H.pylori 発癌のエビデンス

もっと見る

H. pylori 感染は胃癌のプロモーターか、イニシエーターか。発癌のメカニズムはどこまで明らかにされたか。除菌療法は胃癌の予防に有効なのか。基礎と臨床の両面から現時点でのエビデンスを集め、日本における研究の到達点を示す。MALTリンパ腫、EBウイルスと胃癌、胆汁逆流と胃癌など、興味深いトピックスも収載。
編集 菅野 健太郎 / 榊 信廣
発行 2004年11月判型:B5頁:256
ISBN 978-4-260-10664-1
定価 9,900円 (本体9,000円+税)
  • 販売終了

お近くの取り扱い書店を探す

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。

  • 目次
  • 書評

開く

 序説 H. pylori 発癌のメカニズムと胃癌撲滅の道筋

I. 臨床的アプローチ
 1. H. pylori 感染性胃炎からみた胃癌のハイリスク像
 2. 一般住民におけるH. pylori 感染と胃発癌-久山町研究
 3. ペプシノゲンとH. pylori 感染胃癌
 4. 胃癌の高危険粘膜である萎縮性胃炎とH. pylori
 5. 胃癌リスクとしての鳥肌胃炎
 6. 皺襞肥大とH. pylori 感染胃癌
 7. H. pylori 発癌のinterventional study
  -胃癌内視鏡的粘膜切除後の胃癌再発予防
 8. H. pylori 発癌のinterventional study
  -5,000人のデータが示すもの
 9. H. pylori 除菌による胃癌の予防
 10. H. pylori 発癌のintervention study

II. 基礎的アプローチ
 11. 胃発癌の分子メカニズム-総説
 12. 胃発癌・進展の分子メカニズム
  -網羅的遺伝子発現解析による知見
 13. H. pylori 発癌の分子メカニズム-遺伝子メチル化
 14. H. pylori のvirulence factorによる培養細胞での細胞内伝達の異常
 15. H. pylori cag pathogenicity islandと胃癌
 16. 胃炎・胃癌シークエンスと遺伝子異常
 17. 腸上皮化生と胃癌
 18. 胃炎モデルとしてのH. pylori 感染スナネズミと胃発癌
 19. 動物実験モデルにおける胃発癌メカニズム(日本ザルも含む)
 20. スナネズミ発癌モデルにおける胃発癌メカニズムと除菌による発癌抑制
 21. H. pylori 関連胃癌の初期病理像
 22. H. pylori と胃型癌,腸型癌

III. 関連トピックス
 23. H. pylori とMALTリンパ腫-perspective
 24. H. pylori とMALTリンパ腫-基礎
 25. H. pylori とMALTリンパ腫
 26. EBウイルスと胃発癌のメカニズム
 27. EBウイルスと発癌の病理
 28. 胆汁逆流と胃発癌
 29. H. pylori と残胃の癌
 30. ゲノムの不安定性と胃癌
  (AP-PCR法によるゲノムのダメージの評価と胃癌の予後)

索引

開く

H. pylori 研究の最先端を多面的に紹介
書評者: 藤原 研司 (埼玉医大教授消化器・肝臓内科/日本消化器病学会理事長)
 本書こそは今の臨床医に求められる医学書であろう。テーマをわが国の重点課題に絞っている。そして,示唆に富む臨床現場の観察を国内外から幅広く取り上げ,疾患に関連する最先端の基礎研究を多面的に紹介し,最新のトピックスへと内容を展開させている。その構成は,臨床医である編集者の医療にかける真摯な情熱を伝えており,わが国から胃癌を撲滅しようとする呼びかけともとれる書である。

 高齢社会では,悪性腫瘍の発生は避けられない。わが国における胃癌による訂正死亡率は,臨床医の長年にわたる努力により,50年程前から徐々に減少しつつあるとはいえ,未だに死因第1位である悪性腫瘍の首座の1つを占めている。H. pylori が発見されてから20年余りが経ち,多くの研究成果が蓄積されてきた。今やH. pylori 菌は胃癌発生や進展にどのようにかかわるのかを見極め,その防止に向けて,新たな方策を確立することが問われている時代を迎えている。

 科学が新たな発展を遂げるには,研究者の目的を達成させようとする意欲と,試行錯誤を重ねながら偶然を見逃さない洞察力,視野の広さが要件となることは言うまでもない。しかし一方で,科学的認識には,観察と思考,経験性と合理性,帰納と演繹の二面性があり,そのため現代の科学では,絶対性はなく,蓋然的,確率的,統計的なものとして,その因果法則を立てざるを得ないとされている。

 医学では,この点において,新たな知を創出する担い手は臨床医に他ならない。臨床医こそは複雑多様な病態の全体像が見えている唯一の観察者であり,問題解決に悩むほどにブレークスルーとなるアイデアの閃きも湧き得るのである。そのための知の醸成には,臨床と基礎医学にかかわる情報の共有が基本となるが,これを臨床医は,多忙な日常診療にあっても,効果的,効率的に習得しなければならない。

 本書は,まさしくこれら医学・医療の特徴を捉えて臨床医に提供されたものであり,これからの医学書のあり方の見本としても高く評価される良書である。
H. pylori と胃がんの関係を強く示唆
書評者: 杉村 隆 (国立がんセンター名誉総長)
 ヘリコバクター・ピロリ菌の胃粘膜感染と胃がん発生は,色々な方向からの研究成果と情報分析により,きわめて強い関係があることは間違いない。

 菅野健太郎博士と榊信廣博士の編集による『H. pylori 発癌のエビデンス』は,この重大な問題をきわめて正確に記載している。それぞれ固有の業績をあげられた方が執筆している。これ以上の人選はない。

 本書は三部に分かれている。すなわち,I.臨床的アプローチ,II.基礎的アプローチ,III.関連トピックス,である。特筆すべきは,各分担者がわが国であげた,特長あり,得手とする業績を書いているために,全体として臨場感のある印象を与え,単に医学のある部分の教科書的記述でなく,最近の発展をダイナミックに感じ取ることができる。医学書としてもユニークなものになっている。

 内容はH. pylori と胃がんの関係が強く示唆され,当然とられるべき対策に討論が及んでいる。スナネズミが感染実験動物として日本で発見されたので,臨床と基礎が融合することができた。関連トピックスとして,MALTリンパ腫についても十分な記載がある。

 胃がんの遺伝子変化はepigeneticなものを含めて多様であり,統一的なシェーマの提出には慎重な方がよいかもしれない。本書の最後にAP―PCR法が紹介されている。つい最近もAP―PCR法の開発にかかわったManuel Perucho博士(The Burnham Institute, USA)のセミナーを聞いたが,大腸がんの発生に重要な役割を果たしているAPC,RAS,p53の遺伝子について,これら3つが独立した事象と仮定すると,同時にこの3つの変異を持っているものは,計算上は大腸がん全体の9/31×8/34×12/28=約3%を占めているにすぎない。

 東南アジア等のH. pylori 感染と胃がん,さらに感染ルートについて解析の詳細等が加えられると,一層充実したものになる。

 本書の読者は多いと思う。現時点で満点に近く,胃がんにかかわるすべての臨床,基礎学者,また予防健診に携わる人々に,ぜひ御一読をお勧めする。

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。