はじめに
看護学実習では,通常,「看護問題(本書では「看護の焦点」とよんでいます)」を取り上げ,その問題解決を目標として進めます.いわゆる「問題解決型思考」です.しかし筆者らは,老年看護学実習を「問題解決型思考」で進めることには違和感を覚えるのです.
「転倒」の防止を例に考えてみましょう.これは高齢者の看護では基本ともいえることがらです.ただし,それを「看護の焦点」として強調してしまうと,「安全を確保するためには行動制限をしなければならない」といった発想が生じ,高齢者の「いきいきとした活動」をかえって妨げている場面が少なくないのです.
もちろん老年看護においても,生命が脅かされるような急性疾患のように,「問題解決型思考」が中心となることもありますが,学生の皆さんが老年看護学実習で受け持つ対象者の多くは,慢性疾患や障害をもちながら暮らしている高齢者です.その場合の看護実践は,「問題解決型思考」よりも,対象者がどのような生活を望んでいるか,つまり「目標志向型 思考」で進めることが望ましいと言えます.本書は,そのような「目標志向型思考」に基づいて実習を展開する手がかりとなることを目指して書き下ろしました.
本書のもう1 つの特長は,「生活行動モデル」を用いたことです.これは,筆者らの老年看護領域での実践経験をもとに開発したモデルで,文字通り「高齢者の生活」に焦点を合わせています.読者がこのモデルを理解し,実践に応用できるよう,本書の第1 編では「生活行動モデル」に基づいて高齢者の生活をとらえるための視点について詳述しました.
また,第2 編を「疾患別看護過程の展開」「症状・機能障害別看護過程の展開」の二部構成とし,両方の視点から看護過程の展開を学習できるよう配慮しました.
本書の執筆は,いずれも老年看護の実践と教育に習熟した方々にお願いし,執筆にあたっては「基盤となる考え方」にズレがないよう,特に留意しました.
皆さんの老年看護学実習を円滑に進めるうえでの拠り所として本書を活用していただけるならば,筆者らにとって望外の喜びです.また,実際に利用されたうえでのご意見・ご感想は,是非とも忌憚なくお寄せください.それらをふまえて,より良いものへと改訂していきたいと思っています.そのことが,実習で皆さんがお世話になる高齢者の方々への還元にもつながると信じているからです.
本書の刊行にあたり,最後まで根気よくお付き合いいただきました執筆者の先生方に,この場を借りて衷心より御礼を申し上げます.また,いつも温かい励ましで支えていただきました医学書院諸氏に深謝申し上げます.
私たちの老年看護学にかける熱い思いを,本書を通して少しでも伝えることができたなら幸いです.
2008 年7 月
著者を代表して 山田律子