「排泄学」ことはじめ

もっと見る

経験ある援助者は知っている。「おしも」の問題が解決したとき,患者さんのQOLが飛躍的に向上することを。排泄ケアこそ専門領域を超えた連携・協力・研鑽が必要だと考える先駆者たちによる,臨床感覚あふれる「超」実践書。最前線は,ここにある。
排泄を考える会
発行 2003年08月判型:B5頁:208
ISBN 978-4-260-33294-1
定価 2,860円 (本体2,600円+税)
  • 販売終了

お近くの取り扱い書店を探す

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。

  • 目次
  • 書評

開く

「排泄学」ことはじめ-序にかえて(本間之夫)
第1部 排泄のメカニズムとその問題
 1 尿と便はどうやってできるのですか?
 2 尿と便の「色」や「におい」にはどのような異常がありますか?
 3 尿と便はどのようにしてためられるのですか?
 4 尿と便はどうやって出てくるのですか?
 5 ためたり出したりする調節はどの神経がやっているのでしょうか?
 6 その他の排泄の問題にはどんなものがありますか?
 7 症状が我慢できれば,排泄の問題は放っておいてもいいですか?
 8 排泄問題にアプローチするときの基本は何ですか?
第2部 事例編
 1 尿と血液と便が一緒に出てくる
 2 漏れているけど諦めちゃいました
 3 腟が下がって尿漏れと便秘に
 4 お風呂でびっくり! 知らないうちに便が出ている
 5 特養ではどこまでできる?
 6 肥満で動けないからオムツ
 7 24時間「おしっこ!」コール
 8 中学校で導尿するなんてイヤだ
 9 メーリングリスト上で相談した事例
 10 下半身がいうことをきかない
 11 寝たきり患者の排便に振り回される
 12 足がつっぱり自己導尿できない
 13 便意を感じたとたんに激しく出てしまう
 14 立ち小便の重さ
 15 排尿後にズボンが濡れる
索引
あとがき(西村かおる)

開く

「永遠の課題」と格闘する,圧巻のカンファレンス
書評者: 川島 みどり (日本赤十字看護大学教授,健和会臨床看護学研究所長)
 患者になった時,看護師に頼みにくいことのトップが排泄介助であるという研究もある。頼んだ時のナースの反応に由来するのか,患者自身の羞恥心なのか,その理由は定かではないが,病人や高齢者にとって,「下の世話」を他人に委ねなければならないことは,人によっては「死ぬほどいやなこと」でさえあるというのは珍しいことではない。

 この世に生まれて生きている以上,誰もが避けられない営みである排泄。看護にとっても排泄援助は永遠の課題であるといってもよいだろう。

◆「専門知」のあり方へ反省を迫る

 看護師として排泄のメカニズムの知識はいちおう学んだ気にはなっていても,これに影響を与える心理・社会的諸因子についての知識を十分に持ち合わせていたとはいえない。そればかりか,本書を読むほどに,看護師としてマスターしていたはずの排泄援助技術そのものが,なんと浅く上滑りであったのだろうと反省することしきりである。

 排泄といえば生理学的欲求の代表のように理解されている。しかし本書は,社会的存在である人間の排泄は優れて社会的な行為であるという認識のもとで,「人が願うところで排泄するのは基本的人権のひとつ」であると位置づけた。

 排泄に問題を持つこと自体が「排泄権」を脅かされているとの理念は,排泄に関するこれまでの根深い無知と偏見のみならず,医学や看護学領域で専門家を自認していた者への警鐘とさえいえよう。排泄への専門知があってもそれが必ずしも正しい対応につながっていたとはいえないのだ。そのことが新たな「学の確立」を提唱する契機になったという「排泄を考える会」のメンバーらに同意したい。

◆「ジッパーの位置」まで目配りできていただろうか

 第1部のQ&Aによる基礎知識は,現有の自己の知識を確かめるうえで貴重だが本書全体の2割程度であり,大部分は第2部の事例編で構成されている。

 15の事例はそれぞれに排泄上の問題を抱えて当惑し,苦しみ,悩んだ事例ばかりである。圧巻は,医師や看護師,工業デザイナーを交えたカンファレンスの内容である。どの事例からも,「ふーん知らなかった!」「そうだったんだ!」という新しい知識や発見を多く入手できる。

 「最近歳のせいか尿洩れがするんです」という,一見尿失禁と区別しがたい,排尿後滴下の症状の熟年男性がいたとしよう。それに対して,ジッパーの位置やブリーフの布の重なりも要因になり得ることを知ってアドバイスできる看護師がどれほどいるだろう。まさに,排泄援助が「身体上の問題だけではなく体位や排尿後の後始末,そして衣類や生活習慣,文化の影響」を知ったうえで行なう必要を示唆している。事例に寄り添いつつ読み進めると,随所にこうした発見がある。

◆印象深い必読書,お奨めしたい

 「古くて新しく,当たり前が当たり前ではない,奥が深くて幅が広い,まるで哲学か宗教のよう」な排泄ケアの,なにより大切なのがそのプロセスである,とのあとがきを読みながら,看護師として排泄学を究め,排泄に関する正しい知識を普及する責務を痛感した。評者にとっては今年の“ことはじめ”として印象深い書であった。

 人間を尊重すると自負するなら,医師も看護師も介護従事者も,ぜひ必読の書としてお奨めする。今後,「排泄を考える会」のホームページ上での相談や討論も展開していただきたい。

「やった!」と快哉。排泄が学問の舞台へ
書評者: 河邉 香月 (東京逓信病院長)
 送られてきた本を一読して,思わず「やった!」と快哉を叫んでしまった。実を言うと,私自身こういう本を書きたくてアイディアを温め続けてきたから,むしろ「やられた!」のほうが適切な言葉かもしれない。しかし,そんなジェラシーを払拭するほど,内容は洗練されている。

◆感慨深い「ことはじめ」

 私はもう40年も前に医学卒前教育を受け,1年間のインターンを経て,泌尿器科医になった。自分の不勉強もさることながら,排尿・排便に関する解剖学,生理学,および臨床医学を教え込まれた覚えはない。

 入局後の研究テーマとして尿失禁を選んだとき,恩師の高安先生は難色を示された。当然,学位の取りやすさ,研究のしやすさに配慮を示されたうえでのことで,感謝はしているが,学問としての“風”は排尿問題などに向かっていないとの判断はあったと思われる。

 その私が長らく排尿を研究し,定年退官の最終講義を「排尿障害ことはじめ」としたことには,運命の皮肉を感じている。ただ,私の場合の「ことはじめ」は,beginning of the endであって,この本はたぶんbeginning of the beginningなのであろう。ようやく排泄の問題も学問の舞台に登場したという,一種の感慨がある。

◆教科書にない難問にどうアプローチするか

 本書の著者代表の1人である本間之夫氏は長く排尿障害の専門家として,その病理,疫学,治療法,QOLなどに深く関与し,学問的にも多大な貢献をする一方,「排尿権」という言葉を創造し,排尿あるいは広く排泄の重要性を講演やマスコミを通じて訴えてこられた。排尿権とは「誰でも気持ちよく排尿する基本的人権」であり,医療従事者はこの権利を守る義務がある,とするユニークな理論を組み立てた。

 もう1人の著者代表である西村かおる氏は,看護師として早くから排泄の重要性に着目して英国に留学,コンチネンスアドバイザーの資格を得て,日本コンチネンス協会の創始者となった方である。

 この2人の独創的な著者を中心として出版されたゆえに,本書は斬新な内容に満ちている。巻頭の「理論編」は難しい理屈を廃して,無駄なく,以後の記述を理解するために必要な知識をまとめている。次の「事例編」にはこの本の特色がよく出ている。すなわち,医療,看護,あるいは介護といったそれぞれの分野で,教科書にはふつう載っていない複雑な症例に遭遇したとき,どのようにアプローチし,どのように考えるかの道筋を提示している。

◆ディスカッションが臨場感にあふれている

 ここに載っている15の症例は,いずれも実際に経験されたもののようで,各科の専門医と,看護師,工業デザイナーなどを交えて詳しくディスカッションし,難問を解決するといった臨場感あふれる構成になっている。

 もちろんこれらのケースでは,一応のコンセンサスが得られたといっても,唯一の正解ではないことが多く,異論も収録されており,それはそれでヒントになることは間違いない。むしろ控えめに結論を導き出すテクニックが,この本と著者たちの特徴を出しており,一読の価値あるものとして,推薦するしだいである。

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。