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視床と精神医学

汎性視床皮質投射系の役割

著:山口 成良
販売:医学書院 

  • 判型 A5
  • 頁 168
  • 発行 2004年08月
  • 定価 6,912円 (本体6,400円+税8%)
  • ISBN978-4-260-70045-0
視床と精神医学の緊密な連関の理解に役立つ
金沢大学精神医学教室で長年にわたって続けられてきた視床研究の成果をまとめた書。Creutzfeldt-Jakob病などの視床病変によるさまざまな脳神経疾患に関する新知見が,著者の臨床経験に基づいて述べられている。さらに,これまで精神医学の臨床から顧みられることの乏しかった視床の精神医学との緊密な連関の理解に貢献する。
書 評
  • 視床の神経生理学的研究の集大成
    書評者:大熊 輝雄(国立精神・神経センター名誉総長/大熊クリニック院長)

     視床は大脳の中央,扇のかなめに位置しているので,古くから脳機能の統合に重要な働きをするものと考えられてきたが,体性感覚の中継の他はその機能が明らかではなかった。本書の著者,山口成良博士が金沢大学精神医学教室で,秋元波留夫先生のもとで視床の研究をはじめられた1950年頃は,脳波の発見などに触発されて...
    視床の神経生理学的研究の集大成
    書評者:大熊 輝雄(国立精神・神経センター名誉総長/大熊クリニック院長)

     視床は大脳の中央,扇のかなめに位置しているので,古くから脳機能の統合に重要な働きをするものと考えられてきたが,体性感覚の中継の他はその機能が明らかではなかった。本書の著者,山口成良博士が金沢大学精神医学教室で,秋元波留夫先生のもとで視床の研究をはじめられた1950年頃は,脳波の発見などに触発されて精神医学に神経生理学的研究が導入されはじめた黎明期であった。特に脳機能の神経生理学的研究の契機となったのは,汎性視床皮質投射系の発見,すなわち視床非特殊核の反復的電気刺激により両側大脳皮質の広汎な領域に漸増電位が誘発され,視床が大脳皮質を統合する機能を持つことが神経生理学的に実証されたことであった。

    ◆視床と臨床精神医学との関連にも言及

     本書は,わが国における優れた精神医学者であり,汎性視床皮質投射系研究の先駆者である山口成良博士が,1950年頃から長年にわたって金沢大学を中心に行った視床の神経生理学的研究の集大成であり,さらにその基礎の上に,視床と臨床精神医学との関連について論を進められたものである。

     すなわち,第1章では,金沢大学で行われた汎性視床皮質投射系に関する実験的研究が順を追って詳細に述べられ,これが本書の約3分の2を占めている。当時,教室主任であった秋元波留夫先生は実験てんかんの研究をしておられ,視床が体知覚の求心経路の中継核であるとすれば,それはてんかん発作の起始部位となり得るかもしれないと考えて,山口博士とともに無麻酔無拘束の動物での実験をはじめられたとのことである。金沢大学では,イヌ,ウサギ,ネコなどについて,急性実験だけでなく無拘束動物についての実験も行われ,その研究は世界でも例をみないほど体系的,包括的なものであり,本書の第1章を通読すると,現在の視床生理学の全貌を把握することができる。無拘束動物で視床汎性投射核を刺激すると,漸増電位とともに自然睡眠が出現するとの発見もこの研究の中から生まれた。

     第2章は,その後経験されたクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)症例の視床の神経病理学的所見から,CJDに特徴的な周期性・同期性発射の発生機序を汎性投射系との関連から考察されたもので,いわば第1章の実験的研究の臨床的発展の1つである。

     第3章では,古くから臨床的に知られている視床性失語,視床性痴呆などに関連して,視床が言語,認知,記憶,知能などの高次神経機能に果たす役割について,最近の文献を引いて展望が行われている。

     第4章では,統合失調症と視床の関連が,最近急速に発展している画像診断学の所見を中心に展望されており,形態MRI,機能MRI,SPECTなどを用いた最新の研究成果が紹介されている。ここでは倉知正佳氏,地引逸亀氏ら金沢大学関係の方々の研究も多く引用されており,Carlssonの統合失調症における視床フィルター仮説にも言及されていて,統合失調症研究の全貌を理解するためにもきわめて有用である。

    ◆本書で視床の機能への理解を深めてほしい

     最近私たちは,視床の形態については,CT,MRI画像などの観察の際にごく日常的に接しているが,視床の機能についての知識は必ずしも十分ではないと思われる。評者は精神医学者,神経学者,研修医の他,多くの方々が本書を一読され,視床の機能について,さらには脳の働きとこころについての理解を深められることを期待したい。実験動物の誘発電位などにはやや縁が遠い方は,場合によっては本書を「まとめ」,「統合失調症」,「高次神経機能」などの順に読まれれば,第1章がよりよく理解できるかもしれない。

     「視床と精神医学」は古くて新しい課題である。私事にわたって恐縮であるが,評者の亡父で精神医学者であった大熊泰治(本書の中でも引用していただいている)は,1934年(昭和9年,当時岡山医大助教授)の第33回日本神経学会(現在の精神神経学会)総会で「視床の研究」と題する宿題報告を行っている。亡父を知る方々によると,父はそれまで神経解剖学,神経病理学の研究を行ってきたが,これからは生理学の時代だと話していたとのことである。残念ながら父は志半ばにして早世したが,父がもし本書を読むことができたなら,視床研究が生理学的にはほぼ完成し,さらにそれを超えて神経画像学,受容体抽出にまで進展している現状を知って,どんなに感激することであろうかと思う。