知っておきたい医療監視・指導の実際
指導にあたっている著者の実態報告
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医療監視や指導とは,どういう法的根拠に基づくのか? 仕組みや内容,実態や留意点などは必ずしも詳らかでなく,それゆえ,行政による病医院のチェックには関心が高い。本書は,著者が実際に指導にあたる立場からみた,監視・指導の実際と医療機関の対応について事例を挙げて書かれ,今まで知りえなかった実態が詳細に把握できる。
著 | 櫻山 豊夫 |
---|---|
発行 | 2004年11月判型:A5頁:240 |
ISBN | 978-4-260-24081-9 |
定価 | 3,520円 (本体3,200円+税) |
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- 書評
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開く
はじめに
第1章 医療監視の実際
第2章 事例からみた苦情対応
第3章 事例からみた医療事故の防止
第4章 事例からみた院内感染の実際
第5章 医療関連各法が問題となった事例
第6章 良質な医療の実現のために
索引
第1章 医療監視の実際
第2章 事例からみた苦情対応
第3章 事例からみた医療事故の防止
第4章 事例からみた院内感染の実際
第5章 医療関連各法が問題となった事例
第6章 良質な医療の実現のために
索引
書評
開く
医療の担い手と医療の受け手との信頼を創造するために
書評者: 安藤 高夫 (東京都医師会理事)
現在,国民が医療機関に求めるものは,安全かつ安心な医療,質の高い医療,わかりやすい医療の3つであると思う。とりわけ,毎日のように医療事故や感染症の記事が新聞や報道で流されることをみても,国民が安全かつ安心な医療に対する問題に最も関心があることがうかがえる。
本書は,医学書院の雑誌「病院」で2001年1月から2004年3月まで連載された「事例による医療監視・指導」をまとめたもので,私も毎号楽しみにしていた記事であり,常に指針として参考にしてきた。著者が,高まる医療不信の中で,どうすれば医療事故を防止でき,また,医療を提供する側と医療を受ける側との信頼の創造ができるか,そして,そのような医療監視の方法を,日々模索してきたことを感じとれる書である。
著者の現場を大切にした患者および医療提供者側に立った考え,情報力,分析力,判断力,人間力,改善に対する情熱に深い感銘を受けた。
また,本書は,病院内部で自主点検できることが特徴で,それをチーム医療として行うことによって,病院全体の医療の質を上げることもでき,職員のモチベーション,さらには職員の一体感が増し,組織作りの一助にもなると思う。病院医療機能評価を受けるプロセスと似ているが,医療監視も含めペナルティではなく,安全予防の方法を標準化して,質の改善の取り組みを医療機関と一緒に担っていこうという,強い信念に基づいていることが誠に素晴らしいと感じた。
著者は,東京都が東京都医師会および東京都病院協会の協力のもと,医療安全推進委員会を設置した際の中心的役割を果たした医師で,現役の東京都福祉保健局の参事である。1996年のO―157流行に際しては,結核感染症課長として陣頭指揮にあたり,また,わが国ではじめての結核治療にDOTSを導入した。医務指導課長時代には,医療事故や院内感染の防止を行った。その後,東京都に患者の声相談窓口を設置し,2004年には,『立ち入り検査ハンドブック』も作成している。
本書は,医療機関の管理者にぜひ読んでもらいたい。医療監視を行うときのポイントを非常にわかりやすく,実際に起こった事例を通し解説している。読者にも記憶に残る多くの事例があるだろう。各章の最後に書かれた今回の事例から学びたいポイントの中に,非常に重要なことがまとめてあり,それだけを院内の標語として利用しても十分なほどである。
第1章「医療監視の実際」では,医療監視の目的と医療法の考え方,そして,立ち入り検査の留意点,また,緊急立ち入り検査に関しても述べている。行政を担当するものは,「医療の理念」に基づいて「良質かつ適切な医療を提供する体制が確保されるように努める」とされ,良質かつ適切な医療が提供されることを目的として医療監視を行っていると説いている。
第2章「事例から見た苦情対応」の中には,院内感染の事例とその対応,院内感染が疑われたときの病院の対応,さらには,インフォームド・コンセント,セカンドオピニオン,医療過誤を疑う相談事例までとりあげられている。
第3章は,「事例から見た医療事故の防止」で,医療事故を防止するための方法,事故発生後の報告などが述べられている。医療事故の防止も「あたりまえのことを丁寧に」と述べている。医療事故が発生した場合のクライシスマネジメント,あるいは,クライシスコミュニケーションについても組織管理が重要であると語る。院長は名誉職ではなく,自ら院内を巡回し,カンファレンスに参加することが大切と説いている。
第4章「事例から見た院内感染の実際」において,結核感染の防止,感染予防対策,管理体制,構造設備が言及されている。院内感染予防・防止の基本も「あたりまえのことを丁寧に」と述べている。東京都でも,『感染症マニュアル』(東京都新たな感染症対策委員会発刊)を作成している。東京都福祉保健局のホームページ上にも公開しており,必要に応じてダウンロードできる。また,都内の全病院,有床診療所に対して,『感染症マニュアル』と自己点検チェックリストを配布している。
そして第5章「医療関連各法が問題となった事例」においては,医療機器,医療法21条違反,診療録などの改ざん,医療の停止,無診察医療の禁止があげられる。
最後に著者は,医療監視は,医療法の医療提供の理念に基づき,医療の担い手と医療を受ける側との信頼関係がつくられ,良質かつ適切な医療が提供されることを目的として行われると結んでいる。法令遵守,コンプライアンスが叫ばれている現在,『感染症マニュアル』,『立ち入り検査ハンドブック』と併用して活用し,病院の運営に役立てたい書である。
「患者中心の医療」実現のために医療監視は大切な役割を担う
書評者: 村嶋 幸代 (東大教授・地域看護学)
医療監視というと,「自分とは遠い世界だ」と思う人が多いのではないだろうか。本書は,そんな医療監視が,実は通常,医療に携わっている人間にとってはもちろんのこと,一般社会人にとっても大変身近な存在であること,自分を守ってくれる大事な仕組みであることを気づかせてくれる本である。
著者は,現在,東京都保健福祉局医療政策部参事として,医療監視の第一線に従事する医師である。(おそらく業務の中で実際に携わったであろう)事例が豊富に出てきて,読むものを飽きさせない。なかには,新聞報道で見たことがある(ように思ってしまう)事例もあり,それらの事件の原因と事後処理,再発防止に向けての要点や具体的取り組みがていねいに,しかも要領よく解説されている。思わずわが身を振り返り,自己点検して,身を正したくなるような本でもある。
語り口はソフトで,このように医療監視が実施されるのだなあとわかってくる。例えば,「苦情が寄せられたとき,まずは病院の事務長に事情を説明し,お話を聞きます。必要があれば(念のため),緊急の立ち入り検査を実施します。最初に病院側の責任者・関係者から説明を受け,その後,病棟で看護師や医師の動きを拝見します。実際の動きを見た結果,○○の点が問題だと考え,指導しました」と本文中にある。これを読むと,医療監視が,医療従事者の主体性・自尊心を大事にしながらソフトに,しかし,科学的に的確に,盲点を見逃すことなく,実施されていくことがわかる。底に流れるのは,「患者中心の医療を実現したい」という著者の想いであり,医療監視はその点で大切な役目を担っていることが,よく伝わってくる。
「第1章 医療監視の実際」では,医療監視の目的と医療法の考え方,立ち入り検査と実査の留意点が述べられており,「第2章 事例から見た苦情対応」では,院内感染の事例,院内感染が疑われたときや苦情への病院の対応,などが解説されている。「第3章事例から見た医療事故の防止」では,医療事故をめぐる指導・発生後の留意点と防止上の注意,薬剤過剰投与の事例と院内巡回による情報把握の重要性が記述され,どのようにしたら医療事故を防ぐことができるのかを考える上で,手がかりになる事例が多数示され,学ぶことが多い。また,「第4章 事例から見た院内感染の実際」では,結核・セラチアによる院内感染,院内感染立ち入り検査の結果も,事例を通して解説されている。さらに「第5章 医療関連各法が問題となった事例」では,薬事法関連の違反が2題,医師法21条の届け出義務違反になってしまった「異状死」の例,医業の停止になってしまった例など,基本的でありながら,関係者の理解不足のために大事に至ってしまった事例が提示され,未然に防ぐための対策が解説されている。最終章では,都立病院の患者権利章典が紹介されるとともに,医療監視が「医療の担い手と受ける側との信頼関係が作られ,良質で適切な医療が提供されることを目的に実施される」ことが,しっかりと述べられている。
「医療監視」という一見厳めしい事柄が,事例を通してわかりやすく解説されており,楽しく読みながら,医療を行う側,受ける側の双方にとって大事なポイントを学ぶことができる。
本書は,元々は雑誌「病院」(医学書院)で「事例による医療監視・指導」として連載されたものが基盤になっている。各章末には,「今回の事例から学びたいポイント」が要領よく纏められ,理解しやすい。医療関係者,特に,医療安全・感染問題にかかわる方だけでなく,病棟や外来で働く看護師,医師,薬剤師などの医療関係者,医療の質に疑問や関心を持つ多くの方々に,ぜひとも手にとって読んでいただきたい本である。
医療機関の管理上の問題点や事故に至った経緯などを具体的に示す
書評者: 佐藤 牧人 (仙台市健康福祉局参事兼青葉保健所長)
今ほど医療機関が医療行為の安全性の確保や院内感染防止対策に真剣に取り組んでいる時代はないと言っても過言ではない。現場の管理者はもちろん医療スタッフ全員が,当たり前のことをていねいに取り組みながら相当の工夫と努力を払っている。しかし,残念ながら事故や院内感染事例は後を絶たず,患者からの苦情やマスコミへの対応に苦慮する状況がみられる。
一方,保健所・行政は長年,医療法に基づく病院の監視(立入検査)業務を行ってきた。ともすると形式的な監視にとどまりがちだった立入検査は,この数年,反省を込めて各自治体で急速に見直しが進められており,本来の目的である良質かつ適切な医療の提供体制の構築をめざした検査のあり方が模索されている。
本書は,長年,医療監視・指導に従事し,また患者中心の東京発医療改革の中核を担って活躍中の著者が,豊富な自験例に基づいて書き下ろしたものである。医療安全や院内感染防止対策に腐心する管理者には適切な管理のための新たな視点を提供し,立入検査に従事する保健所・行政の職員にはきわめて実際的なチェックの要諦を示してくれる。まさに,非常にタイムリーな出版である。
本書はまず,とかく厳めしく受け取られがちな医療監視のねらいがどういうものであるのか,また,どうあるべきなのかを医療法の理念に立って,大変やさしくわかりやすい言葉で教えてくれる。私は著者とともに医療機関への立入検査がいかにあるべきかの調査研究を進めてきた間柄であるが,著者は「立入検査を受ける病院の向こう側には健康な暮らしと安心できる医療を求める患者,住民がいる」という信念の持ち主である。立入検査は医療機関の欠点のあら探しではなく,患者,住民にとって安心できる良質な医療を確保するための医療機関と保健所・行政の協働作業なのである。このことは医療機関と行政職員の双方で共有していただきたい大切な姿勢である。
本書の特徴は,数多くの事例を通じて医療機関の管理上の問題点や事故に至ってしまった経緯などを具体的かつていねいに示しているところにある。各事例の終わりには学ぶべきポイントが簡潔に示されており,非常にわかりやすい。口語調で書かれた文体は,著者と一緒に病院に出かけて検査をしているような臨場感を抱かせるが,行間に医療機関を支援しようとする著者の温かいまなざしと豊かな包容力が感じられる。全体にソフトな語り口であるが,医療法の理念を医療監視を通じて具現化したいという著者の強い信念が見てとれる。
立入検査で監視指導する行政側が手の内をみせることは,従来あまりなされてこなかったことである。しかし検査のルールを透明化し,その目的を医療機関と共有することは,結果として,患者や住民にとって好ましい医療が育つことになり,著者が本書に込めたねらいもそこにある。医療監視員はじめ保健所・行政の職員にとっては,本書は,立入検査の実際がわかりやすく提示されている必読のテキストである。
一方,病院管理職の方々にとっては,本書を通して立入検査の趣旨を理解し,数多くの事例を通して,内部からの視点だけでは気づきにくい,医療安全や院内感染防止の新たな管理のポイントが身に付くと思われる。積極的に医療安全を進めようとしている病院の管理者,そして業務の質の向上をめざす保健所・行政職員の双方にぜひ読んでもらいたい,今の時代が求めているテキストである。
書評者: 安藤 高夫 (東京都医師会理事)
現在,国民が医療機関に求めるものは,安全かつ安心な医療,質の高い医療,わかりやすい医療の3つであると思う。とりわけ,毎日のように医療事故や感染症の記事が新聞や報道で流されることをみても,国民が安全かつ安心な医療に対する問題に最も関心があることがうかがえる。
本書は,医学書院の雑誌「病院」で2001年1月から2004年3月まで連載された「事例による医療監視・指導」をまとめたもので,私も毎号楽しみにしていた記事であり,常に指針として参考にしてきた。著者が,高まる医療不信の中で,どうすれば医療事故を防止でき,また,医療を提供する側と医療を受ける側との信頼の創造ができるか,そして,そのような医療監視の方法を,日々模索してきたことを感じとれる書である。
著者の現場を大切にした患者および医療提供者側に立った考え,情報力,分析力,判断力,人間力,改善に対する情熱に深い感銘を受けた。
また,本書は,病院内部で自主点検できることが特徴で,それをチーム医療として行うことによって,病院全体の医療の質を上げることもでき,職員のモチベーション,さらには職員の一体感が増し,組織作りの一助にもなると思う。病院医療機能評価を受けるプロセスと似ているが,医療監視も含めペナルティではなく,安全予防の方法を標準化して,質の改善の取り組みを医療機関と一緒に担っていこうという,強い信念に基づいていることが誠に素晴らしいと感じた。
著者は,東京都が東京都医師会および東京都病院協会の協力のもと,医療安全推進委員会を設置した際の中心的役割を果たした医師で,現役の東京都福祉保健局の参事である。1996年のO―157流行に際しては,結核感染症課長として陣頭指揮にあたり,また,わが国ではじめての結核治療にDOTSを導入した。医務指導課長時代には,医療事故や院内感染の防止を行った。その後,東京都に患者の声相談窓口を設置し,2004年には,『立ち入り検査ハンドブック』も作成している。
本書は,医療機関の管理者にぜひ読んでもらいたい。医療監視を行うときのポイントを非常にわかりやすく,実際に起こった事例を通し解説している。読者にも記憶に残る多くの事例があるだろう。各章の最後に書かれた今回の事例から学びたいポイントの中に,非常に重要なことがまとめてあり,それだけを院内の標語として利用しても十分なほどである。
第1章「医療監視の実際」では,医療監視の目的と医療法の考え方,そして,立ち入り検査の留意点,また,緊急立ち入り検査に関しても述べている。行政を担当するものは,「医療の理念」に基づいて「良質かつ適切な医療を提供する体制が確保されるように努める」とされ,良質かつ適切な医療が提供されることを目的として医療監視を行っていると説いている。
第2章「事例から見た苦情対応」の中には,院内感染の事例とその対応,院内感染が疑われたときの病院の対応,さらには,インフォームド・コンセント,セカンドオピニオン,医療過誤を疑う相談事例までとりあげられている。
第3章は,「事例から見た医療事故の防止」で,医療事故を防止するための方法,事故発生後の報告などが述べられている。医療事故の防止も「あたりまえのことを丁寧に」と述べている。医療事故が発生した場合のクライシスマネジメント,あるいは,クライシスコミュニケーションについても組織管理が重要であると語る。院長は名誉職ではなく,自ら院内を巡回し,カンファレンスに参加することが大切と説いている。
第4章「事例から見た院内感染の実際」において,結核感染の防止,感染予防対策,管理体制,構造設備が言及されている。院内感染予防・防止の基本も「あたりまえのことを丁寧に」と述べている。東京都でも,『感染症マニュアル』(東京都新たな感染症対策委員会発刊)を作成している。東京都福祉保健局のホームページ上にも公開しており,必要に応じてダウンロードできる。また,都内の全病院,有床診療所に対して,『感染症マニュアル』と自己点検チェックリストを配布している。
そして第5章「医療関連各法が問題となった事例」においては,医療機器,医療法21条違反,診療録などの改ざん,医療の停止,無診察医療の禁止があげられる。
最後に著者は,医療監視は,医療法の医療提供の理念に基づき,医療の担い手と医療を受ける側との信頼関係がつくられ,良質かつ適切な医療が提供されることを目的として行われると結んでいる。法令遵守,コンプライアンスが叫ばれている現在,『感染症マニュアル』,『立ち入り検査ハンドブック』と併用して活用し,病院の運営に役立てたい書である。
「患者中心の医療」実現のために医療監視は大切な役割を担う
書評者: 村嶋 幸代 (東大教授・地域看護学)
医療監視というと,「自分とは遠い世界だ」と思う人が多いのではないだろうか。本書は,そんな医療監視が,実は通常,医療に携わっている人間にとってはもちろんのこと,一般社会人にとっても大変身近な存在であること,自分を守ってくれる大事な仕組みであることを気づかせてくれる本である。
著者は,現在,東京都保健福祉局医療政策部参事として,医療監視の第一線に従事する医師である。(おそらく業務の中で実際に携わったであろう)事例が豊富に出てきて,読むものを飽きさせない。なかには,新聞報道で見たことがある(ように思ってしまう)事例もあり,それらの事件の原因と事後処理,再発防止に向けての要点や具体的取り組みがていねいに,しかも要領よく解説されている。思わずわが身を振り返り,自己点検して,身を正したくなるような本でもある。
語り口はソフトで,このように医療監視が実施されるのだなあとわかってくる。例えば,「苦情が寄せられたとき,まずは病院の事務長に事情を説明し,お話を聞きます。必要があれば(念のため),緊急の立ち入り検査を実施します。最初に病院側の責任者・関係者から説明を受け,その後,病棟で看護師や医師の動きを拝見します。実際の動きを見た結果,○○の点が問題だと考え,指導しました」と本文中にある。これを読むと,医療監視が,医療従事者の主体性・自尊心を大事にしながらソフトに,しかし,科学的に的確に,盲点を見逃すことなく,実施されていくことがわかる。底に流れるのは,「患者中心の医療を実現したい」という著者の想いであり,医療監視はその点で大切な役目を担っていることが,よく伝わってくる。
「第1章 医療監視の実際」では,医療監視の目的と医療法の考え方,立ち入り検査と実査の留意点が述べられており,「第2章 事例から見た苦情対応」では,院内感染の事例,院内感染が疑われたときや苦情への病院の対応,などが解説されている。「第3章事例から見た医療事故の防止」では,医療事故をめぐる指導・発生後の留意点と防止上の注意,薬剤過剰投与の事例と院内巡回による情報把握の重要性が記述され,どのようにしたら医療事故を防ぐことができるのかを考える上で,手がかりになる事例が多数示され,学ぶことが多い。また,「第4章 事例から見た院内感染の実際」では,結核・セラチアによる院内感染,院内感染立ち入り検査の結果も,事例を通して解説されている。さらに「第5章 医療関連各法が問題となった事例」では,薬事法関連の違反が2題,医師法21条の届け出義務違反になってしまった「異状死」の例,医業の停止になってしまった例など,基本的でありながら,関係者の理解不足のために大事に至ってしまった事例が提示され,未然に防ぐための対策が解説されている。最終章では,都立病院の患者権利章典が紹介されるとともに,医療監視が「医療の担い手と受ける側との信頼関係が作られ,良質で適切な医療が提供されることを目的に実施される」ことが,しっかりと述べられている。
「医療監視」という一見厳めしい事柄が,事例を通してわかりやすく解説されており,楽しく読みながら,医療を行う側,受ける側の双方にとって大事なポイントを学ぶことができる。
本書は,元々は雑誌「病院」(医学書院)で「事例による医療監視・指導」として連載されたものが基盤になっている。各章末には,「今回の事例から学びたいポイント」が要領よく纏められ,理解しやすい。医療関係者,特に,医療安全・感染問題にかかわる方だけでなく,病棟や外来で働く看護師,医師,薬剤師などの医療関係者,医療の質に疑問や関心を持つ多くの方々に,ぜひとも手にとって読んでいただきたい本である。
医療機関の管理上の問題点や事故に至った経緯などを具体的に示す
書評者: 佐藤 牧人 (仙台市健康福祉局参事兼青葉保健所長)
今ほど医療機関が医療行為の安全性の確保や院内感染防止対策に真剣に取り組んでいる時代はないと言っても過言ではない。現場の管理者はもちろん医療スタッフ全員が,当たり前のことをていねいに取り組みながら相当の工夫と努力を払っている。しかし,残念ながら事故や院内感染事例は後を絶たず,患者からの苦情やマスコミへの対応に苦慮する状況がみられる。
一方,保健所・行政は長年,医療法に基づく病院の監視(立入検査)業務を行ってきた。ともすると形式的な監視にとどまりがちだった立入検査は,この数年,反省を込めて各自治体で急速に見直しが進められており,本来の目的である良質かつ適切な医療の提供体制の構築をめざした検査のあり方が模索されている。
本書は,長年,医療監視・指導に従事し,また患者中心の東京発医療改革の中核を担って活躍中の著者が,豊富な自験例に基づいて書き下ろしたものである。医療安全や院内感染防止対策に腐心する管理者には適切な管理のための新たな視点を提供し,立入検査に従事する保健所・行政の職員にはきわめて実際的なチェックの要諦を示してくれる。まさに,非常にタイムリーな出版である。
本書はまず,とかく厳めしく受け取られがちな医療監視のねらいがどういうものであるのか,また,どうあるべきなのかを医療法の理念に立って,大変やさしくわかりやすい言葉で教えてくれる。私は著者とともに医療機関への立入検査がいかにあるべきかの調査研究を進めてきた間柄であるが,著者は「立入検査を受ける病院の向こう側には健康な暮らしと安心できる医療を求める患者,住民がいる」という信念の持ち主である。立入検査は医療機関の欠点のあら探しではなく,患者,住民にとって安心できる良質な医療を確保するための医療機関と保健所・行政の協働作業なのである。このことは医療機関と行政職員の双方で共有していただきたい大切な姿勢である。
本書の特徴は,数多くの事例を通じて医療機関の管理上の問題点や事故に至ってしまった経緯などを具体的かつていねいに示しているところにある。各事例の終わりには学ぶべきポイントが簡潔に示されており,非常にわかりやすい。口語調で書かれた文体は,著者と一緒に病院に出かけて検査をしているような臨場感を抱かせるが,行間に医療機関を支援しようとする著者の温かいまなざしと豊かな包容力が感じられる。全体にソフトな語り口であるが,医療法の理念を医療監視を通じて具現化したいという著者の強い信念が見てとれる。
立入検査で監視指導する行政側が手の内をみせることは,従来あまりなされてこなかったことである。しかし検査のルールを透明化し,その目的を医療機関と共有することは,結果として,患者や住民にとって好ましい医療が育つことになり,著者が本書に込めたねらいもそこにある。医療監視員はじめ保健所・行政の職員にとっては,本書は,立入検査の実際がわかりやすく提示されている必読のテキストである。
一方,病院管理職の方々にとっては,本書を通して立入検査の趣旨を理解し,数多くの事例を通して,内部からの視点だけでは気づきにくい,医療安全や院内感染防止の新たな管理のポイントが身に付くと思われる。積極的に医療安全を進めようとしている病院の管理者,そして業務の質の向上をめざす保健所・行政職員の双方にぜひ読んでもらいたい,今の時代が求めているテキストである。
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