患者安全のシステムを創る
米国JCAHO推奨のノウハウ

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「患者に害を与えてはならない」という医療行為における古からの大前提は、近年いっそう先鋭的に問われている。米国で蓄積された医療事故の膨大なデータベースからそれが起こる様々な状況を分析し、医療者が察知すべき指標を提唱した患者安全確保のための実践書の翻訳。訳出にあたり用語を慎重に吟味し、原著の内容を忠実に伝える。
監訳 相馬 孝博
発行 2006年01月判型:B5頁:224
ISBN 978-4-260-00147-2
定価 4,180円 (本体3,800円+税)

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  • 目次
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Introduction 医療界における医療事故の現状
Chapter 1 今日の医療安全において求められる医師の役割
Chapter 2 手術や術後のエラーと合併症から患者を守る
Chapter 3 部位間違い/患者間違い/手技間違い手術から患者を守る
Chapter 4 誤薬事故から患者を守る
Chapter 5 治療の遅れによる悪い結果から患者を守る
Chapter 6 身体拘束による重篤な傷害や死亡から患者を守る
Chapter 7 自殺から患者を守る
Appendix 安全と医療:エラー削減のための基準
 主要参考文献
 監訳者あとがき
 索引

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病院管理者をはじめとする,患者安全にかかわるすべての医療スタッフに
書評者: 井部 俊子 (聖路加看護大学長)
 本書は,米国における医療安全の確保においてJCAHO(Joint Commission on Accreditation of Healthcare Organizations;医療施設認定合同審査会)がどのようにとり組んできたかを説明し,医師が医療安全システムの重要な構成要素であるとして,2002年に認定プロセスに特に医師を引き込むための計画書を2002年に発表したことを報告し,続いて6つの警鐘事象を取り上げ,医師の役割の重要性を説明している。

 本書の中で,現在,JCAHO認定の必要要件の約50%は医療の安全に関するものであり,病院を認定するプロセスの中心は,病院のリスクを削減する取り組みであると述べている。2002年10月に発表した「展望の共有―新しい道」という計画書は,認定プロセス改善事業から抽出されたものであり,医師を病院認定プロセスに引き込み,安全で質の高い医療提供のために医師を援助することによって,認定に対する医師の関心を高める戦略を進め,医師との面接を行っていることを紹介している。

 本書は,医療の安全確保において医師,看護師,薬剤師,技師などの協働やチームワークが重要としたうえで,「医師の役割」に焦点をあてている。具体的にチームリーダーとして医師が直接かかわるシステム不全や事故の予防戦略について6つの警鐘事象を詳述している。それらは,(1)術中・術後のエラーと合併症,(2)部位のまちがい,患者のまちがい,手技のまちがいによる手術,(3)誤薬,(4)治療の遅れ,(5)抑制による重篤な傷害や死亡,(6)自殺である。

 1995年からJCAHOは合計1650件の警鐘事象を検討しているが,その第1位は「自殺」(17.1%)であり,以下,「術中・術後合併症」(12.2%),誤薬(11.5%),部位まちがいの手術(11.2%)が上位を占めている。そして,治療の遅れ(5.3%),転倒・転落(5.0%)が次に続く。発生場所は,一般病院が62.6%を占め精神病院が13.6%であった。
 各警鐘事象について根本原因が同定されており,共通要因は,オリエンテーションと研修,コミュニケーション,施設で決められた手順の遵守,職員の配置と能力,アセスメント,能力査定と資格認定,監督管理などである。6つの警鐘事象ごとに「事例」が記述されていて臨場感をもたらしている。

 原題である“The Physician’s Promise:Protecting Patients from Harm”が示しているように,本書は患者を危害から守る「医師の約束」の表明であり,医師の関心を喚起しているが,病院管理者をはじめとする多くの関係者にとって示唆に富むものである。さらに,わが国の日本医療機能評価機構(JCQHC)とのベンチマーキングの実現可能性を含んでおり,刺激的である。

医療事故の原因はシステムにある
書評者: 高久 史麿 (自治医科大学・学長)
 相馬孝博氏の監訳,池田真理,上條優子,斉藤安希3氏の訳による『患者安全のシステムを創る―米国JCAHO推奨のノウハウ』が医学書院から刊行された。JCAHO(Joint Commission on Accreditation of Healthcare Organization)は,病院をはじめとするすべての医療関連施設を評価する米国の権威ある第三者機関である。そのJCAHOは最近,医療事故に特に注目し,医療事故を警鐘事象(essential event)として紹介,医療界に医療事故に関する警鐘を鳴らし続けてきた。これらの警鐘事象を丹念に調査分析し,その結果をまとめたのが本書である。

 本書の内容は,医療事故の現状を述べた「Introduction」から始まり,引き続いて(1)今日の医療安全において求められる医師の役割,(2)手術や術後のエラーと合併症から患者を守る,(3)部位間違い/患者間違い/手技間違い手術から患者を守る,(4)誤薬事故から患者を守る,(5)治療の遅れによる悪い結果から患者を守る,(6)身体拘束による重篤な傷害や死亡から患者を守る,(7)自殺から患者を守る,の7つの章によって構成され,さらに付録として,「安全と医療:エラー削減のための基準」の項目が付け加えられている。各章では数多くのニアミス例,警鐘事象の例が具体的な症例提示の形で簡潔かつわかりやすく紹介されており,筆者はそれらの症例を読んでいるとその事故現場に居合わせているような感じさえ持った。本書の中で一貫して主張されていることは,「医療事故は個人の過失というよりも,システムのミスである」という点で,各警鐘事象の例を参照しながら,そのような事故がどのようなシステムのミスによって起こったか,そのようなミスを起こさないようにするためにはどのような具体的な戦略が必要かについて詳しく述べられている。また随時補足資料の形でそのまとめが行われていることも本書の特徴であるといえよう。

 本書の中で強調されているもう1つのことは,医療安全への対策としての,病院管理者・医師のリーダーシップ,医療従事者の間のチームワーク・コミュニケーションの重要さである。また,管理者の責務として医療の現場に必要な数の医療従事者を配置することの重要さが繰り返し述べられている。わが国で医療安全の問題が取り上げられる場合,医療従事者の数や過労の問題が論じられることがほとんどない状況に対して筆者は以前から強い不満を持っていたが,本書ではその点が折に触れて述べられており,本書を通読してわが意を得たりという感じがしたことを付け加えたい。

 本書を通読して,この本は医療従事者は言うにおよばず,患者さんや家族,医療の安全に関心のあるマスコミの方々,さらには医療に関心のある一般のすべての方々にぜひ読んでいただきたい本であるということを痛感している。

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