このような経緯の中,本書ががんのリハビリテーションの実践的な入門書として出版されたことは大変意義深い。

 本書は辻氏をはじめとする執筆陣の豊富な臨床経験を基に書きあげられ,「周術期から緩和ケアまで」との副題が示す通り,がん患者診療におけるさまざまな場面でのリハビリテーションの必要性とかかわり方を取り上げている。その内容は,がん医療全般に始まり,がんそのものにより引き起こされる障害,手術・化学療法・放射線治療などの治療過程に起こり得るさまざまな障害と生活機能の低下への対応,さらには精神心理面へのサポートと多岐にわたる。

 がんにより引き起こされる障害も,運動障害,切断,摂食・嚥下障害,浮腫,呼吸障害,骨折,疼痛,さらにはこころのケアまで多種多様であるが,項目ごとにポイントがまとめられ,豊富な写真や図表を用いて包括的なリハビリテーションアプローチの実際がわかりやすく示されている。臨床現場ですぐに役に立つ実践書であるが,がんのリハビリテーション研修会等の受講に際しての学習にも活用されることをお勧めしたい。

 本書を通じてより多くの医療人ががんのリハビリテーションの役割と必要性を理解され,がん医療全体の質の向上につながることを期待している。
がんのリハビリの基本と実際をバランスよく著した待望の書
書評者: 生駒 一憲 (北大病院教授・リハビリテーション学)
 今日,がん医療に対する注目は非常に高い。これはがん医療の進歩が著しく,不治の病ではなくなりつつあることが一つの理由であろう。ところで,このがん医療の進歩を支えるのがリハビリテーションであることをご存じだろうか。リハビリテーションは,一人一人の生活がより快適で意味のあるものになるようにさまざまな手法を用いてアプローチする専門技術である。がん患者の生存率が伸び,がんと共存する時代では,このリハビリテーションの良し悪しが人々の生活の質に直結し,ひいては人生そのものにも影響を及ぼすことは想像に難くない。薬物,放射線,手術などの進歩を,人にとってより恩恵のあるものとするために,リハビリテーションは不可欠である。

 このたび辻哲也先生が編集された『がんのリハビリテーションマニュアル――周術期から緩和ケアまで』は,がんのリハビリテーションを行う上で,押さえるべき基本と実際の臨床をバランスよく著したもので,今まさに待望の一冊である。

 辻先生は日本のがんのリハビリテーションを先導され,今日,名実ともにこの分野でのリーダーである。2010年度診療報酬改定で設けられた「がんのリハビリテーション料」算定に必要な研修会の開催を主導され,また,現在はがんのリハビリテーションガイドラインとグランドビジョンの作成に傾注されている。この書物を編纂されるに最もふさわしい先生である。

 本書の内容は以下のようなものである。第I章「総論」は辻先生の執筆により,がんのリハビリテーションの概要と重要性が簡潔に記されている。この章を読むだけでも十分価値のある書物であるが,臨床に携わる諸氏はさらにその実際を知らねばならない。第II章では,「脳腫瘍」「頭頸部がん」「乳がん・婦人科がん」「肺がん・消化器系がん」「骨・軟部腫瘍,骨転移,脊髄腫瘍」「造血器腫瘍」「小児がん」についての実践的な記述が続く。図表や写真を多用し,臨床ですぐに役立つように工夫されている。第III章は緩和ケアのリハビリテーションについて述べられており,その中の見出しには「進行がん・末期がん」「がん性疼痛」「廃用症候群・体力消耗状態・がん悪液質症候群」「進行がん患者の基本動作,歩行・移動障害」「進行がん患者の呼吸困難」「日常生活動作」「緩和ケアチーム」「こころのケア」などの言葉が登場する。この分野のリハビリテーションアプローチも欠かすことはできない。

 がん医療は上述のようにリハビリテーションなくしては成り立たない。この一冊ががん医療に携わる多くの人々に読まれ,がんのリハビリテーションが医療現場に浸透し,がん患者に恩恵がもたらされることを切に望む。

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