PCIを成功させるためにスタッフ必読の書
書評者:南都 伸介(関西労災病院・循環器科部長)
脳外科医のチャーリー・ウイルソン先生は,米国でも指折りの腕の立つ脳神経外科医である(文献1)。彼は2,987症例の下垂体腫瘍の手術実績があり,他の脳外科医が数時間必要とする手術を実に25分でこなすそうである。そんな彼は,手術室スタッフとして,決して新人の看護師を容認しない。彼曰く,「手術は華麗なリズムが必要であり,慣れないスタッフは,ミスをするわけではないが,手技の流れを阻害する」。彼の一挙一動をよく把握しているスタッフがいてこそ,現在の彼の実績が存在するのである。
PCIの手術成績は何も手術者の腕だけに依存するものではない。周りのスタッフの援助が限りなく大きいのである。術者が“今何をしているのか,今何を考えているのか,次に何をするのか”をPCIスタッフが把握しているのとそうでないのとでは,術者へのストレスが大きく異なる。術者がすべてを説明しながら行うのであれば,手技の流れを阻害するだけでなく,集中力を欠くことになる。特に,ややこしい局面では,周囲がPCIに対して十分に深い理解を持っていることは,術者に対しての大きな援護射撃となる。
高いPCIの成功率を維持するためには,PCIスタッフが本書に述べられているようなカテーテル技術の知識を十分に理解し熟知していることが大切である。本書はコメディカルのみならず,循環器やPCI初心者の医師諸君にも目を通していただきたいほど,よくまとまっている。冠動脈撮影アンギュレーション,フレーミング操作の項などは,そば立ちをする際には必読の項目であろう。
本を開いて最初に気がついたのは,いわゆる医学書は,説明文が多すぎて冗長になりがちであるのに対し,本書は内容が大変簡潔にそして必要な事項がもれなく記述されていることである。また,コメディカル用に書かれた書物でも,著者は医師であることが多いが,本書は現場で齋藤先生の手技を直接支えている(元)湘南鎌倉病院のスタッフが直接執筆しているため,必要な事柄がスタッフの立場から要領よくまとめられている。英語には必ずカタカナ語がつけてあり,付録に英語の用語集までが用意されていて,英語と見ると頭が痛くなる御仁にも本当に親切に仕上がっている。
本書でよく勉強していただけば,明日からカテーテル室スタッフとして,十年選手並みの大活躍をしていただけること間違いなしである。
文献1
Malcolm Gladwell. The physical genius. The New Yorker, 2: 57―65, 1999