あなたの患者になりたい
患者の視点で語る医療コミュニケーション

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「患者中心の医療」がいわれて久しいが,世の中には「医療不信」が蔓延している。信頼できる医療とは何か? 患者が「この医師にかかりたい」と思うのはどんな時か? 模擬患者団体の活動を通して医療・医学教育にかかわる著者が,自らの経験をもとに綴ったユニークな医療エッセイ集。あなた(医療者)は患者にこう見られている。
佐伯 晴子
発行 2003年10月判型:四六頁:128
ISBN 978-4-260-12711-0
定価 1,320円 (本体1,200円+税)

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  • 目次
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01 患者の視点で語る医療コミュニケーション
02 こんな医療者に出会いたい
03 異文化との出会いは自己紹介から
04 キロクブノイタミノセイジョウハ?
05 その一分が待てない
06 「わかりました」がわかりません
07 その手にふれられて
08 ご覧の通り、異常ありません
09 大きな病気、簡単な検査
10 SP実習をしてくれない
11 挨拶しなくなった君へ
12 安全は誰のために?
13 きれい、きたない、きがつく、きれいになる
14 キョウカンのためのキョウカン
15 からだにしみついた習慣
16 「患者様」と患者の椅子
17 禁じられた恋
18 医療面接ビジュアル系
19 「してあげる」と「させる」の関係
20 続・「患者様」と患者の椅子
21 こんな医療者と一緒に歩きたい
22 「OSCEなので五分!」
23 「納得診療」は適切な訳語か?
24 タイに行きましたか?
25 エレベーターは患者さん優先
26 クスリやりますか?
27 有事の人
28 守秘義務と中待合い
29 私の笑顔をおぼえてほしい
30 勝手にするなよ、相談してよ
31 「洗いましたけど!」
32 犯人探しの前に現場検証を
33 難しい患者
34 あなたも物語の登場人物
35 「おたがいさま」で「おかげさま」
あとがき

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「プロとしての医療者」に対する期待が伝わってくる
書評者: 前野 哲博 (筑波大助教授・卒後臨床研修部)
 このたび、医学書院から「あなたの患者になりたい」が発行された。ご存じの方も多いと思うが、医学界新聞の連載記事をまとめて単行本化したもので、毎号の連載を楽しみにしていた者の1人として大変うれしいニュースであった。

 著者の佐伯晴子さんは、東京SP研究会の代表として、幅広く模擬患者の活動をされておられることは改めて述べるまでもないが、大学での講義や日本医学教育学会の理事としての活動を通して、医学教育の世界でも精力的に活動されている方である。私は3年前から筑波大学のコミュニケーション実習でご一緒させていただいているが、著者の医学教育にかける熱意にはいつも圧倒される。

◆医療職の原点を思い出させてくれる

 さて、本書は著者が模擬患者としての活動を通して感じられたことを中心に、非医療職ならではの視点から、著者らしい細やかな感性に基づいて、時にユーモラスに、時には鋭く描かれたエッセイ集である。医療関係者は、長年同じ世界にいると知らず知らずのうちに患者の視点を忘れてしまいがちであるが、例えば「医師の言葉で漢字を見ればすぐにわかる言葉も、患者はカタカナの音で聞くので理解できない」という指摘など、自分の日頃の診療を振り返って反省することもしばしばであった。そもそも医療職の原点は、患者によりよいケアを提供することであり、その意味で著者の指摘は医師に限らずすべての医療職に通じるものであると思う。本書では繰り返し、「プロとしての医療者」に対する期待が述べられている。本書を読んで、つねに患者側からのこのような期待に応えられるプロでありたいと強く感じさせられた。

◆コミュニケーション教育のあるべき姿を示す

 医師の卒前教育では、共用試験の導入を機に全国的にコミュニケーション教育の導入が進んでいる。しかし、この領域はこれまで個人の資質とモラルに任されていた部分が大きく、教官側も学生側もあまり経験がないために、お互い手探り状態の大学も多い。その結果、ともすればコミュニケーション技法の用語だけが一人歩きして、OSCEで高得点を得るためのただの問答マニュアルになってしまう危険もある。本書はその点についても著者の厳しくそれでいて温かい想いが綴られており、医学教育関係者・学生にとって、コミュニケーション教育のあるべき姿を知る上でこのうえない一冊となろう。

 本書は1話ごとに短いエッセイにまとまっており、どこからでも気軽に読み進めることができる。それぞれにユニークなタイトルがつけられており、目次を眺めるだけでも楽しい気分になれる。これまで連載記事で読まれていた方も、単行本として通読するとまた新たな感動がある。すべての医療者に、医学教育に関わる人に是非読んでほしい一冊である。

患者が医師に求めていることを知らない医師が多すぎる
書評者: 向井 万起男 (慶大助教授・病理診断部)
 “あなたの患者になりたい”だなんて、凄いこと言ってくれますね。こんなこと言われちゃうと、なんか勘違いしてドギマギしちゃう生真面目な医師もいるんじゃないでしょうか。・・・くだらない冗談です。スミマセン。

 しかし、こんな凄いこと言われても、プロとしての自信に満ちた医師の反応は違います(誤解のないように言っておきますが、プロとしての自信に満ちた医師は生真面目ではないというわけではありません。生真面目なだけではプロではないんじゃないかということです)。絶対にドギマギなんかしません。だって、こんな嬉しい、名誉な言葉ってないですから。病気になった人がわざわざ自分を選んで飛び込んで来てくれたら、ニコッと笑って“任せなさい!”の一言も言いたくなります。

◆著者は“模擬患者”のプロ

 でも、こんなこと言ってくれる患者さんも、こんなこと言って貰える医師も滅多にいないのが悲しい現実かもしれません。では、この悲しい現実を変えるにはどうしたらイイのか? 言って貰えるように医師が頑張るしかないでしょう(患者さんに頑張って貰うなんてわけにはいかないんですから)。では、どう頑張ったらイイのか? そのヒントを与えてくれるのが、この本。

 この本の著者は、“模擬患者”(Simulated Patient: SP と略す)のプロとして医学教育の世界では広く知られた人だ。御世話になった医学生、若い医師が日本全国に大勢いるに違いない。

 よくよく考えてみると、“模擬患者”とは変わった仕事だ。医学生や医師の教育・訓練のためにわざわざ患者役を務めてくれるんですから。そんな変わった役をこなせる人がいるのが不思議なくらい。あるいは逆に、誰だって患者さんになったことがあるんだから“模擬患者”くらいには誰だってなれるだろうに、ナンデそんな仕事にプロがいるのかと不思議なくらい。でも、どの道にもプロはいるのですね。そして、どの道にもプロは必要なのですね。この本を読むと良く分かります。

 “模擬患者”は今や医学教育には欠かすことのできない存在になっている。なにしろ、医学生や若い医師が模擬患者と行う医療面接・実技試験を通して、患者と接する際の態度、コミュニケーション能力、診察能力が評価されるOSCE(オスキー。Objective Structured Clinical Examination; 客観的臨床能力試験)なしには医学教育は語れない時代になっているのだから。こうした医学教育現場で長年にわたって“模擬患者”を務めてきた著者が現在の医療について感じたこと、思うことを綴ったのがこの本(言い方を換えると、世の中の大勢の患者さんが感じていること、思っていることが綴られているということになります)。

◆赤面する医学生や医師も多いはず

 なかなか厳しいことも書かれています。医学生や医師が読むと赤面しちゃうことも多いはずです(念のために言っておきますが、赤面する医師は若い医師とは限りません。けっこうトシいった医師も赤面するに違いないと思います)。これまでの医療が、そしてこれまでの医師がいかに患者を中心に考えてこなかったかということがヒシヒシと伝わってくるのです。・・・患者中心の医療であれば当然なされるはずのチョットした気配りがないばかりに、いかに患者の気持ちが医師から遠のいてしまっていることか。

 何よりも、患者が医師に求めていることを医師はきちんと知るべきでしょう。それが一体何なのかを知らない医師が多すぎるのです。この本を読むと、少なくともそれが分かるようになります。

 ・・・それにしても、患者に向かって、「心臓バクバクします? マジっすか? ていうか、患者さんテキには・・・」なんて言う医学生や若い医師がいるなんてビックリ。こういう現実を知ると、できるだけ多くの医学生・医師にこの本を読んで貰わないとなぁと思います。

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