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外科医のための局所解剖学序説

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局所解剖の熟知が、優れた外科医の第一条件と言っても過言ではない。いかなる手術においても、最も多くの時間を費やすのが剥離操作である。これを的確に迅速に行うために、隙間(層)の観点から局所解剖を説き起こしたのが本書。オリジナルイラストで立体的に描かれた臓器、脈管、神経、それらを包む膜の関係が理解できる。
佐々木 克典
発行 2006年02月判型:A4頁:288
ISBN 978-4-260-00032-1
定価 13,200円 (本体12,000円+税)
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  • 目次
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 序
 本書で用いた主な解剖学用語・一般的欧文表記
1. 頸部
 1. 体表解剖
 2. 発生からみた頸部の構造
 3. 下顎角の裏側(顎下三角の後方)
 4. 奇形からみた頸部構造の理解
 5. 甲状腺
 6. 上皮小体(副甲状腺)
 7. 咽頭,頸部食道
 8. 胸郭上口
2. 胸部
 1. 体表解剖
 2. 縦隔の構造
 3. 胸骨柄の裏側の構造
 4. 内胸動脈
 5. 右側からみた胸骨柄裏側の構造
 6. 気管支動脈
 7. 気管分岐部の構造
 8. 第2肋間のレベル
 9. 心臓の構造
 10. 心臓内腔の構造
 11. 肺門の構造
 12. 横断面,縦断面からみた胸部の構造
3. 腹部
 1. 体表解剖
 2. 噴門部
 3. 肝門部
 4. 肺区域について
 5. 膵臓
 6. 腎臓
 7. 副腎-腹腔鏡下手術に必要な解剖
 8. 腹部の横断像,縦断像(CT・MRI解剖)
4. 骨盤部
 1. 体表解剖
 2. 骨盤部の隔膜
 3. 女性骨盤
 4. 男性骨盤
5. 鼠径部,下肢
 1. 体表解剖
 2. 鼠径部
6. 上肢
 1. 体表解剖
 2. 腋窩
7. 頭部,顔面
 1. 体表解剖
 2. 海綿静脈洞
参考文献
索引

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臨床研修医や若き外科医の座右に置くに相応しい良書
書評者: 宮野 武 (順大名誉教授/順大練馬病院長)
 外科医は解剖を熟知していなければならない。よい外科医は解剖を熟知したうえで,はじめてよい手術を行い―新たな工夫を加えて,よりよい新しい術式を考案する。

 一方外科医の多くが,外科医になりたての頃,学生時代に学んだ解剖の知識だけでは不十分であることを自覚し,もう一度自分がその後修めようとする専門外科領域の解剖学を学び直したいとの思いに駆られる。本書はそのような外科医の要望に応えるべく,外科医の視点に立って局所解剖が詳述されている。

 本書の著者,佐々木克典教授は弘前大学医学部を卒業後,当時は新しい外科領域として脚光を浴びていた小児外科医を志し,順天堂大学医学部小児外科学講座の大学院に入学された。筆者は当時の主任教授駿河敬次郎先生のもとで佐々木先生と兄弟弟子であったが,ともに駿河教授が最も力を入れて取り組んでいた小児肝胆道外科の臨床と研究に没頭した。佐々木先生の学究肌は臨床の中にあって抜きん出たものがあった。

 先生は大学院を卒業後,そのまま臨床家として患者さんの側で人生を送るよりも,「外科医としての経験の中から抱いた多くの基礎医学の疑問を解決することに生き甲斐を感ずる」と,ある日,私に述べられて解剖学に転向された。その話を打ち明けられたときは正直ビックリしたが,気概に打たれ快く送り出したことを鮮明に覚えている。小児外科は,生まれつき解剖学的異常を有するいわゆる先天的形成異常児を手術により治療する。したがって,小児外科医は手術に際し当然正常の解剖を熟知したうえで,いかなる先天的形成異常に遭遇しても動じない知識と決断力を要求される。佐々木教授にとって当時からの大きな疑問の一つが外科的解剖学(surgical anatomy)であったわけである。

 本書は,その佐々木教授が若き日の小児外科医としての経験に基づき,解剖学者に転じられた後,外科医の視点から解剖学を究めるという男のロマンを追い求めた,膨大な研究成果と知識を集大成したものとも言える。すなわち,佐々木教授が外科医としてやり残されたものを,基礎解剖学者の目で徹底的に追求されたものである。まさに臨床研修医や若き外科医が座右に置くに相応しいものであり,外科医の先輩として強く推薦したい。

臨床に役立つ局所解剖学の誕生―新しい時代の医学生・医師・教師のための解剖学書
書評者: 岡村 均 (神戸大教授・分子脳科学)
 本書は,日本で初めての,臨床の役に立つ本格的な「局所解剖学」の書である。臨床外科医の経験を持たれる解剖学者の著者が,臨床に役に立つ解剖学実習とは何かという疑問に正面から取り組まれた,実にオリジナルな書であり,目から鱗が落ちる記述が満載され,解剖学を学ぶ学生や教師にとっても,外科臨床に携わる医師にとっても非常に有用な本であると言える。私は,解剖学教育に長らく携わって来た者として,これから医師になるために人体解剖学実習を行っている多くの医学生に,特にこの本を推薦したい。

 いったい解剖学とはどんな学問であり,解剖学実習とは何を目的にするのであろうか? 解剖学は体の形態と構造から生体の秘密を探ろうとする学問である。その手法は,見えるものすべてに名前をつけ,形を認知することから始まる。構造を明らかにするために,解剖学〔anatomia(anaすっかり,tomia切る)〕の名のごとく,外部のみではなく,内部を切り分けて研究し,名前をつける。医学部で行われる人体解剖学実習の目的は,言うまでもなく医学の基礎知識としての解剖学の取得であるが,実は,日本においては,先に述べた解剖学の本来の学問の意味の追体験として行われている。これは,何が医学的に重要かの知識を持ち合わせていない学生に対し,最初に行われる体系的な専門教育としてやむを得ない措置であるが,医学生にすれば,名前を覚えることはむやみに漢字や英単語を覚えることのように無味乾燥なものとなり,その学習意欲が削がれることが往々にある。

 解剖学は名前をつけるだけの,死んだ時代遅れの学問なのであろうか?歴史を紐解くと,人体解剖学は,近代の人間精神の確立に最も貢献があった輝かしい学問であることがわかる。「ヒトが筋肉,骨,内臓,神経からできている」という解剖学の発見は,ルネサンスにおける最大の成果の一つであり,中世の信仰から人間を解放するという社会や人間精神に及ぼしたインパクトは,現在の分子生物学の比ではなく,はるかに大きい。しかし,16世紀に人体解剖学が確立してからすでに400年以上にもなり,人体理解のための基礎学問としての重要性は失われてはいないものの,如何せん時代の流れは大きい。19世紀以降,相次いで,生理学,微生物学,病理学,生化学が勃興し,20世紀後半には,生物を分子レベルで記載する分子生物学が爆発的に進展し,医学・生物学を塗り替えた。ここに至り,科学的思考は他の学問でも代替可能なものとなり,解剖学の存在意義を,より実用的なものに求めるようになったのは当然の推移であった。

 これに対応し,米国では,臨床医学にとって必要な,「実用的な解剖学」が比較的早く要求されるようになった。すなわち「臨床解剖学」の成立であり,臨床的に重要なことを理解するための基礎知識を得るために解剖学があるという認識である。この動きは数十年前からあったが,不思議なことに,日本では「臨床解剖学」として,本格的に解剖学を再構築する試みは一般化されず,解剖学教育に「臨床的に重要なもの」を取り入れ,その分,従来の教育を削るといういささか場当たり的とも言える対応で対処されてきた。

 この解剖学書は,臨床医学を見据えた本邦初の本格的な局所解剖学書であり,このような日本の現状には大変有用な書である。本書では,臨床的(特に外科学)に重要な点は,非常に詳しく,細かい所見も載っている。多数の収録された図はほとんど著者のオリジナルで,的確に描出されており,読者は読んでいるうちに,あたかも心臓の構造を手にとって見ているような気にさせる。また,著者は,「タイムクリップ」の欄を設け,ここで,解剖学の臓器に関する歴史や,その臓器に対する疾病の術式を考案した医師のエピソードを実に魅力的に記載している。その博覧強記には驚くべきものがあり,書物で名前を聞くだけの歴史的な人物に親近感を抱かせるもので,医学生にとっても興味深い。

 著者の佐々木克典氏は,外科医としての豊富な臨床経験の後,解剖学に向かわれ,主体的に解剖学の授業・実習に取り組まれている。出来上がったものは,米国の臨床解剖学書とは一味違った,型破りの日本の解剖学書である。本書は人体解剖学を臨床の目から再構築しようとする意思に貫かれた解剖学書であり,人体解剖学実習の臨床的意義を知るには必読の書であるといえる。難解な内容がわかりやすく解説され,興味深い話題が豊富に盛り込まれているので,人体解剖学実習を行っている医学部生だけでなく,解剖学教官が医学部その他の教育の場で人体解剖学の講義をする際に,学生に何が重要なのかを知らせるためにも,大いに役立つと思われる。もちろん,解剖学を再び学習したい外科医の要求に答える内容であることは言うまでもない。

外科医の視点から術式を加味した図を収載
書評者: 市川 厚 (横市大名誉教授)
 久々に解剖書を手にして,そのオリジナリテイーに満ちたユニークな内容に強い感銘を覚えた。著者は小生が横浜市立大学医学部に在職当時,順天堂大学小児外科で大学院博士課程を終えた後,横浜市大の解剖学講座に助手として入って来られた。当初から資料の豊富な当講座でマクロの解剖を存分に究めたいとの意図をもち,繁忙な講義と実習を終えた後,臨床解剖専用の解剖室で独り黙々と解剖に専念しておられたのを覚えている。

 各ページを埋める挿図は最終的にイラストレーターの手を借りたとはいえ,その原図は全て著者のオリジナルであり,三次元的な描画は各臓器の相互関係を「膜」とその間の「隙間」を中心に,手術術式をわかりやすく解説するものになっている。また同時に,随所に添付されているCT画像は,これらの挿図と対比することによって画像の解読を一層容易にしている。CT画像解析のための図譜は,これまでにも数多く見られるが,概して平面的な断面図または縦断図と対比して解説するものが多く,これほど手術術式を加味したユニークな挿図と対比掲載されたものはほとんど見当たらないように思われる。この点,若い外科医のみならず,ある程度外科手術に習熟した人たちにとっても,折に触れて本書を手にすることにより,手技を一層確度の高いものにすることに役立つと思われる。とくに近年外科手術に内視鏡が多用される傾向にあるが,このことは一層本書の有用性を高めるに違いない。

 また,本書の特徴の一つに各章の末尾に「タイムクリップ」という囲み欄がある。これは外科学発展の歴史的なエピソードを述べたものであるが,筆者がHarold Ellisの著書Surgical Case Histories from the Pastをもとに多くの文献から引用したもので,きわめて興味深い内容が書かれている。日常われわれが用いているMcBurney’s point,Billroth I法,II法などの言葉の起源と,その先人達にまつわるエピソード,および外科手術発展の挿話が記されている。筆者はこれらの記述に興味を覚え,思わずこれらのページを初めから終わりまで一気に読み耽ってしまったが,外科医に限らず,医学を学び,医療に関わる人々に裨益するところは少なくないと思われる。

 本書を通読して,これは最近稀に見る好著であり,外科学や解剖学に携わる人々のみならず,多くの他分野の方々にも是非一読されることをお薦めしたい。

解剖学と外科学を結ぶ両視点から学べる書
書評者: 坂井 建雄 (順大教授・解剖学第1)
 医学の始まりの頃から,解剖学と外科学は密接な関係がある。1543年に『ファブリカ』を著したヴェサリウスが就いたのは,パドヴァ大学の解剖学と外科学の教授職であった。18世紀のイギリスの名外科医のチェセルデンが1713年に出版した解剖学の教科書は,大いに人気を博し,数々の版を重ねた。わが国では,1997年に発足した臨床解剖研究会が,解剖学者と外科学者との活発な研究発表の場となっている。とはいえ,解剖学と外科学との間に,何とも言えぬ垣根のようなものを感じることもないではない。

 本書『外科医のための局所解剖学序説』の著者は,小児外科で研修をすまされ,その後,解剖学の教育と研究にわが身を張って取り組まれている佐々木克典先生である。もともとは臨床雑誌「臨床外科」に1996年から3年間にわたって連載されたコラムに,大幅に手を入れてまとめられたものである。外科医としての経験をもち,長年にわたり医学生の解剖学教育に携わってこられた著者による,解剖学と外科学の見えない垣根を打ち砕いてくれた,まさに佐々木先生でなければ書けない1冊である。

 伝統的な解剖学者の立場から見ると,同じように人体を解剖しても,外科医の視点からはこのようなところが重視されるのかと,教えられるところが大いにある。臓器の間の位置関係,臓器をとりまく結合組織性の膜,臓器に達するためのルートなど,人から話に聞いたり,臨床解剖学の教科書で読んだりしたことはある。頭ではわかっても,単なる理屈という段階で止まっていたものが,外科と解剖学の両方に通暁する著者の言葉で語られ,工夫を凝らされた独自のイラストで示されると,生き生きと,説得力をもって迫ってくる。イラストは,著者の下図をもとに専門家が描いたもので,他書のまねではないこれらイラストを見るだけでも,本書のオリジナリティーが大いに印象づけられる。

 本書の内容は,頸部,胸部,腹部,骨盤部,鼡径部・下肢,上肢,頭部・顔面に分かれて,外科の対象となる人体のあらゆる部分が網羅され,それぞれ体表解剖から始まって,いくつかの項目をバランスよく取り上げていく。特に私が楽しんだのは,随所に挟まれた「タイムクリップ」と題する29のコラムである。その場にふさわしい歴史上の解剖学者と外科医を取り上げて,現在は確立した知見をいままさに発見しつつあったその時代へと引き戻してくれる。また巻末の充実した参考文献も非常にありがたい。

 解剖学者には,私のように伝統を継承する生粋の者もいれば,佐々木先生のようにいわば異文化を持ち込む方もおられる。解剖学は,さまざまな異文化を取り込み,内容を豊かにしながら発展を続けている。外科学や解剖学を学んでいる若い人たちだけでなく,古い解剖学を学んだ年配の方々にも手に取っていただいて,解剖学の骨太さを知っていただきたい1冊である。

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