DSM-Ⅳ-TR ケーススタディ
鑑別診断のための臨床指針

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米国精神医学会発行のDSM-IVテキスト改訂版に準拠した,定評ある副読本。DSMの目次立てにほぼ沿った構成で,具体的な症例に基づいてDSM診断を一通り学ぶことができる。特に鑑別診断の指針を示すことに重点が置かれ,治療計画についても触れられるなど,臨床に直結した実践的な内容。最終章にセルフチェック付き。
Allen Frances / Ruth Ross
髙橋 三郎 / 染矢 俊幸 / 塩入 俊樹
発行 2004年07月判型:A5頁:416
ISBN 978-4-260-11892-7
定価 6,600円 (本体6,000円+税)
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第1章 通常,幼児期,小児期,または青年期に初めて診断される障害
第2章 せん妄,痴呆,健忘性障害,および他の認知障害
第3章 物質関連障害
第4章 統合失調症と他の精神病性障害
第5章 気分障害
第6章 不安障害
第7章 身体表現性障害
第8章 虚偽性障害
第9章 解離性障害
第10章 性障害および性同一性障害
第11章 摂食障害
第12章 睡眠障害
第13章 他のどこにも分類されない衝動制御の障害
第14章 適応障害
第15章 パーソナリティ障害
第16章 投薬誘発性運動障害
第17章 セルフチェック
後記
索引

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症例は典型例が中心,鑑別診断の指針に力点をおいた初心者向け教科書
書評者: 樋口 輝彦 (国立精神・神経センター総長)
 DSM―III以後に出版された症例集としては「ケースブック」が親しまれてきた。
 症例を通してDSM―IIIの理解を深めることを目的に,1981年Spitzer博士によって刊行されたものであったことはどなたもご存知のことであろう。その後,DSMが改訂される度に改訂され,直近では2002年にDSM―IV―TRケースブックが出版された。しかし,DSM―III―RがDSM―IVに改訂される際に編集責任者がSpitzer博士からAllen Frances博士に交代となった。これに伴って,Allen Frances博士が新たに症例集を出版するに至った。これが「DSM―IVケーススタディ」である。今回,翻訳出版された「DSM―IV―TRケーススタディ」は2000年初版の改訂版である。

 本書は17章で構成されている。それぞれの章は「ケーススタディ」(症例提示)にはじまり,DSM―IV―TR診断,診断基準の記載に続いて,鑑別診断のための指針,病型,治療計画で構成されている。双極I型障害を例に本書の特徴である詳細な「鑑別診断のための指針」を紹介したい。症例は比較的典型的な双極I型障害の女性であり,気分に一致した精神病症状(幻声,思考障害)を伴う。II軸診断は該当せず,III軸もなしである。「鑑別診断のための指針」では,最初に単極性うつ病との鑑別に言及している。その中で注目されるのは,「慢性的うつ状態の患者がときに示す寛解期を躁状態と見誤らないこと」という説明である。次に物質使用による躁病様の症状との鑑別であり,かなりのスペースを割いている点は米国の物質使用の深刻さを反映している。もう1点物質使用の関係で取り上げているのは抗うつ薬による治療誘発性の躁病エピソードの扱いである。DSM―III―Rでは抗うつ薬によると考えられる躁病エピソードであっても障害診断を双極性障害に変更することとされていたが,DSM―IVでは「大うつ病性障害と物質誘発性気分障害,躁病性の特徴を伴うもの」という2重の診断を採用したことを解説している。さらに高齢者が示す躁症状は身体疾患が背後にある可能性を疑うよう警告している。精神病症状が存在する場合には,躁病相と一致している場合は双極性障害と診断し,躁病相を越えて続く場合は失調感情障害と診断するという明確な説明がおこなわれている。躁病の場合にはパーソナリティー障害の診断をつけるには慎重でなければならないことを強調している。

 症例は典型例中心に記載されており,診断そのものはさほど困難ではない。力点は鑑別診断のための指針に置かれているようであり,治療計画はごく教科書的内容でやや物足りなさを感じる。訳者である高橋三郎先生も序の中で指摘されているが,ケースブックが統合失調症,気分障害,不安障害に多くのページを割き,多くの症例を提示しており,読み物として面白い,言い換えれば初心者向けというよりかなりの経験を有する精神科医にも有用な内容であるのに対して,ケーススタディは初心者向けの教科書の色彩が濃いと思われる。

すべての精神科医が通読すべき1冊
書評者: 石郷岡 純 (東女医大教授・精神医学)
◆生きた診断学を学ぶ

 待望久しかったアメリカ精神医学会によDSM―IV―TRケーススタディの日本語訳が,このたび出版された。著者はDSM―IV改訂の際の編集委員長であるAllen Frances・デューク大学精神科教授とRuth Rossである。

 このケーススタディには74例が収録されており,16章に分かれる各疾患カテゴリーで数例ずつを提示し,症例ごとに鑑別診断を含む診断へのプロセス,および治療方針まで解説するという体裁で構成されている。呈示される症例は適度に教科書的であるがリアリティもあり,解説も抑制の利いた語り口で進められているため受け入れられやすく,操作的診断法がはじまって四半世紀たった今このような診断スタイルがある普遍性に到達し,決して無味乾燥なものではないことを実感できる書物となっている。

 本書は読者自らが触れる機会の少ない症例を経験するための症例集ではない。むしろ代表的な症例を通じて生きた診断学を学ぶための1冊である。全国の大学,病院では毎週症例検討会が開かれ,診断,治療について議論が交わされているであろうが,この書物に描かれている症例の呈示法,およびそこから得られる問題点の抽出法,診断へ至る思考プロセスは,そこに集まる臨床医が共通言語として共有すべきひとつのプロトタイプを示していると言えよう。こうした議論がされた後,診断学の歴史や最新の知見など,操作的診断ではカバーできない領域が活発に語られる症例検討会であれば,臨床の力を大いに伸ばすことのできる実りあるものにできるであろう。各施設で議論をリードする立場にある方々には,ぜひ本書で採られているスタイルを参考にしていただければと思う。また,その意味では,これから精神科医として診断学を勉強していくものにとっては,きわめて効率のよい書物でもある。

◆操作的診断の限界が最後の1章で示される

 本書を単なる教科書に終わらせない,興味深い1章が最後に第17章として設けられている。すなわち,操作的であるが故に生じる診断の不確定性,診断する臨床医の目の重要性,情報の量・質の重要性など,診断学の基本に関わる問題点を浮き彫りにする1章であり,それらを考えさせる10例が提示されている。ここでは現在の診断学,操作的診断の限界が症例を通じて赤裸々に描かれているが,一方では,長くこの診断体系の確立に取り組んできた著者らが,ベストではないがベターであると強烈に主張しているようにも見える1章である。操作的診断には,症状からは原因が特定できないという基本的態度と,薬剤性など,明らかに原因があると思われるものは除外するという相反する原則が併存しているが,訳者の高橋名誉教授(滋賀医大)が述べているように,新しい知見によっていつの日か今の診断基準が時代遅れになることを,この1章は予言しているように見える。

 翻訳は新潟大学の先生方が分担で行い,さらにそれを染矢教授,塩入助教授が修正し,最後に訳者代表の高橋名誉教授が全文を校正するという念入りな工程を経て完成されただけに,統一された自然な文体で読みやすいものとなっており,すべての精神科医が一度は通読したい1冊に仕上がっている。

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